ミミカカ、日本男子の加護を失う
アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!
「………ミミカカさんなんか!しんじゃえ!」
あぁもう!
どうしてこんなことに!
ほんとになんでこんなことになったの!
シャーシャがナイフを構えた!
この子、何を考えてんの!?
アタシは今までシャーシャに1度も勝ってない!
違う!
勝ってないんじゃない!
負けたんだ!
全部!
今まで修行で戦ったとき全部!
アタシはずっと負けてきた!
シャーシャはとにかく強い!
力も強い!
力比べで勝ったことがない!
けどシャーシャの強さはそんなんじゃない!
動きが完璧なんだ!
攻撃の、防御の、避け方の!
全ての動きでこっちを追い詰めてくる!
そして隙きを見つけたら容赦ない!
初めて戦った時は、ほんとに手も足も出なかった!
そんなシャーシャが、アタシにナイフを構えてる?
それも!
いつも大人しいシャーシャがあんなに怒って!
一体何があったの!?
「………しっ」
まっすぐアタシの顔を狙ってきた!?
「ぐっ!」
首をそらして避ける!
そのままシャーシャの伸びた手を捕まえてやる!
………ダメだ!
もう手を引いてる!
反撃がくる!
防御だ!
シャーシャの腕をつかもうとして、空振った手で身を守る!
体を丸めて腰を落とす!
顔とお腹を守れるように腕で両方カバー!
「防御の技術は大切です。素手で防御しなければならないならこんな感じが基本です」
ヤマトーさんが修行で教えてくれたことだ。
いじめられた子供みたいに丸まって頭を守って小さくなってる。
なんかすごく弱そう。
「大事な点がいくつもあります。まず腰を落とす事。腰が高いと攻撃を受けきれません。受ける衝撃を曲げた膝で柔らかく受け止めるんです。ちょっと試してみましょうか」
ヤマトーさんがアタシを見た。
「ミミカカ、まっすぐピンと立ってくれるか?」
「はい、ヤマトーさん!」
ピン!
まっすぐ立った!
「ありがとうミミカカ………ん?それなんだ?」
ヤマトーさんがアタシのお腹を指差してる?
「え?なんですか?」
なんかついてんのかな?
首を曲げた瞬間、ヤマトーさんに突き飛ばされた!
「わ!」
手をバタバタするアタシ!
ヤマトーさんがその手をつかんで引き寄せてくれた。
「ごめんな、ミミカカ」
ヤマトーさんがアタシを見て少し笑いながら言った。
「今体を崩したので分かったかと思うが、腰が高い状態というのは、衝撃に非常に弱いんだ。その体勢で衝撃を受ければまず崩れる」
………近い!
ヤマトーさん、すごく近い!
手を掴んで引き寄せられたから、今アタシ、ヤマトーさんの胸の中にいる!
薄くて男らしくないけど、しっかり硬い胸板がアタシのほっぺに!
抱きしめてくれたら最高だったけど、ヤマトーさんはアタシの手をもうにぎってもない!
アタシがにぎってなかったら、手はもうはなれてた!
「膝を軽く曲げ腰を落とした体勢、これは衝撃に対して非常に強い」
ヤマトーさんはおかまいなしにしゃべってた。
「ミミカカ、試しに押してみてくれ。不意打ち気味にやった分もあるから多少強くても構わん」
腰を落としたヤマトーさんがアタシに言った。
ふーん?
「………」
「あっ」
ヤマトーさんが声出した!
っていうかちょっと恥ずかしそうなヤマトーさんとか初めてみたし!
ごめん、ヤマトーさん!
乳首を押しちゃった!
もちろんわざと!
ヤマトーさんの服は薄くてすごくやわらかい!
だからさっき抱き寄せられたときに乳首がどこにあるのかわかった!
なんかいいなぁ、こういうの。
こういう風にちょっとしたことで体をさわりあうの好きだ。
「俺にはできん反撃という事か………甘んじて受けるべき、か?」
ヤマトーさんはちょっと少しこまったみたいなレアな表情だった。
………あれ?
なんか途中から乳首の思い出になってる?
あの後、ふつうに防御の仕方を教えてもらった。
腰を落とす。
体を丸める。
縦にした腕は顔の横。
そして………!
「………しね!」
シャーシャがアタシを防御の上からけっとばしてきた!
宙にあったアタシの体は、シャーシャにけっとばされてふっとんだ!
「攻撃には一番威力が高い瞬間があります。全てが伸び切った瞬間、一番スピードが乗っていて威力があります」
ヤマトーさんは剣を振り下ろしたり、突いたりする動きを見せて、その終わりで動きを止めた。
「逆にその前後は威力が下がります。伸び切る前の攻撃はスピードが乗りません。伸び切った後の攻撃はスピードが落ちるだけです」
今度は攻撃をする前、剣を振り下ろす途中、突く途中で動きを止めた。
「攻撃を受けなければならない時は、その瞬間に攻撃を受けない様にタイミングをずらすといいでしょう」
ヤマトーさんは戦い方の説明がうまい。
なんでそうしたらいいのか、いつもわかりやすく説明してくれる。
シャーシャのけりが伸び切らないように!
アタシは自分で跳んで離れた!
ほんとはけられる前に離れるつもりだったのに、シャーシャは速い!
でも、これで反撃できる!
「シャーシャ!」
素手でナイフを持ったシャーシャには勝てない!
アタシもヤマトーさんからもらったナイフをかまえる!
「………ふん!わたしのほうがつよい!」
シャーシャもかまえる!
大人を簡単に倒すシャーシャが目の前にいる!
ホマレー流護身術のかまえ!
ナイフを突き出して体を隠す!
「今日のアタシは負けないし!」
アタシはシャーシャにナイフを繰り出した!
なんで?
ほんとになんで?
なんでこんなことになってんの?
アタシはヤマトーさんといっしょに村に帰ってきただけだ!
なのに!
シャーシャが!あのシャーシャが!
はじめて見た怒った顔でアタシを攻撃してくる!
っていうか話し方もおかしかった!
なにも知らないみたいにいろんなことを聞いてくる!
ミミカカさんミミカカさん、なんでなんでって!
まるで子供みたいな話し方だった!
ぜったいへんだ!
シャーシャはかしこい!
いつもおちついてて、自分でなんでも考えられる!
いつから?
いつからシャーシャはへんになった?
町では頼りになった!
まるで小さなヤマトーさんみたいだった!
魔法が使えなくてもナイフ1本で兵士を次々倒していった!
それだけじゃない!
魔法のせいでアタシがヤマトーさんをこわがってたとき!
シャーシャがいちばんに勇気を出してヤマトーさんに近づいたんだ!
あんなの普通できることじゃない!
あのときのヤマトーさんに近づくぐらいなら、素手で化物と戦ったほうがマシだ!
それなのにシャーシャは冷静で、落ち着いてて、ヤマトーさんはいつもどおりだってことを教えてくれた!
シャーシャはかしこいし、強いし、ほんとに天才だ!
なのに!
朝起きたらこうなった!
シャーシャが聞き分けない子供みたいにアタシに攻撃してくる!
ナイフの突きも!蹴りも!
全部速い!
なにが起こってるの?
なにがどうなってんのかぜんぜんわかんない!
でもたしかなことはある!
シャーシャがアタシを攻撃してくるってこと!
シャーシャをどうにかしないと!
シャーシャは、アタシがてかげんできるような相手じゃない!
全力で戦わないと!
ホマレー流護身術!
ヤマトーさんが教えてくれた戦い方だ!
ナイフを使った格闘を中心としていろんな技がある!
ナイフはとにかく早くまっすぐ相手に刺す!
「………この!」
「くっ!」
シャーシャのナイフの振りはとにかく早い!
1度防いでもすぐに次の攻撃が来る!
そして………!
「………えい!」
「ちっ!」
その攻撃はナイフだけじゃない!
手!ひじ!足!ひざ!頭!
全てが武器だ!
シャーシャと戦うときにぜったい気をつけなきゃいけないことがある!
それはシャーシャに近寄らせないこと!
体の小さいシャーシャは、攻撃が早い!
一度近寄られると連続ですごい攻撃を出してくる!
ナイフでこっちの動きをうまく止めてくる!
この突きはシャーシャが近づく前の準備なだけだ!
でもうまく防げないと、そのまま腕をズタズタにされる!
右左に細かく動きながらとにかく連続で突いて来る!
この攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいになったらまずい!
「………っ!」
近寄られた!
構えたナイフよりシャーシャが近くにいる!
攻撃をうまく防げないと、そのまま負ける!
この距離でシャーシャが使う攻撃はいくつもある!
ホマレー流護身術のほとんどの技が使えるシャーシャ!
それに比べてアタシが使える技は少ない!
ヤマトーさんは町でアタシに教えてくれたけど、アタシがやったのはほとんど素振りだけ!
まず最初はナイフを素早く振る練習って言ってたから!
町を出たら教えてくれるって言ってたけどまだ教えてもらってない!
だからシャーシャが使えても、アタシは使えない技がある!
ナイフを払おうとして空振ったアタシの手に、シャーシャが腕を伸ばしてる!
これだ!
これにつかまったら負ける!
シャーシャはアタシができない投げを習ってる!
大人相手でもよゆうで投げ飛ばせるシャーシャ!
もちろんアタシだって投げられる!
伸びたアタシの手で、内側に入り込んだシャーシャをどうにかできるわけがない!
だからやることはひとつ!
すぐにその場から離れる!
そして!
シャーシャだってそんなことはわかってる!
すぐに距離を近寄ってくる!
だから大事なのは!
距離を離すときはぜったいに反撃できる準備をすること!
距離だけ離してもシャーシャはすぐに近寄ってくる!
地面をすべるみたいに足を動かす!
シーアシっていうヤマトーさんが教えてくれた動きだ!
なんでこんな変な歩き方なんだろうって思ったけど、使ってみてわかった!
この動きは戦うのにすごく向いてる!
アタシは修行してたときにシャーシャと何度か戦ってる!
1回目はなにもできずにやられた!
2回目のときはさいしょに距離を離そうと思った!
だからアタシは後ろに跳んだ!
そしてなにもできずにやられた!
後ろに跳んだだけシャーシャが踏み込んできたからだ!
跳んだらもうやり直せない!
地面に降りる場所だって変えれないし、シャーシャを追い払うこともできない!
「跳んだらシボフラグが立つぞ。俺の知ってる限りでも、不用意なジャンプが原因で負ける奴は多いんだ」
ヤマトーさんが目を閉じてうんうん言ってた。
シボフラグっていうのは、それをやったら死ぬ原因になるっていう言葉らしい。
やっぱり跳んだらやばいんだ。
「そこでシーアシだ。地面から足を浮かさない様に、滑る様に歩く」
「シーアシ?」
「そう、こんなんだ」
ほんとに滑るみたいにスルスル歩いてた。
「相手の行動に対して対応しやすいし、丈の長い服を着ている場合は足運びを隠せるようになる」
ふむふむ。
「あと、応用したらこんなこともできるぞ」
!
何それすごい!
「ムーウォクとかマイコーとかシーラーとかそんな感じの名前だ」
ヤマトーさんが、前に歩きながら後ろに下がってってる!
ヤマトーさんが来るって回ってポーズした!
シャーシャと2人で前に歩きながら後ろに下がる練習をした。
ただ後ろに歩いても前に進んでるようには見えない。
コツは足を浮かせないことと前にかたむくこと。
前に歩いてるように見えた。
ところでヤマトーさんが
「ポォウ」
「フズバー」
とか言ってたのはなんだったの?
それはおいといて、あのとき練習したからシーアシはできる!
シャーシャが近寄ってきてもだいじょうぶなようにシーアシで下がる!
そしてシャーシャはやっぱり近寄ってくる!
シャーシャの歩き方はシーアシじゃない!
ネカーシダチっていう歩き方だ!
かかとをつけない歩き方で、とにかく動きがはやい!
シャーシャの早さと合わせて、とにかくほんとにはやい!
左のひじを叩き込んできた!
両手のひじでおなかを守る!
ぶつけてきたひじからそのままウラケを出してくる!
両腕で顔を守る!
まずい!
この攻撃、全部シャーシャの右手が自由だ!
ヤマトーさんのナイフは鋭い!
力を込めなくても深く刺せるぐらいすごく切れる!
だからナイフは振り回さないで、小さく早く振ればいい!
だけど、シャーシャは全力でナイフを振ってきた!
ナイフはもちろん鉄だ!
全力、それもシャーシャの全力で振られたらやばい!
シャーシャの肘打ちとウラケを防いだからもう下がれない!
攻撃を防ぐために腰を落として足を踏ん張ったからだ!
ナイフはすぐに来る!
避けられない!
受け止める?
シャーシャの全力を受け止めたらヤバイ!
ナイフで受けたらナイフをふっとばされるかも!
それで体が崩れたらそのまま負ける!
じゃあどうする?
それでも止めるしかない!
でも!
止めるのはナイフじゃない!
「たっ!」
止めるのはナイフを振るシャーシャの手の方だ!
シャーシャに近寄って手を止める!
左手でひじをつかむ!
「………わたしにさわるな!」
「離すもんか!」
そうだ!
離してやるもんか!
これは………アタシがシャーシャに勝てるはじめてのチャンスだ!
いつもならシャーシャの攻撃を防ぎ切れなくて負ける!
でも、アタシははじめてシャーシャの体をつかめた!
それもナイフを持った手をつかんだ!
これなら「………くらえ!」!?
「ごっ!」
くそっ!
ひざを入れられた!
そうだ!
ひじも!ひざも!
ヤマトーさんはどういうときに使えって言ってた?
相手に体をつかまれたときだ!
それに、シャーシャは体が小さい!
だから、つかんでもまだ全力で攻撃できる!
まずい!手がゆるんだ!
シャーシャがナイフを使える!
「………しね!」
「うっ!?」
アタシはやっぱりシャーシャには勝てないの?
シャーシャはナイフを突き出そうとしてる!
シャーシャの手をつかんでた左手はもう離してる!
ナイフを持った右手はお腹を抑えてる!
突きは素手じゃ止められない!
うずくまってるアタシの頭にナイフが来る!
シャーシャは勝ったって思ってる!
自信を持って全力でナイフを突いてきてる!
まったく!
シャーシャらしくないな!
「………うぅ!?」
油断してるからそうなるんだ!
シャーシャは反撃されるなんて思ってなかった!
思いっ切り油断してた!
だから、その空いてるお腹に全力で頭突きしてやった!
いつものシャーシャならこんな攻撃はくらわなかっただろう!
シャーシャはいつも冷静で一度もまちがったりしなかった!
なのに今日のシャーシャはアタシがまだ動けるのに隙きを見せてきた!
しかも!
こうなったらもうアタシの勝ちだ!
シャーシャのお腹に頭突きを入れた!
そのままタックルでシャーシャを押し倒す!
「もらった!」
シャーシャだけが使えてアタシが使えない技がある!
でも!
アタシだけが使えてシャーシャが使えない技だってある!
シャーシャの右腕の肩のほうを両足のふとももで挟み込む!
そして右手の手首を両手でつかむ!
あとは、シャーシャの右手を思いっ切り引っぱるだけ!
「………いたい!いたい!いたい!」
勝った!
ヤマトーさんはアタシにカセツワザをたくさん教えてくれた!
素手でも戦えるすごい技をたくさん!
女のわたしが武器もなく、戦えるようになるなんて思ってもなかった!
シャーシャの力がいくら強くても!
この技を返したりはできない!
一度この技が決まったら、もう終わりだ!
逃げる方法なんてない!
デーヒッギジュジガーメ!
体が下になってるアタシの方が攻撃してるふしぎな技だ!
さいしょにヤマトーさんがシャーシャに技をかけてるのを見たときは、なにをする技なのかぜんぜんわからなかった!
だけどヤマトーさんに技をかけられたときに、なにをする技なのかはじめてわかった!
この技は、相手をつかまえるための技だ!
そして、この技にはまだ先がある!
大人しくしない相手は───腕をへし折る!
「シャーシャ!大人しくして!この技が入ったらアタシの勝ちだ!」
「………いたい!いたい!いたいぃ!」
「腕をへし折られたいの!?」
「………いたいぃ!いたいいいいい!」
シャーシャが泣いてる!
いつも冷静なあのシャーシャが!
デーヒッギジュジガーメが入ったらシャーシャでも泣く!
まるでヤマトーさんみたいな強さだったシャーシャを!
アタシが今抑えてる!
アタシは興奮してた!
今まで勝てなかった相手にアタシが勝てた!
あのシャーシャに勝てるなんて!
強くなれたんだ!
アタシはこのとき、油断してた。
シャーシャに勝てたのは、シャーシャが油断してたからなのに。
油断をついたアタシが油断してた。
でも、油断してなくてもアタシに何かできたんだろうか。
「シャーシャを離せ」
低い声が聞こえてきた。
この声は?
シャーシャの声じゃない。
シャーシャは声の方向を見て口を開けてる。
「なんでこんなことになったんだ」
聞き覚えのない声でしゃべってるのがだれかわからなかった。
「ヤマトー………さん?」
振り向いたらヤマトーさんがアタシを見てた。
「だが」
アタシに向かってゆっくり近寄ってくる。
「誰であろうと」
アタシに向かってゆっくり手を伸ばしてくる。
「シャーシャを泣かす奴は」
「ヤマトーさん!?」
「俺が許さん」
ヤマトーさんの手がアタシの目いっぱいに広がってくる。
「俺は他の方法を知らない」
ヤマトーさんの顔はいつもアタシに向けてくれる笑顔じゃない。
笑っても怒ってもいないような、すごく冷たい顔だ。
「残念だ」
ヤマトーさんの手がアタシの顔に触れた。
「ぐっ!?」
そしたら体にめちゃくちゃな力がかかって、アタシの目は真っ暗になった。
16/11/12 投稿