日本男児、七生魔法少女を語る
やがーてやがーて、あるところに。
世界にはとてつもない国が生まれる事になります。
その国は豊かで、人々は毎日「今日は何を食べようか」を迷える様になります。
その国の名は日本。
日本に住む人々は皆、賢く、優しく、調和を重んじる慎み深い性格をしています。
日本に住みながら、賢くなく、優しくなく、調和を乱す胡乱な存在は、日本の国民ではありません。
美しい国日本を乱す、討つべき匪賊供、生きとし生けるもの全ての敵です。
日本は恵まれています。
世界に類を見ない経済力。
汚らしい売国奴共が必死にほざくマイナスイメージと裏腹に、日本は経済大国です。
………大体だなぁ、日本銀行券の意味がわかっていれば、
「国の借金を国民1人辺りに換算すると」
なんて己の無知をひけらかす言葉は使えない筈だ。
どうやら連中、恥という概念を知らんらしいな。ふん。
日本銀行券は「国民が国に対して債権を持っている」事を示す証券だ。
そう、債務ではなく債権。
取り立てる側である。
ここまでくれば「国の借金を国民1人辺りに換算する」という言葉がどれほど意味不明かがわかるだろう。
「家賃滞納者の滞納金額を、管理会社の従業員1人辺りに換算する」事に意味があるだろうか?
国の借金とは、国民にとって請求する権利がある、+の財産だ。
「未来の子孫に借金を残すな」とかほざいている連中。
言い換えれば「未来の子孫に+の財産を残すな!素寒貧にしろ!」と言っているのだ。
さすが個人財産を認めない主義主張をする奴等だ。
資本主義者である俺としては、主張の意味が何一つとして理解できん。ふん。
アイツらの頭の中は真っ赤に違いない。アカでないなら、相当頭が悪いと見える。
そもそも日本の通貨は100%自国建の円であり、国が借金で身を滅ぼす事はありえない。
経済状況に応じて、自由に円を操作できるからだ。
これがギリシャの様に、外部建の通貨だと別だが。
通貨を自国で操作できない為、状態が一度悪化すると歯止めが効かずに崩壊する事になる。
神国日本を「ギリシャの様に財政破綻する」とか煽っている連中は何を見て、何を思ってほざいているのか。
大体日本が本当に経済破綻するなら、日本で仕事してる場合じゃないだろお前ら。
経済破綻する国の通貨で報酬を貰って何に使うつもりなんだよ。
お前ら本当は日本が経済破綻するなんて、微塵も思ってないだろ、ペテン師供が。
何年も前から「100年に1度のデフレ」「このままでは日本は経済破綻する」って言ってるけどいつ経済破綻するんだよ。
日本が経済破綻するより、諸外国が経済破綻する方が遥か先だ。
名前を知っているだろう有名な国でも、失業率が20%を超えているところもあるというのに。
無作為に選びだした5人の内1人は失業者という、お先真っ暗な国がまだ破綻は来たしていない。
なのに日本は経済破綻するという。
彼らは終末論が好きなんだろうか?
デフレも、ちゃんと経済対策を行えば改善する筈である。
例えば日本の経済をお風呂の温度に例えよう。
お風呂の水が冷たすぎて困っている。どうしよう?
追い焚きするなりして、お湯を温めればいい。
当たり前の事に思えるが、そんな突飛な発想だろうか?
経済の言葉に戻すと今はデフレなので、インフレ化する様に仕向けてやればいい。
なのに何故か「そんな事してハイパーインフレになったらどうする!」とか喚いて反対する連中がいる。
それならそうなった時にデフレ化する様に仕向ければいいじゃないか、と思うんだが。
風呂の例えに戻せば、お湯が熱くなりすぎたら水を入れるなりして、また調整すればいいというだけの話。
「お湯を温めたりして、そのまま茹で蛸になって死んだらどうする!」
と言ってる様なものだ。
そもそもなんで茹で蛸になるまでお風呂に入り続けたんだ、と言いたい。
あと簡単に言ってくれるが、ハイパーインフレーションになんてそうそうなるか。
日本の環境でハイパーインフレになんて突入するなら、相当な悪意を持った外部からの、強力な介入がないと無理だ。
そうでなければ要職にある人間が全員、言葉を理解しなくなった時か。
あるいは狂賛党とかいう連中が政権を握った時か。
「あのー?」
ん、なんだ?
「マホショージョの話は………」
あぁ、そうだった。
抑えきれない俺の愛国心が爆発してしまった。
日本は偉大な神様に愛された国でした。
世界に類を見ない技術力。
日本の工業製品は世界的に見ても抜きん出て優れています。
世界に類を見ない道徳性。
調和を常に重んじ、互いを思いやる心を忘れません。
世界に類を見ない統治者。
神から統治を許されたが故の、繁栄を必然とした世界唯一の国です。
他の国の人々からは常に、
「日本は未来に生きている」
「アイツらは同じ惑星の人間とは思えない」
と敬われています。
日本が平和なのには理由があります。
ヒーロー。魔法少女。
人知れずあらゆる悪と敵対し、皆の笑顔と平和を見守る存在。
平和を乱そうとした傲慢無礼なる狼藉者は、常に彼等、彼女等 によって排除されるからです。
撫子・報国院はそんな日本に生まれます。
撫子は普通の両親の元に生まれ、普通に育った、どこにでもいる普通の少女です。
「へんな名前ー」
「あの子がナーシク?」
オーディエンスからの率直な感想が漏れ聞こえる。
撫子のネイティブな発音はナーシクに変ずるらしい。
しかし変な名前とは失礼な。俺が考えた神国日本への敬意溢れる名字なのに。
ちなみに名前は無論、大和撫子から取られている。
―――ちなみに撫子ちゃんはこんな子だ。
サラサラの黒髪ロングは姫カット。
肌は色白で、もはや病的と言っていい。肌を塗る色がないからだ。
年齢8歳。まだ子供だ。
服装は蛍光ブルーが鮮やかなワンピース、ピンク色のスニーカー。白いカチューシャがチャームポイント。
典型的な「モテない男が考えた女の子の服」コーディネートだ。
ティアードスカートとかオシャンティな服は着てない。
っていうか、オシャレな女児服をスラスラ描ける成人男性とか嫌過ぎる。
まぁそもそもの問題として、色数的に本格的なオシャレをさせるのは根本的に無理がある。
もし今使える色数で、リアルなファッションを再現しようとしたら、どんな手段を思いつくだろうか?
白いブラウスに赤いスカートと赤い靴のザ・女児スタイルとか?まぁ定番だな。
ただ今回、赤色の使用は見合わせた。
赤色を使えるペンはボールペンとサインペン。
ボールペンはA4の紙いっぱいに描いた絵を塗る用途として適してない。
サインペンは塗りにも耐えるが………使用は避けた。
以前シャーシャちゃんに勉強を教える時に、赤いサインペンの跡をマジマジ見てた事があった。
そして恐る恐るこう尋ねてきた。
「………血?」
なるほどなぁ。鮮烈な赤色が、どうしても血を想起させるらしい。
魔法少女に不吉な印象を抱かせる訳にはいかないので赤色は使用不可。
さて。残った色でできる事。
ボールペンで塗るとか勘弁してほしいので、ラインマーカーの色しか選択肢はない。
蛍光のピンク、グリーン、イエロー、ブルー。
ならガーリーポップな感じとかか?若干サイケデリックだがいけなくはないか。
或いは………80年台華やかなりし頃のレトロ系か?
チューリップハット被った女児………新しいな!
ちょっと面白いと思ったが、女児服サイズで80年台レトロ系なんてなさそうだ。
後はエスニック系のファッションはできるかもしれない。
これも女児服としてはどうだろう?
まぁそもそもエスニック特有の柄の再現が面倒臭い。
そんな訳で、少ない選択肢で、一番まともなファッションは、神誉さん的に水色のワンピース。
因みに手間を抑える為、フリル等なし。足のラインを描くのが難しい為、丈も長い。
ともすれば巨大生八ツ橋のヌイグルミになりかねない。
少し書き足したシワや、微妙に波打ったシルエットで、ワンピースである事を表している。職人芸というやつだろう。自画自賛。
服はおいておいて、好きな食べ物はうな重。
但し彼女の言う事によく耳を傾けると、好きなのはうなぎのタレの方らしい。
むしろ、うなぎそのものは骨が多くて嫌い。
あこがれの人は日本のお姫様。
当然日本は王制ではない為、お姫様という言葉が直接当て嵌まる方はいない。
これはテレビで見かけた内親王の事を、彼女の知識に当て嵌めた際の理解である。
好きなものは魔法少女のアニメ。
首が取れたり、皆死ぬしかない方じゃなく、女児と大きなお友達に人気シリーズの方。
友達は面白いと言ってたが、残念ながら俺の生活環境にはテレビがないので見てない。
概ね自我が幼く、女子にありがちな早熟でませたところはない。
それ故に素直な性格で、騙されやすいともいえる。
またテレビっ子という奴なのか、思いっきり影響を受けていて、年に比べて口調からはやたら自立した印象を受ける。
説明終わり。
そんな撫子は、毎日明るく楽しく生きていきます。
撫子が明るいのは、将来の夢、希望があるからです。
夢があれば毎日一所懸命に生きれます。
懸命に生きてれば毎日に張り合いが生まれます。
変身をすれば解決。
見栄を切れば魅了。
武器を持てば必勝。
魔法を使えば無敵。
日本の女の子の憧れ、魔法少女になる事。
それが撫子の夢です。
いつ自分が魔法少女になってもいい様に準備もします。
何か困ってはないか。
手伝える事はないか。
助けられる様な事はないか。
いつも周りの人を見ています。
本当に魔法少女になった時、どうしたらいいかをずっと考えます。
撫子は信じます。
魔法少女になれると信じます。
魔法少女の力の源は願いです。
撫子は真面目に願います。
そして撫子は魔法少女になります。
真面目に努力して、信じて願ったから撫子は魔法少女になります。
努力しないで願ってはいけません。
努力して駄目でも諦めてはいけません。
努力して駄目だったら、助けてほしいと言わなければなりません。
諦めてはいけません。
俺は紙芝居をめくった。
「おわり」
観衆側からは只の白紙が見える筈だ。
「………」
「………」
「………」
観衆からは物語の余韻に浸る様な………そんな事はないな。
狐につままれた様な不可解そうな顔を一様にしていた。
「え、今ので終わりですか?」
ミミカカちゃんが可愛く疑問を呈していた。
「あぁ、終わりだよ」
酔っ払いか深夜のファミレスでの話の様に、取り留めなく思いついた事を話してたのが不味かったかな?
ミミカカちゃんはいかにも消化不良という感じだ。
その反応はミミカカちゃんに限った事ではない。
「魔法少女の事がわかったか?」
こう尋ねてみると、皆して顔を見合わせる。
ざわざわとどよめく。
「あのー」
「はい、ミミカカ」
「わからなかったです」
当然だろう。
この話だけでは七生魔法少女が具体的に何をするのかわからない。
このわかりにくい構成は悪徳セミナーに倣ったものだ。
まず最初にわかりにくい、漠然としたよくわからない話をする。
すると聴衆はどんどん、理解できない事が不安になる。
そんな事を続ける。
聴衆は不安になる一方だ。
そして最後に信じさせたい本命を、わかりやすく紹介する。
それまでに比べてわかりやすい本命は、信用がおけると誤認してしまう。
わかりやすさと信頼性を、同等なものとして扱ってしまうのだ。
新興宗教の説明会等で使われるとされるテクニックだ。
全てはより信じてもらう為に。
ここで必要なのがわかりやすい魔法少女の説明だ。
ここまで演出を整えたら、一体どうしたらいいか?
「わからなかったら仕方ない。本人に聞いてみましょう」
「本人?」
「えぇ、七生魔法少女本人に」
言われた事がわかってなさそうな顔をするミミカカちゃん。
「さぁ皆、大きな声で撫子ちゃんを呼んでくれ!せーの!」
「………」
「どうした皆!全然声が聞こえないぞ!」
気分はヒーローショーのおねえさん。
尤も俺はヒーローショーを実際に見た覚えがないんだが………本当にこういうやり取りすんの?
「さぁもう1回!大きな声で撫子ちゃんを呼んでくれ!せーの!
「………ナーシク」
一部の人間が反応を伺う様に少し声を出した。
「そんな声で魔法少女が呼べるか!もっと大きな声で!」
「ナーシク」
「もっと大きく!」
「ナーシク!」
声を出すまで延々続けるので諦めて皆、撫子の名を呼び始めた。
ネイティブな発音だから誰だかわからない名前だけど。
「もっと大きく!」
「ナーシク!!」
「続けて!」
「ナーシク!!」
「そのまま!」
「ナーシク!!」
「ナーシク!!」
「ナーシク!!」
「ナーシク!!」
「ナーシク!!」
手拍子と共にナーシクコール。
そろそろか?
急に空が陰ったかの様に村全体が暗くなる。
皆して一斉に空を見上げるが、空には太陽がある。
別に雲がある訳ではない。
これは………予兆だ。
魔法少女降臨の合図。
皆が少しパニックに陥っている。
ふん、驚くのはまだ早いな。
続いて俺の正面、皆の背面に閃光が走った。
振り返るとそこには………果たして1人の少女が立っている。
髪の色は黒。
肌の色は病的に白い。
背丈は低く、身長130センチ程。
背を向けて立っているので顔立ちと表情はわからない。
風もないのに髪と水色のワンピースの裾を揺らしている。
こちらから見て光源を背負っているので、陰影が強く影を引いている。
明らかに見られる事を意識しての事だ。
十分注目を集めているのを確認してから、魔法少女は悠然と振り返った。
若干垂れ目がちな大きく開かれた瞳は、星を浮かべたかの様に煌めいている。
小さな鼻は筋がスッと通っていて、美しいラインを描いている。
頬はその柔らかさを想像させる様な、緩やかな曲線を描いている。
唇は風靡な桜色で目を引く。
突如現れた少女は振り返ると、品定めでもするかの様にシャーシャちゃんを見ている。
「………え?」
思わずシャーシャちゃんが戸惑いの声をあげた。
シャーシャちゃんが戸惑っているのは自分が見られているから………ではない。
自分と瓜二つの顔をした他人が目の前にいる事への戸惑いだろう。
俺は鏡を背嚢で複製してシャーシャちゃんに譲渡しているから、自分の顔は熟知している筈だ。
「………」
「………」
同じ顔をした2人の邂逅。
1人は楽しげに口元を歪め、1人は状況が理解できずに困惑した表情。
「私を呼んだのは貴方達ね」
魔法少女が口を開いた。
貴方達と言ったが、シャーシャちゃんから顔を逸らす事はない。
シャーシャちゃんは気付いているだろうか?声までもがそっくりな事に。
「特に貴方………私と同じ魔法少女ね………まだ目覚めてはないみたいだけど」
七生魔法少女―――撫子は周りの事等気にせずに、シャーシャちゃんに一方的に話し掛ける。
「なら、私が魔法少女って何なのか教えてあげる、しっかり見ててね」
やはり周りの状況を全く意に介さずに話を進める。
クルッと回ってポーズを取り、高らかに宣言する。
すると背後にどこからともなく、黄、青、赤、黒の4色で塗られた巨大な旗が現れる!
「皇国の興廃!此の一戦に在り!」
アレこそは日本の俺の部屋にも飾られているZ旗!
必勝を祈願する旗だ!
「七生報国!」
叫んだ途端に撫子は空中で膝を抱えて体を丸め、光り輝くZ旗に包まれた!
魔法少女を取り込んだZ旗は、そのまま白熱する様にどんどん白く輝いていく!
もはや完全な白い球体となったその瞬間!
「七度人として生まれ変わり、朝敵を誅して国に報いん!」
白い球体はその言葉で、今度は白い少女のシルエットとなる!
光り輝く白い少女は、クルクル回りながら手足を前へと突き出す!
突き出される度に、美しい装飾がその手足を次々と飾る!
全ての手足を装飾し、今度は体を光沢を持った滑らかなドレスが覆う!
そして変身前に身につけていた、白い質素なカチューシャも姿を変える!
あしらわれた桜の花びらが印象的な、白を基調とするヘッドドレスが少女の可憐さを引き立てる!
「七生魔法少女!ズィーベンレーベン!」
ちなみに元々は七生魔法少女ではない。
七色の魔法少女ズィーベンと不死の魔法少女レーベンの、2人分の力を合わせたのが七生魔法少女のズィーベンレーベンだ。
不死の筈の魔法少女が死ぬ前に、七色の魔法少女に力を引き継いだ、というドラマがある。
そんな七生魔法少女は、周囲の全てを意に介さずに、その姿を表した。
16/12/31 投稿・誤字の修正