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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の発露
33/154

日本男子、神に祈る

R-15 残酷な表現有り

 俺は今、最悪の未来の始まりを予見して大いに恐れていた。


 イテシツォの町。宿屋の部屋の中。

 ベッドの上に座った俺の元に兵士達が詰め寄ろうとしていた。

 女中は開いたドアから素早く逃げていった後だ。


 兵士が何人来たのかはわからない。

 見た感じ10人以上はいそうだ。

 だがそんな些事より余程気になる事がある。

 この兵士達を連れてきたであろう奴の、顔に見覚えがある事だ。


 流石に茶化さない。

 許せないものはある。

 それは人の裏切りだ。

 俺に向けられた悪意。

 それだけは何があろうと絶対に許さない。


 裏切り者は部屋の中までは入ってきていない。

 部屋の前まで兵士達を誘導するのが役目だったんだろう。

 思えば朝からシャーシャ達と引き離されたのも、コイツが画策した結果なのかもしれない。


 俺は酷く狭量な性質だ。

 一度でも裏切れば許しはしない。

 そこに容赦や躊躇等は存在しない。

 この街に入ってからずっと顔を突き合わせてきたがこうなった以上は殺す。




「ヤマトー殿には領主様への叛逆の疑いが掛けられているのだ。大人しくせよ」

 俺の神経を逆撫でする様に、そんな声が掛けられた。

 尊大な口調が鼻につく。

 何様のつもりなんだお前は。


「造反だと」

「白を切るのか?調べは上がっているのだぞ?」

 まるで全てお見通しだと言わんばかりに、やたら尊大な態度で告げられる。


「まずは宿屋の主人」

「そして貧困街の連中」

「果ては教会の孤児にまで」

「随分と熱心に金を配ったな?」

 勿体付ける様に一言一言区切って、言い聞かせる様に話すのが不快だ。


「立場の弱い者に次々接触して、手勢を増やそうとしたのは明白だ」

「それに何より門番を殺そうとしたではないか!」

「隠蔽できると本当に思ったのか?」

「とんだ浅知恵だな」

 まるで自分は賢いとでも言いたげに、朗々と紡がれる下らない馬鹿話。


「領主様に対する叛意が見て取れる!」

 兵士達を従えて気が大きくなっているのだろうか。

 木のベッドに腰掛けた俺を、不敵に見下ろして告げる。


 人を裏切る様な性根の卑しい者は、誰もが人を貶めようとしている様に見えるらしい。

 汚らしい真似をする者は、周囲も当然に汚く見えているという事だろう。


「魂胆を見抜かれて言葉も出んか?」

 俺の沈黙を窮地に陥った事によるものだと、勘違いしたのか勝ち誇る様に笑っている。

 酷く目障りだった。


 何よりその尊大な口調が不快だ。

 一体どれほどの実力を持っているというのか。


 今の俺には魔法がある。

 例え身一つであろうとそうそう遅れを取る事はありえない。

 そして俺は寝る時も含めて常に武装している。


 寝る時にだけ背嚢を下ろして抱きかかえているが、それ以外は治安の悪さから常に格好が変わらない。

 左右両方の腰から下げた大型のマチェットも、背中側の大型のナイフもある。

 当然に手袋だってしているし、安全靴も履いている。

 つまり俺の身は神威溢れる日本の工業製品に包まれている。


「どうした、何か言ったらどうなのだ?」

 自分の正当性を疑っていない自信満々の態度。

 自分が優位性を保った時限定の嗜虐的な表情。

 全て矮小な人間性が見て取れる小物の振る舞いだった。




「これからその身に起こる事を恐れ「口を利くなッ!モーローアッ!」」

「………!」「………!」「………!」「………!」「………!」

「………!」「………!」「………!」「………!」「………!」

 押し寄せてきた連中は全て混乱して、無言のまま右往左往しながらお互いに衝突し出した。


 この三重苦(モーローア)を使われて、まともに行動できる奴なんている訳がない。

 人間の五感である視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の内、視覚と聴覚と嗅覚を封ずる魔法だ。

 突然に触覚と味覚しか効かなくなって、どうやって行動できる?


 更に喉が空気を震わす事すら出来なくなる。

 能力を奪うのが主目的だが、混乱を誘発させる効果も高い。

 行動を妨害するのに長けた魔法だ。

 

 光学迷彩の経験から作った、光の精霊が網膜に光を運ばなくなる魔法の暗黒(モー)

 風の精霊に対象者の周囲の空気の振動を停止させる事で、音を発する事も聞き取る事もできなくする魔法の無音(ローア)

 合わせて3つの障害を負わせる三重苦(モーローア)。命名は代表的な三重苦の症状そのものから取った。


 駄目押しにもう1つ魔法を掛ける。

「!!」「!!」「!!」「!!」「!!」

「!!」「!!」「!!」「!!」「!!」

 兵士達の混乱に拍車がかかる。


 重力追放(ウチューユエ)は重力の精霊に、対象者の重力の影響を喪失させる魔法だ。

 宙を遊泳する目的の魔法だからウチューユエとなる。

 視覚と聴覚に加えて、重力さえ喪失した兵士達は混乱の極みに達した。


 重力の影響が無い以上、こいつらは慣性の法則に従って移動する他ない。

 歩き出そうとして膝を曲げれば、足は地面から離れ宙に浮かぶ。

 それに慌てて足を突き出せば、地面を蹴り出してバランスを崩す羽目になる。

 結果お互いの体を突き飛ばして、壁や床にのたのたとぶつかる。

 見てくれの悪いピンボールの様な光景が目の前で繰り広げられる。


 俺は自分のした事で、誰かの感情が動くのを見るのが、たまらなく好きだ。

 喜んだ顔。楽しそうな顔。嬉しそうな顔。笑った顔。恥ずかしそうな顔。驚いた顔。

 泣きそうな顔。泣いている顔。怒った顔。恐怖した顔。絶望した顔。無表情な顔。


 俺は奉仕者としての側面を強く持ち、基本的には親切だ。

 相手に何かしている時は安心感すら覚える。

 それは俺が小心者だからに他ならない。

 相手を制御している間は安全を確保できるから、誰かに働きかけたくなる。

 その結果である表情を見れば、それがどんなものでも酷く安心できる。


 もし逆に奉仕される立場となれば恐怖すら感じる。

 小心者だから相手に身を任す事はできない。

 相手に支配されている間は不安でたまらないから、誰かに働きかけたくなる。

 そうする事で相手を阻害し、真意を確かめて、そこで安心できる。


 俺は基本的に人を信頼しない。

 無償の愛。変わらぬ友情。そんなものがあるとは到底思えない。

 恋人を欲しいと思う事もない。自分の生活の中に、常に他人が居る事は到底我慢ならない。


 だからこそ。

 俺は信頼の於ける者をひたすらに好む。

 人を信じない俺が信じられる程の人間。

 強く尊敬できる人間。


 シャーシャとミミカカの2人がそうだ。

 出会った経緯からも2人は俺を信用して尊敬してくれている。

 俺も2人の前では立派でありたいと素直に思える。


 何より俺から見ても彼女達の性質はとても善良で信頼できる。

 特にミミカカは子供を守る為なら、例え勝ち目のない戦いであっても、その身を投じる事ができる素晴らしい人物だ。

 人の為になら自分を滅せられる。そういう真面目な人間こそ報われて欲しい。とにかく助けになりたい。


 だからこそ。

 俺は信頼の於けない者をひたすらに憎む。

 裏切り等以ての外だ。

 高潔な人間を尊敬する俺は、低俗な人間を軽蔑している。


 あぁそうだ。

 裏切る様な奴は死ぬべきだ。

 屑の分際で生きているな。

 お前達の様な屑が、高潔な人間を踏み躙る。


 この町に来て以来の短い付き合いだ。

 別に死んだところで気にも留めない。

 別に殺したところで気に病まない。

 考えれば考える程に生かしておく価値が見当たらない。


 なぁ、どんな気分だ?

 俺を裏切ってどんな気分なんだ?

 兵士を引き連れてやってきた時はどんな気分だった?


 そして自分が連れてきた兵士達が、無言で宙をジタバタと泳ぎ回っているのを見るのは、どんな気分なんだ?

 その光景を見せる為に裏切り者にだけは、視力付与(メアリー)で視界を復活させている。

 視界を取り戻すまでは、兵士達と同じくジタバタしていた様だが、今は周囲を見渡して状況把握に努めている。


 口をパクパクさせながら手足を必死に振り回す兵士達の、脇をすり抜けて裏切り者の元へ向かう。

 半分程の兵士が混乱の中で取り落としたらしく、思い思いの武器が宙に浮いていたりする。

 残りの半分程の兵士は武器を持ったまま、手足を振り回しているが大した危険性はない。

 重力から解き放たれた以上は、踏ん張って斬撃を繰り出す事もできない。

 俺の目や鼻に当たらなければ、せいぜい肌を切り裂けるかどうか程度の威力でしか振るえまい。


 それに重力追放(ウチューユエ)を掛けた直後はともかく、今は力一杯手足を振り回している兵士もいない。

 手足を力一杯振り回すと慣性の法則に従い、体まで振り回される事になるからだ。

 体制を変えない様に恐る恐る手足を伸ばして、何かに捕まろうとする。

 まるでセミの様に壁に張り付く者もいれば、力強くお互いを抱き合う者もいた。




 俺の身体に必死に手を伸ばそうとする、熱烈な同性愛者達を全力で殴り飛ばしながら裏切り者の元へ進む。

 同性愛者に対して差別をするつもりはないが、俺が当事者になるのは御免だ。

 何よりも俺は他人との接触を好まない。


 悠然と近付く俺に気付いて、裏切り者が青ざめながらジタバタする。

 だが、遠ざかるまでには至らない。


 兵士達や裏切り者が宙に浮かんでジタバタする中、俺だけは地に足をつけて歩く事ができる。

 これは重力の精霊が、対象を選択できる為だ。

 辺り一帯に影響を与える事もできるし、個別に対象を選択する事もできる。

 今回は自分を無重力の影響から外すために、個別に対象を取っている。


 つまり部屋の外で待機していた兵士の中には、重力追放(ウチューユエ)の影響を受けていない者もいる。

 俺の視界の届かない範囲だったので、魔法の対象に選択できなかった為だ。

 部屋の中から見える範囲に居た兵士の数は7、8人ばかり。

 部屋の外には両の足で立った、後詰めの兵士がまだ10人程いた。


 さてどうするか?

 無音(ローア)を実現する風の精霊が、その影響を与えるのは空間そのものだ。

 なので無差別に効果を発揮し、俺もその影響下にある。

 だが暗黒(モー)を実現する光の精霊は、明確に対象を取る必要がある。

 目が見え足の着いた兵士は、部屋から出た俺の元に殺到しようとしている。


 改めて暗黒(モー)重力追放(ウチューユエ)をかけて無力化するのが一番単純だ。

 だがせっかく裏切り者に視界を付与した以上、絶望させてやりたい。

 無力化の次は物理的に排除してみせよう。

 売った喧嘩がどれだけ高くついたか実感させてやる。

 震えながら見ていろよ。


 問題はどうやって兵士を倒すかだ。

 この距離では、()()()()()()()()()()()()()()()()

 幸い遠慮はいらない。

 言いがかりをつけて害しようとする連中に、何の遠慮をする必要があるというのか。


 イメージをより強固にする為に、落ち着いてポーズをとる。

 階段上からジャンプして、宿屋の出入り口に1回転してストンと着地する

 心身を極限まで強化する英雄降臨(セギノミカタ)の魔法だ。


 身体能力の限界を失くして全力の力を発揮できるのも無論強力だ。

 だが英雄降臨(セギノミカタ)の真価は寧ろ、思考能力の強化の方にある。

 強化された思考能力は、急激に上昇した運動能力を適切にサポートする。


 普段ならできないが、この状態なら連続バク転や、ロンダートからのソバット等も難なくできる。

 どうすれば自分のやりたい行動が実現できるのかが、途端に理解できる様になる。

 結果、力を持て余さずに適切な動きができる。


 更に極限まで研ぎ澄まされた集中力は、注視した事象のあるべき未来の姿すら把握させる。

 例えば「このままボールが飛んできたらどういう軌道を取る」という事が手に取る様にわかる。

 自分が認識・把握している事に限れば、かなりの高精度で未来が予測できるという事だ。

 無論、予期しえない事象や、初めて見る動物の突飛な行動等は予測しようがないが。


 今、俺の前に立つのは只の人間だ。

 能力面、装備面、あらゆる面で圧倒している自信がある。

 人間業では考えられない様な大跳躍に、驚く兵士達の中から獲物を見つける。


 近くに居た兵士の顔面を、右ストレートで殴り飛ばす。

 特撮のワンシーンの様に吹っ飛んで崩れ落ちる。


 唖然としている別の兵士の肩を手で掴み、腹部を連続で殴打する。

 胃の中の物をぶち撒けて崩れ落ちたので突き放す。


 素早く次の兵士にロンダートで近寄って、そのままの勢いで回し蹴りを叩き込む。

 錐揉み回転というのに相応しい吹き飛び方をする。


 回転の勢いを殺さずに傍に突っ立っている兵士の、足を払って飛び上がる様に蹴り飛ばす。

 綺麗にすっ転んで宙に浮いた所を捉えて縦回転から床に墜落させる。


 その場から跳躍して流れる様に回転してから遠くにいた兵士へ、綺麗な飛び蹴りを叩き込む。

 凄まじい勢いで吹っ飛んで転がって行く。


 マチェットを抜き放って目に付いた兵士をメッタ斬りにしようとする。

 斬る力が強すぎて深く体にめり込んだので乱暴に力を込めて両断する。


 そのまま別の兵士を滅多刺しにする。

 深く刺しすぎて抜けなくなったので乱暴に蹴り飛ばしてマチェットを引き抜く。


 マチェットは存分に振るえない事がわかった。力が強すぎて刃がめり込む。

 軽々しく強い力を発揮できる事の弊害だ。

 武器を持って打ち合える相手がいるなら別だが、生身相手で刃物は過ぎた物だ。


 兵士達はようやく力量に絶望的な差があるのが理解できたのか、浮足立って逃げ出そうとしている様だ。

 逃がすか屑が。

 こっちは正当な理由もなく攻撃されたんだ。

 報いは受けてもらう。


 足をもつれさせながら、宿の出口から逃げ出そうとする兵士にマチェットを投擲する。

 狙い違わず突き刺さったので気を良くする。


 ナイフ類の投擲は本来慣れないと難しい。

 真っ直ぐ投げても槍の様に刺さる事は、重量のバランスからまずありえない。

 やり投げがあぁいう投げ方なのは、トップヘビーなバランスをしているからだ。

 ナイフは刃が目標に向かってめり込む様に、回転を掛けて投げる。

 よくゲーム等で手持ち武器を投擲すると、超高速回転させて投げるがあんな投げ方では相手が僅かにでも動けば柄に当って弾かれる。


 目標に届くタイミングで、刃側が来る様に投げなければならない。

 距離に応じた回転の掛け方を覚えて、うまく当てる様にしなければならない。

 俺はそんな練習をした事がないが、英雄降臨(セギノミカタ)の力でナイフスローの理屈がわかる。

 重量の違うマチェットですら同じ事ができる。


 投げたマチェットの元へ、一足飛びに跳躍する。

 兵士を腕を深く抉って突き刺さったマチェットを回収して、そのまま首を刎ねる。

 

 完全に戦意喪失した残りの兵士の、首を片腕で掴んで持ち上げる。

 そのまま力任せに床にめり込む程叩き付ける。


 腰が抜けた様子の兵士が近くに居たので、顔面を思いっきり蹴っ飛ばす。

 冗談めいて見える様な縦回転をして頭から床に落ちて動かなくなる。


 それを見ていた別の兵士には、腹目掛けて安全靴の爪先を叩き込む。

 悶絶して倒れる。


 これで全員か。

 実に呆気無く、俺の身柄を取り押さえようとした兵士達を返り討ちにした。

 戦闘とすら呼べない様な蹂躙。

 一か八かの博打をするつもりがない以上、戦闘という形にすらさせん。

 絶対強者として場に君臨して一方的に殺してやる。


 今この宿屋の中で立っているのは俺だけだ。

 宿泊客も普通は朝食を摂ったら各々出て行くし、今日は外部の客には食堂が解放されていなかったのだろう。

 他は兵士達が致命傷を負って倒れているか、拠り所を求めて何かに必死にしがみついているか。

 それと汚らしい裏切り者が青ざめた顔で俺を見ているぐらいだ。


 なぜ俺を裏切ったのか。

 興味がない訳ではないが、どうしても聞きたいという程ではない。

 どの様な経緯であれ、俺を裏切ったという結果が残っていれば十分だ。

 弁明すらできないまま死んでもらうとしよう。


 俺は2階の俺の部屋の脇で宙に浮かんでいる、裏切り者の顔を睨み付けながら階段を上がっていった。

 途中でその辺に漂っていた兵士達の剣を拾う。


 対面するなり裏切り者の腹に剣を突き立て壁に縫い付ける。

 そのまま次々に剣を突き立てて手足を縫い止めて磔にしていく。

 身動きできない様にしたら、腹に突き刺した剣を思い切り蹴飛ばして折る。

 蹴ると口から血を吐いたので内蔵を傷つけているらしい。


 繰り返し剣を突き立てて同じ事をしたが、3回目で反応がなくなった。

 生きているのか死んでいるのかわからないが、首を刎ねてとどめを刺す。

 今の俺が本気で剣を振るえば、人一人の首を刎ねるぐらい造作も無い。

 落とした首を脳天から串刺しにして地面と一体化させる。

 地獄の底で浅はかさと浅ましさを悔やめ、屑が。




 こうして裏切り者への制裁は終わった。

 人数こそ多かったが大した問題ではなかった。

 魔法使いとの戦闘も覚悟したが、今回はなかった。

 おそらく室内での捕物だったので、火事にでもならない様に最初から連れて来なかったんだろう。


 だがまだやる事は残っている!

 兵士達は貧困街の娘達と教会の孤児達を俺の手駒だと言っていた!

 つまり俺と同じ様に不当に弾圧されているおそれがある!

 一刻も早く救援に向かわなければならない!


 そして何よりシャーシャとミミカカだ!

 俺が保護すると決めた大事な仲間!

 2人が不当な暴力に晒されている危険性がある!


 実力的には簡単に遅れは取らないだろう!

 だが人数の差を埋められる程の力量とも思えない!

 2人は魔法を十全に使う事はできないからだ!

 昨日の今日なので科学知識はまだ伝授していない!

 どうか無事でいてくれ!

 居ても立っても居られなくなって、生き残りの兵士を放置して宿を飛び出す!


 広域音波収集(ウマードオージ)

 雑多な音が洪水となって俺の耳に流れこむ!

 偶然全ての音が消えて、2人が自分の場所を訴えたりする奇跡は起こらない!

「五月蝿いッ!黙れッ!」

 思わず悪態が口をついて出る!


 何者かが俺の前に立ち塞がる!領主の手の者か!

「おい、それは俺に言っ………!」

 なんだ、只の粋がった馬鹿か!驚かせるな!

 刺客でない事に安心して、()()()()()()()()()()()


 人の足を引っ張るだけの邪魔な屑!

 そういう奴は死ぬべきだ!

 俺が屑を斬り殺す光景を見た、宿の前にまばらにいた奴等が蜘蛛の子を散らす様に逃げていった!


 視力付与(メアリー)は2人がいる場所がわからないので発動しても仕方ない!

 駄目だ!

 2人を探す手段が思い浮かばない!

 あぁ!考えがまとまらない!

 興奮している!焦っている!


 英雄降臨(セギノミカタ)を使って強化された思考力なのに!

 気ばかりが焦る!

 解決の糸口が見つからない!

 2人の居場所が見つからない!


 俺の!

 俺のせいだ!

 俺が巻き込んだ!

 俺の軽はずみな行動のせいで!

 貧しい子供だけでなく2人にまで危機を招いた!


 思わず空を見上げる。

 学生時代に国語教師が、文章中の天候描写は心情の暗喩だと言っていた。

 空は重苦しくて煮え切らない曇天だった。


 あぁ!

 神様!

 何卒2人をお守り下さい!


 2人が無事なら俺は死んでも構いません!

 むしろ俺が死ねば2人が助かるなら、喜んでこの生命投げ打ちます!

 シャーシャもミミカカも、前途有望な必要とされる人間なんです!

 どうか!どうかお救い下さい!


 (天皇陛下)に祈りすがった。

 だが天皇陛下にお任せしたきりとはいかない。

 事態を招いた以上は、俺が責任を取らなければならない。

16/09/10 投稿

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