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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男児の準備
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日本男児、考える

 俺は今、予想外の成り行きに驚愕していた。


 まずは七生魔法少女、ズィーベンレーベンについてだ。

 あらゆるところで破格の存在。


 七色念力光線という最強の鉾。

 命中すれば対象は即時消滅するという圧倒的な威力。

 同じレーザーを利用した光剣(サーナギオン)とは一線を画す攻撃範囲。

 そして光の速度と直進性からくる圧倒的命中率。

 全てを兼ね備えた圧倒的な制圧力の攻撃能力。


 国防障壁という最強の盾。

 その七色念力光線すら防ぐ光の防御壁。

 防御壁と衝突した光の収束を散らし、分子運動を制御する事で冷熱を無効化。

 更には飛来物すら燃焼と重力制御により無効化する。

 俺が使える無害化(サニタイジング)をより発展させた防御能力。


 高速移動と空間跳躍という最強の機動力と運動性。

 世界のあらゆる空間に移動できる空間跳躍だが、驚愕すべき移動手段は高速移動の方だ。

 これがどれ程すごい事か!


 フィクションではよく、攻撃を目にも留まらぬ高速で回避するが、そんな事をすればどうなるか?

 急ハンドルを切った車の搭乗者はどうなるか?

 急旋回した戦闘機のパイロットはどうなるか?

 急制動は高重力を生み、その負荷が強ければ脳から血が失われる事になる。

 虚血循環停止ウツォメグータマキターレの発想の元となった現象だ。


 しかし七生魔法少女はUFOの様な軌道すら再現できる!

 慣性の法則が適用されないのだ!

 そして何より、全ての物理的干渉を透過して無効化するという無敵の特性を持つ。

 国防障壁・空間跳躍・物理法則を無視した高速移動は、そもそも彼女には必要すらない。


 そんな彼女の正体は?

 答えは俺が光の精霊の力で生み出した虚像だ。

 光の精霊に、空間上に1人の人間が存在する様に像を結ばせる。

 

 しかし人1人分の存在をイメージし続けるのは困難だ。

 途中で虚像の魔法が維持できなくなり、虚像が揺らぐ可能性がある。

 その為に外見のイメージに必要なリソースはかなりの軽減を図った。


 服装もイメージを維持できる様に工夫している。

 変身前が飾りもない無地のワンピース1枚だったのは、イメージを簡便にする為。


 変身後の服装は魔法少女らしく凝っているが、このイメージは容易い。

 何故ならシャーシャちゃんが自発的に魔法少女になりたいと思う様に、変身後のコスチュームについてはかなり頭を悩ませたからだ。

 苦労したお陰で変身後の衣装についてもキチンとイメージを維持できる。

 カンニングしようと準備したせいで、逆にしっかり覚えられたみたいなもんだろう。………全然違うか。


 そして何より想像が難しい人間部分のイメージ。

 これは労力を極端に軽減する為、シャーシャちゃんの姿をそのまま流用している。

 七生魔法少女ズィーベンレーベンが、生き写しの様にそっくりなのは当然なのだ。


 また副次的にシャーシャちゃんに、魔法少女であると自覚する下地を作ってもいる。

 七生魔法少女ズィーベンレーベンは、未来のシャーシャちゃんの姿そのものなのだ。

 視覚で直接その姿を見た事の影響は大きい。


 虚像であり、肉体を持たない彼女はあらゆる制約を無視する。

 無手の状態から桜花十文字を自由に召喚し、物理法則を無視した移動をする。

 瞬間移動も高速移動も自由自在だ。

 これでシャーシャちゃんは、目指す基準をここに置く事になる。


 七生魔法少女ズィーベンレーベンはよい働きをしてくれた。

 シャーシャちゃんは

「………ぜったいね、マホショージョになるから」

と、決意も新たに語ってくれた。

 魔法少女の設定とか考えてみてよかったなぁ、としみじみ思う。


 魔法少女覚醒計画は順調に推移していると言える。

 悔やむべきは魔法少女になるのに、友達の存在が不可欠だと語ってしまった事だろう。

 ………これは只の言い訳だ。

 心無い言葉でシャーシャちゃんを傷つけた、自分を正当化する為だけの言葉。

 しかもそれを他人の口から語って聞かせる………なんとも格好悪く、後悔してしまう。


 それでもあの時、言わさずにいられなかった。

 シャーシャちゃんを傷つけたのが自分だと思いたくなかった。

 俺は卑怯で。

 矮小で。

 どうしようもなく小心者だった………。




 流石に反省した俺は次のイベントを企画した。

 今度こそ純度100%の善意。

 混ざりっけなしのレクリエーション。


 尊皇籠。

 フルーツバスケットを進歩、発展させず、名前を変えただけのゲームだ。

 唯一の違いは「フルーツバスケット」に代わる言葉として、「尊皇攘夷」「米英撃滅」「ヤンキーゴーホーム」と言った言葉が使われる事ぐらいだ。これらに限らず愛国心が迸るシャウトなら全てOK。


 多分、元となったフルーツバスケットは、道具の要らない室内遊戯としては、最も有名かつ・人気の高いものなのではないだろうか?

 対抗馬はなんだろう?

 ハンカチ落とし?大竜巻落とし?やだ再起不能!


 さて………。

 このレクリエーション、最初は成功してた。

 シャーシャちゃんもぎこちない様子ながらも笑って遊んでた。

 俺はそれを見て目を細めていた。


 だがそうやって様子を見てた俺だから、異変に気付く。

 シャーシャちゃんの表情が曇り出した。

 そういえばシャーシャちゃん、さっきから席を動いてない。

 そこまで気付けば何が起こっているのか気付く。

 シャーシャちゃんは途中から意図的に仲間外れにされてしまっていたのだ。


 なんで、とも思った。やっぱり、とも思った。

 悲嘆。哀愁。憎悪。憐憫。激怒。諦観。

 それを知った時に俺の中に去来した感情を、正確に説明できる自信がない。


 何故いじめはなくならないのか。

 集団である以上、普通が存在し、異端が存在する。

 人が社会的動物であるが故の弊害だろう。

 しかし、そんな理屈だけでいじめを受け入れられるものか。


「さぁ罪状は読み上げた!黙秘権を認めてやるぞ?最期に何か言いたい事はあるか?」

 厳かに………と思っているのは俺だけかもしれないが促す。

 やがて子供の1人―――ゼゼが口を開いた。


「シャーシャが、ヤマトーさんとずっといっしょにいるのがうらやましくて………いじめました」

「フン」

 正直は美徳というが、俺はその定説に疑問がある。

 正直だからなんだというんだ?


 正直だから凄い?正直だから偉い?正直だから許すべき?

 どれもピンと来ない。

 嘘が悪であるという事の逆説だろうか?

 嘘が悪であるなら、正直は正義である、と?


 多くの場合、二元論は真実ではない。

 一面的な正義よりは好感が持てるが、現実の多くはもっと多面的で複雑怪奇だと思う。

 やっぱり正直である事そのものには、徳は備わっていないのだろう。

 そうでなければ何をやっても開き直ればいい事になる。

 正しい行いをした上で正直でなければなるまい。


「随分と………理解しがたいな」

 しかし………正直なのはともかく、なんでこの期に及んでそんな事を言い残すのか?

 今更ながら罪の意識が芽生えたという事か?

 

「ごめんなさい」

「「「ごめんなさい」」」

 ゼゼと一緒になってシャーシャを虐めた奴らが声を揃えて謝ってくる。


「そうか………俺は普通、()()()()()()()というのは、家族に向けられるものだと思っていたが、そうでもないんだな」

 案外そういうのはフィクションの中だけなのか?

 確かに俺が死ぬとしても、そんな殊勝な言葉なんて残しそうにない。


「人生最後?ヤマトーさん?何をいって?」

 ミミカカが聞いてきたが認識の齟齬というやつだろう。

「ん?今から俺が殺すんだ。だから人生最後、遺言だ」

「え、殺………す?」

「あぁ」


「そんな!こどもたちは謝ってます!」

「謝ったから許せと?」

 その言葉の傲慢さに、一瞬で沸点に達する。


「謝れば何をしてもいいのか?なら殺した後に謝ってやるから許せよ」

「シャーシャは生きてます!殺すなんてひどすぎます!」

「なら死んだ方がマシって目に遭わせてやる………殺さなきゃ何したっていいんだろ?」

「言ってる事がめちゃくちゃじゃないですか!ヤマトーさん!」

「滅茶苦茶を言ってるのは君の方だ!ミミカカ!」


 どんどんヒートアップしていく俺とミミカカ!

 俺としては飽くまで冷静に、ミミカカの言葉を受けて返しているつもりだ。

 だがミミカカからすれば俺は、屁理屈でも言っている様に見えるらしい。


 これが男女の性差というやつか。

 男は理屈で、女は感情でものを言うらしい。

 議論をすればどこまでも平行線。ヒートアップすればより顕著。

 正しさではなく、諦めでしか折り合いがつかない。


「いくらヤマトーさんでも、村のみんなに手を出すなら………」

 ミミカカの手が吊り下げたナイフに伸びる。

「手を出すならなんだ?俺と戦って勝つつもりか?」

 相手にならないと言外に含める。


 ミミカカの方もそれはわかっている様だが………実は言葉程に俺は楽観視出来ていない。

 この異世界の武の頂点は恐らく、科学知識を元にした魔法を使える俺だろう。

 どんな常識外れの化物がいるかは分からないが、少なくとも真っ向からの対人戦で敗北する事はない。


 俺が全面的に勝てない相手がいるとすれば、それは魔法少女の才能を開花させたシャーシャちゃんぐらいだ。

 一般的な攻撃魔法である炎と、一般的な遠距離攻撃である弓矢を無効化する無害化(サニタイジング)の魔法を俺は使える。

 しかしそんな俺にとっても、ミミカカの戦闘能力は十分に警戒に値する。


 俺と同じく英雄降臨(セギノミカタ)の魔法が使える。

 そして日常的に刃物の扱いと、命を奪う事に慣れている。

 つまり、まともに近接戦闘を挑めば遅れを取りかねない。


 その上、遠距離戦闘でも不安が残る。

 彼女は精霊を直接見る事ができるらしい。

 詳しい事はわからないが、見様見真似で英雄降臨(セギノミカタ)を模倣して見せた実績がある。

 この分析能力で俺の魔法に対抗手段を生み出す可能性がある。


 何よりこの異世界に3人しかいない、()()()()()()()()()()()()である事。

 よりにもよってミミカカに譲渡したのは、俺のナイフコレクションでも選りすぐりの逸品だ。

 刃物の聖地である関市で作られ、俺に皐月と名付けられたハンドメイドの精巧な一振り。

 この事が持つ意味はあまりに大きすぎる。

 

 できれば戦闘は避けたいが、シャーシャとは天秤にかけられない。

 シャーシャの保護は何より優先されるべき事柄だ。

 腹をくくるしかないか。

 一触即発といった緊張感が漂う中。


「………お兄ちゃん」

 シャーシャちゃんから声がかかった。

「………どうした」

 ミミカカから視線を切らずに問い返す。


「………あのね………殺さないで」

 その言葉で流石に視線を移す。

「こいつらは何も悪くないシャーシャを、一方的に虐めておいて開き直る様な連中だ」

 諭す様に語りかける。


「悲しくないのか?」

「………」

 シャーシャは何も答えない。


「苦しくないのか?」

「………」

 じゃあ俺の問いかけに反対しているのか?


「悔しくないのか?」

「………」

 答えなくてもその俯いた暗く沈んだ顔を見れば一目瞭然だ。


「それでも殺すなというのか?」

 改めて問いかける。

 シャーシャは遂に、手で顔を覆って泣いてしまった。


「………殺さないで、お兄ちゃん」

 それでもシャーシャは、殺すなと言った。

「ちっ………」

 ミミカカ達を睨みながら、やり場のない怒りを吐き捨てる。


 そのまま苛立ち混じりに、剣を何もない空間で薙ぎ払う。

「えっ!?」

 ミミカカの手からナイフを弾き飛ばす。

 ()()()()で力任せの衝撃を叩きつけた結果だ。


「シャーシャの慈悲に感謝しろ、お前達!」

 その言葉だけを残して、俯くシャーシャの肩を抱きながら、その場を後にした。




 あーあ、やっちまったなぁ。

 それが冷静になった俺の感想だった。

 1人を取り囲む、冷たい魔女裁判の構図。

 それを見て落ち着いていられずに剣を抜いた。


 だが、当のシャーシャちゃんがそれを望んだのだろうか?

 本人を置いてきぼりにして、勝手に状況をかき回す。

 とても立派な庇護者の姿とはいえない。

 俺は結果的に状況を悪化させた。

 シャーシャちゃんはこの村でより孤立するだろう。


 それに激昂の余り切り札の1つ、波紋の型を露呈させてしまう事になった。

 できる限り俺の力は秘匿しておきたかったのが本音だ。

 今回は失敗したが、出来る限り人目に付かない様に気を付けねば。


 救いがあるとすれば、状況にまだ歯止めがかかっている事だろう。

 決別も覚悟したが、暫くして緊張したミミカカちゃんがやってきた。

 残された村人と話し合った結果を伝えに来たのだ。

 どうやら俺が暴走したのは、子供達を諭す為にわかりやすく大げさにした結果と、随分好意的な解釈をしてもらえたらしい。


 罪悪感から来る反省か?

 それとも他の要因があるのか?

 俺が神の使徒とされている事が、いい方向に働いたんだろうか。

 思えば神話には気まぐれで無慈悲な神が多い。

 或いは、矢面に立ったミミカカの武器を一方的に奪った、その脅威を目の当たりにしての打算的な動きか。


 それらの複合的な理由かもしれない。

 何にせよ安堵した。

 首の皮一枚で繋がった。

 俺が関与しないところで運良く。


 それでもシャーシャちゃんの友達を作るという目標は遠のいた。

 俺もシャーシャちゃんも、村での居心地が悪い。

 何も解決策が思い浮かばないまま、その日は寝た。




 そして次の日。

 シャーシャちゃんは、村の子供達の近くには寄り付かず、朝から1人で森に入った。

 自分の辛さ苦しさを押し留めて、1人で抱え込む姿には心苦しさを感じる。

 だがミミカカちゃん達、村の人間との関係性を改善しなければ。


 俺はミミカカちゃんと謝り合った。

 一晩置いて冷静になった俺達は互いの主張を認め合えた。

 女は感情的だと内心思っていた事を恥じた。

 俺も爆発的な感情の波を持っているのだから、他人の事をどうこう言えた立場ではないのだ。


 一通り謝り合った俺達は、村人とシャーシャちゃんの関係性を改善する手段について話し合った。

 これと言った案は出て来ずに、行き詰まりを感じていた。

 そんな日が暮れる頃に、当のシャーシャちゃんが帰ってきた。

 陰鬱としていた俺とミミカカちゃんは、シャーシャちゃんのその表情を見て驚いた。

 何故かシャーシャちゃんは村で生活して以来、初めて見る明るい笑顔だった。


「………お兄ちゃん、ミミカカさん!あのね、あのね!」

 そのまま興奮冷めやらずと言った感じで話し掛けてくる。

「どうしたんですか、シャーシャちゃん?」

 その変化についていけない俺は、若干戸惑いながら聞き返す。


「………わたしね、ともだちといっしょにあそんだの!」

 !

「友達ができたんですか、シャーシャちゃん?」

「………うん!」

 花が咲く様な満面の笑顔で返事をするシャーシャちゃん。


「よかったね、シャーシャ」

 ミミカカが自分の事の様に祝福していた。

「………うん!」

 シャーシャちゃんは上機嫌でニコニコしてる。


 まさか昨日の今日で友達を作れるとは………。

 一度人間関係を俺が破壊した事で再構築ができたのか?

 一体村のどの子供と仲良くなれたんだろう?

 その子には惜しみない感謝を伝えたいものだ。


「シャーシャちゃん、なんていう子と仲良くなったんですか?」

 やはり年が近い子だろうか?

 となればゼゼとヤマシーか?


「………あのね、ナーナちゃんっていうの!」

「ナーナちゃん、ですか?」

「………うん、ナーナちゃん!いっしょにね、おしゃべりしたりね、カミフーセでね、あそんだりしたの!」

 シャーシャちゃんはいかに楽しく遊んだのか、一所懸命に語ってくれた。


「楽しかったですか?」

「………うん!」

「良かったですね、シャーシャちゃん」

 とりあえず背嚢から食事を取り出して、一緒に摂る。


 シャーシャちゃんは遊び疲れたのか、ご飯を食べて歯を磨いたら、そのまま寝てしまった。

 その寝顔は安らかで、心なしか笑ってる。

 よく清らかなものを天使の様と形容するが、正に今のシャーシャちゃんの為にある様な言葉だ。


 ちなみに確か、中世の天使というのは、男性器に直接羽が生えた姿だったらしい。

 シャーシャちゃんには全然相応しくないな。

 というか外国の人間の発想がわからん。男性器に羽ってなんだ、男性器に羽って。

 まぁ、欲求不満な外国の宗教観はどうでもいい。


「なぁ、ミミカカ?」

「あの、ヤマトーさん?」

 寝入ったシャーシャちゃんを見て、思わず俺達は顔を見合わせる。


「「ナーナって誰?」」

 俺達の知ってる限り、この村にそんな名前の人間はいない筈なのだ。

17/01/07 投稿・文の微修正

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