日本男児、友達を作ろうとする
俺は今、頭を捻っていた。
シャーシャちゃんの魔法少女覚醒計画とは、全く関係ない事で躓いてしまった。
友達がいない寂しさはどうやって乗り越えられるか?
普通に考えて友達を作るのが一番だと思う。
じゃあどうやったら友達ってできるんだろう?
俺の時はどうしたって経験談は、全く以って当てにならない。
俺の友達は片手で数えられる程に少ない。
………ごめん、見栄張った。
正直1人しか思い浮かばない。
っていうか、只友達といえる様な関係性でもない。
思い起こせば起こす程、頭が上がらない相手だ。
まぁ照れ臭いからさて置いて。
そんな素敵な一回り程年が離れているお友達とはどうやって知り合ったか?
答えは簡単。
相手が歩み寄ってくれただけ。
差し伸べられた手を握るだけでよかった。
だから俺は友達の作り方なんか知らない。
まぁ社会不適合者の俺の事はどうでもよろしい。
問題はシャーシャちゃんだ。
村の子供達は、シャーシャちゃんに対して歩み寄る姿勢を見せない。
余所者だからか?
そう考えれば頷けるところでもある。
だがそれだけで納得していいものか?
子供といえば好奇心の塊。
何らかの機会で打ち解けて、一緒に遊んだりしてもいい気がする。
まぁ年の近い者同士を集めたら仲良くなるだろう、というのも暴力的な意見だとは思うが。
村の子供達の人間関係は既に完成されたもので、シャーシャちゃんという異物を受け入れる余地がない?
まぁ村という閉鎖的な人の繋がりな訳だし、やはり自然といえるか?
けど、皆がシャーシャちゃんを見る目って………なんか憎々しげなものに見える。
必要以上に排他的というか、攻撃的というか。
直接の接触がないから、俺の気のせいかもしれないが。
ただ戸惑っているとか、そういう感じには見えない。
これってなんか事情があるのか?
「かくかくしかじか」
「カッカッスィカズィカ?」
なんかネイティブな発音で復唱された。
「うん、そりゃかくかくしかじかでは伝わらないわなぁ」
かくかくしかじかってどういう時に使えばいい言葉なんだろうか。
「なんなんですか、ヤマトーさん?」
からかわれたと思ったのか、可愛く膨れるミミカカちゃん。
「あぁ、ちょっと聞きたい事があってな」
「ききたいこと?」
かわいく小首をかしげるミミカカちゃん。
ちなみに疑念を表すジェスチャーは、万国共通どころか、種族を超えて共通で、小首をかしげる事で示されるらしい。
なんでもこのジェスチャーは動物的な行動を元にしているらしい。
たしか定かではない音を特定する為に、首の角度を傾ける事で音の発信源を探し当てるという行動が元だ。
なので耳が顔についていて、首がある生き物だと、何か分からない事があると首をかしげるんだとか。
ついでに頷く、首を振るというジェスチャーは、地域によって意味がバラバラなんだとか。
一応この異世界でも頷きは肯定で、首を振るのは否定らしい。
ソースはプロペラみたいに首を振るシャーシャちゃん。
あと更になんか言っておくと、殆どの国で「マ」を冠する言葉は母親とか、食事という意味だ。
これは 「マ」は閉じた口を開きながら息を吐くだけで発音できるからだ。
赤ん坊が最も最初に発音できる様になる言葉だから、関係のある単語と結び付けられる。
恐らく世界中探しても「ママ」とか「マンマ」が不倫とか、虚無感とかの意味を持つ事はないだろう。
まぁ全くどうでもいい豆知識は置いておいて。
「ムムカカ村では、禁忌とされている事はあるか?」
「きんき?」
「例えばそうだな………双子は不幸を呼ぶとか、赤毛は虚弱であるとか、ピンクは淫乱とか、村ではこう言われてるって、そんなやつだ」
「んー?なんかあるかな?」
淫乱発言も特に気にされる事なく、真面目に考え出す可愛いミミカカちゃん。
「何でもいいぞ」
「えーっと、じゃあ………黒い髪で黒い服を着た人はすごい神様の使いだ、とか」
何それ?
もしかして俺がチヤホヤされたのって、そういう伝承でもあったのか?
「ん?なんかそういう謂れでもあるのか?」
「ついこの間、ヤマトーさんが村に来た時にできました」
俺かよ!
衝撃!神誉氏、村の伝承となる!
何これ恥ずかしいんだけど?
Web辞典に自分のページがあったりしたら、こんな気持ちになるんだろうか。
ちょっと慙死してしまいそう!
「いや、そういうんじゃなくて、こういう奴は村で嫌われる事とかそんなんないか?」
「うーん?フケツにしてたらダメとか?」
「あー、うん。それは大事だな」
衛生観念はしっかりしてるらしい。
異世界にしてはしっかりしてるなぁ………あれ、俺が教えたんだっけ?
「他は?」
「そういわれてもあんまり思い浮かばないです………うらぎらない、とか?」
「まぁそうだな。信頼は大事だな」
「えっと、えーっと、傷つけあわないとか、ちゃんと助けあうとか………」
俺のお気に召す答えでないと見て、ミミカカちゃんが必死に可愛く考える。
「つまり………村人を傷つける行い以外は、特別に問題視される行いはないという事か?」
「そうですね。多分ないです」
「そうか………あぁ、ありがとう。考えてみるよ」
「?」
ミミカカちゃんにお礼を言って後にする。
とりあえず人に働きかけたら、やり取りの後に「ありがとう」を添えるのが神誉流のマナー。
無愛想な事で怒られた俺が学んだ処世術のひとつ。
しかし、別に水色の髪の人間は悪魔の使いだとか。
シャーシャちゃんに符合する負の伝承があるとかそういう訳でもないのか。
てっきりそういう事があるのかと思ってたが………。
じゃあ一体なんで?
村人を傷つけないなんて当たり前な事しか………?
ちょっと待て?
村人を傷つけない?
もしかしてシャーシャちゃん、アウトじゃないか?
思いっきりミミカカに殴りかかってたけど?
「あー、ミミカカ?」
「はい?なんですか?」
可愛く返事するミミカカちゃんに尋ねる。
「その村人を傷つけないっていうのは………血の掟とか、絶対に破ってはならない的な………ものなのか?」
もはや手遅れなんじゃないかという疑いに、尋ねるのも若干恐れ恐れ伺う様になる。
「チノーキテ?よくわからないけどそんなんじゃないです」
血の掟はシチリアマフィアの構成員が守るやつだな。オメルタ。
「そんなんじゃなくて、ただやっちゃダメってだけで」
「ふむ………通念的な道徳観念の話をしただけで、明文化された刑法の類ではない様だな」
セーフ。
ミミカカちゃんは可愛く「ドートッカネ?」と首を傾げてる。
そういえばずっとほったらかしにしてたけど、普通に言葉を用いた意思疎通ができてるんだよなぁ。
今の神誉さんは日本語も話せるが、現地語を自然と話せる。バイリンガル。
思った言葉をすらすらと、まるでネイティブスピーカーの様に。
只、弊害というべき事も一応ある。
小難しい単語を交えて話した場合、インチキ外人みたいな発音の日本語がそのまま発されるのだ。
どうも現地語に翻訳しようにも、該当する単語自体が存在しなかったりする場合は、インチキ日本語になるらしい。
そうか………道徳観念ないんか、この異世界。
ちなみに話そうとしたり、聞こうとしたり、書こうとしたり、読もうとした時。
これらの時に、自然と頭に思い浮かび、体が勝手に反応する。
どうも入出力のタイミングで自動的に変換がかかっているらしい。
タイムラグ無しの音声翻訳が、読み書きにも全自動で発揮される様なものだ。
俺の大脳記憶皮質には、異世界の言葉が記憶されてる気配はない。
なんともご都合主義的だが、中学英語からして壊滅的な俺にはありがたい事だ。
どれだけ残念だったかっていうと、Feは何かという設問でフェスティバルと答えたぐらい残念。
やだ、それ元素記号!英語の問題ですらなかった!二重で馬鹿!
ちなみに変な単語を覚えるのは好きだったりする。
クーゲルシュライバー!
ゲヴォルグシャフト!
やだ、これドイツ語!漢字で言うと独逸!超カッコいい!
まぁそれはいいとしてだ。
「それならまだ救いがあるかもなぁ」
セーフセーフ。先っちょだけ、先っちょだけだから。
不埒かつ不穏な言葉を頭で即座に繋げてみる。
「えっ!?ヤマトーさん!」
けど可愛いミミカカちゃんがいきなり大きい声を出した!
「うをっ?何?」
もしかして今の口に出した?
流石に先っちょだけだからとか口走ったんなら、軽く死にたいんだけど?
「ヤマトーさん、もしかして………村の誰かを怪我させたんですか!」
ミミカカちゃんが真面目な顔で問い質してきた。
なるほど。俺が誰かに乱暴して、それが許されるのかどうか危惧してると踏んだのか。
「あー、違う違う。俺はそんな事してないぞ」
冤罪です!僕はやってません!僕はその時両手で、影絵の急須を作ってたんです!痴漢なんてしてません!
電車で痴漢の冤罪を着せられた人ごっこを脳内でする神誉さん。
最近、差し迫ったものがないので緊張感皆無。注意力散漫。大正浪漫。
因みにだが影絵の急須は、万人に一度は見てほしいと常に思ってる。俺は初めて見た時、甚く感動した覚えがある。割と本気で。
「んー?ヤマトーさん、さいきん、なんかへんです………」
あ。急須に思いを馳せている間に、ミミカカちゃんに可愛そうな奴扱いされてる。
可愛いのはお前だ、失礼な奴め!
「ともだちの作り方とか、村でなにをしたらだめとか、村の人を傷つ………?」
俺が何も言わずに脳内で茶化してる間に、ミミカカちゃんが何か考える様になっていった。
「もしかして………シャーシャのこと?」
あ、ご明察。
「………そのとおり、シャーシャちゃんの事だ」
「やっぱり」
当たったのが嬉しいのか可愛く笑うミミカカちゃん。
「年の近い子もいるのに、なかなか打ち解けられないみたいでなぁ………」
初めて子供を持った親みたいな事を言ってみる。
やだ、いきなりコブ付き!
「あぁー、しかたないかも」
ママ友のミミカカちゃんが相槌を打つ。
「やっぱ仕方ないかー………いや?………何故、仕方ない?何でだ」
「えっ、だって………?」
だってなんなんだ?だってなんだか、だってだってなんだもん?
ヒップがスモールなガールを思い浮かべてる間に、疑問の答えが出てきた。
「シャーシャがいっしょにいるから、ヤマトーさんがわたしたちと話してくれないんだってみんな思ってるし」
「ん?どういう事だ?」
「ヤマトーさんが村にもどってきたから、また前みたいにいろんなこと教えてもらったりするんだって思ってたんです………」
説明してくれるミミカカちゃん。それは有難いが、なんか心なしか非難の色が浮かんだ目で見られている様な?
「なのにヤマトーさんったら、ずっとグララとシャーシャといっしょにいるし………」
あれか。親戚の子供が集まった時に、自分のお兄ちゃんが取られた様な気持ちになっちゃって寂しいパターンか。
あーはいはい。まぁ兄弟とかいないし、親戚付き合いとかなかったし、一切共感できない例えだが。
「つまり………シャーシャちゃんは俺のせいで嫌われているという事か」
シャーシャちゃんに構うせいで俺と遊べない。シャーシャちゃんは俺を独占する悪いヤツ。
いや、シャーシャちゃんたらとんだとばっちり!
「シャーシャのことが心配なんですか?」
どうしたもんかと考えこもうとした俺に、ミミカカちゃんが尋ねてきた。
「ん?そんなもん当たり前だ。このままにしていられるものか」
とはいえ、どうしたもんかねぇ?
そもそも俺は何故、シャーシャちゃんに構っているのか?
詳しい事情までは知らないが、奴隷として売られ、社会基盤を一切持たない身の上。
選択権を持たず、生殺与奪権を他人に委ねる人生。
だからこその魔法少女覚醒計画だ。
信じられる者が、世界中で俺1人と言っていい彼女だからこそ。
俺はあらゆる労力を賭して、シャーシャちゃんを世界の絶頂に導こう。
そしてその過程で、他人との関わりのスタンスも学ぶ事だろう。
その時には圧倒的な武威を持っているので、きちんとした選択権が与えられる。
魔法少女覚醒計画は、様々な副産物を産み出す予定だ。
シャーシャちゃんの豊かな人生もその内の1つ。
魔法少女覚醒計画は、現在のところ最も優先度の高い目標だ。
その障害は早々に取り除かなければならない。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!お代は見てのお帰りだ!」
村の広場で声を張り上げる俺。
遠巻きに変な目で見られている―――村の人達からも、シャーシャちゃんからもだ。
ぼっちのシャーシャちゃんの世話が焼けるから、今日は魔法少女の特訓ができませんでした、なんて言う訳にもいかない。
なのでシャーシャちゃんにも寝耳に水の筈だ。
どうでもいいけど寝耳に水って、どういう状況で慣用句化される程に効用を周知されたんだろうか?
大昔に生息していたという、3度の飯より寝耳に水を注ぎ込むのが大好きな、伝説の寝耳水マニアの手によってか?
「ヤマトー様、なにしてるの?」
寝耳水マニアのあまりの業の深さに1人慄いていた俺に話しかける人影あり。
ヤマシーちゃんだな。
村前留学ヤマトー塾で、優秀な成績を納めた子供の1人だ。
「楽しい楽しい見世物だよ」
そう言って紙の束を出す。
表紙にはパステルカラーの書き文字でこう書いてある。
「7回………生きる………まほう………しょうじょ………物語?」
「そう。これは俺の国の子供達の憧れである、魔法少女の1人の活躍を描いたお話だ」
魔法少女覚醒計画の障害を取り除く為に、時間が割かれるのは仕方ない。
かといって、只障害対応するだけに掛かりきりになるのも芸がない。
いっその事、子供達の関係修復を目指しつつ、魔法少女の説明も行ってしまおう。
そう思って紙芝居を作ったのだ。
シャーシャちゃんが自発的に魔法少女への興味を持てる様に、絵は元々1人せっせと書いてあったのだ。
あぁ、魔法少女のデザイン難しかったなぁ。特に服が。
単純に女の子が憧れる様なものを作るのが難しい上に、最も厄介な制約がある。
俺の筆箱には、72色の色鉛筆も24色のクレヨンも入ってない。
使える色数には制限があるのだ。
赤いサインペン、赤青緑の3色ボールペン、あと蛍光ピンク、蛍光イエロー、蛍光グリーン、蛍光ブルーのラインマーカー………実にサイケデリックだ。
サインペンとボールペンの存在は基本忘れて、黒マジックによる実線と、パステルカラーの淡い色合いで塗られている。
「さぁさ!寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!楽しい楽しい魔法少女の物語だよー!お代は見てのお帰りだよー!お菓子もあるよー!お菓子ー」
お代は見てのお帰りって、紙芝居ってそういう金のとり方じゃねぇよなぁ、と自分でも思いつつ。
そもそも金を取るつもりもない。
お菓子買った子は前おいでーとか、お菓子買ってない子は見るなとか、やってみたかったが。
「お菓子!お菓子を寄越すのだ!」
「………」
思わず言葉を忘れて、笑顔を維持する為に全力を傾けるヤマトーさん。
無論子供達を押しのけてグララさんがやってきたからだ。
「あぁ、飴玉やるからあっちの一番端で大人しく座ってるんだぞ」
「わかったのだ!」
グララさんの大人気ない言動に、思わずため息が漏れそうになった。
だが世の中、何がどう転ぶかわからない。
グララの動きが呼び水となって、手の空いてる人間が徐々に集まり始めたのだ。
元々遠巻きにこっちを見てはいたので、興味はあったんだろう。
こっちに来る切っ掛けが掴めなかっただけで。
想定外だったのは、手の開いてる人間なら子供に限らず大人も集まった事だ。
別に子供しか見ちゃいけないという事はないが、紙芝居を待って年上の人間がズラっと並んでるのは………正直シュールだ。
最終的に狩りに出てない村の人間全てが揃ってしまった。
シャーシャちゃんもミミカカちゃんの側に座ってた。
その逆側には成績優秀者の証を身に着けたマヤシーとゼゼが座ってた。
なんとかミミカカちゃんが仲を取り持ってくれないかなぁと思いつつ。
七生魔法少女物語、はじまりはじまり。
16/12/24 投稿