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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男児の準備
67/154

シャーシャ、日本男児の期待に応える

 わたしはシャーシャ・ホマレー、お兄ちゃんの妹。


 マホショージョ。

 お兄ちゃんの国を守る、すごく強い戦士。

「シッショーマホショージョ!ズィーベンレーベン!」

 目の前にはそんなマホショージョの人がいた。


 すごくきれいなキラキラのドレスを着てて。

 すごくきれいなキラキラの宝石をつけてて。

 すごくきれいなピカピカのくつをはいてて。


 お兄ちゃんが「女の子なら誰でも憧れる」っていってたわけがわかった。

 すごくきれいだった。

 カミフーセみたいにふわふわ空にうかびながら、ちょっとだけ光ってた。 


「どーも、ズィーベンレーベンさん。ヤマトー・カミュ・ホマレーです」

「どーも、ヤマトー・カミュ・ホマレーさん。ズィーベンレーベンです」

 お兄ちゃんがあたまを下げてた。

 マホショージョの人もあたまをさげてた。


「本日はこの様な所にまでお呼び立てして、誠に申し訳ございませんでした」

「あぁ、大丈夫ですよ。私にとって距離は、どれだけ遠くても近くても一緒ですから」

 ごめんなさいしたお兄ちゃんだけど、マホショージョの人は気にしてなかったみたい。


「それに………」

 あ。

「私にそっくりなマホショージョがいるし」

 またわたしのことをみた。


「お呼び立てしたのは他でもない、シャーシャちゃんの事です」

「この子、シャーシャちゃんって言うの?」

「えぇ。しかし、まだ才能が開花していないのです。素晴らしい才能を持ったマホショージョなのは、疑いありませんが」

「それで私の事を呼んだんですね」


「そうです。折角なのでこの場にいる人間に、マホショージョのイロハについて、ご教授いただければと思いまして」

「はい、わかりました」

 マホショージョの人はお兄ちゃんに元気に返事してた。




「ズィーベンレーベンのよくわかるマホショージョ教室ー」

「わー」

 パチパチパチ。

 マホショージョの人がそう言ったら手をたたいた人がいた。お兄ちゃんだけだけど。


「今日は私が、マホショージョってどんな仕事なのかを、皆に教えてあげようと思います」

「オナシャース」

 やっぱりお兄ちゃんだけが返事してた。


「主な業務内容は、平和維持活動、治安維持活動、防衛行動、セッキョッテジェケの行使、となります。場合によっては捜索任務、護衛任務等が追加される場合もありますが、基本は平和を守る事が仕事です」

 むずかしいことばがいっぱいだった。


 でも………。

 セッキョッテジェケ。

 お兄ちゃんが教えてくれた、お兄ちゃんの国のことばだ。


 セッキョッテジェケ、コーショーイ!

 モッヒョー、ヘワトアテヲビヤッス!キョーインセーア!

 コーセキテー!ヒサッショ!

 ジョキョカシ!


「僕達誇り高いニホコクミは、セシュボエを国是としています」

 お兄ちゃんはいつもみたいに笑いながらやさしく教えてくれた。

「全くふざけた事です」

 ………でも、目は笑ってなかった。

 大事な()()をばかにされたときみたいに怒ってた。


「汚らしい(アメリカ)が、どの口でそれを言ったのか僕にはわかりません」

 アメリカ。聞いたことのないことば。

 お兄ちゃんがわるいものは全部アメリカってよんでた。

 たぶんお兄ちゃんの国で、すごくわるいもののことはアメリカっていうんだって思った。

 アメリカが出てきたときのお兄ちゃんはすごくこわい。


「この世の悪徳全てを煮詰めた様な連中の定めた事になど、何故ジシュテキユエを誇る我らニホコクミが従わねばならないのか………何度考えても理解に苦しみます。ですがそもそも、不条理・理不尽の権化である下賤(アメリカ)の主張を理解しようとする等、試みそのものが過ちという事です」

 やっぱりお兄ちゃんのことばはむずかしかった。

 お兄ちゃんはあたまがよかった。なんでも知ってた。なんでもわかった。

 ちょっと話しただけでも、こうやってだれも知らないことばがでてきた。


「しかしその不条理にも穴があります。専守防衛・安全保障………僕達はそれを実現する為の手段を選ぶ事ができるのです。将来脅威となる目標とは、結局のところ戦いになるのです。結局戦いになるという結果が一緒なら、自分から仕掛けるのが兵道というものです。自らを脅かす存在には、積極的に打って出なければなりません」

 お兄ちゃんはいつもわたしと、顔の高さを合わせて話してくれた。


「それこそがセッキョッテジェケの行使………わかりましたか、シャーシャちゃん?」

 お兄ちゃんはわたしがちゃんとわかったかいつも見てた。

「………うん」

 だからわたしはうなずく。

 ………本当はなにもわからなかったけど。


 わたしはいつも顔を見てた。

 顔を見なきゃいつ怒られて、たたかれるかわからなかったから。

 だからわたしはいつでも顔を見た。

 顔を見たらその人が今怒ってるのか、よろこんでるのかわかった。


 お兄ちゃんはわたしと話すときはいつも笑ってた。

 いつもやさしかったし、たたいたりしなかった。なんでもほめてくれた。

 でも………()()()()()


 顔を見たら笑ってなんかないのがわかった。

 ぜんぜん楽しいなんて思ってなかった。

 いつもつまらなさそう顔をしてた。


 お兄ちゃんはいつでも怒ってた。

 さいしょにあったときも怒ってた。

 お兄ちゃんは今もぜったいに怒ってた。

 いつもまわりの人の顔を見てたわたしにはちゃんとわかった。


 なのに。

 やっぱりお兄ちゃんはやさしかった。

 怒ってたのにたたかなかった。


 お兄ちゃんは何に怒ってたのか。

 なんでわたしにやさしくしてくれたのか。

 わたしにはなにもわからなかった。


 なにもわからなかったけど。

 ぜったいにわかってることだってあった。

 もしもわたしが悪い子(アメリカ)になったら………お兄ちゃんに殺されるのはわかってた。


 だから悪い子(アメリカ)にはぜったいなっちゃだめだった!

 だからわたしはお兄ちゃんのいうことを聞かなきゃ!

 お兄ちゃんのいうことを聞かなかったら………わたしは悪い子(アメリカ)になってしまう!

 悪い子(アメリカ)になったら、わたしはおしまいだ!


 お兄ちゃんといっしょだったらしあわせになれた。

 お兄ちゃんはわたしを大事にしてくれた。


 それにやっぱり。

 わたしがうまくできたら、本当にほめてくれた。

 そのときだけはちゃんと笑ってくれた。


 お兄ちゃんが本当に笑った顔を見れたときが、1番うれしかった。

「よくできましたね、シャーシャちゃん」

「シャーシャちゃんは偉いですね。いい子です」

「シャーシャちゃんは宝物です」

 お兄ちゃんのいうことができたら、本当に笑ってほめてくれた。


 おいしいごはん。

 たたかれなくてよくなった毎日。

 ほめてくれたお兄ちゃん。 

 わたしはお兄ちゃんがいたらしあわせだった。


 お兄ちゃんがなんでわたしにやさしかったのかわからなかった。

 もしもいうことを聞かなくてお兄ちゃんが怒ったら?

 わたしのしあわせがなくなってしまったら?

 だからわたしはお兄ちゃんのいうことをちゃんと聞いた。


「………そうやって私達マホショージョは、皆が安心して暮らせる世界を実現する為に、日夜働いています」

 マホショージョの人が話してる。

 わたしがマホショージョになれるように、お兄ちゃんが呼んでくれたんだ。

 わたしはぜったいマホショージョにならなきゃ。


 マホショージョになれなかったら?

 お兄ちゃんのいうことを聞けなかったら?

 悪い子(アメリカ)になってしまったら?

 わたしのしあわせは?

 わたしはぜったいマホショージョにならなきゃ。




「じゃあ次はどうやったらマホショージョになれるか」

「………!」

 わたしが今いちばん知りたいことだ!


「マホショージョの力の源は信じる事。自分が信じる事と、誰かが信じる事。この2つ」

「………?」

 よくわからなかった。


「まずマホショージョになりたかったら、絶対に自分はマホショージョなんだって信じないと駄目。マホショージョになる事も魔法と同じだから、ちゃんとイメージできないとマホショージョになれなくなるの」

 ふんふん。


「でも魔法みたいにしっかりと、自分がマホショージョになれると信じられたら、絶対にマホショージョになれるよ。強さはそのイメージ次第」

 っていうことは………マホショージョは変身の魔法といっしょ?


「それと誰かが自分を信じてくれる事。自分はマホショージョなんだって、信じてくれる人がいてくれた方が絶対にいい」

 それはなんでだろ?


「自分を信じてくれる人の事を、裏切りたくないって思ったら頑張れるから。苦しい時、辛い時、自分の事だけ考えてたら、諦めたら全部終わっちゃう。でも、誰かの事を苦しい時でも考えられたら、乗り越えられる様になる。だから自分を信じてくれる人がいたら、自分の事をもっと信じられる様になるの」

「………」


「例えば私には不死のマホショージョ(レーベン)がいる。私、シッショーマホショージョ、ズィーベンレーベンは元々、只の七色のマホショージョ(ズィーベン)だったの」

 マホショージョの人が光って真っ白になった。


「これが七色の魔法少女(ズィーベン)だった時の格好」

 光がなくなったら、マホショージョの人の服が………なんかさっぱりしてた。

 宝石の数がへってたり、ドレスのだんだんがへってたり、リボンの数がへってたり。


「1人の力には限界があるの。だから不死のマホショージョ(レーベン)と私は協力した………。シャーシャちゃん、友達っていいよ?シャーシャちゃんも友達ができたら、マホショージョになれると思う」

 そのあともマホショージョの人はずっと、ともだちがどんなに大事かしゃべってた。


 ………うるさい!

 そんなの、いわれなくたって!

 わたしだってともだちを作って、いっしょにあそびたかった!


 ミミカカさんの村にはわたしぐらいのこどももいた。

 この人たちとなかよくできるかなって思った。

 もしかしたら、いっしょにあそぼうって言ってくれる人がいるかもしれない。

 こわかったけどこどもたちの近くであそんでみた。

 でも………わたしは人の顔をよく見てたからわかった。


 わたしの村にいた人たちと同じ目だった。

 すごくこわかった。

 すごくつめたかった。


 なんでここにいるの?

 お前はなんなの?

 近よらないで!

 あっちいって!


 ここでもわたしは1人だった。

 だれもわたしとなかよくしてくれなかった。

 やっぱりわたしなんかといっしょにいてくれるのは、お兄ちゃんだけなのかな?


 ………わたしもともだちといっしょにあそびたかった。




「マホショージョたる者、魔法の1つや2つ使えねば!」

 わたしがおちこんでる間にマホショージョの人が次の説明をしてた。

 もうズィーベンレーベンのかっこにもどってた。

「というわけでマホショージョらしく、魔法を実演してあげる!」

 お兄ちゃんが強い強いって言ってたマホショージョのまほう。


「来たれ!天下七杖!オーカジュモジ!」

「………!」

 え、なに、今の?

 村の人たちもなにかわからなくておどろいてた。

 マホショージョの人の手の中が光ったと思ったら、手の中に長いぼうが!


「マホショージョは武器を持って戦うの。一番標準的な装備構成はドレスと杖。でも最近では色んなタイプの武器を持って戦うマホショージョが増えたから、獲物は自分の使いやすいものならなんでもいいの」

 決まったぶきを持ってるわけじゃないみたいだった。


「ちなみに私の持ってる武器は天下七杖筆頭!オーカジュモジ!」

 なんかじまんするみたいにつえを見せてきた。

「この世で最高と言われる、7本の杖の中でも最強の杖!神国ニホの国花、サクラァを象徴した杖!」

 さっきから光の花びらみたいなのが、杖の先の方からずっと出てた!

 すごくきれい………。


「最近は多機能型だったり、変化球な杖も多いけど、オーカジュモジの効果は単純。とにかく魔法の出力が高いの。代わりに魔力の消費量まで規格外で、最初の頃は1回魔法を使うだけで、ヘトヘトになってたぐらい」

 すごいぶきみたいだけど、使うのもたいへんみたいだった。


「さて」

 そう言ってマホショージョの人は、長いつえをかんたんにふりまわした。

 お兄ちゃんのあたまからあしまであるような長いつえなのに。


「じゃあ一番の分かりやすい魔法を使うから見ててね」

 つえの先をとおくの空に向けた。

「唸れ七色ネリキコーセ!照射!」

 ばびゅー。


 つえの先から赤とか青とか黄色とか、色んな色にかわる光が出てきた。

 すごく大きな光を空に向かってとばしてた。

 わたしたちはつえの方から強い風がふいてきたからかおを下に向けながらそれを見てた。

 しばらくしたら、光を出すのがおわった。


「はい、おしまい!これが私の必殺魔法、七色ネリキコーセ!」

 やっぱりじまんしてるみたいに言った。

「あれ?なんか反応悪い?どうしたの、みんな?」

 たしかにきれいだったけど………。


「ナーシク?それともズィーベンレーベン?」

 ミミカカさんがきいてた。

「どっちでもいいけど………何?」

「さっきの魔法はきれいだったけど………」


「だったけど?」

「何をする魔法なの?」

 うん。

 ピカピカしててきれいだったけど、なにするまほうなのかわからなかった。


「あぁ、そういう事か。この世界の人にレーザコーセなんて概念はないか」

「ふふふふふ!」

 あ、まほうつかいの人だ。


「我は知っておるのだ!それは光で物を斬る魔法に違いないのだ!」

「おぉー、魔法使いのお姉さん、正解。まぁ私の魔法の威力だと、溶断とかじゃなく消滅になるけど」

「光でものを切る?消滅?」

 ミミカカさんがふしぎそうだった。

 わたしもわからなかった。どういうことだろ?


「この光に当たったら、どんなものでも消えてなくなるの」

「消えてなくなる?」

「そ、消えてなくなるの」

 ばびゅーん。


「………!」

「え?」

 いきなりつえからさっきの光をだして、森の木に向けた!

 そしたら………森の木がなくなってた!

 見てた人でおどろかなかったのは、マホショージョの人とお兄ちゃんぐらいだった。


「これが七色ネリキコーセ。基本的に防御手段はないから、回避手段がない相手だと凌げないの。それでも光の速さで飛んでくから………避けるなら高速移動か、クーカチョーヤができないと」

「クーカチョーヤ?」

 ミミカカさんがまた聞いてた。


「ワープとも呼ばれるけど、一瞬で別の場所に移動する事だよ。こんな風に」

「え?」

 マホショージョの人が別の場所にいた。

 どうやって動いたのかは見えなかった。

 なに、今の?

 こんなすごいまほうが使えたら、どんなこうげきだってよけられるんじゃ?


「まぁこの魔法が使えても、撃たれたレーザコーセは避けられないんだけど」

「え?すぐに別のところににげられるなら、よけられるんじゃ?」

「それは無理。レーザコーセが目に見えた時、もうレーザコーセは当たってるから」

「ん?」


「レーザコーセは見てからじゃ避けられないの。それ」

 ばびゅーん。

「あ」

 ミミカカさんが声を出した。

 わたしも今わかった。


 見てからじゃおそいんだ!

 あのまほうは、使ったらすぐに当たるんだ!

 そして当たったらもう死んじゃう!


「だから避けるなら、攻撃される前に動いてないと………こんな感じで」

 こんどはクーカチョーヤとちがって、動いてるのは見えた。

 でも動きがはやすぎた。

 マホショージョの人は空をとびながらすごいはやさで動いてた。


「あー、そうそう」

 空からもどってきた。

「基本的には防げないって言ったけど、十分な出力の障壁を形成すれば防げるよ、こんな風に。そびえ立て、コッボー障壁!」


 ばびゅーん。

 ばちばちばちっ!

 つえからとんでったレーザコーセが、光のかべに当たって消えた。


「まぁこんな風に、私達マホショージョは、最強の矛と、最強の盾と、最高の運動性と、最高の機動力を兼ね備えた存在なんだよ」

 これがマホショージョ!

 お兄ちゃんがぜったいにかてないっていってたマホショージョ!


 みんなだまってた。

 みんなおどろきすぎて、どうしたらいいのかわからなかったんだと思った。




 わたしはマホショージョにならなきゃいけない。

 マホショージョになれないわたしは、いらない子。

 あんなにすごいまほうだって、使えるようにならなきゃいけない。


 ………でも、できない。

 マホショージョの人もいってた。

 ともだちがいないとマホショージョにはなれない。


 ともだち。

 どうやったらわたしにはともだちができるの?

16/12/31 投稿・文章の微修正

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