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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の休息
51/154

ミミカカ、日本男子と帰る

 アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ。


 ムムカカ村に帰ってきたぞ!

 ほんと久しぶりだし!

 えーっと、12日ぶり?

 あれ、それぐらいだっけ?

 もっと長いかと思ってた!


 村にいたときの毎日はいっしょだった!

 朝起きる!ごはん食べる!

 狩りに行く!道具の手入れする!

 ごはん食べる!ねる!


 村を出たときの毎日もいっしょだった!

 朝起きる!歩く!

 歩く!歩く!

 歩く!ねる!


 でも町についたら毎日いろんなことがあった!

 朝起きる!ごはん食べる!

 勉強する!ごはん食べる!

 買い物する!修行する!

 ごはん食べる!ねる!


 あれ?あんまり変わってないな?

 もっといろんなことしてた感じだったんだけど?

 だってヤマトーさんがいろんなことを教えてくれるから!

 ヤマトーさんは頭がいいし、旅をしてるし、いろんなことを知ってた!


「僕の祖国の高名なブシ………つまり立派な戦士は、こういう言葉を残しています」

 ヤマトーさんの国の立派な戦士!

 あのヤマトーさんが立派な戦士っていうんなら、多分すっごく強い人なんだろうな。

 そんな人の言葉を教えてもらえるなんて!


「戦士の道とは死ぬ事と見付けたり、と。この場合の道とは考え方や指針、つまり生き様ですね。2人はこの言葉を聞いてどういう風に理解しましたか?」

「え、えーっと?」

 何それ?

 いっしょに聞いてるシャーシャの顔を見たら、眉をひそめたふしぎそうな顔してる。


「この言葉は僕の祖国でも非常に有名で、実に多くの人がこの言葉を知っています。ですが意味を間違って理解される事が多いんです。まぁ思ったとおりに言ってみて下さい」

「戦士は戦うんだから、いつかはどうせ死んじゃう………ってことですか?」

 え?これってそういう意味だよね?


「やっぱりそう思いますよね」

 ヤマトーさんがアタシの答えを聞いて、目を閉じて何度も頷いてる?

 あれ?もしかして正解?

 頭のいいヤマトーさんの国の人達がまちがえちゃうような、むずかしい言葉の意味をアタシがわかったの?

 やった!


「シャーシャちゃんはどうですか?」

 ヤマトーさんがシャーシャにもどう思ったか聞いてみた。

「………えっと、あの………戦士の人は戦わなきゃいけないから、自分が死んでもいいって、こわがらないで戦わなきゃだめって、そういうの………」

 シャーシャは合ってるか不安そうに話した。さっきヤマトーさんがアタシの答えにうんうんうなずいてたからかな?


 ヤマトーさんはシャーシャの答えにもうんうんうなずいてた。

 あれ?アタシが正解だったんじゃないの?

「2人共いい考え方ができていますね」

 2人とも?

 シャーシャも正解ってこと?


「ミミカカの解釈は実に虚無的ですが、それだけに現実的と言えます」

 キョムテキってなんだろう?

 どうせ死ぬっていうのがキョムテキなんだから、むなしいとかそんな意味かな?

 アタシの考えはむなしい?アタシむなしくないし!


「テッガ的には世の中の殆どのものは、その存在を否定できるんです。しかし全てを否定しても、自分という存在は否定できません。なのでどのような考えを持って生きているかが、人の価値を決定づけるのかもしれません」

「………テッガって何?」

 シャーシャも同じことがわからなかったみたい。


「テッガとは、とことんまで突き詰めてみる事を言います。興味を持ってみると面白いんですが、興味を持ってないと何をやっているのかさっぱりわかりません」

 うん、アタシはテッガのことがよくわからないみたい。

 ほとんどのものは存在を否定できる?

 手でさわることができるのに?


「シャーシャちゃんの解釈は実に真面目ですね」

 ヤマトーさんのいったことを考えてたら、シャーシャの答え合わせになってた。

「役割があるので、それを遂行しなければならない、と。実はシャーシャちゃんのした解釈は、一番正解に近いです」

 あれ?アタシが正解だったんじゃないんだ………。


「一見すると即物的、暴力的、悲観的な考え方を伝えている言葉に思えます。しかし、実はもっと前向きで思慮深い意味を持っているんですよ」

 前向き?

 死ぬって言ってるのに?


「死ぬ事と見付けたり、とは死ぬ事を目的としている訳ではないんです。その意味は色々あります」

 ! 今すっごいびっくりした!

 ちょうど考えたときにヤマトーさんが教えてくれたから!

 ヤマトーさん、アタシの考えてることわかるの?


「例えば、もし死んでしまっても悔いがないと考えられるなら、今の自分に満足しているのがわかります。逆に死んでしまうと悔いが残るなら、不満があるのがわかります。死ぬ事を考えるというのは、実は生きる事を同時に考える事になります」

 死ぬことを考えたら、生きることを考えることになるんだ………。

 そんなの考えたことがなかった。


「後は、覚悟をする事ができます」

「覚悟?」

「そうです。まず人が狼狽える理由を考えてみましょう。これは想定外の出来事に直面して、どうしたらいいのかわからないからです」

 うんうん。急な事にどうしたらいいのかわからなくなるっていうのはわかる。


「でも、いつ何が起こるかわからなくても、いつか何かが起こる事に備えておく事ならできます。日頃から死を覚悟さえできていれば、いちいち慌てたりしなくなる訳です。どんなピンチになっても、正しく判断ができる様になって、結果一所懸命に生きる事ができます」

 なるほど………。

 ほとんどのことは死ぬことに比べたらなんでもないから、死ぬんだって思ってたらなんでもできるのか。


「そして、これから言う事が秘奥中の秘奥、一番大事な事です」

 秘奥中の秘奥!?

 1番大事?

 ちゃんと聞かなきゃ。


「戦士の道とは死ぬ事と見付けたり、と言ったこの立派な戦士はですね」

「立派な戦士は?」

 シャーシャといっしょにヤマトーさんの続きを待つ。

「ゆっくり寝るのが大好きだったんです」


 ………。

 え?

 ゆっくり寝る?

 ヤマトーさん、一番大事って言わなかった?

 シャーシャとふしぎな顔をしてたら、ヤマトーさんはいたずらが成功した子供みたいに笑ってた。


「人間一生誠に僅かの事なり。好いた事をして暮らすべきなり。この事は悪しく聞いては害になる事故、若き衆等へ終に語らぬ奥の手なり」

 満足したみたいな顔でヤマトーが続けた。


「そう言って、この戦士は我は寝る事が好きなりと続けています。僕はこれを知った時に凄く感銘を受けました。本当に色々考えたものです。………そうですね、僕の感想を述べるより先に、2人はどう思ったか聞いてみましょうか」

 ヤマトーさんがアタシを見た。


「えっと………すごく」

「すごく?」

「ふつうだなって思いました」

 ヤマトーさんが笑ってた。

 だって、そう思ったんだもん。


「そうですね。凄く普通なんです。ハッとさせられる様な深い教養のある方に違いないんですけどね。………シャーシャちゃんはどうですか?」

「………いつ死んでもいいように、好きなことをした方がいい?」

「おぉ………」

 シャーシャがちょっと考えてから言ったことに、ヤマトーさんがおどろいた。


「そう、これも死を念頭に置いてるからこそ意味があるんです。ただ寝るのが好きと言っただけならこの人は与太者と言われて終わりです。深淵な考え、思慮があってこそ意味のある言葉になるんです」

 ねるのが好きってだけなのに、そんないろんな意味があったんだ………。

 戦士の道とは死ぬことと見付けたり。

 短い言葉なのに、いろんな考えることがあった。


 ヤマトーさんは勉強でいろんなことを教えてくれる。

 むずかしいことも教えてくれるし、おもしろいことも教えてくれる。

 ヤマトーさんが話してくれたごはんの話ってどれもおいしそうだったなぁ。


 アタシが今まで食べたもので1番おいしかったのは、ぜったいにヤマトーさんが持ってた魔法のごはんだ!

 もそもそしててのどがかわくんだけど、なぜか果物のにおいがして、食べると元気になる!

 あと、おさとうを入れたお茶もおいしかった!

 村の外にはこんなに甘くておいしいものがあるんだっておどろいた!

 ………なのに!


 カレー!ハバーグ!ターコスパ!

 ギョーザ!ツケメ!ショーラーメ!トコッラーメ!

 オミオツケ!エビテ!カツド!オヤコド!ヤートリ!

 プリ!チョーパフェ!アイス!

 ダガシ!オセベ!ミターシダゴ!カーゴーリ!


 ヤマトーさんはいろんな食べもののことを教えてくれた!

 どれも魔法のごはんよりおいしいらしい!

 どんな食べものなのかいろいろ教えてくれたから、すごく食べてみたくなった!

 なのに………どれも食べられない!


 大きな町に出たら食べられるのかと思ったけど、ヤマトーさんの国にしかないらしい!

 ヤマトーさんの国はすごく遠いところにあるから、簡単には行けないらしくてすごく残念!

 行ってみたいなぁ、ヤマトーさんの生まれた国。




 背は高いけど細い。

 大人よりも頭がいいけど子供みたいな顔。

 誰より強いけど誰より優しい。

 テノーヘカ様に仕える戦士、ニホコクミのヤマトーさん。


 村のピンチを、アタシの命を救ってくれた人。

 色んなことを、わかりやすく教えてくれた人。

 アタシを立派な戦士にしてくれた人。

 生まれて初めて好きになった人。


 そんなヤマトーさんがアタシといっしょに村に戻ってきてくれた!

 やった!


「ミ、ミミカカ、ヤマトー様? 今、空を飛んで?」

 お父さんは空からやってきたアタシたちにおどろいてた!


 アタシが魔法を使えるようになったって聞いたらみんな驚くかな?

 村を出てからまだ20日も経ってないんだって思うとすごいことだ。

 ヤマトーさんに会ったときから考えたら30日も経ってない。

 そんな短い間に自分がここまで変わったことなんて今までなかった。


 もしかしたら全部夢だったんじゃないかなって思える。

 自分で思ったことに、自分でおどろいた。

 そう、まるで夢みたいだった。


 村が化物に襲われたときに、突然ヤマトーさんはやってきた。

 すぐに化物をやっつけてくれた命の恩人。

 アタシはそんなヤマトーさんについていって、初めて村から出た。

 町には村と違っていっぱい人が居て、いろんなものを売ってた。


 ホマレー流護身術を教えてもらったり。

 魔法を教えてもらったり。

 兵士と戦ったり。

 ちょっとこわかったり。

 どれも村にいたままなら考えられないことばかりだった。


 そして!

 何よりも!

「ヤマトー様を連れて帰ってきたのか!」


 ヤマトーさんがアタシの手の中にいる!

 ヤマトーさんをつれてアタシは村に戻ってきたんだ!

「うん、ただいま、お父さん」

「お、おぉ………よくやったな、ミミカカ」

 お父さんはすごく喜んでくれた。


 アタシがヤマトーさんに抱き付いてるのを見たからだ。

 ヤマトーさんの魔法で運んでもらったから、アタシはヤマトーさんに抱き付いたままだ。

 お父さんはアタシとヤマトーさんが夫婦になったと思ってるかもしれない。

 まだヤマトーさんの妻になったわけじゃないけど、わざわざちがうなんて言わなくてもいいか。

 今はまだでも、いつかは、できればすぐにそうなりたいって思ってるんだから。


「ヤマトー様、よくぞ戻って下さいました!」

 お父さんはそのままヤマトーさんごとアタシを抱きしめた。

 2人でお父さんに抱きしめられる。


 ………。

 そういえばヤマトーさんが静かだ。

 いろいろ教えてくれるけど、何もしてないときのヤマトーさんはすごく無口だ。

 でも、話し掛けられて無視するような人じゃない。

 どうしたんだろう?


「うわっ!?」

 びっくりして声が出た!

 だって、ヤマトーさんの顔、すごいことになってる!

 表情がかんぺきになくなってて、目がすごくうつろ!

 どこ見てるのかもわからない!


「あ、あの、ヤマトー様?」

 お父さんもヤマトーさんが普通じゃないことに気づいた。

 そのとき!


「お………」

 ヤマトーさんが口を開いた。

「お?」

「お?」

 お父さんとそのまま聞き返す。


「おやすみなさい………」

 そのままぐったりとたおれちゃう。

 地面にたおれる前にあわてて抱き起こす。

 ヤマトーさん眠っちゃった………。


「「………」」

 お父さんと目を見合わせる。

「ヤマトーさん、疲れちゃったみたい」

「そ、そうか、なら家にまで運ぼう」

 お父さんがアタシと反対側に回ってヤマトーさんに肩を貸そうとする。


「あ、だいじょうぶ。1人で運べるから」

「大丈夫ってミミ、カカ?」

 ヤマトーさんを簡単にかついじゃうアタシを見てお父さんがおどろいてた。

 フフフ!

 変身の魔法が使える今のアタシなら、かんたんに運べるんだ。


「ところで………その2人は?」

「あぁそうだった」

 お父さんが知らない2人を見ておどろいてる。


「ヤマトーさんの妹のシャーシャと、仲間のグララ。この人がアタシのお父さん、ムムカカ」

 2人にもお父さんを紹介する。

 けど………。


「………」

「………」

 2人ともすごくしずかだ。

 シャーシャがしずかなのはいつものことだ。

 シャーシャは知らない人をすごくこわがる。


 でも………!

「………」

 だまってるグララなんて初めて見た!

 いつもうるさいぐらいなのに!

 シャーシャといっしょにキョロキョロしてる!


 グララも知らない人をこわがる?

 ぜんぜんそんな風には見えなかった。

 いつも自分が一番えらいってしゃべりかたをしてたし。


「おかえり、ミミカカ」

「おかえり、ミミカカ」

 あ、ゼゼとマヤシーだ。

「ただいま、ゼゼ、マヤシー」

 2人もアタシが戻ったことをよろこんでくれた。


「ミミカカ、その人たち、だれなの?」

 ゼゼに聞かれた。

「こっちの子はシャーシャ。ヤマトーさんの妹」

 アタシの背中に隠れるようにしてたシャーシャをみんなの前に出す。

 やっぱりこわいのか、居心地が悪そうにしてた。


「こう見えてヤマトーさんと同じニホコクミ」

「ヤマトーさんと同じ?じゃあ強いの?」

 よく聞いてくれた、ゼゼ!


「うん。アタシはシャーシャに勝てたことがないし、すごい魔法だって使える」

「魔法が使えるの!?」

 魔法が使えるって聞いて、ゼゼだけじゃなくみんなおどろいてる。

 村に魔法が使える人なんていないからな。


「見せて見せて!」

 ゼゼがシャーシャにおねがいしてる。

「………」

 でもシャーシャはこたえない。


「なんでわたしのこと無視するの?」

 ゼゼだけじゃなくマヤシーもシャーシャの態度に怒ってるっぽい。

 シャーシャはますます居心地が悪そうだ。


「待って!シャーシャは理由があって、知らない人が苦手なの!」

「苦手?」

「そう、苦手なの。それにシャーシャが魔法を使ったりしたら………村が燃えてなくなっちゃう」

 小さくておどおどしてるけど、ヤマトーさんの妹だ。

 森の中であんな火を起こされたら丸焼けになっちゃう。


「ミミカカ、そっちの人もそんなに強いの?」

 ゼゼが興味しんしんで聞いてきた。

 そっちの人?

 ゼゼの視線をたどってみる。


 そこにはグララがいた。

 グララが強いか?

 多分武器を持ってないゼゼと同じか、ゼゼが少し強いかぐらいじゃないかな?


「っていうかミミカカ、この人さっきから何してるの?」

「うーん、アタシにもわからないんだよねぇ………」

 わちゃわちゃ。

 なんか村に来てからグララは一言もしゃべってない。


「………この人、頭大丈夫なの?」

 ゼゼがふしぎそうに聞いてきた。

「うーん、アタシにもわからないんだよねぇ………」

 なんかグララはみんなが見たら、いろいろ表情を変えながら手をわちゃわちゃさせてる。


「どんなことができる人なの?」

 ゼゼがうさんくさいものを見る目で聞いてきた。

「うーん、アタシにもわからないんだよねぇ………」

 グララに何ができるかなんて、ヤマトーさんでも答えられないようなむずかしいことをアタシに聞かないでほしい。


 みんながグララを見る目は、かわいそうな人を見る目になってた。

 それでもグララはだまってわちゃわちゃしてた。

 わちゃわちゃ。




 グララがわちゃわちゃしてて白けたのか、みんなもどっていった。

 それに何よりもみんなが残念がってることがある。

「ハァ、ヤマトー様に見てもらいたかったのにな………」

 ゼゼが目を伏せる。


 ヤマトーさんが村を出ていった後、アタシが村を出ていった後。

 それからもみんな、教えてもらった勉強を続けてたんだろう。

 そして前みたいにヤマトーさんにほめてもらいたかったんだ。

 でもヤマトーさんは眠ったままだった。


 ヤマトーさんは眠ったままで。

 シャーシャはいつもよりしずかで。

 グララはわちゃわちゃしてて。

 みんないつもと違ってた。

 ………グララはどうでもいいけど。


 わちゃわちゃわちゃ。

 ………なんかあの動きむかつく!

16/11/05 投稿・脱字の修正

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