日本男児、出発する
俺は今、異文化交流していた。
俺達は村を出た!
俺達とはつまり神誉さんと3人の美少女達!
なんで彼女達は俺についてくるのか?
そんなの俺が知りたい!
そう!結局旅の目的は全然共有できてない!
なのに旅してる!
不思議!
いや、俺も説明しないのは不義理かなと思って説明しようとしたんだぞ、これでも?
だが、旅の目的の話をしようとするとミミカカちゃんに、
「言わないでください」
と丁寧かつ、殺意を感じる程の剣呑さでお願いされたのだ!
超怖い!
俺ぐらいの読書家になると、
「言わないでください」
の後に、
「言ったら殺します」
って行間があるのが読める!
ミミカカちゃんの名誉の為に一応言っておこう。
別にナイフを抜かれたり、怒鳴ったりされた訳じゃない。
ただ前後との脈絡なく………表情が消え失せて、平坦な口調でしゃべっただけだ。
うん、超怖い!
別に聞きたくないなら無理にとまでは言わないさ!
この話題はお気に召さない様なので封印安定!
触らぬ神に祟りなし!
というわけで、旅の目的は結局説明できてない!
ビバ保身!
けれど旅する事自体は歓迎らしい!
俺についてくる事に何の疑問もないらしく
「どこまでもついていきますから!」
と言ってた!
不思議!
しかし………村から出発する日の夜は、1人で泣いてたんだよなぁ、ミミカカ?
今までそういう様子はなかったけど、もしかして彼女も重度の鬱持ちだったりするのかねぇ?
と思ったのも、鬱が酷い人間は就寝前に最も苦しむからだ。
俺に言わせれば鬱病とは、自分自身に興味を向けてしまう病気だ。
興味が殆ど外に向かず、自分ばかりに目が行く。
それの何が悪いのかというと、世の中やる事為す事全てうまく行く人なんていない、という点に問題がある。
生きるというのはとても難しい。
生きていれば思い通りにならない事に沢山直面するだろう。
失敗、挫折、逃避、敗北、喪失。
脇目も振らずに自分を見ていれば、それらが容赦なく眼前に積み上がる。
なんでうまくやれないんだ。
あそこでこうしてればよかったのに。
そしてついつい自分を批判してしまうのだ。
真っ当な人間なら自己嫌悪に陥ってしまうだろう。
症状が重くなると、自分への批判が他者の声として、実際に聞こえる様にすらなる。
そんな鬱の人は夜の静けさが苦手だ。
日中と違って、やるべき仕事等が存在しない、落ち着いた状態。
他に注意を向けるものも、意識を割くものもない空間。
それはつまり、自分自身を全力で攻撃できる様になる、最悪の時間のスタートとなる。
実際シャーシャちゃんは、出会ったばかりの頃、夜寝る時間になるとよく泣いていた。
自分を責める幻聴が聞こえていたんだろう。
勘違いしないでもらいたいのだが、幻聴というのは楽しい要素が一切ない。
耳を塞いでも聞こえてくる、自分が最も気にしている罵声がずっと聞こえる。
そんな状態を耐えられる真っ当な人間は絶対にいない。
しかも幻聴というのは、真っ当な判断力を持っていれば、自覚できてしまうのだ。
聞こえる罵声が他人のものではありえない事。自分の中から聞こえる事。
それを自覚できるという事は、自分の異常を自覚するという事。
自分が異常であるという事実が、更に自分を追い詰める。
こうして幻聴が聞こえる段階まで行くと、最悪の悪循環を起こす。
夜、自分を罵り続ける声が聞こえて、平気で眠れる人間はいない。
夜の眠りが浅くなるか、或いは一切眠れなくなる。
眠れない脳が、またありもしないものを生み出す。
脳に生み出されたものが、また眠りを妨げる。
重度の鬱病は、日常生活を送るのがかなり難しくなる。
脳も体も休まる時間がないからだ。
もし鬱病は甘えなんて理解のない事を言うなら、擬似的にでも体験してから言ってほしいものだ。
ちなみに重度鬱病を擬似的に体験するなら、俺はこんな方法を提言する。
まず自ら「死ね」「生きてる価値のないゴミ」「屑」等の存在を否定する罵詈雑言を録音する。
そして、携帯音楽プレイヤーに入れてエンドレス再生し、それをヘッドホンで24時間毎日聞くと良い。
その時の音量は耳栓をした上で、生活音の中で殆ど埋もれ、夜静かな時は明瞭に聞こえる程度が最も相応しい。
ついでにサングラスかゴーグルの様な視界を不明瞭にする物を常時着用すると尚よい。
鬱病の人間は自らの視界がまるで水槽越しに覗いたような、どこか世界と隔絶した様な独特の視界を有するからだ。
この負荷で日常生活にどれだけの支障が出るか想像できるだろうか。
重度の鬱病に罹患した人間は、ヘッドホンやサングラスの様に外す事すら許されず、常にこんな苦しみを味わい続けるのだ。
もしもミミカカちゃんが鬱病に苦しむというなら、俺にできる範囲で手助けしてあげたいものだ。
村に戻ってから2度ばかりミミカカちゃんとは空気が悪くなりかけたが、これからは優しくしたいと思う。
「海ーの男だっ艦隊勤務っ!」
「「ミーノトッコッダ!カッタッキッムッ!」」
「ミー、ぜぇ、トッ、ぜぇ!カッ、はっ、キッ、ふっ!」
そんな訳で今がある。
「月月火水木金金ー!」
「「ゲッゲッカースィーモッキッキ!」」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、ひっ、ふっ、ひっ、ひっ!」
何してるかって?
歌いながらランニングしてるとこ。
約1名、誰とは言わないけど息も絶え絶えになってる。
別に全力疾走してる訳じゃないんだが。
早歩きするより速いぐらいのペースで流してただけ。
それでもこの通りの虫の息。
「全体ー!止まれー!」
「「止まれー!」」
2人が復唱してくれる。
ところで軍隊の訓練といえば、歌いながらのランニングとか、復唱とかイメージするけど、どういう意味があるんだろう?
社会人なら復唱といえば、受けた指示に対する理解の返事だが、軍人的には他に何かあるのだろうか?
歌いながらのランニングとかも含めて考えたら、頭を空っぽにして従事させる為とかか?
歌いながらの作戦立案とかはない訳だし、下級兵士を作り上げる為の刷り込み教育と見るべきか。
部活動でもよく「ファイ!オッ!ファイ!オッ!」って言ってるよなぁ。
ところでファイトはともかくオーってなんだ?感嘆詞の「OH!」って事でいいの?それとも日本語の「応!」なのか?
それはいいとして、ミミカカちゃんの心のケアだ。
朝起きて、美味しいご飯を食べて、大きな声を出して、身体を動かして、疲れてぐっすり眠る。
単純な様で、最も効果覿面。健康的な生活を送る事は、最強の予防薬足り得る。
少なくとも朝起きず、栄養を摂らず、鬱々として、夜も眠らない事は、何の改善も生みはしないだろう。
という訳で、頭を空っぽにできる様に、俺の掛け声を復唱させながらのランニングだ。
鬱病だと考え事をすると必ず悪い方向に進むので、そもそも考え事をさせない。
楽しい事で自分を埋め尽くせば、幻聴が入り込む余地はどんどん失われていく。
という訳で、負担にならないレベルで運動だ。
後、運動は自分の身体を作り上げていく事にもなる。
より長く、より早く、走れる様になる等、できなかった事ができる様になる。
女の子の場合嬉しいと思うかどうかわからないが、筋肉がついたりする。
そういった事が自分の自信にもなったりする。
運動は負荷が掛かり過ぎなければ、精神にかなりよく作用するのだ。
「グララの顔が青紫になっているので小休止を取るぞ」
まぁ、若干1名、負荷が掛かり過ぎてる人もいるが。
水槽からこぼれ落ちた金魚の物真似をする残念美人が1人。
「ふっ、ひっ、ぜぇ、はっ」
ジジイのファックばりに気合が入った返事をするグララ。
顔が青紫って事は血中の酸素濃度が低くなったんだろう。
いわゆるチアノーゼだ。
まぁ呼吸が整ったら自然に治るだろう。いつもの事だ。
さて。
俺達はムムカカ村を出て何処へ向かっているか?
答えは再びイテシツォの町へ向かっている最中だ。
あんな糞みたいな町に何の用かって?
あの時俺は、住みやすいかなんて観点では町を見てなかった。
だから改めて町を確認しにいく訳だ。
但し正直なところ、全く期待していない。
………他ならぬ俺自身が、町の統治機構を破壊したからだ。
お陰で町が現在どういう状態になっているのかわからない。
ありがちな想像では、無法地帯となってそうなもんだが、流石にそこまで極端な事にはなってないだろう。
町を離れてせいぜい1,2週間ってところだからなぁ。
しかしいくら悪を淘汰したと言って、それでいきなり町が良くなってるという事もないだろう。
っていうか改めて考えると、荒廃する事はあっても、良くなる事はなさそうだな、うん。
まぁ正直、皆の永住の地としては殆ど期待してない。
それでもなんで行くのか?
答えは単純。どこに行くにしても通り道として寄る事になるからだ。
俺が空を飛んで皆を運べば、大抵の町へは短時間で移動できる。
だがこの旅では緊急時を除き、それをするつもりはない。
俺は日本に帰る以上、いつまでも一緒にいられない。
つまり、彼女達には自立してもらう必要がある。
己の足で旅をするのも、そんな自立への道への第一歩だ。
という訳で今回の旅は、自主独立をスローガンに据えてお送りしております。
「………あのね、あのね?何するの?」
シャーシャちゃんが真っ直ぐこっちを見上げて尋ねてくる。
「そうですね、何しますかねぇ」
グララがヘバってる間は移動もできない。
その間は簡単に勉強の時間としている。
俺達の移動中は
「走る→グララへばる→お勉強→グララ回復→走る→グララへばる」
というルーチンを繰り返す。
それでいい時間になったらご飯を食べたり就寝して1日終わり。
さてさて今回のお勉強は何するかな。
前回のお勉強はたしか、空を飛び、手からビームを打ち出す戦闘民族の話だ。
聞いた2人は興味津々であれこれ質問してきた。
彼女達は空を飛び、レーザーを撃つ人間を実際に目撃している以上、フィクションの話だとは思ってない様だ。
今度は美味いものを食べると、目から口からビーム出した挙句、城と一体化する老人の話でもするかな。
あ。
「そういえば、シャーシャちゃん」
「………なに?」
「ナーナちゃんの名前はどういう字で書くんですか?」
謎の人物、ナーナちゃんの情報を少し集めよう。
「………こうだよ」
サラサラとナーナちゃんの名前を書くシャーシャちゃん。
筆記用具は小休止ごとに取り出すので、背嚢の取り出しやすい場所に格納されていた。
ふむ。
ごく普通にナーナと書かれてるだけだな。
何のヒントにもならない。
ちなみにせっかく友達ができたのに、村から移動する事になって寂しくないのかと思ったが。
「………だいじょうぶ」
との事。
シャーシャちゃんは全然気にしてない様子だ。
お別れともなれば聞き分けなく、我儘を言いそうなものだが、そういうところは全くない。
いつもの様に遠慮してるのかと思ったが、別に思い詰めたり不服だったりする様子もない。
むしろどちらかといえば明るく、満たされた表情をしてる気がする。
こういうところもナーナの謎だ。
ナーナの七不思議?………ごめん、語呂だけで言ってみた。
「………お兄ちゃんの名前はこう」
別に書けとは言ってないのに、そのまま俺の名前を書いてくれるシャーシャちゃん。
最近のシャーシャちゃんは自発的だ。
まぁ明るく活発な性格の方が、健全な気はするからいい傾向だと思う。
魔法少女覚醒計画の観点からも、歓迎すべきだ。
「いえ、僕の名前はそうじゃありません」
ところでちょっと思い付いた事がある。
「………ちがうの?」
シャーシャちゃんは自分が間違ったのかと思って、書いた文字を確認してるが間違いが見つけられない模様。
そりゃそうだ。異世界文字で書けばそれであってる。
しかし俺は世界を背負って立つ日本人。
「正しくはこうです」
さらさらさら。
神誉大和。
「………なに、この字?」
シャーシャちゃんがマジマジと見てる。
「僕の故郷の文字ですよ」
やっぱり漢字は相当異質なものに見えるらしい。
「こんなむずかしい文字をつかってるんですか?」
ミミカカちゃんが信じられないと言った表情で見てる。
「こんな難しい文字を使ってるんですよ」
ちなみに日本語は言語、文字ともに世界最高レベルの難しさらしい。
日常生活を送るのに必要とされる語彙数は英語が3000文字。
英語より必要とされる語彙数が多いとされるドイツ語等でも5000文字。
これに対して日本語で必要とされる語彙数は、圧倒の10000文字。
単純に考えて、ドイツ語の2倍、英語の3倍弱の語彙力と努力が必要。
しかもこれだけでなく、発音が他の言語と根本的に違う。
一音一音をはっきり発音し、子音が強く残るのが日本語の特徴だ。
日本人は英語を始めとする、他言語が苦手だとされているのはこれが大きいらしい。
多くの言語で子音は強く残らない。発声方法がまるで違うのだ。
ちなみに他の母国語話者が日本語を聞くと、歌を歌っている様に聞こえるらしい。
子音が強く残る独特な発音は、意味がわからなくても耳心地がいいんだそうだ。
俺が聞いて面白かった海外での日本人のイメージに「妖精みたいだ」と言うのがあった。
頻繁にお風呂に頻繁に入って清潔(外国人は体臭がして当たり前らしい)。
明るく朗らかな気質でよく笑っている(意外かも知れないが日本人は、世界的には陽気と言えるらしい)。
手先が器用(寝ている間に靴を作ってくれるという、レプラコーンのイメージだろうか)。
気がついたらいなくなる・何を考えてるのかわからない(環境が悪くなってもクレームひとつ入れずに消えてしまう。また逆に居着いた日本人の比率=環境の良さの指標とみなせる。なんとなく妖精っぽい)。
面白い例えだと思った。
まぁ妖精はさておいてだ。
「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」
「はい、なんでしょうか、シャーシャちゃん」
シャーシャちゃんが興味津々で尋ねてきた。
「………わたしの名前はね、お兄ちゃんの言葉でね、どう書くの?」
「おぉ!」
日本人の異文化交流ではお決まりらしい「私の名前はどんな漢字」イベントだ!
イベントの概要は簡単!相手の名前を無理矢理、漢字に当てはめるだけ!
但し、漢字はアルファベットと違って1文字で意味を持つ!知識とセンスを問われるイベントなのだ!
いい漢字を見つけられれば「俺・私にぴったりの素敵な文字!」と喜んでもらえる、好感度アップチャンスイベントでもある!
張り切って考えなくては!
………でもさ?
難しくね、これ?
だって、シャーシャだぜ?
おおよそ当てはまる漢字が思い浮かばないんだけど?
まずシャって言われてどんな漢字がある?
謝?謝々ちゃん?なんか中国人っぽいし、何よりどういう意味って説明するのに苦労する。
斜?斜めっていうと斜に構えるとか、捻くれた様子を表すよなぁ、却下。
捨?まさか「親に捨てられたしこれでいいだろ」なんて口が裂けても言えない。
うーん………シャって、悪い漢字ばっかり?
社、車?別に悪くはないけど、何の説明もできないんだけど、これじゃ?
沙?この漢字ってさぁ………どういう意味なの?沙悟浄ぐらいしか熟語が思い浮かばないんだけど。いや、熟語ですらないが。
射?ミミカカちゃんにならともかく、シャーシャちゃんに射撃要素ないしなぁ。
しゃ。シャ。しゃ。シャ。
遮は遮る、瀉は吐瀉物………おい、吐瀉物はねぇだろ、いくらなんでも。
うーん………難しいなぁ。
………あ、これはどうよ?
さらさらさら。
紗。
糸偏を持っている通り、布に関する漢字だ。
少という作りの通り、糸(布)が少ない、つまり薄い布を表している。
薄い布、つまりは夏服の事なので、涼しげなイメージを持っている。
また身を包む物を表しているので、包容力・優しさも表している。
さらに結構丈夫な生地なので、強さ、柔軟さも表している。
それに何より、女の子らしい名前の漢字というのがいいな。
じゃあ続いて音引きのアも考えよう。
まず思い付いたのは亜だが………亜っていい意味じゃないよな?亜種とか。
………でも亜が付いてる人名自体は、亜子とか結構見かける気がする。難しいな。
阿?俺がこの漢字で最初に思い付いたのって、阿呆って単語なんだけど。
あ。ア。Ah~。
なんかいかがわしい感嘆符が思い浮かぶ。
…………。
え、意外とアって漢字思い浮かばないぞ?
………あ、そうだ。
さらさらさら。
明日。
アの一文字でなく、次の文字も取り込もう。
時制が未来だと、無闇にプラスイメージだし。
若干無理矢理気味だが、キラキラネーム程酷くないよね?
読める要素一つもなしって訳じゃないしさ!
後はヤの字でビシっと〆れば完成だ!
夜、殺、焼、嫌、邪。
おいおい………中二病な文字てんこもりだな。
矢?真っ直ぐ飛んで行く様を表してたりでいい言葉だけど、矢といえばミミカカちゃんだし見送りで。
弥?これもどういう意味の言葉なんだ?弥生ぐらいしか思いつく単語がない上に、その単語も意味というのはわからない。
爺?好々爺とかでヤとしては読めるけど………その字をどうやって使うつもりだ?
………いや、待て?
爺がヤって読めるって事は、作りの部分の読みがヤだな?
耶。
おー、なんか女の子の名前っぽいな。
………いや、更に待て?
耶が使われてる熟語ってなんだ?
有耶無耶とかぐらいしか思い浮かばないぞ?
多分いい言葉じゃないっぽい!
危ない危ない!
本当に難しいな!シャーシャちゃんの名前!
普通に野って漢字もあるけど………野生とか、野原とか、粗野とか、なんかワイルドなイメージだな。
鵺?ヤって読めるけど、この漢字ってあの鵺以外に何の意味もないよなぁ?
うーんうーんうーん。
………よし。
さらさらさら。
誉 紗明日。
アスにヤでアスヤ→アシャぐらいに発音を濁らせて、お茶も濁そうとしたが頓挫した!
………ヤなんてなかった!
ほら、シャアシタ、シャアシア、シャアシァ、シャアシャ………シャーシャ!ちゃんとシャーシャだよ!
かなり苦しい気がしても、思い浮かばないから押し切るっきゃない!
「これがシャーシャちゃんの字ですよー」
「………うーん?」
漢字が見慣れないのか、じーっと見てるシャーシャちゃん。
「………お兄ちゃんといっしょ?」
自信なさげに指差して誉の漢字を指差してる。
「えぇ、そうですよ。僕達は兄妹なので同じ名前です。それでホマレーと読みます」
「………ホマレー!………じゃあ、こっちがシャーシャ?」
「そうですよ」
察しがいいシャーシャちゃん。
「そしてその文字には、一つ一つ意味があるんです」
せっかく意味に拘ったので披露しておこう。
「ホマレーの字は、誉め称えられるという意味を持ってます。万人に認められるという事です」
「………いっぱいの人からほめられるの?」
不思議そうな顔をして尋ねるシャーシャちゃん。
「………でも、わたし」
奴隷として売られた経緯を思い出したのか、俯き出すシャーシャちゃん。
「シャーシャちゃん」
出来る限り優しい声音になる様に気をつけて声を掛ける。
「ホマレーの名は、僕と出会った事で、運命を変えたので手に入れた名前です」
「………うんめい?」
「そうです」
「運命とは巡り合わせ、将来の事です。シャーシャちゃんの未来は僕と出会って変わったんです」
漢字を一つ一つ指差して語り聞かせる。
「シャーシャちゃんの名前は元々、優しさ、強さ、女の子らしさ、明るさ、希望という意味を持ってました。今までは巡りが悪く、悪いことが重なったかもしれませんが、これからはよい方向に向かうでしょう」
占い師になった気分で、何の根拠もない事を語る。
あぁ、いや………根拠ならあるか。
シャーシャちゃんは力を手に入れ、これからも力を蓄える。
これからの未来は確実に変わる。
シャーシャちゃんは、俺の言った事に考え込んでいるみたいだ。
「ヤマトーさん、ヤマトーさん」
末尾に音符でもついてそうな深刻さを秘めた声で、ミミカカちゃんが問い掛けてくる。
「ん?」
「アタシのなまえ、どんな字で、どんな意味なんですか?」
興味津々と言った感じだ。可愛らしい。
「そうだな」
ミミカカ。
んー?
なんだこれ?
………シャーシャちゃんと比べて滅茶苦茶簡単だな!
さらさらさら。
「えっと、これ?なんか、すごい字ですけどぉ………」
書き上げた文字を見たシャーシャちゃんが目を細める。
まぁ華やかな字ばっかり当てたから画数多いしなぁ。ちなみに漢字は難しい方が喜ばれる傾向にあるらしい。
ちゃんと漢字の意味を解説するか。
美魅華歌。
「咲き誇る花の様に美しく魅力的で、その可憐な容姿は多くの男を魅了し歌にすらなるだろう………」
ここまで言って気付く。
俺、今、何言った?
恐る恐るミミカカちゃんの顔を眺める。
うわ………日に焼けた小麦肌のミミカカちゃんなのに、顔と言わず首筋まで真っ赤になってんだけど。
表情も目を見開いた形で止まってるし………。
そりゃそうだよな、いきなり口説いてるみたいな事言っちゃったし。
正直言おう………他意はなかったんだ。
ただ、シャーシャちゃんの名前と違って、女の子が喜びそうな漢字を簡単に当て嵌められたから………気安くペラペラ語ってしまった。
「あ、あー、あー、あー、あー、あー!」
気付いてしまうと凄ぇ恥ずかしい!
「わ、わー、わー、わー、わー、わー!」
それはミミカカちゃんも同じらしく、語彙力が俺と同じレベルにまで落ちていた!
「あー!」
「わー!?」
俺が急に声を上げた事で、混乱に拍車をかけるミミカカちゃん!
「グララ!グララだ!ほら、グララも!グララもだ!」
おおよそ言葉になってなかったが、主張の内容は簡単。
仲間外れはしないで、ちゃんと仲良く皆に漢字を割り当てましょう。
「ぬ?」
未だにヘトヘトだが、大分落ち着いた様子のグララが不思議そうにしていた。
構わずに漢字を割り当てよう。
グララ。
これまたシャーシャちゃんと違って簡単だな。
さらさらさら。
愚裸々。
………え、だって、これ以外の漢字、思い浮かぶか?
「おぉ!何やら難しい形の字なのだ!これにも意味があるのだな?我にも教えるのだ!」
オゥ………全く疑問に思わず書いたけどなんて説明しよう?
布切れ一枚で乳放り出さんばかりのアホ女はこんな漢字でいいだろ、とか?
正直は美徳ではない、うん。
グララになんて説明するか、暫く考えて俺はこう言った。
「男にとって最高に理想的な女性って意味だよ」
………嘘は言ってないよな?
頭悪い裸の女とか、ある種理想的と言えると思うし。
17/1/21 投稿・文の修正