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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の休息
54/154

<?>日本男子、過ちを犯す

■以下の文章とこれまでの文章を読み、各問いに答えなさい。

問1.シャーシャの豹変の理由を答えなさい。(20点)

問2.ヤマトーが犯した過ちとは何か答えなさい。(80点)


 俺は今、激怒していた。


 目覚めるとそこは見慣れた天井ではなかった。

 俺の部屋じゃないのは当然だ。

 何せ今や遠く日本の地にあるんだから………とまで考えた訳ではない。

 まだそこまで頭が回転してない。別に低血圧な訳でもないんだが。


 俺が混乱したのは、今の光景が原因だ。

 寝る前の光景と、起きた後の光景が説明なく違うとなかなか混乱する。

 昔、熱帯夜にベッドで寝て起きたら、廊下に転がっていた事があったが、部屋のドアを開けた覚えはない。

 あの時俺は、何故こんな所で寝てるのかわからず混乱したものだ。


 今の混乱はそれに近いが、もっと状況が悪い。

 そもそも俺はいつ寝て、ここは何処なんだ?見覚えはあるが………。

 状況把握に努めようとした俺に悲痛な声が聞こえてきた。


「………いたいぃ!いたいいいいい!」

 これは………子供が泣いてる声だ。

 なんだ?

 思わず声がする方向を見た。


 シャーシャが泣いてる?

 抑えもせずに大きな声で?

 この子がこんな風に泣いてるのを見た事がない。

 ミミカカがシャーシャに関節技を掛けてる?

 状況が全くわからない。


「シャーシャを離せ」

 それでも俺のやる事は1つだけだ。

 シャーシャを守る。

 それ以上の理由は必要ない。


「なんでこんなことになったんだ」

 本当に状況がわからない。

「ヤマトー………さん?」

 ミミカカが俺に気付いた。

 なんでミミカカが、シャーシャを泣かせている?


「だが」

 それでも。

「誰であろうと」

 俺のやる事は。


「シャーシャを泣かす奴は」

 1つだけだ。

「ヤマトーさん!?」

「俺が許さん」

 シャーシャを守る。


 相手はミミカカだ。

 本当なら手荒な真似はしたくない。

 しかし完璧に決まった腕拉ぎ十字固めは、シャーシャちゃんに苦悶の涙を流させている。

 ミミカカが技を解かない以上は………。


「俺は他の方法を知らない………残念だ」

「ぐっ!?」

 あぁ。

 本当に残念だ。

 ミミカカが全身の力を失ってぐったりしてる。


 痛みがあったのかなかったのかさえよくわからない。

 この眠りが安らかであったらいい。

 俺は他人事みたいに思いながらミミカカを見てた。




「………お兄ちゃんお兄ちゃん、あのね」

「どうしましたか、シャーシャちゃん?」

 シャーシャが目を剥いて俺に聞いてきた。

「………ミミカカさんね、しんじゃったの?」

 ピクリとも動かないミミカカの体を見てる。


「失神しただけです」

「………しっしん?しっしんってなに?」

「まぁ死んでないという事です」

 ただしその言葉には「今は」という言葉が付くが。


 目標の無力化を目的とした魔法。

 それを実現するにはどんな方法があるだろうか?


 全身麻酔を再現して眠らせる?

 全身麻酔は未だにその原理が判明してないらしい。

 魔法を使うには詳しくイメージする必要がある。

 原理が曖昧では途端に、そのイメージが霧散してしまう。

 俺が原理を正しく理解できるものしか、まともな魔法にはならない。


 電気を流して全身麻痺させる?

 密着している以上、シャーシャちゃんを巻き込む結果になる。

 当然認められないので、対象を個別に選定できる手段である必要がある。

 そもそも期待した効果を発揮するより先に感電死させかねない。


 魔法で眠らせる?

 ドラマとかでお馴染みの、クロロホルムの様なものをイメージするか?

 ちなみにクロロホルムで睡眠に導入するには、10分程度かかるらしい。

 薬効のイメージがかなり弱い上、即効性がないので却下。


 物理的な働きかけ以外の魔法は、運用を諦めている。

 イメージが弱く、魔法がうまく発現する気がしない為だ。

 例外的に恐怖を齎す魔法は使えたが、あれは相手を蹂躙してやると思った敵愾心の結果だ。

 殺伐とした自然な感情がなければ魔法が成り立たない。


 やはり今から考えてみても、無力化する手段なんて他には思い浮かばない。

 対象に高重力を掛けて失神に追い込む、虚血循環停止ウツォメグータマキターレ

 この魔法は、外傷こそ一切ないものの、非常に危険な魔法だ。

 ミミカカを相手に使いたい魔法ではなかった。


 因みに魔法の命名については、日本語を由来にして、どこか()()っぽさが出る様にしながら、異世界の言語っぽく発音を崩している。

 今回の場合、単純に漢字の訓読みを崩してみた。


 プログラマーという職業はすごく命名を大事にする。

 変数という入れ物、関数という処理群、テーブルという情報の塊、プログラムそのもの。

 プログラマーは業務上様々な道具を作り出し、それらにその場で命名する機会が非常に多い。

 そしてその命名は可読性と言って、一目見た時に意図が読んだ人間に伝わる事が重要視される。

 物を挟んでちょん切る道具がはさみと呼ばれてる様に、名は体を現さなければならないのだ。


 まぁそういう職業意識と、俺自身の主義によってこの胡散臭い命名は成されている。

 それに名前を付けるという事は認識するという事に繋がる。

 それは魔法をイメージするのに大事な事だ。

 個人的な理由と実用的な理由から魔法には名前を付ける意義がある。


 さて虚血循環停止ウツォメグータマキターレは何故、対象者を失神せしめるのか。

 これは高重力を掛ける事で、血液の流れを著しく妨げる為だ。

 人間の各器官は血液を源に動いている。

 そしてそんな大事な血液は、心臓がせっせと全身に送り出している。


 この魔法の肝は重力を掛ける方向だ。

 対象者の頭上から足元に向かうベクトルを持っている。

 そうなると血は当然重力に逆らえずに足元に集まる。

 大事な脳への血液の供給が止まるのだ。


 航空機が好きであれば、おそらく理解が早いだろう。

 この魔法を思いついたのは、実際その知識からだ。

 パイロットが高いG負荷を受けた場合、段階的にその症状が現れる。

 まずはグレイアウト。視界から色彩の情報が消滅する現象だ。


 よくスポーツ選手のゾーンとか、交通事故に遭う瞬間とかは、視界が白黒になると聞く。

 これは色情報をカットする事で、脳が処理する情報量を削減する為だそうだ。

 結果、体感時間がスローになる程、色情報を削減する効果は大きい。

 逆に色の情報量はそこまで多い為、脳に流れる血液量が足りなくなれば正しく処理できなくなる。


 そしてブラックアウト。視界そのものが完全に真っ暗になる現象だ。

 パソコンのファイルでも、音楽のファイルと動画のファイルでは、どちらのファイルサイズが大きいかは明白だろう。

 ファイルサイズとは即ち情報量だ。脳は動画を再生できなくなると、音声だけを再生する訳だ。


 最後は失神。G-LOCともいい、その場合は重力に依る意識喪失のみを指す言葉だ。

 症状名としては一過性脳虚血───名前の通り、一時的に脳に血が行き渡らずに失神してしまう。


 ミミカカちゃんは今、失神している。

 そう!彼女の脳へ流れるべき血液を堰き止めたのだ!

 このまま放置すれば、良くて脳機能に障害を残し、最悪は死亡する。

 無力化はしたが、その死を望んだりはしていない。


 脳への血液供給を堰き止めた瞬間、今度は逆方向に重力を掛けた。

 無論脳に血液を戻す為だ。

 逆に血が脳に集まり続けるのも、様々な悪影響を及ぼすので直ぐに止める。

 レッドアウトという視界が真っ赤になる現象や、単純に脳の血管が耐え切れずに破裂する恐れすらある。

 後はひたすら回復の魔法を掛けて祈るだけだ。




 程なくミミカカちゃんは、睫毛の長いお目々をぱっちり開いた。

 流石ミミカカちゃん、可愛いだけあって無事だった。

 しかし、脳に障害があっては無事とはいえない。


「自分の名前はわかるか?」

「ヤマトーさん?」

 ミミカカちゃんが可愛く不思議そうな顔を向けてくる。


「まず俺からの質問に答えるんだ。自分の名前はわかるか?」

 俺はもう一度訪ねた。

「はい………ミミカカです」

 ちょっと不服そうだったが素直に答えてくれる。


「年齢はいくつだ?」

「16です」

 16!

 若い!

 16って高校1年?


 なんか学校って卒業したら、凄く隔たりを感じるんだよなぁ。

 特に就職してからは、まるで聖域かなんかみたいに思える。

 街中とか電車で学生服見たら、眩しい物でも見た様な心地だ。

 ミミカカちゃんはどういう制服が似合うだろうか。

 ちなみにギャルと制服というフレーズで、ルーズソックスを想像した奴は絶対アラサー以上だと断言できる。


「年を取るって大事な事だと常々思う」

 その昔、俺の友達がしみじみと言ってた。

「色んな事が許せる様になる。俺はその昔、ルーズソックスは絶対許せねぇって思ってた。でも今だったらルーズソックスの日焼けした茶髪ギャルも許せる」

 友達は遠くを眺める様な目をして言った。


「年を取るって大事な事だ………」

 俺はそれを聞いて「何言ってんだこいつ」と思ったもんだ。

 今のルーズソックスは、別にギャル専用のアイテムではない。

 この友人と話してて、昔はギャルとセットだったアイテムなんだと知った。

 そもそも日焼けした女子高生と言われたら、真面目に陸上やってるやつぐらいしか思い浮かばないからギャルのイメージとかない。


 は!ミミカカちゃん16歳発言に気が動転してた!

 ………正直もうちょっと年上、俺とタイぐらいなのかと思ってた。

 人種が違うと年齢が全然わからないって本当だなぁ。


 気を取り直して質問だ。

「家族は?」

「お父さんだけです」

 うん、お母さん(ミーミさん)はお亡くなりになってるそうだからなぁ。


「特技は?」

「えーっと、狩りと刺繍」

 あ、刺繍が得意なのか。確かに服にはボヘミアン調なお花の刺繍がされてる。

 俺はそれを見て勝手にお花ちゃんというあだ名をつけてたんだ。


 しかしお名前は?年齢は?ご家族は?特技は?って根掘り葉掘り………。

 お見合いみたいだな。いっそ年収でも聞いてみるか?

 そもそも年齢とか刺繍とか、俺が知らない新事実が出てきてて、記憶に齟齬がないかが確認できない。

 それならもう核心に迫ろう。


「なんでシャーシャちゃんを泣かせていたんだ?」

 何より知りたかった事を尋ねる。

 シャーシャちゃんがあんなに声を荒げて泣くなんて緊急事態だ。

 何故2人はいきなりあんな事をしていたのか。


「それは………」

 ミミカカちゃんの言葉を待つ。

「シャーシャがいきなりアタシをなぐってきて」

 なんだと?


「そうなんですか、シャーシャちゃん?」

 さっきから黙ってるシャーシャちゃんに聞いてみる。

「………」

 シャーシャちゃんはばつが悪そうに俯いてる。


「シャーシャちゃん、はいかいいえでお返事して下さい」

「………はい」

 それでも促したら答えてくれた。


 なんと………シャーシャちゃんがいきなりミミカカを殴った?

 そんなアグレッシブなシャーシャちゃん見たことない。

 しかし、それも気になるが、確認するべき事がある。


「なんでシャーシャちゃんは、ミミカカをいきなり叩いたりしたんですか?」

 ここが重要だ。

 例えどんな善人だって合理的な───そして同時に打算的な理由を基に行動を起こす。

 見返りを求めないで行動するのと、理由もなく行動するのは、本質が全く違う。

 理由のない事をする奴はいない。いるとしたらそれは狂人だが、シャーシャちゃんは狂人とは程遠い。


「………っ」

「?」

 シャーシャちゃんがなんか口にしてるが聞き取れない。

「………ひっ、ぐず、ひんっ」

 シャーシャちゃん、泣いてる?


 ちなみに人の泣き顔が大好きな神誉さんだが、実は例外がある。

 子供が泣いてると普通に可哀想だと思う。

 あといい年した女が泣いてたら鬱陶しいとしか思わない。


「シャーシャちゃん、落ち着いて。ゆっくりでいいですからね。ゆっくり思った事を話してみて下さい」

 努めて明るく、言うまでもない事を明確にしてみる。

 当たり前の事でも、混乱した人には整然と示す事が大事だ。

 混乱とは当たり前の事が当たり前にできない状態なんだから、指針を示すのは有効な打開策だ。

 実際シャーシャちゃんは、ゆっくりとでも思ってる事を話してくれるみたいだ。


「………ひっ、あのね、ひんっ………ミミカカ、さんが、ひんっ、ね………あのね、わたしのね、ことね、はぁ………ひんっ、ぐずっ、おかしいってね、いったの………」

 ところどころ鼻水を啜りながら、しゃっくりしたみたいな嗚咽を交えて、一所懸命に教えてくれた。

 ミミカカちゃんにおかしいって言われたから、シャーシャちゃんが怒ってしまったらしい。


 おかしいと言われて喜ぶ人間は、キャバ嬢に性癖を詰られてるおっさんぐらいだ。

 因みにキャバ嬢は客に性癖を教えられた場合、「変態だね」と返すのが接客テクニックなんだそうだ。

 余程おかしな客でなければほぼ喜ばれるらしい。なかなか業が深い話だと思う。


 しかし、あの大人しいシャーシャちゃんが、取っ組み合いの喧嘩をする程怒るとは………。

 俄には信じ難いところもある。

 ミミカカちゃんに事実確認しようかと思ったが思いとどまった。

 シャーシャちゃんはまだ喋っていたからだ。


「………それでね、ぐずっ、はぁっ………わたしのことね!わたしのことね!」

 言いながら怒りを思い出してきたらしく、目と鼻の穴を開いて興奮してる。

「シャーシャちゃんの事をどうしたんですか?」

 続きを促してみる。

「………まほうつかいの人とね、いっしょぐらいね、おかしいって、ぐずっ、ひんっ………いったの」


 なんだと!

「ミミカカァ!」

 思わずミミカカを怒鳴りつける!


「世の中には言って良い事と悪い事がある!ミミカカが言ったのは明らかに悪い事の方だ!」

 そのまま立て板に水の勢いで捲し立てた!

「シャーシャちゃんは俺の誇りだ!どこに出しても恥ずかしくない自慢の妹だ!可愛らしく可憐で魅力的で器量のいい丹精な顔立ちをした見目よく奥ゆかしい眩いばかりの世界一の宝だ!」

 シャーシャちゃんの素晴らしさを讃える単語をとにかく並べた!


「それが!それがっ!?」

 しかしここで言葉に詰まってしまう!

「よりにもよってグララと同じぐらい変だと!?」

 シャーシャちゃんの怒りが爆発した点を改めて指摘する!

 

「一体どういう事だ………?」

 ………本当にどういう事なんだ?

 確かにグララは口調が偉そうなだけで何の役にも立たない奴だが。

 一緒にされたのが嫌で、殴りかかったのか?

 シャーシャちゃん、グララの事そこまで嫌いなんだな………。




 その後2人を宥めて、落ち着いて話を聞いてみた。

 話の大筋としてはやはり、おかしいと言われたのが不服で殴り掛かり、ミミカカちゃんが反撃したらしい。

 とは言っても分別は残っていたので、ナイフも鞘に入れたままで使用し、炎の魔法は使っていないらしいが。


 外傷らしい外傷は互いにない。

 一番のダメージと言えば、虚血循環停止ウツォメグータマキターレを受けたミミカカちゃんの可愛い脳だろう。

 それもミミカカちゃんに異常は見られない。よかったよかった。


 ………しかしだ。

 落ち着いて考えてみるとやはり変だ。

 あのシャーシャがミミカカに負けた?


 俺の知ってる限り、シャーシャちゃんはミミカカちゃんに一度として負けた事がない。

 身体能力、技術面の両方において、隔絶しているからだ。

 そして集中力も高く、油断や隙きとも縁遠い。

 常に大人を凌駕する、心身のスペックを発揮している。


 そんなシャーシャちゃんが負けた?

 たしかにミミカカちゃんも非凡な才の持ち主だ。

 ナイフ1本で灰色の猟犬(グレイハウンド)3匹に立ち向かい、遅滞戦闘を繰り広げてみせた。

 かといって………完全に規格外なシャーシャを倒せる程とは思えない。

 そう思って確認してみたら1つの事実がわかった。


「シャーシャは、魔法を使ってません」

「魔法を使ってない?」

「はい。デーヒッギジュジガーメした時、シャーシャを見てわかったんですけど、変身の魔法は使ってません」

 それが事実なら、その敗北も途端に頷けるものになる。

 肉体強化のないシャーシャちゃんは、只の病み上がりの子供の筈だ。


「シャーシャちゃん、何故変身の魔法を使わなかったんですか?」

 不思議に思って聞いてみる。

 何故いつも発動させていた筈の肉体強化の魔法を解いた?

「………」

 シャーシャちゃんの答えを待ってみるが沈黙が続く。


 ?

 シャーシャちゃんは利発な子だ。

 言い淀むのだとしたら、それは答える事で自分に不利を招く時に限られる。

 そう思っていた。


 しかし様子がおかしい。

 自分の失態を言い繕おうとして、だんまりを決め込んでいる訳ではない様だ。

 むしろ、なんとかして説明しようとして苦慮している様に見える。

 まるで、やろうとしている事に能力が及ばず、手を出しあぐねている様なもどかしさだ。


「うまく言葉を纏められなくてもいいですよ。シャーシャちゃんが思った事を言ってみましょう」

 試しにそう言って促してみると、安心した様にポツポツ喋り出した。

「………あのね、わたしね、つよくなったの」

「はい、そうですね」


「………お兄ちゃんとね、キトレしてね、つよくなったの」

「はい、一緒に筋トレをしましたね」

「………わたしね、つよくなったの」

「はい、そうですね」

 少し要領を得ないが辛抱強く聞く。


「………えっとね、たんれんしてね、つよくなったの」

「はい、一緒に鍛錬をしましたね」

「………だからね、わたしね、つよくなったの」

「はい、強くなりましたね」

 シャーシャちゃんは何を伝えようとしてるんだろう?

 さっきから強くなった強くなったと言ってるが?


「………あのねあのね、お兄ちゃんね」

「はい、なんですか、シャーシャちゃん?」

「………わたしね、へんしんのまほうはね、わからないの」

「はい………はい?」

 いきなり強さの話じゃなくなったな?


「………あのね、わたしね、へんしんのまほうね、わからないの」

 シャーシャちゃんは不安そうな顔で俺を見てる。

「あー、それは当然ですよ。シャーシャちゃんは変身しようと思って魔法を使ったのではなく、気が付かない内に魔法を使ってただけですから」


 シャーシャちゃんの肉体強化は無意識下での発現、つまりゲーム風に言うと常駐(パッシブ)スキルだ。

 俺の様に体系的に魔法を意識して、意識化で発現させている訳ではない。

 まぁシャーシャちゃんからしたら、戸惑うのも当然かもしれない。


「………ちがう!」

 シャーシャちゃんから鋭い否定の声が上がった。珍しい。

 自分の言いたい事が伝わらない、けれど伝える方法がないもどかしさを乗せた言葉だ。

「違う?」

 何が違うんだろう?


「………あのね、あのね、わたしね、つよくなったの!」

「はい、強くなりましたね」

 堂々巡りだ。


「………まほうじゃないの!わたしね、つよくなったの!」

「魔法じゃない………?」

 どうやら伝えたい事の焦点はここにあるらしい。




 シャーシャちゃんが必死に伝えようとしている事が何か暫く考えた。

 そして漸くその内容に思い至り、自らが犯した()()を知った。

 何という事をしでかしてしまったのだ!

 余りに見誤っている!

16/11/19 投稿

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