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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の発露
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シャーシャ、日本男子と引き裂かれる

 わたしはシャーシャ・ホマレー、お兄ちゃんの妹です。


 今はお兄ちゃんがいませんでした。

 魔法使いの人が、わたしとミミカカさんを連れ出したからでした。

 名前はグララ。魔法使いなのに魔法が使えないへんな人でした。


 わたしたちに魔法を教えてほしいって言ってました。

 お兄ちゃんは何でもできて、失敗する人の気持ちが多分わからないからってわたしたちに。

 でもそれはうそだってわかりました。


 わたしは人の顔を見て何を考えてるのか当てるのが上手でした。

 人の考えてることを上手に当てないと怒られてたたかれるから。

 たたかれるのがいやで人の顔を見るのがうまくなりました。

 魔法使いの人の顔は他の人がばかだと思ってる人の顔でした。

 自分よりすごい人に教えてもらうのがいやみたいです。


 それにお兄ちゃんが教えるのが上手なのは見てたらわかりました。

 昨日もお兄ちゃんに教えてもらったらすぐに魔法を使えるようになりました。

 魔法使いの人も見てたからわかってるはずでした。


 お兄ちゃんはすごくやさしいです。

 何でも教えてくれて、わたしを家族にしてくれて。

 町の子供たちにも孤児の人たちにも、お金や食事を配って助けてました。

 でもずっと見ててわかったことがありました。


 魔法使いの人がわたしたちのテーブルに来たとき、お兄ちゃんは手をにぎってすごくたくさんほめました。

 魔法使いの人は背が高くて、きれいで、おっぱいも大きかったです。

 ミミカカさんはお兄ちゃんに魔法使いの人が好きなのって聞きました。


 お兄ちゃんはわたしとミミカカさんと話すときは笑ってくれるけど、そうじゃない時はいつも怒ってるみたいな怖い顔をしてました。

「へ?俺が?あれを?なんで?」

 そんなお兄ちゃんがびっくりした顔をしてました。すごくめずらしい顔です。

 頭が良くてなんでも知ってるお兄ちゃんがおどろいてるのを、わたしは見たことがありませんでした。


「あ、もしかして、褒めたからか?本心から言った訳じゃない。開口一番他人の事を褒めてくる様な奴は、碌なもんじゃないからだ」

「本心じゃないのに褒めたんですか?」

 なんでだろ?


「じゃあ順番に考えようか。ミミカカがシャーシャちゃんに、頼みを聞いてもらいたい時はどうする?」

 ミミカカさんがわたしに?

「え、シャーシャに?えーっと………お願いしてみる?」

 ミミカカさんはわたしを見て、首をかしげながら言いました。


「まぁシャーシャちゃんは知り合いだからそれで済むだろう。でも、知らない人に頼む時はどうする?」

「えっと、お願いしてみる?」

「知らない人はお願いされても、聞かなきゃならない理由はないな?」

「はい、そうです」

 わたしも、知らない人から何かたのまれても、ぜったいことわる。


「それでも頼みを聞いてもらう為には工夫が必要だ。例えばどんな事が思い付く?」

「お金を用意する?」

「報酬を用意するのは有効だな。他には何か思い付くか?」

「じゃあ………相手の頼みを逆に引き受けたり?」


「それも報酬の一つだな。金銭、物品、交換条件と報酬は色んな形をとる。思い付かないならヒントを出そう。さっきの魔法使いが、なんで俺を褒めたか考えてみてくれ」

 あ、そうか。

「えっと………ヤマトーさんに頼みたいことがあるから?」


「そうだな。相手に取り入って、気分や覚えを良くする事で、頼みを聞いてもらう訳だ」

「なるほど」

「逆に用もないのに、知らない相手を褒めたりするか?」

「しません」

 わたしも知らない人に用もないのに、話しかけたりしないし、ほめたりしない。


「そうだろう。じゃあ最初の話に戻るぞ。なんで魔法使いは俺を褒めたと思う?」

「頼みごとがあったから?」

「そうだと思われるな。だから俺は相手を褒めたんだ。これはなんでかわかるか?」

「わかりません」

 魔法使いの人がほめてきた理由はわかったけど、お兄ちゃんはなんでほめたんだろ?


「ふむ。まぁ他人が何を考えているかというのは難しいな。正解は丁重にお引き取り願いたかったからだ」

「褒めると帰りたくなるんですか?」

 なんでほめられたのに帰りたくなるんだろ?


「それについては色んな理由がある。まず自分の事をよく言ってくれる相手に、嫌な事をしたくないと考える。自分を好きな人と嫌ってる人、どっちに嫌な事をしやすいと思う?」

「嫌ってる人です」

 うん、わたしもそう思う。


「だろうな。そして俺は、できる限り矢継ぎ早に褒め続けたつもりだ。何を考えているかわからない相手に、好きに喋らせたくなかったから、こっちが一方的に話したという訳だ」

「だからあんなに褒めたんですね」

 お兄ちゃんはそんなこと考えてたんだ。おっぱいが大きいからほめたんだとか思ってごめんなさい。


「あぁ。そして何より俺は相手の手を握ったしな」

「なんで手をにぎったんですか?」

 うん、なんで?


「ミミカカ。君は知らない男に、急に手を握られて、ずっとそうしていたいと思うか?」

「………思いません」

 お兄ちゃんならいいけど、他の人は絶対やだ。


「普通に考えて居心地が悪いだろうな。まぁ追い払うだけなら剣を抜いてもよかったんだが、穏便に済ませる為にあぁした訳だ。何か疑問はあるだろうか?」

「いえ、変なことを聞いてすいませんでした」

「疑問を持つというのは大事な事だ。それが何かのきっかけになるかもしれないしな。聞いてくれれば出来うる限り答えよう」


 お兄ちゃんは魔法使いの人のことが好きなんじゃなくて、信じてませんでした。

 安心して笑ったら、ミミカカさんがわたしのことを見てました。

 おどろいたら、ミミカカさんも笑って、2人で笑いました。


 お兄ちゃんはやさしいけど、それは子供にだけで、大人の人にはすごくきびしいです。

 見張りの人はけっとばして、魔法使いの人には冷たくて、教会の人には悪いことをしたら怒りに来るって言ってました。

 でも、ミミカカさんだけは別でした。

 ミミカカさんには、わたしにしてくれるみたいに、やさしくしてました。


 初めはこわかったけど、ミミカカさんはすごくいい人でした。

 わたしがこわがらないように、いつもは話しかけてきません。

 でもわたしが困らないように、いつも見守ってくれてました。


 魔法使いの人が、あれからいっしょに付いて来るようになりました。

 お兄ちゃんは「本格的に旅をするには、3人では心許なかったところだし、まずは様子見をしてみよう」って言ってました。


 魔法使いの人がお兄ちゃんといっしょにいて話せないときは、ミミカカさんが助けてくれました。

 服のきれいなししゅうは、ミミカカさんが自分でぬったのを教えてもらいました。

 わたしは村にいたとき、歌とか服の作り方とかを教えてもらったことがありませんでした。


 歌はお兄ちゃんに教えてもらったけど、服の作り方は教えてもらったことがありませんでした。

 わたしも女らしく、服が作れるようになりたいです。

 わたしがそう考えたのがわかったみたいに、修行がおちついたら、いっしょに服を作ろうって言ってくれました。


 それからもミミカカさんは自分の村の話を、いっぱい聞かせてくれました。

 ミミカカさんはお兄ちゃんに、命を助けてもらったって言ってました。

 わたしも家族にどれいとして売られたのを、お兄ちゃんに助けてもらった話をしました。

 ミミカカさんはわたしとお兄ちゃんを、本当の兄妹だって思ってたみたいで、すごくおどろいてました。


 その話をしてからミミカカさんは、もっとわたしに話をしてくれるようになりました。

 すごくまじめでやさしいミミカカさん。

 お兄ちゃんみたいなすごい人になれるように、わたしといっしょに毎日がんばって、お兄ちゃんからいろんなことを教えてもらってます。




 ミミカカさんと魔法使いの人と宿を出て、怖い人と出会ったのをおいはらって。

 町から出て魔法の練習をしたいから門まで来ると、たくさんの兵士の人がいてわたしたちを見てました。

 どうしてわたしたちを見てるんだろ………。

 見られるのがいやで、ミミカカさんの背中にかくれました。


「何かあったのかな?」

「うむ!何やら物々しいのだ!」

 兵士の人たちは、気のせいじゃなくわたしたちを見てました。


「何か様子がへんじゃない?」

「うむ!明らかに我等のことを見ておるな!先ほどの冒険者にある事ない事吹きこまれおったか?」

 原因はわからないけど、兵士の人たちのふんいきはとてもこわい。

 そう思ってたら兵士の人たちがこっちに来ながらどなってきました。


「お前達、ヤマトー・カミュ・ホマレーを知っているな!」

「ヤマトー殿がどうしたのだ!」

「お前達には領主への反逆の疑いが掛けられている!」


 わたしはミミカカさんと顔を見合わせました。

 お兄ちゃんが領主様に反逆?

 毎日いっしょにいるけど、そんなの聞いたことがありませんでした。


 こんなときどうしたらいいか、お兄ちゃんは教えてくれてました。

「訳の分からない事を言われた場合、理由を聞いてみましょう。結構教えてもらえる事が多いです」

「………なんで聞いたら教えてくれるの?」


「人は誰でも自分が正しいと思っていて、他人と意見がぶつかった場合は自分の正しさを証明したくなるからです。シヨウニヨキュと言います」

 シヨウニヨキュは他の人に自分のことを知ってほしいっていうことらしい。

「もし理由を聞いて答えない相手なら、冷静な相手だとわかります。いずれにしても反応で情報が得られるので、まず聞いてみましょう」

 答えてくれないことからわかることもあるんだ。なるほど。


「大人しく投降しろ!」

「反逆なんてアタシたちは知らない!アンタたちが間違ってんじゃないの!」

 ミミカカさんはちゃんとお兄ちゃんに教えてもらったとおり、兵士の人たちに聞いてみました。

「ふん、貧民の連中に金を撒いて、味方に引き込んでいたと密告があったんだ!言い逃れは出来んぞ!」

 兵士の人たちは教えてくれるタイプの人でした。


「む!宿屋の主人が裏切ったに違いないのだ!」

 おヒゲのおじさんが?

「どういうことなの、グララ?」


「宿屋の主人は、ヤマトー殿のことをぼったくろうとして、相場より遥かに高い宿代を要求しておったのだ!」

 あのおじさんそんなひどいことしたの?

「だがヤマトー殿が強い事を騙した後に知る事になったのだ!後ろめたい主人は勝手に疑心暗鬼になった挙句、我等を反逆者にでっち上げて密告しおったのだ!」

 おじさんのせいでわたしたちがつかまりそうになってるんだ。


「そして我は、そんな主人に言われてまんまとお主等を連れ出したのだ!」

「なんでこんなときにアタシたちを連れ出したの!タイミング悪すぎ!」

「我も巻き込まれるなんて!こんな筈ではなかったのだ!」

 ミミカカさんと魔法使いの人が言い合いをはじめました。




「………どうするの」

 兵士の人たちが近寄ってきていました。

 すごくたくさんの人たち。


 お兄ちゃんは「人がパッと見て数がわかるのはだいたい3つぐらいまで」って言ってました。

 わたしはもう100まで数が数えられるから、わかる数もそんなに少なくないってその時は思いました。

 でもお兄ちゃんが言ったとおり、たくさん人が並んでるとたくさんとしかわかりませんでした。

 ぱっと数えてみても10人、20人、30人、40人?

 やっぱりわかりませんでした。もっとさくさんいそうでした。


 そんなたくさんの兵士の人たちはみんな、赤茶色い革鎧を着てました。

 そして色んな武器を持ってました。ナイフ、剣、槍、斧、棍棒、杖。

 大人の男の人ばっかりで、すごく嫌な顔でこっちを見てました。


 あの顔は………お父さんたちそっくりでした………。

 わたしに言う事を聞かせようとする人の顔。

 わたしのことをたたく人の顔。


「まずいなぁ」

 ミミカカさんが言ったけど、今戦うのはむずかしかったです。

 わたしたちは今、目の前の相手にも火の魔法が使えません。

 ナイフだけじゃこんなにいっぱいの人とは戦えません。

 それに………お父さんの事を思い出したら………すごくこわくなってしまいました。


「………走って逃げよう」

 わたしとミミカカさんなら、走って逃げられると思いました。

「グララは置いてくつもり?」

「わ、我を置いてくのか!こんなつもりではなかったのだ!見捨てないでくれ!」

 2人がおどろいて、わたしの言ったことに反応しました。


「………先に逃げてください。ミミカカさんとわたしが残ります」

「わ、わかったのだ!恩に着るのだ!」

 魔法使いの人はさっき、自分が置いて行かれるかと思ったからだと思うけど、急いでぐにゃぐにゃしながら逃げ出しました。

 あの走り方つかれないのかなって思いました。


「シャーシャ、やれる?」

 わたしの顔を見て、ミミカカさんが表情を引きしめました。

「仲間を逃がす為にお前らが残ったのか!たった2人で俺達がやれるつもりか!」

 2人だけになったわたしたちを見て、兵士の人たちが自信まんまんで言いました。


「………やらない。逃げる!」

 わたしはミミカカさんの手を引いて、魔法使いの人とは別の方向に逃げ出しました。

 ミミカカさんはちゃんと走ってくれました。

「お、おい、待て!」

 兵士の人たちは、わたしたちと魔法使いの人の、どっちを追うか迷ってました。


 お兄ちゃんは色んな戦い方を教えてくれて、自分たちより数が多い相手の戦い方も教えてくれました。

「数で負けてる時はあえてバラバラに逃げてみる手もあります。例えば一見不利な3対4の戦いでも、2対1と1対3の状況になれば、キョッショテッユイーを生んでいます」

 キョッショテッユイーは全体では大変だけど、一部だけ見れば簡単な状況のことって教えてもらいました。

「また、相手はどっちを追うか判断しなければならなくなり、時間が稼げる可能性があります。少人数の利点は決断が早い事です」


 お兄ちゃんの言ったとおりに、わたしたちはバラバラになりました。

「グララはどうするの?」

「………おとり」


 魔法使いの人にはおとりになって、兵士の人たちを引きつけてもらいます。

「グララを見捨てるの!?」

 ミミカカさんがおどろいた顔でわたしを見ました。


「逃げるの?」

 やさしいミミカカさんはわたしにまた聞きました。

「本当にそれでいいの?」

 たしかめるみたいに何度もわたしに聞きました。


「………く………ない」

 いやだ。 

「え?」

 ミミカカさんはわたしが小さくつぶやいたのが聞こえたみたいでした。


「………よく、ない!」

 魔法使いの人のことなんてどうでもいい!

 わたしは魔法使いの人が好きじゃない!

 お兄ちゃんも魔法使いの人は信じてない!


「シャーシャ?」

「………もう逃げない」

 本当は今すぐに逃げたい!

 早くここから離れて、あの怖い顔の兵士の人たちから逃げたい!


「………見捨てない!」

 でも助けなきゃ!

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 ミミカカさんが聞いてたのが、魔法使いの人をどうするかなのはわかってました!

 でも、わたしには!

 叩かれてボロボロになってたわたしを見捨てるのかを!

 こわがったままお父さんから逃げるのか!

 ずっとお父さんにたたかれて泣いてたあのときのまま!

 いやな気持のままで生きていかなきゃいけないのにそれでいいのか!

 わたしにたしかめてるみたいに聞こえました!


 お兄ちゃんがせっかくわたしのことを助けてくれて!

 また笑えるようにしてくれて!

 誰にも負けないぐらい強くしくれたのに!

 このまま怖くて逃げたら、わたしはまた笑えなくなる!

 あんなに苦しいのはもういや!


「魔法使い!あいつらに火をぶつけろ!」

 逃げるわたしたちに、兵士の人たちから火が飛んできました。

 でも火のじゃまをする精霊さんがいるから、わたしたちに魔法はききません。

 飛んできた火は、わたしたちの手前で、急に消えてしまいました。


「何故火を消した!貴様も奴等の仲間か!」

「ち、違う!あいつら、こっちの魔法を消しやがった!」

「そんな馬鹿なことがあるか!おかしな言い訳をするな!」

 兵士の人たちがけんかしてるみたいでした。


 今もお兄ちゃんが助けてくれてる!

 こうなるってわかってたから、火をじゃまする精霊さんをつけてくれたんだ!

 わたしがこわくないようにいつも守ってくれるお兄ちゃん!

 お兄ちゃんが助けてくれるなら大丈夫!こわくなんてない!


 走りながらミミカカさんに考えたことを言いました。

「………火のじゃまする精霊さん、お兄ちゃん、付けてくれたから、私たち、はなれたら、絶対、勝てます」

 走りながらしゃべってるからいつもよりしゃべりにくい。

「………わたしたちは、遠くになら魔法が、使えます。追いかけてきた兵士の人を、魔法でやっつけたら、魔法使いの人、助かります」


「だから先に行かせたんだ!シャーシャえらい!」

 ミミカカさんがほめてくれました。

 わざとやったわけじゃなかったのに。


「え、でも………?」

「………?」

 ミミカカさんが、急に考え始めました。


「火をじゃまする精霊!グララにはついてないよ!」

「………!」

 やっぱりお兄ちゃん、本当に魔法使いの人のこと信じてないんだ。


「ほぎゃっほおおお!」

 ちょうど魔法使いの人が逃げた方から、変な声が聞こえてきました。

 わたしたちに魔法はきかないから、魔法を使える兵士の人たちは、魔法使いの人の方に行ったみたいです。


「あの間抜けな叫び声はグララの!早く助けてあげないと!」

「………火蜥蜴(サーちゃん)!」

 わたしは火を消す精霊さんのいるところより、遠くに火を作ってもらって、魔法使いの人を追いかけてる兵士の人達にぶつけました。


「魔法だ!気をつけろ!」

「………どうやって気をつけるんだろ」

「どうしたら気を付けられるんだろうね!」

 気をつけろって言われても、お兄ちゃんじゃなきゃ水もないのに火なんて消せない。


「………火蜥蜴(サーちゃん)!がんばって!」

 火を連続で作ってもらう。


 大きな火を魔法使いの人の後ろにぶつけました。

「おっぱ!おっぱ!おっぱ!」

 後ろに火蜥蜴(サーちゃん)の火が降ってきて、魔法使いの人は変な声を出してました。

 魔法使いの人をおどろかせたくて、火をぶつけたんじゃありませんでした。


 目の前に大きな火が降ってきて、止まった兵士の人たち。

 そこに、火をぶつけました。

 なんでか、魔法使いの人も振り向いて止まって、杖を兵士の人たちに向けていました。

「ははははは!誰に喧嘩を売ったのか思い知るがいいのだ!我こそ偉大なぐぱぱぱぱぱぱ!」


 魔法使いの人が、逃げると思って火をぶつけたから、思いっ切りまきこまれてました。

 兵士の人たちは、みんな魔法でやっつけられたけど………。

 はじけた火がマントについて、がんばって消そうとしてる魔法使いの人。

 背中のマントを追いかけて、その場でグルグル回る魔法使いの人。


「グララってよゆうありそうだね」

「………うん」

 村にいたころ、犬が自分のしっぽを追いかけて、その場でグルグル回ってたのを見たことが有りました。

 その犬は村のみんなから、バカ犬って言われてました。




 魔法使いの人を追いかけようとした、兵士の人たちは倒せました。

 でも………。

「シャーシャ!アタシたちはどうする!」

「………どうしよう」


 ちょっと後ろを見たら、兵士の人たちが20人ぐらい走ってきてました。

 火蜥蜴(サーちゃん)が火を作るのには、すこし時間がかかりました。

 火を作ってる間に、火のじゃまをする精霊さんがいるところまで、追いつかれそうでした。

 でも魔法を使わないで戦うなら、1人で10人やっつけないといけない。


 こんなときはどうしたらいいってお兄ちゃんは言ってた?

 ! そうだ!

 ホマレー流護身術。

 お兄ちゃんが教えてくれた、すごい技。

 宿で男の人をやっつけられたヨンシキ。

 練習のときにお兄ちゃんをやっつけられたナナシキ。

 でも1番すごいと思ったのは別の技でした。


 わたしは今では、いっぱいごはんを食べさせてもらって、いっぱい体を動かせます。

 でも村にいたころは、ちょっと動こうと思っても、すごく重くてしんどくて体がぜんぜん動きませんでした。

 お父さんにたくさんたたかれて、大人とけんかしてもぜったいに勝てないって。

 そう思ってました。


「シャーシャちゃんしか通れない様な、狭い所を探しましょう」

「………なんで?」

「狭い所では大人は思う様に動けませんが、シャーシャちゃんだけが逃げるにしても戦うにしても、好きに動ける様になるからです」


 それを聞いたとき、すごくおどろいたのを今でも覚えてます。

 体が大きい方が、力が強い方が勝つのが当たり前だと思ってたのに。

 わたしが大人に勝てるところがあるなんて。


「………あそこ曲がって」

 ミミカカさんに狭い道を指差していっしょに入ってもらう。


 イチシキ。

 自分がうまく戦える場所を作る技。

 子供だったわたしが大人のお父さんをやっつけられる技!

16/09/17 投稿・文の微修正

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