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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の疲弊
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グララ、日本男子と教会を思う

 我こそはグララ・グラーバだ!


 教会につくと、聖職者達が皆揃って一心不乱に神に祈っておった!

 その姿からこやつらが、神の存在を信じておるのがよくわかったのだ!

 なにせ()()()()()()()()()()()よくわかるのだ!


 先程神を信じておらぬと言ったがアレは嘘なのだ!

 ついさっきまで信じておらんかったが、今さっき信じられる様になった!

 神はおるに違いないのだ!


 何せそう言わねば()()()()()()()()()()()()

 だが少なくとも我にとって愉快な事でないのだけは確かなのだ!

 例え本心でどう思っておっても神はおると認めねばならぬ!


 まさかこれ程の力を持っておるとは思っておらんかった!

 恐ろしい恐ろしいと思っておったがまだ見くびっておったのだ!

 教会の権威を侵そうとした100人を越す兵士の群如きまるで問題ともせぬ!

 それ程までに異常な力を持っておるのだ!あの()()()()()()


「驕り高ぶった屑共が!何様のつもりか!」

 声がするのは目の前ではなく上空!

 信仰!崇拝!憧憬!羨望!恐怖!

 様々な感情を励起させる声が降り注いできおった!

 曇天の空の下に君臨し、圧倒的な存在感を放つ声が!


「神の怒りを思い知れ!」

 声の主は教会を踏み荒らそうとした兵士達にお怒りであった!

 その神聖を侵そうとした者達には如何なる慈悲も与えられぬ!

 兵士達は神罰を待つ受刑者として、宙に浮かべられたまま無防備な姿を晒しておった!


 対する男は同じ空に身を置くにしても、ジタバタと藻掻く無様な兵士達とはまるで振舞いが違うのだ!

 空を飛ぶどの様な生き物とてこうは飛べぬに違いない程、自在に空を飛んでおった!

 急降下する鷲よりも早く、それでいて鳥の様に旋回する事なく即座に切り返す事ができるのだ!

 あまりの速さ故に離れた地上より見ておらねば、目で追う事すら叶わなかったに違いない!


「神にひれ伏せ!」

 一目見るだけで力の違いが理解できるあまりに神々しい姿!

 背中に背負った大きな光が一際強く大きく輝く度に、我の視界を真っ白に染め上げて直視する事すら叶わぬ!


 速さと相まって誰にもその行動を事前に知る事を許さぬ!

 我等が知る事を許されたのはその輝きが去った後に残った結果だけだったのだ!

 既に処断された亡骸と、次に亡骸に変わる受刑者がおるという結果のみ!


「神に対する不敬を死んで詫びろ!」

 男は光そのもので出来た剣を縦横無尽に振り抜いておった!

 この世のいかなるものとも全く違う理屈で編み出された武器!

 兵士達の体は伸びた光に触れた瞬間たちまち両断されておった!

 神を軽んじた連中は為す術なく処刑されておった!


 聞いた者を震え上がらせ圧倒する声!

 抵抗を奪いながら自らも空を飛ぶ力!

 存在の違いを思い知らせる強烈な光!

 あらゆる物を尽く両断できる光の剣!


 他で見た事のない独特な光沢を持った黒い衣服を纏った身体!

 黒いにも関わらずツヤツヤ輝くサラサラの髪と子供の様な顔!

 そして思わず震え出す程の圧倒的な怒りの篭った切れ長の目!

 空を飛ぶあの男は、どこからどう見てもヤマトー殿!

 我はヤマトー殿が熱烈な信者だったとは知らなかったのだ!




 そもそも我は教会へ向かう途中にヤマトー殿の姿を見かけておったのだ!

 声を掛けようと息を吸った瞬間にはもう道の向こうへと姿を消しておったが!

 そして後を追う様に教会に駆けつければ、そこはもうヤマトー殿の独壇場だったのだ!


 強い強いとは思っておったが、まさか教会に押し掛けた兵士達を、火も使わずに単独で全滅させるとは!

 我の様な魔法使いとしての教練を受けたものなら常識の話だが、軍における全滅は一般的な理解とは違うのだ!

 集団としての戦闘が出来ぬ状態になった時点でその部隊は全滅とみなす!

 そして人の集団が戦闘能力を失うのは概ね全体の3割程度が戦闘不能になった時である!


 素人考えでは7割も残っておればまだ戦えそうと思うかも知れぬが、それは些か浅はか過ぎるのだ!

 戦闘不能となった3割の人間は全てが死んでおる訳ではないのである!

 未だ息がある人間すら使い潰しておっては、直ぐに軍の要である人間が足りぬ様になるに決まっておる!

 それに使い潰されるとあっては、士気を維持する事ができぬ!

 故に軍は生きておる者を可能な限り助けねばならぬのだ!

 

 そして重傷者を助けるのに人間が必要となる!

 100人の内30人が戦闘不能になっておったとして、その内半分が重傷を負い半分が死んでおったとするならばどうなるか?

 1人の重傷者につき2人の人間が必要だったとするならば、30人の人間が付き添う必要がある!

 30人の戦闘不能者の発生は、60人もの戦力の喪失を意味するのだ!

 過半数を失った部隊が戦い続けられる訳等ないに決まっておる!


 また魔法使いは無尽蔵に魔法を使える訳ではない!

 魔法の力もまた疲弊するものなのだ!

 魔法使いは魔法を使えなくなった時点で戦闘不能とみなす!

 そんな事情で全滅と判定された部隊であっても生き残りはおるものなのだ!

 本来は!


 しかしヤマトー殿は軍事的な意味での全滅等では済ませなかった!

 文字通りの意味での全滅!

 これが魔法の極地!


 我が感心しながら見上げておると、ヤマトー殿は見る見る内に兵士達を全滅させおった!

 声をかける頃合いなのだ!

 おーい、ヤマトー殿!

 そう声を掛けようと息を吸おうとした時には、ヤマトー殿は凄まじい速度で教会から別の方角へ向けて飛び去っておったのだ!

 おーい………我はどうしたらよいのだ!




 ヤマトー殿に置いて行かれた我は、落ち着いて状況を確認したのだ!

 まず兵士達!孤児達の引き渡しを要求しに教会に押し掛けた者達だ!

 貧困街よりも多くの兵士達が配備されておった!

 これはおそらく領主が今回の騒動で敵対する勢力の中で、教会が一番強い力を持っておると判断しておったのだろう!


 おそらく領主は元々、自分以外の権力が存在しておるのを苦々しく思っておったのだろう!

 今回、反逆をでっち上げた魂胆は、目障りな存在への牽制と勢力の確保に違いない!

 貧困街の住人は労働奴隷として確保、空き家となった家は召し上げて何かする気だったのだろう!

 教会の孤児達も同じく奴隷として確保、そして領主は教会より上であると誇示する気があったのだろう!

 ヤマトー殿も戦闘奴隷として確保、領主の力を誇示する気があったのだろう!


 地方領主とは言え町を収める力を持つ為、この手の傍若無人な振舞いをする事は珍しい事ではない!

 領地運営をより盤石のものにするべく領主は常に策謀を巡らせておる!

 でっち上げとはいえ反逆の芽を素早く摘み取って見せ、支配者としての力をアピールするのだ!


 とはいえ教会を直接攻撃のは政治的にまずい!あくまで圧力をかける為に数を用意したのであろう!

 数的優位を確保するのは軍事的常識なのだ!

 人の能力が皆均一だとして、10人の集団と100人の集団では間違いなく後者の方が強い!

 そして能力の高低が多少あったところで、基本的に数的優位の絶対性は簡単には覆らぬ!


 先程の例にあげた10人の集団が100人の集団に対して数的劣勢を覆す方法は2つ考えられる!

 1つは1人辺りが10人以上を相手取って勝てる程の能力を持っておる事!即ち圧倒的な質的優位の確保!

 1つは敵を分断する等して100人の集団を機能させなくする事!即ち作戦の立案!


 軍事的手腕とは劣勢を覆す天才的な作戦や采配、戦いぶりの事だと思われておる節が我はそうは思わぬ!

 そもそもそういったものが必要になる状況というのは、戦闘状態に入る前の準備段階で既に遅れを取ったという事に他ならぬからだ!

 本当の軍事的手腕とは戦闘の準備段階において、不利を作らぬ事なのだ!

 

 そういう意味で見て領主の手配は軍事的手腕を発揮しておった!

 教会の戦力はよく知らぬが、聖職者の数は20人を下回っておったのに比べ兵士は100人を越えておったからだ!

 戦う前から教会が兵士達に抵抗した場合の結果はわかりきっておった!

 本来なら教会は兵士達の求めに応じて孤児を引き渡すしかなかった筈なのだ!


 そんな計算高い領主の誤算は唯一つ!

 言うまでもなくあのヤマトー殿に敵対した事に他ならぬ!

 数的劣位を簡単に覆す、圧倒的なまでの質的優位を誇っておるのだ!

 敵の最大勢力は教会だと思っておった様だが、間違いなくヤマトー殿は個にして最大勢力であった!


 そもそも全兵力を結集したところでヤマトー殿には何者も勝てぬだろう!

 教会に押し掛けた兵士達は、皆変わり果てた姿になっておった!

 光の剣で見るも無残に切り刻まれて、元々は1つだった体は10を超える肉片にされたのだ!

 仮に千を超える兵士がおったとしても、結果に至るまでの時間が変わるだけで、結果そのものは変わらぬに違いない!


 門番の歯を蹴り折ったと聞いた時も、宿屋で絡んだ三下を蹴散らした時も、十分おっかないと思ったがあれで手加減しておったらしい!

 しかもよく観察してみれば切り刻まれた肉片の中には首が一つもなかったのだ!

 ただ切り刻むだけでなく、全ての兵士の顔を跡形もなく焼き尽くした上で殺しておった!


 そもそも只殺すだけなら、ヤマトー殿ならいくらでも方法があった筈なのだ!

 衝撃を伴う炎で辺り一面を吹き飛ばす魔法で、一網打尽にする事だってできた筈なのだ!

 それでも1人ずつ切り刻んで殺したのは何故か?そんなものは見せしめの為に他ならぬ!

 敵対した者の排除の仕方すら自由に選ぶ事ができる絶対の強者!

 首のない死体は力と余裕の現れなのだ!


 ………何があっても絶対にヤマトー殿の機嫌だけは損なうまい!

 我は心に固くそう誓ったのだ!




 兵士は排除された!

 安全が確保されたのだ!

 聖職者達は兵士がやってきたと思ったら突然、信じ難い光景を目の当たりにする事になった為に言葉もなく立ち尽くしておった!

 だが事態を引き起こしたヤマトー殿が飛び去った後、ようやく事態を飲み込み見る見るうちに熱狂に包まれていきおった!


 ただしその熱狂の理由は兵士という脅威が排除されたからではなかったのだ!

 聖職者達は信じられぬものを見たと言わんばかりに目を見開いておった!

 その目が見ておるのはヤマトー殿の姿が消えた方角なのだ!


「神だ!」

 1人の聖職者が叫びおった!

「神が教会を汚す者達から我等をお救いになったんだ!」

 また別の聖職者が叫びおった!


「配光神様だ!」

 更に別の声が続く!

「配光神様がご降臨なされたぞ!」

 聖職者達は先程の光景について興奮した様子で語り合っておった!


 配光教!それがロガメウキョ王国の国教の名である!

 彼らが崇める配光神は、名前の通り地の果てまでも光を配り届ける神なのだ!

 その背には眩いばかりの光を携えており、その輝きで地平の彼方まで明るく照らすという!

 そして人は生きておる限りその光の恩恵を受け、拝みながら過ごす事になる!

 配光であり背光であり拝光である!


 闇夜が明けるのは配光神が闇を打ち払うからで、日中明るいのも配光神のお陰らしいのだ!

 普段は天高くから地平を照らし、我等人の子が正しく生きておるか見守っておるという!

 我に言わせれば夜は勝手に明けるものだし、昼は雲がなければ明るくて当たり前なのだ!

 おるかどうかわからぬものが生活を見守っておるというのも全く理解できぬ話である!


 まぁ我の感想は置いておいて配光教なのだ!

 配光教の教えによると空が曇るのは人の悪行に、配光神が心を悼めた結果らしい!

 今日は朝から曇り空だったので人間は碌な事をしておらんという事になる!


 あまり悪行を積み重ねると配光神は人を見放してしまい、曇り空は雨空となりやがては嵐になるのだ!

 せっせと家畜の世話をしたり、畑を耕したりする働き者な村人がおる村を、いきなり神罰で壊滅させるとは碌でもないと我は思う!

 だが普通の人はそうは思わぬらしく、神罰を受けぬ様に懸命になって配光教の教えに従うのだ!


 そんな空模様と密接な関係にある配光神だが、嵐は最終手段ではなく真に怒りを示すときは別の形で神罰を下す!

 その時は暗き空の中を、後光を背負った神が、神意に背く者達に、次々と神罰の光を下す!

 配光神は最終的に、地上に下りて直接罰を与えるというのだ!

 空を照らす配光神が天におらぬようになるので、神罰を下す時空は暗くなるらしい!


 そして今さっき見た光景!

 曇り空の中を、後光を背負った存在が、神意に背く者達に、次々と光の剣を振るう!

 そう!

 配光教の教えにある神の下す最終審判とは、まるっきりさっきヤマトー殿が見せた光景そのものなのだ!

 しかも極めつけまである!


「驕り高ぶった屑共が!何様のつもりか!」

「神の怒りを思い知れ!」

「神にひれ伏せ!」

「神に対する不敬を死んで詫びろ!」


 兵士達を倒したヤマトー殿は声高に神の怒りを叫んでおった!

 配光教を信じておらぬ我ですら最終審判に簡単に結びつける事ができたのだ!

 配光教を信じておる聖職者達が結び付けられぬ筈がない!


 それに配光神は地平の彼方まで照らし出しあらゆる物を暴き立てるという!

 それは物理的な意味に留まらず、悪行を含めての事なのだ!

 あらゆる悪行を明るみに出し、全ての不正を正すと!

 当然その信者も悪徳を許さず、公明正大である事が求められておる!


 思えばヤマトー殿は教会に寄付した時もこう言っておった!

 寄付を全員に目撃させ、不正があると聞けばやってくると!

 公明正大である事を神の教えと説く配光教会で、だ!


 高額の寄付であった手前、表立った反発はなかった様だが本来ならばまずい行動だった筈だ!

 不正を何よりの悪徳とする教会の聖職者に向かって疑わしいと言った訳なのだ!

 だが今となっては丸っきり意味が違っておる!


 配光神が直接教会にまで出向いて、信者に信心を説いたという訳だ!

 教会の教え通りに人の行いを見ており、悪徳を憎んでおると直接示したのだ!

 そして教会の敵を圧倒的な力で排除した!

 その結果が先程の信者の熱狂である!




 しかしヤマトー殿が熱心な配光教信者だったとは知らなかったのだ!

 しかもまさか自らの力で配光教の教えを再現してみせるとは!

 それにしてもいくら卓越した力を持っておるとはいえ自ら神を騙るとは………!

 正に神をも恐れぬ所業なのだ!ヤマトー殿には恐ろしいと思うものが存在せぬのか?

 神を信じぬ我ですらここまで大胆不敵な振舞いは到底出来ぬのだ!


 まぁあれ程の力を目の当たりにすれば、聖職者達が神と勘違いするのも仕方ない事なのだ!

 我は日頃からヤマトー殿の傍におる故にその力の凄まじさを知っておるから理解できる!

 だがもしこの信者達と同じ様に初見で先程の光景を見せつけられたなら、或いはこの我でも神の存在を信じる事になったかもしれぬ!


 人があれ程までに自在に空を飛ぶ等とは、実際に自分が空を飛ぶという経験をせねば到底信じれぬ事なのだ!

 加えて目を焼く眩いばかりの光と、あらゆる物を両断する光の剣!

 あれら全てが魔法である等とは目の当たりにせねば信じられぬ!それこそ神の奇跡だと信じる他ない!

 ヤマトー殿の魔法はそれ程までに既存の魔法から大きく外れておったのだ!


 しかしヤマトー殿に置いて行かれた時は一瞬途方に暮れたが、我の行動に変化はないのだ!

 教会に匿われる!

 元々高額寄付者であるヤマトー殿の仲間であるというだけで無下にはされんかった筈だろう!

 だが今や高額寄付者どころか教会における最高権力者そのものたる神に連れ立っていたのだ!


 即ち我は神の眷属、或いは行為の使徒!

 今しがた神の姿を目撃したばかりの聖職者達が我を粗末に扱おうか?

 粗末な扱いどころか敬われる事は間違いない!


 熱狂した様子で先程の光景を語り続けておる聖職者達に堂々と歩み寄るのだ!

 自分達に近づく我に気付き、すぐにまだ気付いておらぬ者に我の存在を知らせ始めた!

 全員の注目が集まる!


「お主等、我の事を覚えておるか?」

 一応の確認を取る!

 確認を取らずに事を進めると痛い目を見る!

 もし我の事を覚えておらんなんだ場合は、話の前提が崩れてしまうのだ!


「配光神様のお側に控えていらした方………ですね?」

 果たして聖職者達は我の事を覚えておった!

 配光神の側仕え!

 どう考えても我は神の眷属か使徒として扱われるのだ!

 これで我の安全は確保できる!

16/09/18 投稿

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