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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の邂逅
26/154

グララ、日本男子に驚愕する

 我こそはグララ・グラーバだ!


 ふふふ!


 おっと、我としたことが!

 いやしかし、まさかあのヤマトー殿がなぁ!

 全く、我も罪作りな女である!ふふふ!


 パーティーに入れと言われて一時はどうなるかと思ったわ!

 特に我が門番から話を聞いたと言った瞬間、ヤマトー殿の表情が消えた時は殺されると思ったものだ!

 しかし!

 我は女としての魅力であの恐ろしい男を籠絡して見せたのだ!


 我はてっきり魔法使いとして役に立たねば殺されると思っておったが、まさか我の魅力に骨抜きになっておったとは!

 機嫌を損ねぬ様にヤマトー殿の生まれを褒めようとしたが、ついぞその機会は訪れなんだ!

 なんせ旗の話をしただけで我の手はヤマトー殿に握られておったからのー!


「グララ!君は素晴らしい女性だ!きっとさぞや研鑽を積んできたのだろう!君の知識は全て身となり君に根付き息づいている!美しく思慮深いばかりでなく才気に満ち溢れている!きっと近い将来に大成するに違いない!その溢れる程の叡智と美貌はこの世界の財産そのものだ!君の可憐さには例えどんな花も敵わない!」


 我の瞳にはまるで夜空の星が浮かんでいる様だとか!

 我の髪は澄んだ川の水の如く指先からサラサラと零れ落ちていくだとか!

 我の肌はどんな宝石よりも美しく輝いておるだとか!

 ヤマトー殿はその後も次々と我の美貌を賛辞し続けた!

 全く女としての自尊心が満たされる夢の様な時間だったのだ!


 まさかパーティーに加えようとしたのは、魔法使いとして必要だったのではなく、我を見初めての事だったとは!

 普通、男といえば自分がいかに優れているか自慢し、女なぞ子供を生ませる相手としか思っておらん様な連中だ!

 例え夫婦や恋仲であろうと、これ程情熱的に愛を囁かれた女は我の他におるまい!


 しかも手を握ってきおったのに、胸を触るとかそういう下心はなかった!

 真剣な顔で我の目をまっすぐ見て、ただ我の喜ぶ言葉を口にする!

 強い貴族に相応しい、立派な紳士なのだ!

 そう考えてみれば、ヤマトー殿は恐ろしいどころか素晴らしい人物だ!


 自分の家に強い誇りと責任感を持ち、その家は少なくともイテシツォの町に戦争を挑んでも勝てるらしい強さ!

 そして裕福で、宿屋の主人に騙されたふりをして逆に弱味を握る強かさも持つ!

 我の気を引く為に惜しげも無く金貨を渡す程に裕福!

 更に腕っ節も滅法強くて頼りになる!

 顔は彫りが浅くて美形という訳ではないが、背が高い割に顔立ちが幼く、女子と見紛う程に肌も綺麗!

 よく見ればどこか子供の様に、可愛い顔をしておるではないか!


 家柄が良く、頭も良く、羽振りも良く、腕っ節も良く、顔も可愛い!

 見れば見る程ヤマトー殿は良い事尽くめの好い男だ!

 この様な好い男にあの様に情熱的に口説かれたとあっては、我としても心動いてしまうのだ!

 我は決意も新たにパーティーの仲間入りをした!


 ………なのに我は仲間ではないかの様に扱われた!

 自分で誘っておいて、我の事をそんなに試さなくてもよいではないか!ヤマトー殿は意地悪だ!

「我は絶対に役に立ってみせるのだ!だから我を連れて行ってくれ!」

 きっと我を試しておるな?そんな事をせずとも大丈夫なのだ!


 ようやく納得したのかこう言われたのだ!

 明日は出かけるので支度をしておいてくれ、と!

 もしかしてこれが、世の恋人達のする逢引きというやつか!


「女中よ、風呂の支度をするのだ!」

 徹底的に女を磨いてやるのだ!

 ヤマトー殿にはできる限り最高の我を見て欲しいからの!ふふふ!

 我は明日の逢引きに向けて気合を入れて体の磨き上げたのだ!

 ヒリヒリして痛い!尻を擦り過ぎた!




 なのに!

 なのに!

 なのに何故こうなった!


 ヤマトー殿と一緒に宿を出たのまでは良い!

 だが………妹殿も仲間の娘も一緒ではないか!

 秘密の逢瀬ではなかったのか、ヤマトー殿よ!


「走るのも訓練だ!常に有事に備えて走れ!」

「………走る」

「わかりました、ヤマトーさん!」

「わ、わかったのだ」


「返事はレンジャーだ!世界最高の自衛組織のエリートに敬意を払え!」

「「「レンジャー!」」」

 なんなのだ、レンジャーとは?


「どうだ!楽しいか!」

 ただ走るだけなのに楽しい訳がなかろう!

「「レンジャー!」」

 なのに他の2人は元気よく答えておる!レンジャーの意味はやっぱりわからん!


「はっ、はっ、はっ」

「何をしているレンジャーグララ!誰が盛りのついた犬の真似をしろと言った!」

 さ、盛りのついた犬だと!我とて好きでこの様な声を出しておる訳ではないわー!


「やっ、はっ、やまっ!ヤマトー、殿!」

「誰が発言を許可したか!返事はレンジャーだ!」

「れっ、れんっ、じゃっ!」

 ひー!文句すら言えぬー!あの目は間抜けな門番の話をした時の目だー!


「走るのは楽しいか!」

 楽しい訳がないのだー!

「「「レンジャー!」」」

 返事はレンジャー!


「走るのが好きなお前達には、もっと楽しくなる様に歌を歌う事を許可する!」

「「「レンジャー!」」」

 脇腹が痛いのに歌なんて歌えるかー!


「嬉しいか!」

「「「レンジャー!」」」

 嬉しい訳があるかー!


「俺の後に続いて歌え!」

「「「レンジャー!」」」

 返事はレンジャー!ひー!


「ッカーオルィームァーッツーッケアージッシッっムェジッっ!」

「「「ッカーオルィームァーッツーッケアージッシッっムェジッっ!」」」

 どこの言葉なのだー!


「アーッキヌァースッァーヨームェヌィックーワスッヌァー!」

「「「アーッキヌァースッァーヨームェヌィックーワスッヌァー!」」」

 というか、口が動いとる気がせんー!


「ヌォーッキヲッカーシッーッオームォヨーヲッールァルェールゥ!」

「「「ヌォーッキヲッカーシッーッオームォヨーヲッールァルェールゥ!」」」

 多分今の我は本当に盛りのついた犬みたいな声しか出せておらんー!


「アーッーサッサッームゥーサッムォーィーッガームァッヅェー!」

「「「アーッーサッサッームゥーサッムォーィーッガームァッヅェー!」」」

 なんでヤマトー殿はあんなに元気があるのだー!


「ジョッーウーヌィォーッヅァサッセッブァヌァーッガサッールゥルゥー!」

「「「ジョッーウーヌィォーッヅァサッセッブァヌァーッガサッールゥルゥー!」」」

 なんで2人もあんなに元気があるのだー!


「ッーッーブァシャッーックヨーックアールゥッケーブァブォーッー!」

「「「ッーッーブァシャッーックヨーックアールゥッケーブァブォーッー!」」」

 も、もしかして!


「オーッゴルェールゥィーッムォーィーサッーシッツカールァズッ!」

「「「オーッゴルェールゥィーッムォーィーサッーシッツカールァズッ!」」」

 我が半引きこもり生活で体力がなくなってるだけなのかー!


「ジョッーオーシャッィーースッイヌォッコーッワールィヲアールァワスッ!」

「「「ジョッーオーシャッィーースッイヌォッコーッワールィヲアールァワスッ!」」」

 ひー!冒険者なのに走れもしないなんてヤマトー殿に嫌われるのだー!


「イーヌゥムォアールゥッケーブァブォーヌィアーッルゥー!」

「「「イーヌゥムォアールゥッケーブァブォーヌィアーッルゥー!」」」

 見ておってくれヤマトー殿ー!


「サッールゥームォッキーッカルァーオーッールゥー!」

「「「サッールゥームォッキーッカルァーオーッールゥー!」」」

 ヤマトー殿の為にこのグララ・グラーバ、死力を尽くすのだー!


「スッーブェスッーブェームァージュッーッガヌィー!」

「「「スッーブェスッーブェームァージュッーッガヌィー!」」」

 ほ、本当に死んでしまいそうなのだー!




「よし!走るのをやめて歩いていいぞ!」

「「「レンジャー!」」」

「発言も許可する!」

「「「レン!………」」」

 何も考えずにレンジャーと言いそうになったのだ!レンジャー恐るべし!


 3人共歌いながら走ったのに余裕そうなのだ!

 我は暑い日の犬の様に、だらしなく口を開けて太陽を睨みながら歩くのが精一杯である!

 ヤマトー殿にも犬みたいと言われおったしの………。

 きっと犬みたいな我の事なんかヤマトー殿は嫌いなのだ!


「グララ、よく頑張ったな」

「べぇ?」

 急に声を掛けられて変な声が出たのだ!

「よく辛いのをこらえて最後まで走り切ったな。立派だったぞ、グララ」

 な、何故だ?ヤマトー殿が我を褒めてくれておるぞ!?


「ヤマトー殿は犬みたいな我の事が嫌いではないのか?」

「犬?嫌い?そんなことはないぞ。グララはどちらかと言えば整った容姿をしていて、人から好かれそうだと思うが?」

 整った容姿!その一言で数々の賛辞が脳裏に蘇り幸せな気分になれる!


「もしかして訓練の事か?走るのは全ての基本だからグララの為だ」

「わ、我の為か!?」

 ………確かに、いざという時に走れなくては我が死んでしまうかもしれない!


「厳しい事を言って傷つけたかもしれないが、グララには期待している」

「わ、わかったのだ!期待に応えてみせようぞ!」

 あの完璧なヤマトー殿が我に期待しておるだと!

 辛い訓練だったが、きっとヤマトー殿も考えあっての事なのだ!きっとどんな訓練でもこなしてみせるぞ!

 返事はレンジャー!




 朝から町を出て、日がちょうど真上になる頃、走るのは終わった!

 そこでウデタテという初めて見る、それでいて見た目以上に遥かに疲れる訓練をしたのだ!

 ところで我はてっきり逢引きのつもりで出てきたから、食料は持っておらんし、何より喉が乾いた!

 この辺りに水場はなく、食料となりそうな植物も獲物も見当たらないだだっ広い草原だ!


 どうするのかと思ったがヤマトー殿は食器を人数分並べて、人数分のお茶と食事を次々用意した!

 並べられた皿は銀の金属製で、ぴったり重ねれば皿同士を小さく束ねられる逸品だった!

 茶が注がれたコップは、皿と同じ金属製でこれも小さく束ねられて、折り畳める取っ手までついておる!

 素晴らしい職人の手による逸品なのだ!よく考え尽くされておる!


 水筒は見た事がない光沢を持った金属製で、見た目より遙かに多くの茶が入っておった!

 魔法使いでもなければ旅において飲水は貴重だというのに、望めば望んだだけ茶のお代わりができた!

 その茶も今まで嗅いだ事のない様な、良い香りがする紅いお茶であった!


 それになんと砂糖が出てきおった!

 砂糖といえば高級品!それも見た事がない程真っ白に精製されておる!

 それをこうも惜しげもなく茶に好きに入れてもよいと言っておった!


 一体ヤマトー殿のホマレー家とはどれ程の家なのだ!

 グラーバの家に居た頃でもこんな精緻な造形の食器は見た事がないし、砂糖を何気なく振る舞いおる!

 妹殿も慣れておる様子で茶に砂糖を入れておるから、ホマレー家は普段から砂糖を潤沢に使えておるらしい!


 そういえばヤマトー殿は宿屋の食事にいちいち驚いておったが、旅をしながらこんな食事をしていたなら当然だ!

 どう見ても宿屋の食事よりもこっちの方が恵まれておる!

 本当にどこまでも底知れぬ男よ!




 食事を終えると今度は、魔法の訓練をすると言い出しおった!

 魔法は一朝一夕で使える様なボッ!

 我は魔法の習得の大変さについて教えてやろうと思って、息を吸ったがそのまま吐く事になった!

 ヤマトー殿はいきなり魔法を使ってみせたのだ!

 まさか、優秀な戦士かつ貴族でありながら、更に魔法まで使えるというのか!


「………ヤマトー殿は、魔法使いだったのか?」

「いや、今初めて挑戦したんだが」

 しかも元から使えたのではなく、初めてでこれだと!


「熱いっ!」

 更にヤマトー殿に続いてミミカカ殿まで魔法を使える様になりおった!


 魔法に挑戦していきなり使うのに成功するとは!それも2人!

 極稀に精霊をその目で捉える事のできる者がいて、その者は優秀な魔法使いとして大成するという!

 この2人は貴重な魔法使いの中でも、更に貴重な精霊を視る才能を持っておるのではないか!?

 妹殿を躍動感のある珍妙なポーズにしておる姿を見て、確信は疑念に変わったが………!


「シャーシャちゃん。ミミカカ。2人は精霊というものを知っていますか?」

 ブンブンと首を振る妹殿と

「見たことがある」

と答えるミミカカ殿!


 やはりミミカカ殿は精霊が見えていたのだ!ならば!

「もしや、ヤマトー殿も精霊を見た事があるのか?」

 いきなり魔法を使えた以上は

「ない」

 む、そうか………。


 しかしだとすれば、精霊を見た事ができるミミカカ殿よりも早くヤマトー殿が魔法を使ったという事になるぞ!

 我は未だに目に見えぬ精霊というものが理解できておらず、まともに魔法を使えん!

 だがヤマトー殿は見えもせん精霊を最初から理解しておって、いきなり魔法を使いおった!


 我の知っておるどんな魔法使いも、初めて挑戦していきなり魔法を使える様になったりはしないのだ!

 最初から魔法を使えたと謳う者は多くいるが、そんなのはハッタリだ!

 どいつもこいつも最初は、小さな火花すら出せないものである!


 ヤマトー殿もハッタリでそう口にしたのか?

 だが我にハッタリをかます必要がない!

 それに最初に魔法を使ってみせた時の反応は明らかに驚いておった!

 我を周到に騙そうとしているのでなければ、あの表情は自分でも、まさか使えると思ってなかった時の反応!

 だが宿屋の主人を手球に取った前例もあるしの………考えれば考えるほどわからんのだ!


 そのヤマトー殿は、丸々した間抜けな蜥蜴の絵を描いて、それが精霊の姿だと妹殿に教えておった!

「シャーシャちゃん。目には見えませんがこういう精霊がずっと傍にいます。この子はシャーシャちゃんの事を友達だと思っているので、お願いしたら絶対に助けてくれます」

「………この子が私の傍にいるの?」


 なんとも子供騙しなものである!

 こんな間抜けな蜥蜴なぞおる筈がないではないか!

 妹殿はすっかり信じておる様だがの!


 いくら巨人殺しと言っても所詮は子供か!

 全く何がサーちゃ

「………サーちゃん、火を出して」

 ボッ!


 遂に妹殿も魔法を使いおったー!

 全員我よりも強力な魔法を使いおるー!

 我だって今までずっと魔法を練習しておったのに、今日だけで魔法使いとして抜かれたー!

「これが精霊だと?このようなものがおるはずが………じゃが現に妹殿も………うぅ」

 間抜けな蜥蜴をいくら睨んでも我の魔法が上達する事はなかった!




 それからも3人は魔法の訓練を続けおった!

 妹殿とミミカカ殿は火の玉の大きさを段々と大きくしていきおった!


 だがヤマトー殿のは………あれは本当に魔法なのか?

 何か言っておるのが聞こえるが、何を言っておるのかまではわからぬ!

 走った時の歌といいヤマトー殿は、ロガメウキョ公用語以外の言葉を使う時があるのだ!

 母音が強く、まるで妖精が歌でも歌っている様な、耳障りの良い謎の言語である!


「ターオーコーセ、シューソッショーシャ!」

 空高くから目を焼く様な凄まじい光が差したと思ったら、ヤマトー殿の前の草原が燃えていた!

「………これは封印だな」

 炎の魔法はあんな風に光ったりはしない!

 ヤマトー殿は一体何をやったのだ?


「チョーコーカーツシージン、フシャ!」

 剣を地面に突き立てて、それを目標に新たな魔法を放つ!

 ズパッと銀色の上等そうな剣は切断され、地面を穿ってしまった!

「これは実用的だな。切断対象の背後まで貫通してるから、使う時は対象の後ろを保護しないといけなさそうだが」

 全く得体の知れない魔法である!


「オギ、セッネットッ!」

 手にした銀色の剣がどんどん真っ赤に!見てるだけでわかる凄まじい温度の剣だ!きっと威力も凄ま

「熱っ!」

 ヤマトー殿は直ぐに剣を投げ捨てた!投げ捨てた剣は地面に落ちると砕けてしまった!

「手袋までボロボロになったし!これは封印だな」

 不思議な事にさっき切断された剣と、今砕けた剣と崩れ去った手袋は、いつの間にか元通りになっておった!同じ物をいくつも持っておるのかの?


「シコーセオパシュシュ!コーイーオパシュシュ!」

 今度は何をしておるのだ?

「………魔法は成功してると思うけど、風の音ぐらいしか聞こえないな」

 ヤマトー殿は静かに立っておるだけだ!


「ボーエシリョ!チョーヤッボーエシリョ!」

 これも何をしておるのかわからぬ!

「ちゃんと発動してるし、中もいけるな。難点は距離が遠いとイメージするのが難しい事と、視界が気持ち悪い事」

 魔法に失敗しておるのかの?


「ムジーロッチョーヤッ!」

 ビュン!

 ………連続で魔法に失敗しておると思って横目で見ておったら、ヤマトー殿の姿が突然消えた!?

「あ、危なかった!まずは慣れないと!………でも相手にかけたら自滅させられるかもしれないな。応用性高し、要研究、と」

 と、思ったら尻もちをついた姿勢で戻ってきおった!


「コーガッメサイ、テカイ!」

 またヤマトー殿の姿が消えた!

「………地形を選ぶな」

 ………よく見るまでもなくヤマトー殿がおるらしい所の、草が踏み倒されておるのが賢い我にはわかる!

 しかし姿を消す魔法とは!一体どうやっておるのだ?




 そしてヤマトー殿が全員を集めて何やら変な事を言い出しおった!

「いいか、皆?俺がタイバーボーオと叫んだら、その時何をしてても絶対に地面に体を投げ出して伏せろ!そして耳の穴を塞げ!口を開けろ!目を強く閉じろ!」

 何なのだタイバーボーオとは?言われた通りに全員で地面に伏せる訓練をする!

 服を汚すのが嫌で体を浮かせると、絶対に体を地面から浮かせない様に怒られた!うぅ、汚れる!


「俺がこれから使う魔法は、今のを守らないと大変な目に遭う」

「なんでそんな危険な魔法を我等に使うのだ!?」

 思わずヤマトー殿に聞いてしまう!我等を殺すつもりなのか!


「皆に使うんじゃなくて、効果範囲が広すぎて、敵に使っても自分にまで影響が及ぶんだ」

 なんと!そんな強力な魔法を本当に使えるのか!


 そういうとヤマトー殿は白い粉を辺りにぶち撒け始めた!

 ………貴重な砂糖が勿体無い!

 砂糖は次々風に乗って飛んでいってしまった!

 魔法を使うのではなかったのか!


「ソーイ、タイバーボーオシセッ!………サ、ニ、イ、フジバッハ!」

 その時、ヤマトー殿はタイバーボーオと命令した!

 砂糖に気が取られて反応の遅れた我は、慌てて言われた通りにしようとした!


 ドッ!

 凄まじい音と風が通り過ぎていきおった!

 まるで世界から全ての音が消え去ったように静かだ!


「………?………!」

 ヤマトー殿が我を見て口をパクパクさせておる!

 何も聞こえん!ヤマトー殿が呆れた様な顔で額に手を当て首を振った!


「………、………!………聞こえるか、グララ?」

「おぉ、聞こえておるぞ!なんだったのだ、今のは?」

「ちゃんと耳を閉じて、口を開けてなかっただろ?」

「そ、それはだな………」

「タイバーボーオをちゃんとしないと、耳が聞こえなくなるんだ」


「なんと!」

 あの変な訓練は本当に大事だったのだ!

 砂糖に気を取られた我の失敗である!

 ………うぅ、なんでわざわざ砂糖を捨てたりしたのだ!


「姿勢はちゃんと低くしててよかったな。姿勢が高かったら体が焼けてたぞ」

「そ、そんな恐ろしい魔法を近くで使わなくてもよいではないか!」

「いや、俺も影響範囲がわからなかったから、けっこう遠くで魔法を発現させたんだが………」

 ヤマトー殿が指差した方を見ると………暫く歩かなければならぬ程遠い地点の草が根こそぎ焼き尽くされておった!


「あ、あんな遠くの魔法で我は耳が聞こえなくなったのか?」

「そうだ」

 こんな恐ろしい魔法聞いたことがない!

 ただ燃やすだけでなく、凄まじい衝撃を生じさせて、辺り一帯を吹き飛ばす魔法!


「自分と仲間を保護する手段を考えないとな………」

 あんな見た事もない様な魔法を作ったばかりなのに、ヤマトー殿は大して興味もない様でぶつくさと考え事をしておった!

 ヤマトー殿は常に我を驚かす事を止めぬ!本当に底知れない男なのだ!




 一瞬で魔法を使いこなし、数々の新しい魔法を生み出したヤマトー殿!

 間違いなく魔法使いとして天才というべき人間であった!


 手に持った間抜けな蜥蜴の絵を見て思う!

 天才の見ておる世界とは我の見ておる世界とは全く違うのかもしれんの、と!

 我もいつかは天才の世界を見れる様に頑張るのだ!


 そして我も立派な魔法使いとなってグラーバ家に戻り、ヤマトー殿を婿に迎えて当主婦人となってみせるぞ!

 まずはこの間抜けな蜥蜴を見る事からだ!

 でもやっぱりこんな蜥蜴おる筈ないー!

16/08/20 投稿

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