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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の発露
38/154

ミミカカ、日本男子を目指す

R-15 残酷な表現あり

 アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ。


 アタシたちは今、領主の兵士たちに追われてる。

 ヤマトーさんはいない。

 今もたった1人で、領主の兵士と戦ってるはず。

 ついでにグララもいない。

 最後に見た時は騒ぎながらグルグル回ってた。


 味方はシャーシャ1人だけ。

 でも頭が良くて、強くて、すごい魔法が使える!

 まるで小さなヤマトーさんみたい!


 雰囲気も似てたし本当の妹って思ってた。

 髪の色とかは、親が片方だけ違うのかなって。貴族は妻をたくさん持つらしいし。

 でもそうじゃなくて家族に、奴隷として売られたって言ってた。

 シャーシャは服の作り方も、料理の仕方もわからないって言ってた。

 家族に冷たくされるのってどんな気分なんだろう。


 ムムカカ村にも、いなくなってしまった子供はいた!

 でもそれは獣に襲われたり、病にかかって死んでしまったから!

 子供がいなくなった親はみんな泣いていた!

 子供を売ったりする親はいなかった!


 ………でも今のシャーシャを元奴隷だなんて思うわけない。

 奴隷どころか、貴族の子供って言われても信じられる。




 そんなシャーシャと2人で、兵士たちに追われてる。

 門で兵士に追いかけられたから、どんどん町の中に進んできてる。

「………あそこ曲がって」

 でもシャーシャはすぐに何か思いついたみたい。

 さっきからすごく頼りになってる。


 曲がった先は、家と家の間の狭い道。

「こんな狭いところに入ったら逃げられないんじゃ」

って思って振り向いたら、シャーシャはナイフを抜いて角を曲がったとこで待ち構えてて、飛び出してきた兵士の喉をいきなり切った。


「………っ!」

 攻撃されると思ってなかった兵士は、驚いた顔をしてた。

 シャーシャは何が起こったのかわかってない兵士を、蹴っ飛ばして後ろの兵士にぶつけた。


 大人の男が2人並んだら狭くて肩がつっかえる狭い道!

 こういう狭いところなら1対1で戦えるんだ!

 いつもキョロキョロしてたけど、あれは戦いやすい場所を探してたんだ!

 頼りないなんて思ってたけどすごい!


 追いかけてきた兵士たちは、すぐに何人かに分かれて裏に回ってこようとした。

 近かったから使えなかったけど、離れてくれるなら魔法を使うチャンスだ!

 兵士たちを4、5人巻き込めるぐらいの火を作る。

 ヤマトーさんやシャーシャみたいに、大きな火は作れないからアタシの火はこんなに小さい。


「魔法だぞ!?あの魔法使いが近くにいるのか!」

 兵士たちは魔法を使ったのが、グララだって思ってるっぽい。

 どう見ても魔法使いな、グララを追いかけた兵士には魔法が飛んできたし。

 どう見ても魔法使いに見えない、アタシたちを追いかけてきた兵士には魔法が飛んできてないから。


 建物の陰になってるから見えないけど、角の向こうに火をぶつける。

 火を何度もぶつけたけど、何人倒せたのかわからない。


 アタシは弓を構えて、シャーシャが戦ってる路地とは反対側に狙いをつける。

 回り込もうとして姿を表した、兵士のお腹目掛けて矢を放つ。

「おぶっ!」

 ヒュ、と音を立ててアタシの矢はまっすぐ兵士のお腹に突き刺さった。

 続けて動きの鈍った先頭の兵士が邪魔して詰まっているすぐ後ろの兵士を狙う。


 弓を引く強さでは男に負けても、狙いの正確さには自信がある!

 さっきの兵士の脇から兵士が顔を出した!

 そこから顔を出すって思ってたところ!

「あああああ!」

 兵士の頬に矢が刺さった!




 アタシが弓を構えて待ってるのがわかった兵士たちは、慌てて来た道を引き返していった。

 本当はシャーシャの後ろにいる兵士も狙いたい。

 でもシャーシャが急に割り込んだりしたらと思ったらできない。


「………!」

 シャーシャには、どんな攻撃をしても効かないんじゃないか。

 ついそう思っちゃうぐらい、シャーシャの動きはすごい。

 狭いところで戦ってるから、おたがいに攻撃は縦に振るか突くか。

 でも最初から相手の動きがわかってるみたいに避けて、兵士たちを次々倒していってる。


 攻撃をぴったりかわして、伸び切った兵士の腕に素早くナイフを突き立てる。

 ぜんぜん無駄がない動きで、手首の内側を深く切って剣を握れなくしてしまう。

 武器を奪ったら、そのままミゾーチ、股間、スネの急所を攻撃していく。

 そして相手の動きを止めたら首をスパッ。


 ときどき兵士が体をつかもうとして手を伸ばすことがある。

 体が小さいから、つかんだら勝てると思ってるんだろう。


 でもそういうときシャーシャは逆に、伸ばされた手をつかみ返す。

 そしてつかんだ手を引いて勢いをつけながら、ナイフの柄で相手の鼻をつぶす。

 そのまま足を引っ掛けて、上からナイフを突き立てて乗っかりながら転ばせる。

 転んだ相手の体が地面につくとグサリ。勢いを利用して一瞬で倒す。

 体を崩したところに攻撃を受けても簡単に避けて切り返す。


 シャーシャはうまく戦ってるけど限界はある。

 刃物は簡単にダメになるから。特に生き物を切ったらすぐに。

 ヤマトーさんのナイフは、もう何人も倒してるのにまだ使えるだけでもすごい。


 もしナイフが使えなくなったら、素手で戦わなきゃいけなくなる。

 素手での戦い方も鍛えてもらったけど、ナイフと違ってすぐには倒せない!

 1人と取っ組み合ってる間に、他の兵士に攻撃されるかもしれない!

 いくらシャーシャでも危ない!


 そんな風に1人であせってたら、回り込もうとした兵士たちがまたきた。

 今度は分厚い板を持ってきてる。

 アタシの弓は狩猟用のものだ。

 盾や鎧を貫くような剛弓じゃない。

 体を隠されたら弓矢じゃ何もできない。


 アタシの弓は威力が低い代わりに、森の中でも使えるぐらい小さい。

 弓を矢筒にひっかけて背負うと、じゃまにならなくなる。

 空いた手で腰から下げたナイフを抜く。


 近寄ってきた兵士が板を捨てて襲いかかってきた。

 切りやすいところに伸びてきた、兵士の体に向けてナイフを振る。

 これだけのことでも、修行の成果が出てる。

 村にいたときよりも強くなったアタシは、先頭の兵士の体を骨ごとズタズタにした。


 すごい切れ味のヤマトーさんからもらったナイフ。

 どんなものでも切れる。


 でも兵士は何人残ってる?

 シャーシャの方に何人?

 アタシの方に何人?


 ナイフはいつまで使える?

 シャーシャのナイフは?

 アタシのナイフは?


 アタシはどうしたらいい?

 ヤマトーさんはなんて言ってた?

 ヤマトーさんならどうする?


 思い出せアタシ!

 ヤマトーさんなら、こんなやつらすぐに倒してる!


 ()()()()()()()()()()()()()()


 そうだ!

 なんで思い出さなかったんだろ!

 ヤマトーさんになれば倒せるんだ!




 ヤマトーさんの魔法はどれもふしぎだった。

 火を消す見たことのない精霊。

 なんでも切り裂く水。

 火を生む光。

 空に向かって引っ張る精霊。


 アタシは昨日、ヤマトーさんが魔法を使うのを見てた。

 ほとんど何をやってるのかわからなかった。


 でも1つだけわかった魔法がある。

 今まではわからなかったけど、精霊がいるのは自然の中だけじゃない。

 アタシたちの体の中にも精霊はいる。

 ヤマトーさんはその精霊の力を借りてた。


 あの精霊の力を借りられれば、ヤマトーさんみたいに強くなれる!

 アタシもヤマトーさんみたいに()()するんだ!


「見せるっ!」

 腕を上げて突き出す!

 マントを払って前を開く!


 何で体を見せたのか、昨日はわからなかったけど今ならわかる!

 あれは魔法をイメージしやすくしてるんだ!

 自分の体の精霊に語りかけやすくするために!精霊がはっきり見える!

 力を借りる精霊に自分の体がわかりやすくなるように!精霊にはっきり見せる!


 ヤマトーさんがやってたみたいに、突き出した腕を大きく回す!

 すごい!この動きをしている間に、全身に力が湧いてくるのがわかる!

 そして腕をグッと曲げて力こぶを作る!

 アタシの体中に精霊の力が宿ったのがわかる!


 何………これ?

 兵士の動きが………すごくはっきりしてる!

 何をしようとしてるのかよくわかる!

 アタシの動きもすごくはっきりしてる!

 やりたい事を思い浮かべたら、体をどう動かしたらできるのかがわかる!


 これがニホコクミの力の秘密?

 ヤマトーさんはいつもこんな感覚で戦ってたの?

 これなら負ける訳がない!


 アタシは兵士たちに向かっていった!

 振り下ろされる剣!

 遅い!遅すぎる!


 剣が振り下ろされる()に、剣が()()()()振り下ろされる位置の横に立って待つ!

 そしてナイフを跳ね上げて、()振り下ろされてきた腕を切り飛ばす!

 そのまま切り上げで踏ん張った足を軸足に、クルッと回って兵士のお腹を蹴っ飛ばす!

「おっ!」

 兵士は抵抗もできずに吹っ飛んでいった!


 シャーシャの動きになんで1つも無駄がないのかがわかった!

 どうなるかわかるから、どうしたらいいかがわかるんだ!

 相手と自分の動きが最初からわかってるんだから!


 でも!

 アタシがこの魔法で強くなっても、シャーシャみたいには動けない!

 同じ精霊の力を借りてるなら、元から素早いシャーシャの方が動きが早い!

 しかも同じ種類の精霊だけど、あっちの方が色がハッキリしてて輝いてる!

 シャーシャが力を借りてる精霊の方が強いから!


 でも!

 シャーシャより強くなれたところもある!

 兵士の腕を簡単に切り飛ばせた!

 蹴っただけで兵士が体ごと吹っ飛んでった!

 体が大きい分、アタシの方がシャーシャより力が強いんだ!


 吹っ飛ばされた兵士を脇にやって、兵士が前に出てきた!

 その兵士に向かって突っ込んでいく!

 剣を振り上げようとしてる!

 けど遅い!敵を蹴っ飛ばした時にはもうアタシは距離を詰めてた!


 体をひねりながら、左手を地面につける!

 そのまま左手で体を持ち上げて、背中を向ける形で両足で着地!

 勢いを殺さずに全力で、ナイフを振り抜く!

 目の前にあったがら空きの胴体を切り裂いた!


 ヤマトーさんが昨日やってたロッダーツ!

 何をする動きなのかわからなかったけど今ならわかる!

 さっき蹴っ飛ばした兵士と、今切った兵士までの距離はそんなに離れてない!

 でもロッダーツなら、短い距離で体に勢いをつけられる!


 しかもロッダーツが終わった姿勢は相手に背中を向けてる!

 こっちが出す攻撃を隠せる!

 攻撃されたら本当は危ないんだろうけど、魔法がかかってるなら大丈夫だ!

 相手が何をするのかは背中を向けててもわかるから!


 ニホコクミ!

 村が全滅する数の化物に1人で突撃していって全部やっつけちゃう戦士!

 あの強さには色んな戦いの工夫があるんだ!

 なんてすごいんだろ!


 ロッダーツの勢いで切り裂かれた兵士は、すぐに動けなくなった!

 さっき蹴っ飛ばした兵士はもう後ろに下がってる!

 一番近くに立ってた兵士の顎目掛けて、ナイフを握った手の甲で1回転して殴る。

 食らった相手はその場で崩れ落ちた!

 女のアタシが殴っただけでこの強さ!




「パンチ1発でのしたぞ!あの女、ただの女じゃないぞ!」

「こんなの聞いてねぇよ!逃げろ!」

「強いのは白い服のガキと、黒い服の男だけじゃないのか!」

「この女の方が強いんじゃないのか!」

 兵士たちは逃げ出した!


 アタシたちとヤマトーさんに言いがかりをつけて!

 いきなり襲いかかってきておいて!

 勝てなかったら逃げだすなんて!


 狭い道につまってぶつかりあってる兵士たち!

 お互いに怒鳴り合いながらジタバタしてる!

 戦士の風上にも置けない情けないやつらめ!


「絶対に許さない!」

 ナイフをしまって、背負っていた弓に矢を番える!

 へし折れる寸前まで弓を引く!革鎧を着てても関係ない!心臓を貫いて殺してやる!

 いつもならこんな無茶はできないけど、今のアタシならここまで力を込められる!


 力を込めても狙いはブレなくて、逆にどこに弓が飛んで行くのかわかるぐらい集中できてる!

 アタシは兵士たちの革鎧ごと、連続で心臓を貫いていった!


 こっちが終わったらシャーシャだ!

 シャーシャは自力でほとんどの敵を倒してた!

 シャーシャが強いのがよくわかる!


 でも!何よりも!

 強い兵士がシャーシャの方に集まってたのがわかる!

 シャーシャがいくら強くても兵士たちは逃げてない!


 アタシは見くびられてたんだ!

 弱いと思われてたから!簡単に捕まえられると思ったから!

 戦いの途中で逃げ出すような情けないやつらが相手だった!

 立派なニホコクミとなる修行をする戦士のこのアタシを見くびった!


「シャーシャ!どいて!」

「………!」

 シャーシャはアタシが弓を構えてるのを見てすぐに壁にはりついた!


 ヒュッ!

 兵士の目玉を貫いた!

 ヒュッ!

 後ろにいた兵士も!


 ヒュッ!

 ヒュッ!

 ヒュッ!


 アタシは弓を素早く番えて、次々兵士たちを倒していった!

 バカにされた気がして、兵士たちを許せなくなったからだ!




 女は別に狩りがうまくなくてもいい。

 家畜の世話か役に立つ植物の採取をしてればよかったからだ。

 でもアタシは頑張って弓矢を覚えた。


 アタシはお母さんが大好きだった。

 料理が上手で。服を作るのが上手で。歌を歌うのが上手で。

 今でも大好きな優しいお母さん。

 お母さんの仇を討つためにアタシは戦士になった。


 だってお母さんは………アタシの病気を治す薬草を取りに行って死んだんだから!

 熱を出して寝ていたアタシが起きられるようになったら、もうお母さんはどこにもいなかった!

 アタシの熱に効く薬草を持って、森の中で死んでるのが見つかったって!

 アタシのために薬草を採りに行って、その帰りに獣に襲われて死んだんだって!


 だからアタシはお母さんが安心してられるような、立派な戦士になるって決めた!

 もうお母さんが無茶をしなくていいように!

 お母さんがアタシを助けてくれたのが、意味のある事だったってわかるように!

 そうするぐらいしかアタシのせいで死んだお母さんに謝る方法がわからなかった!


 アタシがヤマトーさんを本当に好きになったのは、お母さんのことがあったからだ。

 お父さんはヤマトーさんが村に滞在してたときに、アタシと夫婦にさせようとしてた。

 でもヤマトーさんはお父さんに何を言われても、興味なんてなさそうにしてた。


 でもあの日は違った。

「ミミカカは途中で母親を失いましたが、料理も裁縫も母親譲りで中々のものでして」

 いつもどおり、お父さんはヤマトーさんに話しかけてた。

「姿が見えないと思っていたが………流行病でも患ったのか?」

「いえ、それが………」


 子供たちに勉強を教える時以外はつまらなさそうにしてるヤマトーさんが、お母さんが死んだ時の話を聞いたら少し表情が変わった。

「………もしよければ俺にも会わせて欲しい。部外者である俺が厚かましいとは思うが」

「いえ、とんでもありません。ミミカカ、ヤマトーさんを案内しろ」

 アタシは森の中の開けたところにある、村のみんなのお墓までヤマトーさんを連れてきた。

 ヤマトーさんはお母さんの名前を聞いてから、お母さんが眠るお墓の前にしゃがんで話しかけた。


「初めましてミーミさん。村でご厄介になっているヤマトー・カミュ・ホマレーと言います。貴方の一人娘は、ご立派に育っていますのでご安心下さい。子供達を守る為なら1人でも化け物に立ち向かえる勇敢な戦士です」


 ヤマトーさんはお母さんにアタシのことをいっぱい話してくれた。

 ナイフ1本で灰色の猟犬(グレイハウンド)3匹と渡り合い、子供たちを守った村の英雄。

 村のみんなに慕われてる。子供の面倒をよく見ている。まじめに勉強をしてる。

 人のためになることができる、誰よりも立派な尊敬に足る人間。

 アタシのいいところをいっぱいお母さんに話してくれた。


 ヤマトーさんは話し終わるとアタシに、お母さんがどんな人だったか聞いてきた。

 アタシはお母さんの思い出をいっぱい話した。

 お母さんが大好きだったこと。お母さんが死んで悲しかったこと。お母さんのために戦士を目指してること。

 話してたら知らない内に泣いてた。こんなにいっぱいお母さんの話をしたのは初めてだった。


「今までよく頑張ったな。ミミカカはもう立派な戦士だ」

「アタシが立派な戦士ですか?」

 ヤマトーさんがほめてくれたけど、自分ではわからなかった。


「俺の国が今あるのは、全てミミカカの様な立派な戦士達のお陰なんだ」

「ヤマトーさんの国が?アタシの?」

 なんでヤマトーさんの国の話にアタシが出てくるの?

 よくわからなかったけどふしぎだったからだまって話の続きを聞いた。


「平和を謳歌していた俺の国に突如として侵略の魔の手が迫った事がある。忌々しい侵略者は何の咎もない俺達に、全てを差し出して奴隷になれと言ってきたのだ」

「え?そんなの聞く訳がないです!そいつらはきっとバカです!」

 なんてめちゃくちゃな事を言っているの?


 ヤマトーさんはアタシの言葉を聞いて笑ってた。

 冷たい目付きで周りを見て、口元を引き締めてる戦士らしいヤマトーさんは、普通に笑うと子供みたいな明るい笑顔なのをアタシはこの時に初めて知った。


「その通りだミミカカ。奴等は莫迦だったんだ。だがその莫迦達の国はとてつもなく巨大だった。戦っても勝ち目がない程に」

「勝ち目がない?」

「侵略者は単純に言って10倍以上は数が多かったんだ」

 それは………戦いになってない。


「勝ち目がなくて………どうしたんですか?」

「戦ったんだ」

「勝ち目がないのに?」


「戦わなければ奴隷にされるんだ。自分達が奴隷になる事も耐えられないが、何よりも自分の子供達も、そのまた子供達も奴隷として生きるしかなくなる。どれ程絶望的だろうと戦わないという選択はありえなかった」

「それでどうなったんですか?」


「負けた。野蛮なあの連中は笑いながら、既に死んだ男の遺体を徒に傷つけ、女と見れば犯してから殺した。奴等には力のない人間であるかも関係なかった。人は尽く殺されて国は焼かれた」

「………もしかしてヤマトーさんの家族も?」

 ヤマトーさんもアタシみたいに家族を?


「あぁ勘違いさせてしまったな。俺が経験した訳ではない。だがその戦いで国が栄えた恩恵を享受して裕福な暮らしができている」

「え?戦いに負けたんじゃ?」

 なんで負けたのに国が栄えてるの?


「負けたんだがそれは、奴隷にされるより遙かにいい未来を勝ち取ったんだ。生き残った子孫達は焦土と化した国を発展させた。そんな未来を生み出したのは全て、勝ち目のない戦いに挑んで徹底抗戦した立派な戦士の活躍だ」

 ヤマトーさんがアタシをまっすぐ見た。


「ミミカカ。お前が助けた子供達はこれから大きくなり、この村を発展させていく事になるんだ。わかるか?お前は未来を作ったんだ。それが立派でないなら何が立派なんだ」

 アタシが未来を?ヤマトーさんの国の戦士みたいに?


 灰色の猟犬(グレイハウンド)を次々倒せるすごい戦士。

 アタシのことを戦士だって認めてくれる人。

 そしてアタシのいいところをアタシよりいっぱい知ってる人。

 そんなヤマトーさんがアタシを認めてくれた。


 今まで頑張ってきたつもりだけど、どうしたらいいかわからなかった。

 本当にこれでいいのか。その答えはだれもくれなかった。

 でもヤマトーさんがアタシの頑張りを認めてくれた。

 認めてもらえて初めて安心できた。これでよかったんだ。


 今まで戦士になる為に頑張るっていう言い訳で、お母さんのことを考えないようにしてた気がする。

 でも自分がこれでいいって言ってもらえたら、お母さんのことをちゃんと考えられるようになった。

 お母さんが死んでから、今やっとお母さんが死んだことにちゃんと向かい合えた気がする。


 助けてもらった時もすごい人だって尊敬したし、夫婦になるならそれだけでいいと思った。

 でも今はアタシがヤマトーさんを好きだから夫婦になりたい。妻にしてほしい。




「シャーシャ、ヤマトーさんを探しに行こう!」

「………うん!」

 アタシたちを追っていた兵士たちはみんな倒した。

 ヤマトーさんに早く会いたい。

16/09/24 投稿・文の微修正

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