<?>日本男子、把握する
■以下の文章とこれまでの文章を読み、各問いに答えなさい。
問1.グララのジェスチャーが何を表しているか答えなさい(各5点)
問2.ヤマトーがシャーシャの前では立派でなければならない理由を、次の語群の言葉を全て用いて説明しなさい(80点)
【語群:成長・信頼・影響】
俺は今、努力していた。
「なぁ、ところで………」
難しい顔をしてたミミカカちゃんに尋ねてみる。
シャーシャちゃんに聞いてもよかったが、ミミカカちゃんの暗い表情は珍しかったので声を掛けた。
「あっはい?なんですか?」
慌てた様子で答えた。まるで忍者はいないと念押しされた様な反応だ。
「知ってたらでいいんだが教えて欲しい。………アレは何だ?」
ミミカカちゃんを虚血循環停止から回復させていた時から気にはなってたんだ。
視界の隅にいるアレを。
わちゃわちゃわちゃ。
百面相しながら手をせわしなく動かしてる。
残念・ポンコツ・役立たずの三冠王の名をほしいままにする、我らが味方グララさんだ。
思わずさん付けしたくなるぐらいには行動が奇妙だ。
「………あのねあのね、お兄ちゃん?」
シャーシャちゃんがくいくいと俺の袖を引っぱる。
4、5歳ぐらいの子供がやりそうな仕草だが、実年齢は12歳らしい。
おそらく初対面でシャーシャちゃんの年齢を当てるのはかなり難しいだろう。
普段は自閉的な雰囲気を漂わせていて、無邪気さ、幼さを感じさせる事がない。
しかし今は幼児退行したかの様に幼い言動を繰り返している。
どっちにしろ極端で、その仕草から年齢を言い当てるのは難しい。
じゃあ外見面でと言えばもっと難しい。
シャーシャちゃんと初めて会った時、その体は明らかに痩せ細っていた。
相当劣悪な生育環境にあったと思われ、恐らく身長も平均的な同年代の子供より低い。
そして何より年齢の判定を困難にしているのは、恐らくこの世界で最高の美少女顔をしている事だ。
出会った時のボロボロの姿が居た堪れなくて、心の底から「綺麗になーれ、綺麗になーれ」と思いながら世話をした。
シャーシャちゃんという明確な対象に、強いイメージで働きかけた結果、明らかに生命の精霊を行使した魔法が発現している。
活発な新陳代謝を促したらしく、肌は赤ん坊の様にぷにぷにとして瑞々しい。赤ん坊の肌なんて見た事ないが。
ボサボサでキューティクルが全滅したと思われる髪は、光沢を持って絹の様に滑らか。絹なんて触った事ないが。
ん?そういえば髪って確か生きてる細胞じゃない筈だぞ?
角質化した―――死んだ細胞だから、一度傷ついたら終わりなんじゃなかったろうか?
まさか一瞬で全ての髪の毛が生え変わったという訳じゃないだろうし、髪が綺麗になったのはどういう理屈なのやら?
魔法のトリートメントで補修されたのかねぇ?
まぁそんなこんなでシャーシャちゃんは年齢不詳の美少女だ。
ちなみにこの異世界、法治国家日本では考えられない程、明文化された法律は少ない。
どうやら王家に反逆しない事、税を収める事ぐらいしか定められていないらしい。
要するにシャーシャちゃんに手を出すのは、特に法的には問題がない事になる。
女にまともに相手にされない様な奴は、子供に手を出して性欲を発散しようとするらしい。
危うし!シャーシャちゃんの貞操!
シャーシャちゃんに手出しするには、圧倒的な筋力・戦闘技術・魔法を無効化しなければならない。
危うし!ロリコンクソ野郎の生命!
まぁ不治の病の事なんてどうでもいい。
シャーシャちゃんはなんて言おうとしたんだろうか?
「………わたしね、あれね、おどりってね、おもったの」
グララを見て自分が思った事を、一所懸命伝えてくるシャーシャちゃん。
言われて見てみるとそう見えなくもないか?
一心不乱に手を忙しなく動かしてる。
しかし踊りと言うには、情緒もリズム感も何も感じさせない動きだ。
だがグララは運動音痴、略して運痴。
グララの思い描く動きと、実際に描かれる動きは違うのかもしれない。
「なるほどな………ミミカカはどう思う?」
「え、アタシですか?えーっと………気が触れたのかなぁ」
「ぶっ………!」
ミミカカちゃん………意外とドライだ!
意味もなく手を振り回し続けるグララ。
確かに踊っているというより、乱心していると言われた方が納得できる。
だが、それも違うようだ。
何故ならグララの表情は、呆けたものではない。
明らかに俺達を認識している。
「俺には、身振り手振りで何かを伝えようとしている様に見える」
「何かって………何をですか?」
「そこまではわからん。ゆっくり見てみるか」
3人であぐらをかいてグララを見てみる。
グララは俺達の注目を集めている事を確認すると、一度動きを止めた後再び動き出した。
手を左右違いで前に突き出して若干丸まった姿勢で動きを止めた。
「なんだろう。天地の構えか?」
「なんですかそれ?」
「空手っていう俺の国の素手格闘技術で使われる構えだ」
別に空手を習った事なんてないから、本当に使われる構えなのか知らないが。
創作だとマンガでもゲームでも見た事がある。
手を突き出している以上、多分防御力を重視した構えだと思う。
「………あのねあのね、お兄ちゃん?」
「ん、どうしましたか?」
「………よわそうなの」
「そうですね」
やたらへっぴり腰で、全く様になってない。
しばらく見てるとグララに動きがあった。
今度は直立不動になって、目を閉じてる。
「動きがないな」
「そうですね」
シャーシャちゃんは黙って頷いた。
暫く待っても動きがない。
「何かを考えてる様子でもないし、これが伝えたい事か」
「そうみたいですね」
「なんだと思う、あれ?」
「………うーん」
「キスとかか?」
「キス!?」
ミミカカちゃんがキスって聞いただけで声を上げた。
異世界の性文化では16となれば「早く孫の顔が見たい」と言われる年齢だ。
なのにこの反応。ミミカカちゃん可愛い。
「なんかキスを待ち受けてるみたいじゃないか?」
「え、うーん………そう見える、かも?」
くいくい。
「………あのねあのね、お兄ちゃん?」
「はい、なんですか?」
「………じゃあね、まほうつかいの人ね、キスしてほしいの?」
「ふむ?」
伝えたい事がキスならそうなるか?
「してみますか?」
確認してみる。
「ダメです!」
「え?なんでミミカカが怒ったんだ?」
「だって、そんな!ぜったいダメです!」
なんかミミカカちゃんが必死だ。
「そうか。シャーシャちゃんは?」
「………やだ」
嫌いな食べ物を見た子供みたいに顔をしかめて首を振ってた。
「うん。俺も嫌だ、2人がグララとキスするのを見てもなぁ」
「え、アタシたちが?」
無論俺にグララとキスするつもりはない。性的な事には興味と同時に嫌悪感がある。
そして百合属性はない。肉体的な描写のない精神的な繋がりに重きを置く作品だと好きだが。聖母さまが見てたりするのは昔は好きだった。
俺は登場人物の主観的な考えや、物事の背景がわかる作品が好きだ。
自分と違う考えであっても、明確な考えを持っているとなるほどなぁと思う。
逆に都合だけで作られた様な酷く人間味のない、只の舞台装置でしかないキャラばかりの作品は萎える。
感情移入が伴わない薄ら寒い遣り取りはひたすら苦痛だ。
要するに主人公の付属品みたいな、能無しのヒロインが多数登場するハーレムモノは嫌悪感がある。
よく「(主人公)のせいだ!」と照れ隠しに、即死級の暴力を振るうヒロインがいるが俺は大嫌いだ。
もしそんな怪力暴力ヒロインが傍に居たらと、リアルに考えれば絶対に排斥するだろう。
多少美人だろうが接する事そのものが度し難いストレスになるに違いない。
俺は考えるのが好きだ。
例えば巨大な人形ロボット。
操縦席には両手のレバーと幾つかのスイッチ。
それだけで動かせるとしたら、操縦の仕組みはどんなものだろうと真面目に考えたりする。
たったそれだけの入力系統で動かせるという事は、恐らく殆どの動きが自動化されてるという事だろう。
両手のレバーやスイッチは、判断が必要な場面や直接の命令が必要な場面で、勝手に動くロボットに介入する為に使用すると思われる。
逆にそうでなければリアルタイムで動かす事等叶わない筈だ。
例えば歩くのにいちいち右足はどう動かして、左足をどう動かして、と細かに操作するというのは現実的でない。
そんな事を日常的に考えたりするのが俺の癖だ。職業病的なところでもある。
プログラマーの仕事が何をするものなのか知らない人は多いと思うが、端的にいうと何かを実現する仕組みを作る仕事だ。
レジでスキャナがピッとやるのも、自動改札が定期やら切符を飲み込んで人を通すのも、人がやっていた仕事を機械が代替する仕組みを実現した結果だ。
だから仕組みを考えてしまうのは職業病と言える。
その癖のお陰で俺は、シャーシャちゃんの強さの仕組みを理解した。
魔法の働きかけも確かにあったんだろうが、ある可能性を無視し過ぎていた。
即ちシャーシャちゃん自身が元から強かった可能性だ。
「少し聞きました。山の方の村で生まれて………奴隷として売られたって」
ミミカカちゃんにシャーシャちゃんの経緯を知ってるか尋ねた時の答えだ。
シャーシャちゃんはどうやたら山岳地帯出身者らしい。
よくスポーツで、山岳地帯出身者は身体能力が高いと言われる。
酸素濃度が低い状態で生活してるので、十分な酸素があると普段以上の力が発揮できるという理屈だ。
そして初めて会った時の精神状態から言って、犯罪奴隷の線はないだろう。身売りだ。
おそらく碌な食事・休息を取れない生活を余儀なくされていた事が予想される。
つまり彼女は少ないエネルギーで活動する事のエキスパートと考えられる。
仮に今まで20%のエネルギーで生きてきたのだとしたら?
これからは5倍の力を発揮できる事になる!
まぁ数字には何の根拠もないが。
そしてシャーシャちゃんの生育環境は劣悪で、心にも体にも強い負荷がかかった事は想像に難くない。
しかし筋肉は破壊されると、以前より肥大化する。
例えば骨折した骨は、以前より太く結合する。
人間には過酷な環境・状況に順応し、それを克服しようとする性質がある。
最悪を知っている彼女は、これから心を折られ挫折する事だってあるまい。
つまりシャーシャちゃんの心身は、環境が変わった事でより強く、より強靭に生まれ変わったのだ。
またシャーシャちゃんは知識に対して高い吸収力・応用力を発揮する。
子供であり発想が柔軟で、新しい知識を素直に受け入れる素地がある事。
十分な睡眠を取れる様になった事で、脳の活動も活発になった事。
抑制された生活から新しい事に挑戦する意欲が非常に強く、進んで取り組む積極性を持つ事。
様々な要因からシャーシャちゃんが知識を取り込む能力は非常に高い。
更にダメ押しに、魔法を行使する能力までも高い。
これについてはハッキリした原因はわからない。
だが火の魔法を発現させると明らかに、ミミカカちゃんよりシャーシャちゃんの方が規模が大きい。
シャーシャちゃんは強くなる。
彼女は絶対無敵、空前絶後の魔法少女になる。
それは予想・予測ではない。
絶対に確定した確実な未来だ。
さて。
それから暫くグララを見てみたが、さっぱり要領を得なかった。
「………あのねあのね、お兄ちゃん、あれはね、ごはんをね、たべてるみたいってね、おもったの」
「うん、アタシも」
「えぇ、僕も」
何故かグララは何かを口に運んで、咀嚼する動作をしてる。
不可解なのは、その動作が終わった直後の表情が悔しそうになり、手をバタバタと上下させる事だ。
「………おどり?」
「鳥かな?」
「地団駄を踏んでいる様にも見えるな」
そしてその後は更に不可解だった。
怒った顔をして口をパクパクさせながら、色んな方向を向いている。
そして手も様々に動く。
なんか1人で暴れてる状態だ。
しかも時々困った顔で止まる時がある。
どうやって身振りで伝えたい事を表すのか迷ってるのかと思いきや、直ぐにまた暴れだす。
かと思ったらまた困った顔で止まる。
どうやら困った顔で止まるのも伝えたい事の一部の様だ。
「………んー?」
「なんでしょう?」
「なんだろうな?」
この状態がずっと続いている。
「しかし………」
俺は独りごちる。
「しかし?」
ミミカカちゃんが可愛く聞き返してきた。
「いや、そもそもなんでグララは喋らない、ん………?」
問い掛けに答えようとした言葉は、最後まで紡ぐ事はできなかった!
「………あのねあのね、お兄ちゃんね、どうしたの?」
ある事に気付いて固まる俺を、シャーシャちゃんが不思議そうに見ている。
「あ、そうか。喋れないのか………」
「どういう事ですか、ヤマトーさん?」
2人が不思議そうな顔で俺を見つめてる。
なんでグララが喋らないか?喋るのが不可能だからだ!
ムムカカ村までの移動を急ぐ為に、空を飛んだ時俺はどうしたか?
大声で喚くだろうグララの先手を取って、無音の魔法を掛けたんだった。
そして俺は村に辿り着いた時点で、倒れる様に寝たんだった………。
グララに掛けた無音を解いてないままに。
シャーシャちゃんが曇りない目で俺を見つめてる!
穢れないシャーシャちゃんの目で見つめられるのが辛い!
ミミカカちゃんが可愛い目で俺を見つめてる!
可愛いミミカカちゃんの目で見つめられるのが辛い!
2人が無言で向ける視線が、まるで俺を責めているかの様だ!
シャーシャちゃんの前でだけは、絶対に立派な大人であらねばならない!
人は無償の愛を自ら受ける事で、人を愛する事を覚えるらしい!
誰が言ったか知らないがなるほど!と頷ける言葉だと思う!
シャーシャちゃんに必要なのは、どんな事があっても無条件に信じられる存在!絶対的な信頼感だ!
ついうっかり(一応とはいえ)仲間であるグララに危害を加え、放置していた!
まかり間違ってそんな事が露見すれば、シャーシャちゃんに悪影響を与える事必死!
原因を作った張本人であるというのに、破綻なく切り抜けなければならない!
2人の視線に射抜かれながら、無音を解いた。
「グララ?聞こえるか?」
「おぉ!音が聞こえるのだ!声が出せるのだ!」
声を掛けると驚いた様子で反応してきた───実に嬉しそうだ。
「よかった………」
「ぬ?どうしたのだヤマトー殿?」
少しオーバー気味に安堵の表情を作る。
流石にグララが困惑気味だ。
「心配していたんだ!グララの事を!」
倒置法!そして大声!
心に疚しいところがある奴は大声になり、発言がしどろもどろになる!
あぁ、なんて典型的な奴なんだ、神誉さん!
「わ、我をか?」
鳩が豆鉄砲食らった様な顔で目を剥いているグララ!
青天の霹靂というやつだろうか!寝耳に水!藪から棒!
ちなみに同じ類語に「窓から槍」というのがある!やだ物騒!
「当たり前じゃないか!いつもと様子が違っていたからな!何か大変な事が起こったに違いないと!とても落ち着いてなんかいられなかったぞ!」
落ち着いてないのは現在進行形!
見守るシャーシャ達は疑問形!
目の前のグララは残念系!
焦りの余り韻を踏み出してみた!やだ余裕!
「そこまで、焦ったのか?ヤマトー殿が………我の為に?」
「あぁ焦った!焦った!うん焦った!」
本当に余裕がなくなって言葉をオウム返しにした挙句繰り返す!
やだ馬鹿っぽい!
「口と耳に異常があったのはわかったから俺が治した!大丈夫かグララ?」
気を取り直してこちらで会話の舵取りを行う!
「ヤマトー殿が治してくれたのか!助かったのだ!」
笑顔で喜ぶグララ!
やだコイツ馬鹿!
「もう大丈夫なのだが………我はどうして急に耳と口が使えぬ様になったのだ?」
と思ったらいきなり核心部分に踏み込まれた!
やだコイツ賢い!
「あぁそれは、おそらく極端な緊張を強いられた結果だろう」
「緊張?どういう事なのだ?」
「人の体というのは実に精密なもので、精神的な負担が募れば、肉体的な異常を来す事もある。代表的なものでは胃が痛み出すとかな。耳が聞こえなくなったり、言葉を失ったりするという事もある様だ」
もっともらしい顔でもっともらしい事をほざいておく。やだ適当!
「我はそれで耳と口が使えぬ様になったのか!」
流石グララ!
俺が犯人ってわかってない!
このまま押し切れ!やだゴリ押し!
「きっと昨日の野蛮な出来事は、繊細なグララには辛かったに違いない。グララ?もう大丈夫だ。もう野蛮な連中が君に手を伸ばす事はない。俺が全て討ち倒したんだ。安心してくれ」
うっかり忘れていたとはおくびにも出さずにグララを労る!
トドメににっこり笑顔!
眉間の力を抜いて、目を少し強めに閉じ、口を釣り上げる様に意識的に広げる!俺の笑顔の標準フォーマットだ!
「………」
グララが黙ってしまった。
………やっぱ俺は不細工なんだなぁ。なんせ自分でも鏡が見れないぐらいだし。
自分で言うのもなんだが気持ち悪い顔だ。
どこがどうというか、なんかこう………全部悪い。
クレヨンを持っていれば思わず、鏡をグチャグチャに塗りつぶしたくなる様な顔をしてる。
だが黙らせたのはいい機会だ。
さっさと話題を遷移させよう。
「他に困った事はないか、グララ?」
「う、うむ!我はお腹が空いたのだ!」
いくら俺が不細工だからって、顔を見て黙り込んだのは失礼だと思ったのか、少々無理をした様な様子で話題に乗っかってくれた!
気遣ってくれてありがとう!
うぅ、思ったより良い奴じゃないか、グララ!
「あぁ、俺も腹が減ってたんだ!一緒にご飯を食べようじゃないか!」
こうして今日は、グララをほんの少し理解できた日となった。
16/11/26 投稿・微修正