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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
71/154

記憶

 俺はどこにでもいる普通の人間だ。


 本当に特筆すべきところが思い浮かばない。

 人付き合いが苦手ではあるが、それが特別珍しい事とも思えない。

 そういう特徴すら含めて、一山いくらのありふれた人間だと言えよう。


 そんな普通の人はどの様に生産されたのか。

 これまた特筆すべきところのない家で生まれて、特筆すべきところのない育ち方をした。

 一人っ子。両親ともに健在。

 別にドラマティックなところは何もない。


 普通に高校を出て、普通に2年制の専門学校を出た。

 大学は出なかったのか?

 特筆すべきところのない俺なりに色々考えた。


 思うに大学というのは、将来を見据えた人間か、或いは将来を決めてない人間が進学するところである。

 専門的な分野を専攻したいと思った尖った人間か。

 逆に自分が何をしたいかわからない人間が、進路の選択を先延ばしにする執行猶予の期間だ。


 特に何かしたい事がある訳ではない人間である俺も、大学は進学先として当然検討していた。

 だが、特に何かしたい事がある訳ではないからこそ。

 凡庸な人間であるからこそ。

 俺は何かのスキルを身につけておきたいと思った。

 俺は自分が何をできる人間だ、と人に語って聞かせる程のものを持っていなかった。


 それを補う為にコンピュータの専門学校を進路とした。

 今の時代、パソコンぐらい使えねばなるまい。

 具体的にパソコンを使った作業というのが何かはわからなかったが、漠然とそう思った。


 しかし漠然と思っただけだ。

 学科は実に沢山あった。

 細かくは覚えてないが、ちょっと耳慣れない横文字が無数に並んでいた。


 そんな中で俺はゲーム開発科を進路として選択した。

 コンピュータと言われてもわからないが、ゲームならわかると思ったからだ。

 だが別にゲームを作りたいと思った訳ではない。

 ゲームを入り口、とっかかりにしてコンピュータの世界との接触を試みた訳だ。


 よく息巻いている一消費者を見かける。

 曰く、「最近のゲームは拝金主義だ」と。

 曰く、「ゲーム性がなくて絵に金をかけてるだけだ」と。

 曰く、「俺が作った方が面白いゲームが作れる」と。


 見かけるたびに言うだけなら安いと思ったものだ。

 昨今のゲーム業界は、一昔前とまるで違う。

 ゲームは面白ければ売れる?

 よくもまぁ臆面もなく、そんな恥ずかしい事が言えるものだと思う。


 じゃあその面白さとやらを思う存分、力いっぱい、好きなだけ吐露するといい。

 但し俺はそれを聞くとは限らないし、ましてや興味を持つとも限らない。

 そしてそれは俺だけに限らず、ゲームの購買層全てに言える事だ。

 面白さというのは主観的で、どうしても独りよがりなものだから。


 その昔ゲームは沢山出ていた。

 中にはクソゲーも沢山あった。

 しかし万人には受け入れられないかもしれないが、光る魅力を持ったゲームも生まれていた。

 活力があった。


 なんで昔はそんなに意欲的なゲームを作れたか?

 何故今のゲームはどこか消極的で、活力が感じられないのか?

 ゲーム開発が事業である以上、重要なのはいくらの売上になるかだからだ。

 今、据え置きゲームのソフトを、1本開発するのに何円かかるかご存知だろうか?

 一説には1億~何十億円とかかると言われている。


 作り込んで、作り込んで、面白くしたとして。

 それは何人のユーザに着目されて、何本の売上に貢献するのか。

 それを具体的に言い切れるのか?

 曖昧な作り込み、面白さにかまけた時間・費用の対効果は見込めるのか?

 それだけを理由に何億、何十億という開発費を投じれるのか?


 もし自分が責任を負う立場だったとして、そんな暴走を認める事ができるのか?

 面白いゲームを作れると言うだけなら安い。

 どんな馬鹿にだって言うだけならできる。

 それをビジネスとして成り立たせ、責任を持って、結果に出来るのか?


 ………結局のところ、ゲーム機は進化する事で、自分の未来を閉ざしたのだ。

 美麗な映像、処理能力の向上。

 それは、開発陣(サードパーティ)に圧倒的な負担をかける様になった。

 過剰な進歩・発展の結果、未来が行き詰まる。

 牙が発達し過ぎてバランスを欠いた、サーベルタイガーが死滅した経緯と似ているかもしれない。


 それに、そもそも市場が狭すぎるという問題もある。

 物が溢れる豊かな日本。面白いだけならゲームでなくてもいい以上、ゲーム人口は諸外国に比べて少ない。

 更にアメリカならその辺にいるおばちゃんが、アーケードの格闘ゲームで即死コンボを決めてきたりする。

 母数が違うという圧倒的なハンデがある。


 そんな色んな事情でゲーム業界は変革の時を迎えている。

 余程の体力のある会社でなければ、もう昔の様なゲーム開発はできないのだ。

 何円の売上になるかわからない面白さより、簡単に利益を回収できるガチャとDLCに重きが置かれるのも当然の成り行きだ。

 まぁ………ゲーム業界華やかなりし時代を、リアルタイムで過ごした人間としては寂しい限りだ。




 随分ゲームについて語ってしまった。

 まぁ、そんなこんなでゲーム業界に進む事は考えなかった。

 俺は専門学校でプログラミングの知識を得た。

 そして俺はIT企業に就職した。


 特に将来何をしたいとも思わなかった、無気力な俺の進路はそうやって決定された。

17/1/14 投稿

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