ミミカカ、日本男子を疑う
アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ。
アタシ今、すっごいヤマトーさんに怒られてる。
なんかいきなりスーって目がまっくらになって、目が見えるようになっていろんなことに答えてたらこうなってた。
よくわかんない。
なんか頭がズキズキする。月のものはまだだしなぁ。
ヤマトーさんに怒られるのは初めてだ。
いつもしずかで、やさしいヤマトーさん。
怒るイメージなんて全然なかった。
怒っても「ダメだよ」とかそんな感じって思ってたし。
でも………ぜんぜんちがった!
「ミミカカァ!」
いつもつまらなさそうな顔してるヤマトーさんは、怒ると目をカッて開いて、まゆをグググって寄せて怒る!
その目が血走っててすごいこわい!
「世の中には言って良い事と悪い事がある!ミミカカが言ったのは明らかに悪い事の方だ!シャーシャちゃんは俺の誇りだ!どこに出しても恥ずかしくない自慢の妹だ!可愛らしく可憐で魅力的で器量のいい丹精な顔立ちをした見目よく奥ゆかしい眩いばかりの世界一の宝だ!」
それですごく頭がいいから、言葉がいっぱい出てくる!
一度にこんなにいろんなこといわれたのはじめてだし、なにいわれてんのかわかんない!
なんだかわかんないから何もいえない!
………しかもちゃんと聞いたらこれ、ぜんぶシャーシャの顔をほめることばだ!
顔をほめることばってこんなにあるんだって思った!
それがわかったときにはもう次の話をしてるし!
「それが!それがっ!?よりにもよってグララと同じぐらい変だと!?一体どういう事だ………?」
って思ってたらなんかヤマトーさんの顔がいつもどおりになってる。
こっちこそいったいなんなの?
「やっぱりシャーシャちゃんは、おかしいって言われたから怒ったんですね」
ヤマトーさんはシャーシャから話を聞いてた。
「………」
だまったままうなずくシャーシャ。
「ミミカカ、お前はシャーシャの事をおかしいと言ったんだな」
アタシにも聞いてきた。
「はい………」
うなずいた。
「シャーシャちゃん?」
「………?」
ヤマトーさんから呼ばれて、シャーシャは不安そうにしてた。
ヤマトーさんの顔はいつもみたいに笑ってなかった。
すごいまじめで、どんなごまかしもゆるさないって顔してた。
「ミミカカを叩いた事を謝りましょう?」
「………!なんで!?わたし、やなこといわれたのに!なんで!?」
シャーシャはすごいいやそうだった。
めずらしくヤマトーさんのいうことをきかなかった。
「嫌な事を言われた事と、ミミカカを叩いた事は別だからです。………シャーシャちゃんだって叩かれるの嫌でしょう?敵でもないのに叩いたらごめんなさいです」
「………!………うぅ!」
シャーシャが悔しそうだ。
くちびるをかみしめてる。
「………たたいて、ごめんなさい………」
でもシャーシャはあやまってきた。
「うん」
いちおうあやまってきたからゆるす。
それを見てたヤマトーさんはいつもの笑った顔になった。
「しっかりごめんなさいができましたね。悪い事をしたと認めて謝れる………大人にだって簡単にできない難しい事ができました。シャーシャちゃんは偉いですね」
シャーシャの事を抱きしめて頭をなでてた。
「何より、ちゃんと嫌な事を嫌って言えましたね。そうです、シャーシャちゃんが悪くなければ怒っていいんですよ。よくできました。叩いた事は悪い事でしたが、シャーシャちゃんのやった事は正しい事です」
頭をぎゅって抱きしめてた。
「………いい、の?」
シャーシャはびっくりした顔をしてた。
「いいんですよ。今までよく我慢してきましたね、シャーシャちゃん」
「………うぅ………あああああっ、わぁーん!」
シャーシャはヤマトーさんに抱きしめられて、大声で泣き出した。
ヤマトーさんはやさしく目をほそめて、背中をなでてた。
「シャーシャちゃんはいい子です。この世界で一番の、大事な大事な宝物です」
あんなにやさしい顔のヤマトーさんははじめて見た。
しばらくそうしてた2人だけど、シャーシャが泣き止んでしゃっくりするだけになったら、ヤマトーさんの顔がかわった。
「さて、ミミカカ」
シャーシャをあやまらせたときみたいな、すごい冷たい顔でアタシを見てる。
地獄の悪魔になったときとはぜんぜんちがったけど、じゅうぶんこわかった。
「シャーシャちゃんに謝れ」
「アタシが?」
シャーシャがたたいてきたから悪いんじゃ?
「まさか俺に代わりに謝れとでも言ってるのか?」
アタシを見る目が、すごいつまらないものを見る目になった!
まるで………グララを見るときみたいな目だ!
考えてみる。
さっきシャーシャは、アタシがたたいたことをあやまらされてた。
でもアタシもシャーシャにデーヒッギジュジガーメで泣かせた。
あやまらないとヤマトーさんが怒るかもしれない。
たたかれたからやり返しただけなのにって思うけど………。
「シャーシャ、泣かせてごめんね」
いちおうシャーシャにあやまった。
でも………!
「あぁ?」
ヤマトーさんがアタシを見てる!
もう、つまらなさそうなものを見る目なんかじゃなくなってた!
あの目は、敵を見る目だ!
なんで?
なんでヤマトーさんがアタシをそんな目で見るの?
アタシなんか言った?
「そんな事より先に謝る事、あるだろ?」
「先にあやまること、ですか?」
何のこと?
アタシは何をしたの?
「シャーシャちゃんをおかしいと言った事に決まってるだろ!」
ぜんぜんわからないアタシを見て、ヤマトーさんがキレた!
え?
おかしいって言ったこと!?
「シャーシャちゃんがその心無い一言で、どれ程傷ついたと思ってるんだ!」
「で、でも!」
言い返す!
「でも?」
ヤマトーさんが怒ってる!つまらないことを言ったら殺すって顔だ!
「シャーシャは本当におかしかったんです!」
「おかしかった?」
ヤマトーさんはアタシの言うことをちゃんと聞いてくれる。
いきなり理由も聞かずに何かしたりしなかった。
「どういう事だ、続けてみろ」
「シャーシャは、なんかヘンだったんです!朝起きてからまるで………子供みたい!そう!まるで子供みたいになってておかしかったんです!」
そうだ!
なんでこんなことになった?原因は?
朝からシャーシャがヘンだったんだ!
まるで子供みたいなしゃべりかたで!
まるで子供みたいにいろんなこと聞いてきた!
いつものシャーシャとぜんぜんちがってた!
「ミミカカ………」
またヤマトーさんの顔がかわってた。
またつまらないものでも見るみたいな目をしてる。
「お前にはシャーシャちゃんがどう見えてるんだ?」
?
シャーシャがどう見える?
アタシは何を言われてるんだろう?
「まるで子供も何も………シャーシャちゃんは子供だぞ?」
「………」
シャーシャが子供?
何を言って………?
そこでアタシはおどろいた。
シャーシャは強い。
シャーシャはかしこい。
シャーシャはすごい。
アタシより力が強くて、かしこくて。
町で兵士と戦ったときも頼りになって。
テノーヘカ様に使える立派なニホコクミの先輩で。
まるで小さくなったヤマトーさんみたいで。
でも………そうか。
子供なんだ。
シャーシャはヤマトーさんの腕に抱かれて、しゃっくりしながらべそかいてた。
目はまっ赤になってた。
鼻水がたれてた。
あれが子供じゃなかったらなんなんだ。
ぜんぜんそう思ってなかった………。
「でも!」
シャーシャが子供だと思ってなかったのは、ヤマトーさんに言われてわかった。
「いつもとちがってたのは本当なんです!」
いつものシャーシャは、もっと落ち着いてた!
「ヤマトーさんも話してみて下さい!いつもとちがうんです!」
「ふむ」
話してみたらシャーシャがヘンになったのはわかるはず!
「シャーシャちゃん?」
「………」
だいぶおちついてきたシャーシャがヤマトーさんをだまって見返す。
「シャーシャちゃんのお名前を教えてください」
「………シャーシャ・ホマレー」
「シャーシャちゃんは何歳ですか?」
「………12さい」
シャーシャって12だったのか。
小さいしもっと下なのかと思ってた。
12だったらふつう、細くてももっと背が高い。
シャーシャは10にならないぐらいの大きさに見える。
「シャーシャちゃん………12歳だったんですか?」
ヤマトーさんもおどろいてた。
「………あのねあのね、12さいなの、へんなの?」
シャーシャが不安そうにしてた。
「全然変じゃありませんとも。僕は2人の年齢を知らなかったから驚いただけです」
ヤマトーさんはシャーシャが気にしないように笑ってた。
「………あのね、お兄ちゃんはね、なんさいなの?」
そしたらシャーシャがヤマトーさんに年を聞いた。
うん、アタシたちもヤマトーさんの年は知らなかったんだよね。
顔とか細さとかは年下に見える。
でも背がすごく高くて、強い。
なんでも知ってて、すごいおちついてる。
年上にも見えるんだよね。
「僕は20歳ですよ」
「うそ!?」
20歳!?
アタシの4つ上!?
ヤマトーさんの顔なら4つ下でもおかしくないのに!
「………そこまで驚かれる程の事か?」
ヤマトーさんはびっくりしたアタシにびっくりしてた。
でも、だって!
あんな細くて子供みたいな顔してて?
20だったらもっとごつくて、毛とかモジャモジャしてるのに?
ヤマトーさんは体がツルツルできれいなんだ。
まるで子供みたいに。
「シャーシャちゃんは何が好きですか?」
ヤマトーさんはびっくりしてるアタシをほっといてシャーシャとの話しにもどってた。
「………えっとね、お兄ちゃんとね、リボンとね、ふくとね、キミガヨのうたとね、まほうのごはんとね、えーっと」
「ふふっ、ありがとうございます。僕もシャーシャちゃんが大好きですよ。一緒です」
ヤマトーさんはシャーシャを抱きしめた。
「………いっしょ」
シャーシャはうれしそうに笑ってた。
「シャーシャちゃん」
「………?」
ヤマトーさんが少しまじめな顔になった。
「ミミカカの事は好きですか?」
「………うん、好き」
シャーシャがにっこり笑った。
「そうですか」
その答えを聞いてヤマトーさんもにっこり笑った。
急に自分がはずかしくなった。
アタシ何やってるんだろ。
泣かしちゃったのに、シャーシャはアタシのこと好きって言って笑ってくれる。
こんないい子にカセツワザを掛けて、勝てるって思ってよろこんでた、アタシ………。
「話してみたが、シャーシャちゃんがいい子だって事がわかっただけだ。つまりいつも通りだ」
ヤマトーさんがアタシを見て言った。
「でも話し方!話し方がいつもとちがって!」
「はぁ………」
ヤマトーさんは目を伏せてため息をついた。すごくあきれてる顔だ。
「子供というのは、当然何も知らないんだ」
………なんの話?
「知らないから聞くんだ。あれ何これ何ってな」
それって、今のシャーシャのこと?
そういえば村の子供も、いっぱい聞いてきたっけ。
うまく答えられたり、答えられなかったりした。
「シャーシャちゃんはな、今それをしてるんだ」
今それを?
「でも、それってもっと小さい子供がやるやつです」
たしかに子供はいろんなこと聞いてくる。
でもそれは言葉が話せるようになったばっかりの子供だ。
4つか5つぐらいの子供がよくやる。
シャーシャはもう12なのに、なんでそんな小さな子供みたいなことを。
「ミミカカは、シャーシャちゃんの事情を知っているか」
「少し聞きました。山の方の村で生まれて………奴隷として売られたって」
「そうか、俺はシャーシャちゃんには、昔あった事は一切聞いてない。だが、シャーシャちゃんが辛い目に遭ってきたのはわかる」
さっきの話はどこにいったんだろう?
「つまりシャーシャちゃんは、なんで?も、どうして?も、許されない環境で育ったんだ」
なんでもどうしても許されない?
「不思議に思う事も、疑問を持つ事も許されず、従わなければ殴られる様な環境でな」
! 何それ!
そんなのひどすぎる!
いじめられたって聞いたけど、どんないじめだったのか考えたことはなかった。
シャーシャはそんなひどい目にあったの?
「そういう状況で心というものが育まれる事はない。シャーシャちゃんは年齢こそ12歳となったかもしれないが、心の成長が止まってしまったんだ」
心をはぐくむっていうのがなんなのかぜんぜんわからなかった。
でも、シャーシャが子供らしくできなかったっていうのはわかる。
「シャーシャちゃんは今、心を育てようとしてる。それは、俺達の事を信頼してくれているからだ」
「信頼?」
「そうだ。今まで大人しくて静かだったのは、人が怖かったからだ。自分をいじめるだけの存在だったんだからな。だがシャーシャちゃんは俺達なら、聞いたらちゃんと答えてくれると信じたんだ」
シャーシャが子供みたいな話し方をしだしたのって、そんな意味があったの?ぜんぜんわからなかった………。
「シャーシャちゃんは当たり前だが、殴られるのが嫌いだ。痛いのが嫌だ。それは体の痛みだけじゃなく、嫌な事を一緒に思い出すからだ」
ヤマトーさんがアタシをまっすぐ見た。今にも………泣き出しそうな顔してる。
「でも、ミミカカ。シャーシャちゃんはな、お前に泣かされても、お前の事が好きだと言ったんだぞ?お前の事を信じてると言ったんだぞ?」
!
やっとヤマトーさんがなんでアタシに怒ってるのかわかった………!
「お前のいう立派な戦士っていうのは、自分を信じる子供を泣かせる様な奴の事か?」
ちがう!
そんなんじゃない!
アタシがなりたかったのは、そんなんじゃない!
「それにな、ミミカカ」
まだ………あるの?
もう十分自分を情けないと思ったのに?
「まぁシャーシャちゃんの事がわからなかったのは仕方ないところもある。人の考えてる事なんてそうそうわからないからな」
「………」
なにを言われるのかわからなくてだまって聞く。
「でも、なんで自分が言われて嫌だった事を言ったりしたんだ?」
「え………?」
なんのこと?
「戦士を目指すと言った時に、周りからおかしいって言われて、自分がどんな気持ちだったか覚えてないのか?」
!
たしかに言われた!
たしかに思った!
あんなにくやしいって思ったことは今までなかった!
お母さんが森で死んで、仇を討ってやる、立派な戦士になってやるって思ったとき!
周りの人達はなんて言ってたか、アタシは覚えてる!
女なんだから、狩りなんて適当にできればいいのにって!
お母さんのことは気の毒だったけど、だからって自分で仇を討つなんてって!
お父さんも、口には出さなかったけど!
ばかなやつって!おかしなやつって!
アタシは本気だった!
ぜったい立派な戦士になるって思った!
でもみんなでアタシのことをばかにした目で、かわいそうなものを見る目で見たんだ!
アタシは精霊が見えるから、風を見て鳥を撃ち落とせる!
ちゃんと練習して、村で一番の弓矢の腕になったから、もうアタシをばかにするやつはいない!
でも………あのときのくやしさはわすれてない!
「あんな………あんないやなこと、アタシ、シャーシャにしたの………」
シャーシャはほんきだったのに、がんばっていろんなことを知りたいって思ってたのに!
アタシはシャーシャに、おかしいなんて言ったの?
「シャーシャ!ごめん!ごめんなさい!おかしいって言って!シャーシャは、おかしくなんかないから!」
アタシはシャーシャに抱き付いて子供みたいに泣いた!
シャーシャもまた泣いた!
でも、もうたたいてはこなかった!
アタシたちが泣き止んだら、ヤマトーさんはケンカした原因を聞き直して、もうくりかえさないようにって言った。
今はシャーシャが変身の魔法を使わなかった理由を聞いてる。
ヤマトーさんは、何者なんだろう?
すごい強くて、頭がよくて、なんでも知ってる。
シャーシャはアタシに自分のことを話してくれた。
アタシはそれを聞いて、シャーシャがたいへんなのを知って助けちゃうなんて、さすがはニホコクミのヤマトーさんだって言った。
「………違う」
「え?」
「………わたし、お兄ちゃんに、何も言ってなかった」
「え?」
「………何も言ってなかったのに、お兄ちゃんは、なんでもわかってくれた」
あのときはただヤマトーさんをすごいなって思っただけだった。
さっきもなんでシャーシャのしゃべりかたが変わったのか、ヤマトーさんはすぐにわかった。
シャーシャに何があったかは聞いてないのに、ヤマトーさんはわかってる。
それにアタシのことだ。
なんでアタシの昔のこと知ってるの?
アタシがくやしいって思ったのは、アタシしか知らないのに。
ヤマトーさんは………。
16/11/19 投稿