表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の発露
31/154

グララ、日本男子に狂想する

 我こそはグララ・グラーバだ!


 ヤマトー殿とは出会ってから、まだ10日しか経っておらん!

 なのに驚かされ過ぎて、そんな風には全然思わぬのだ!


 そこらの男よりも飛び抜けて高いその背丈!

 無手で敵を倒せる程強いのにその体は細い!

 特にその手は男だというのに綺麗であった!


 サラサラのその髪は真っ黒だというのに艶やかに光っておる!

 髪と同じく真っ黒な睫毛は鋭い目を印象的に縁取っておった!

 鼻は低く彫りも浅い顔だがむしろ子供の様で可愛らしかった!


 背が高いのと腕っ節が強い以外は、どちらかというとあまり男らしくないヤマトー殿だが我を口説いた時は別だった!

 我の手を両手で握りながら、しっかり目を見つめて紡がれる言葉の数々!

 聞いていてこそばゆくなる、それでいて全てが満たされる情熱的な言葉!

 我はまるで、体が自分のものでなくなったかの様に力が抜けてしまった!

 ヤマトー殿の手が!眼差しが!その言葉が!我を虜にして離さなかった!


 我は直ぐにヤマトー殿に夢中になっておった!




 思えばヤマトー殿は誰にでも優しかった!


 我は出会った翌日に口説かれてから後は、常にヤマトー殿と行動を共にした!

 だがあんなに熱心に口説きおったというのに、何故かあれ以来ヤマトー殿は素っ気なかった!


 きっとこれは駆け引き上手というやつであるな!

 非凡なヤマトー殿は色恋沙汰においても試合巧者という訳であろう!

 我は邪険にされてもめげずに、とにかくヤマトー殿の後を何処に行くにも付いて行った!


 ヤマトー殿は町の色んな物を見ては興味深げにしておった!

 ある時は市の様子を興味深く眺めておった!

 またある時は貧困街や奴隷商の店、孤児院のある教会を眺めておった!


 市は兎も角、恵まれぬ者を見て何をするつもりなのだ?

 金には困らぬ様だから、身の回りの世話をさせる小間使いでも見繕うつもりかの?

 奴隷商に行った時は、その目に適う様な奴隷がおらんのか冷やかしただけだった!


 ヤマトー殿の考えがわかったのは貧困街に行った時だった!

 男であるヤマトー殿が来たのを見て、貧困街の娘達が群がってきおる!

 口々に自分がどれほど優れておるか喚き立てる娘達を、薄く笑いながら見ておった!

 年端もいかぬ娘達を、金に物を言わせて抱きに来たのかの?

 幼い顔付きのヤマトー殿も男だという事だな!


 だがヤマトー殿は集まった街娼の娘を、なんと全員宿まで連れて帰ってしまいおった!

 いくら金があるとはいえ、10人近くも連れて帰るのは多すぎるぞ!

 ヤマトー殿はもしかして底なしなのか!

 我は来る日に無事に次の日を迎えられるのだろうか!


「この娘達を部屋に上げるが構わんな?」

「こ、困りますぜ、貴族の旦那………」

 宿屋の主人は女を連れ込む事にいい顔をせんかった!

 連れ込み宿として評判が立つと、いずれ客層が粗野な者ばかりになるからなのだ!

 旅人を泊めるだけで十分経営が成り立っておるこの宿なら、総合的に見て避けるべきである!


「ん………?俺は十分色をつけたよな?それともまだ足りないか?」

 だがヤマトー殿が目を細めて睨むと、主人はそれ以上の反論ができんくなった!

 ヤマトー殿の顔は可愛らしいが、目付きだけは鋭い!

 我も何度か経験があるが、あの目で見据えられると心臓を鷲掴みにされた様になるのだ!


 この宿にわざわざヤマトー殿を、怒らせる様な馬鹿がおる筈ない!

「い、いえ………」

 主人もすっかり色をなくしておった!

「なら全員分の料理と水を部屋まで持って来い」

 主人に料理の代金を渡すと、ヤマトー殿は我等と娘達を連れて自分の部屋まで上がって行きおった!


 連れてこられた娘達は人数に戸惑って顔を見合わせておった!

 だが1人が帯に手をかけると、直ぐに全員が帯を解いて着ている服を脱ごうとしおった!

 我等が見ておる前で始める気なのか!

 興味はあるが、なし崩しに我もここでというのは絶対に嫌なのだ!


「全員のご飯を頼んだから、来るまで適当に座ってるがいい」

 娘達はまた戸惑って「どうする?」と言わんばかりにお互いの顔を見合わせておった!

「ちゃんと服を着て大人しく座らない子は、ご飯が要らないものと見做すぞ」

 しかしヤマトー殿にそう言われて、全員慌てて帯を結び直してその場に座りおった!


「皆いい子だな。いい子にはお代わりも許すぞ」

 ヤマトー殿は大人しく座った娘達を見て満足そうに笑っておった!

 そして女中が料理を運んでくると、その皿を奪おうと娘達の内でも小さな者が何人か立ち上がった!


「君達はご飯がいらないのか?いい子にしてないと取り上げるぞ?」

 だがそう言われて大人しく座り直しおった!

 ヤマトー殿は一体何をさせる気なのかの?

 部屋に入ってきた女中も怪訝な顔をしておったが、ヤマトー殿から大銅貨を渡されて詮索せずに出て行きおった!


 目の前に並べられた料理から片時も目を離さない娘達に苦笑しつつ、全員分の料理が並ぶとヤマトー殿がこう言った。

「手を合わせてこう言うんだ。イタドゥワキーマス、と」

 イタドゥワキーマス?言葉の意味はよくわからんが、とにかく食事の許可だ!


 暫く娘達の食事風景を眺めておったヤマトー殿だが、ふと我等の方を振り返った!

「お前達は食べないのか?あー………それともテーブルがないと食べられない口か?」

 たしかに我は床に車座になって飯を食った経験なぞないが、どちらかというと状況に戸惑っておったのが大きいのだ!


「いや、少し戸惑っておっただけなのだ!」

 我は急いで自分の分を食べ始めた!

 なんせおかわりが自由!

 食べない手はないのだ!


 檻から放たれた獣の如く、一心不乱に料理を食べる娘達!

「お代わりしてもいいからそんなに慌てなくていいぞ」

 ヤマトー殿がそう言っても娘達は止まる事はなかった!


「お代わり!」

 何故か反応に間が空いたヤマトー殿が娘達に再度言い渡した!

「………皆もこのよく食うお姉ちゃんみたいにお代わりしていいからな?」

 いいから我はお代わりを所望するのだ!


「きっとこの娘達が遠慮しなくていい様に振舞っているんだ………そう信じるのは俺の勝手だし」

 ヤマトー殿は何か呟きながら背負った袋を下ろして、中から何かを取り出しおった!

 出てきたのは………透明な袋に入った出来立ての料理!?

 何故出来立ての料理がそんなところから出てきたのだ?


 ヤマトー殿は我の空いた皿の上に料理を取り出した!

 香りのいい葉を開くとそこには………これは鳥肉か!

 出来立ての香ばしい匂いを漂わせる美味そうな鳥の香草焼き!

 何故こんな立派な料理が袋から!?


 その異様な光景に部屋の中の全員が見入っておった!

 娘達はついに食事の手を止めて鳥肉を眺めた!

 これは我のだ!絶対にやらんぞ!

 動じんかったのは妹殿ぐらいだ!


「ヤマトーさん、これは………」

 ミミカカ殿も驚いたのかヤマトー殿に声を掛けおった!

「あぁあの時のものだ。いつもありがとう、ミミカカ」

 どうやらこの料理にはミミカカ殿が何か関わっておるらしい!


 尤も今の我にはそんな事は関係ない!

 肉!

 グラーバの家を出て以来、1日1食だった我の前に久しく食べておらぬ肉!

 他の事なんてどうでもいいのだ!


 娘達も肉にあやかろうと急いで食べようとして、パンを喉に詰まらせたりしておった!

「慌てなくてもちゃんと全員に美味しいご飯を用意してやる。ゆっくり食べろ」

 ヤマトー殿は苦笑しながらそう言っておった!

「お代わり!」

 我は皿を突き出した!


「………グララ、お前の態度からはこの料理に対する敬意が感じられん。他の子が食べ終わるまでお代わりは禁止する」

「そんな!」

「お前がパクパク食べるから、この娘達が自分の分がなくなるかもと焦る様になっただろうが!反省しろ!」

 我はお代わり禁止となった!あんまりなのだ!


 その後は皆お代わりをして満足行くまで食べておった!

 満足行かんかったのはお預けになった我ぐらいだ!


 ヤマトー殿は食事を終えた娘達の前に綺麗な布をたくさん並べ始めおった!

「いい子で食事ができた皆にはプレゼントをやろう。好きな布を選ぶといい」

 娘達1人1人に好きな布を配るとな!?

 こんなに明るくて綺麗な模様の布を我は見た事がないぞ?

 本当にこやつらに配ってしまうのか?


 当然、娘達は我先にと布に殺到しそうになっておった!

「料理と同じく布は全員分ある。喧嘩する子にはあげないぞ」

 皆大人しく布を選ぶ様になった!


 娘達に布が選ばれる毎に、ヤマトー殿は布を剣で切り裂いて背嚢の中にいれておった!

 選ばれる毎に布を半分に切り裂いて全員に渡すという事か?

 子供だましなことだの!

 そう思っておったら、再び背嚢から取り出した布は元通りの1枚に戻っておった!


 そして布の中に大銅貨を2枚と、小さな色とりどりの物をたくさん入れて娘に渡したのだ!

「これはアメダームという甘いお菓子だ」

 目の前でアメダームとやらの包みを開けてみせ、包みごとミミカカ殿に差し出す!

「礼というには足りないが、ありがとうミミカカ。受け取ってくれ」


 ミミカカ殿は受け取った包みの中の、綺麗な色をしたアメダームを摘んで口の中に放り込んだ!

 途端に輝く様な明るい表情になりおった!

「ヤマトーさん、これすごくおいしいです!」

「そうか、気に入ってもらえたならよかった」

 どうやら娘達がもらっておるアメダームは、すごく美味しいらしい!我は貰えぬのか!


 こうしてヤマトー殿は娘達に食事をさせ、金を施し、菓子まで渡して帰らせおった!

 抱くどころか指一つも触らんかったのだ!

 更には翌日以降もまた違う娘達に、同じ振る舞いを連日しておった!


 だがヤマトー殿の驚くべき行動は、これだけに留まらなかったのだ!

 孤児院のある教会に行った時は、目を疑う様な行いをしてみせた!

 まずいきなり聖職者達と孤児院の子を、全員呼び出そうとした!


 そう言われて当然渋るシスターに、金貨を10枚取り出して見せた!

「俺は教会に寄付するつもりがある。だが寄付の前にこの教会の状態を確認しておきたい」

 シスターは急いで奥へ戻っていき、しばらくすると責任者らしき者が出てきて孤児と聖職者が集められた部屋まで案内した。


 並んで出迎えたシスター達を観察する様に見渡す!

 その表情からは何を考えておるのかさっぱりわからんかった!

「これは俺から教会への寄付だ!」

 そして………なんと聖職者全員に金貨を1枚ずつ渡したのだ!


「前途ある若者の未来の一助になる様に願ってな!聖職者諸君はこの子ら未来の宝を、立派に育ててくれると信じている!」

 孤児達1人1人、聖職者1人1人を見渡して笑いかけるヤマトー殿!

 立派な貴族の姿なのだ!


「だが」

 そこでヤマトー殿の表情が切り替わりおった!


「何故全員を呼び出して渡したのかわかるか?それは全員にこの寄付を目撃させる為だ!いるとは思わんが、もし寄付を着服する様な者を見つければ俺の所まで来い!俺はヤマトー!門の近くの宿屋に逗留している!」

 さっきまでの笑顔が嘘の様に冷たく釘を刺すヤマトー殿!


「不正があると聞けば直ぐに確認を取りに来てやる!俺の言葉を嘘だと侮るのは本人の勝手だが………愚か者にはその末路を思い知らせてやる!」

 この教会にはヤマトー殿に血祭りにされた門番を治療した者がおる筈だ!

 ヤマトー殿をわざわざ怒らせたい様な奴がいるなら、そやつは相当な命知らずなのだ!


「しっかり迷える子羊を導いてくれると信じているぞ。未来ある若者達に幸多からん事を願う」

 言いたい事を言い終わったヤマトー殿はそのまま教会を出て行った!

 我等も慌てて後を付いて行く!


 私財を投げ打って子供を助けようとするのは立派な事なのだ!

 ヤマトー殿は別け隔てなく優しい!

 そう、我にだけ優しい訳ではなかったのだ!


 我をあれ程熱心に口説いたのに!




 ヤマトー殿は実に色々なものに恵まれておった!


 まるで尽きる事がないかの様に使われておる金!

 武器を使わずに蹴りだけで敵を倒す圧倒的な力!

 他の貴族をものともしない力を持つ強力な家柄!

 出来立ての料理を取り出せる大きな背負った袋!

 全く他の魔法使いを寄せ付けぬ完成された魔法!


 どれか1つとっても素晴らしい力に違いない!

 なのに恵まれた幾つもの力を兼ね備えておる!


 特に魔法の才能は逸脱しておった!

 どんな魔法使いが、どれほど渇望しようと、決して届かぬ領域!

 ヤマトー殿は魔法を知った途端に、一瞬でそんな領域に到達したのだ!


 我は言葉も文字も計算も、直ぐに使いこなす事ができた!

 何故なら我は天才だからだ!

 だが、魔法だけは駄目だったのだ!


 父からも母からも魔法使いになる事を切望されておった!

 我も魔法使いになろうと努力しておった!

 だが我にその才能はなく、どれほど手を伸ばそうと無駄に終わった!


 だというのに!

 そんな我をあざ笑うかの様に、ヤマトー殿は簡単に魔法を使いこなしてみせおったのだ!

 それも幼き頃から魔法の傍にあった、我にすら理解できぬ様な強力な魔法を!


 そこらの武器なぞ歯牙にもかけぬ様な、素晴らしい剣ですら難なく真っ二つにする魔法!

 身体はそこにあるというのに、あらゆる者の目を欺いて姿を隠す魔法!

 今まで魔法使いが積んできた研鑽ごと、全てを吹き飛ばすかの様な衝撃を伴う炎の魔法!


 魔法の使えぬ我の前で!

 難なくこれほどの魔法を使いこなしおる!

 ヤマトー殿は天才である我にない、一番渇望した才能を持っておった!


 我は思わず嫉妬しておった!




 ヤマトー殿は数々の驚くべき魔法を見せてもまだ底が見えぬ!


「魔法使い達の攻撃は、この力で全て防ぐぞ!俺には、比類なき魔力が身についた!」

 ヤマトー殿は余裕を滲ませながら、気負いなく笑ってそう言っておった!


 多少魔法を使える程度の者なら、この様な事を言っても本気にはされぬ!

 だが我もシャーシャ殿もミミカカ殿も、皆唖然としてヤマトー殿を見ておった!


 ヤマトー殿は我等の見る前で、とても信じられぬ様な真似をしてみせたのだ!


 シャーシャ殿はとても今日覚えたばかりとは思えぬ程に、もう炎の魔法を使いこなしておった!

 グラーバの家でも魔法をここまで使える様になった者はおらぬ!

 生み出す火は、家1軒ぐらいは軽く炎の中に包み込むであろう圧倒的な大きさだった!


 そんなシャーシャ殿の炎は、ヤマトー殿によって消されてしまいおった!

 あの大きな炎が、ヤマトー殿の指定した場所に差し掛かると一瞬で消えてしまうのだ!

 シャーシャ殿も目の前で起こった事が信じられなかったのだろう、更に大きな炎を生み出したが同じ結果に終わってしまった!


「シャーシャちゃん、ありがとうございます。お陰で炎を消す実験ができました」

「実験だと?今のはヤマトー殿が炎を消したのか?水も使わずに?」

「あぁ。そのとおりだ」


 ヤマトー殿は興奮した様子もなく、いつもどおりの顔をしておった!

 これほどの事をしてみせたのに、まるで当たり前であるかのように!

 ヤマトー殿はわかっておるのか?


「国中の魔法使いが敵になりおっても………ヤマトー殿なら1人で倒せるのだろうな」

 あんな大きな火球が通用せぬという事は、それは即ちあらゆる魔法使いの魔法がヤマトー殿には通用せぬという事だ!


 魔法使いの攻撃は全て防ぐ?比類なき魔力が身についた?

 余人が言おうものなら一笑に付されるだけの妄言でしかない!

 それを臆面もなく言ってのけられるこやつは一体何者なのだ?

 一切の気負いもなく静かに佇んでいるその様子は、正しく比類なき魔法使いに相応しい姿だった!


 我が渇望した魔法の才能を持っておるというのに………!

 その魔法すら否定するというのかヤマトー殿は!


 我はとても落ち着いてはおれんかった!




 ヤマトー殿は今もその恐ろしい才能を見せつけておった!


「行くぞ、光学迷彩展開」


「お、お兄ちゃん?」

「えっ!?」

「な、なんだ真っ暗だぞ!?」

 突然目の前が真っ暗になりおった!


「通常視力付与」

 そう思ったら、直ぐに目が見える様になって安心したぞ!

 だがまだ異変は続いておったのだ!


「………体が」

「わっ!?」

「我はどうなったのだ!?」

「姿を見られない様に体を見えなくしてある。大事はないから気にしないでくれ」


 我等の身体は確かにそこにある!

 触る事もできる!

 だが、見る事はできない!


 ヤマトー殿は平然としておる!

 ということはこれは、ヤマトー殿の魔法なのか!

 こんなこと、ありえぬ!

 我が起きながらにして、呆けておるのでなければありえぬ事だ!

 全く訳がわからんかった!


 だというのに!

 まだ異変が終わらぬ!


「重力制御、反転」


「………飛んでる?」

「ヤマトーさん!!」

「な、なんなのだこれは!?」

 我等の身体はまるで重さを失ったかの様に、ふわりと空に浮かんでしまった!


 我は突然物を見る事ができぬ様になりおった!

 我の目が見える様になったら体が消えおった!

 我が驚いておる間に体を宙に浮かばせおった!


 こんなのは!

 こんなのは我の知っておる魔法ではない!


 我は思わず、ヤマトー殿にしがみついておった!

 次々と我を混乱させておいて、平然としておるヤマトー殿に!

 無我夢中だったのだ!

 我は半狂乱になって、必死にしがみついた!


 もう我にはさっぱり意味がわからなかった!

 怖かった!

 我は怖かったのだ!


 なのに!

 なのに!

 それでもまだ異変は終わっていなかった!


「重力制御、水平方向」

「や、ヤマトーさん!」

「わああああああ!高い!速い!下ろしてくれ!」

 まだ怖いのは終わらなかったのだ!


 我等の体はヤマトー殿の向いている方向に引っ張られていったのだ!

 まるで高いところから落ちる様に!

 我はこの恐ろしさを他の言葉で表す方法がわからぬ!


「お願いだヤマトー殿!後生だから下ろしてくれ!」

 とにかく説明しがたい恐怖だった!

 なのに!

 なのに!


「慣れろ」

 慣れろだと?

 この信じがたい恐怖に?

 無茶を言うでない!

 我は必死にヤマトー殿にしがみついた!


「グララ、離れろ」

 そんな我に突きつけられたのは離れろという命令だ!


「嫌だ!死んでも離れぬぞ!」

 離れたらどうなってしまうのだ!

「いいから離れろ!」

 それでも離れろと命令するヤマトー殿!


「なんでそんな事を言うのだ!我は怖いのだー!」

 ヤマトー殿は意地悪なのだ!

 酷いのだ!

 あんまりなのだ! 

 我は思わず泣き出してしまった!


「見捨てないでほしい!死にたくない!許してくれ!何でもするのだ!」

 我は必死だった!

 訳がわからんかった!

 怖かった!


 どれもこれもヤマトー殿のせいだった!


 我はこの時、ヤマトー殿の事を殺してやりたいと、確かにそう思っておった………!




 ヤマトー殿は我等と違いすぎた!


 その力は余りにも隔絶しておった!

 一度怒れば、一瞬で相手を倒す事ができた!


 その考えは全く理解し難い!

 子供の様な幼い顔をしておるのに、さっぱり考えておる事がわからぬ!


 凡人がヤマトー殿と関わる事は、拷問にも等しいのかもしれぬ!

 

 だから!

 この裏切りは当然だったのだ!


 ヤマトー殿が悪いのではないのだろう!

 だが弱い人間であろうと生きるのに必死なのだ!

 ただそれだけの事だったのだ!


 我はヤマトー殿が裏切られるのは仕方の無い事だったと諦めた!

16/09/03 投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ