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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の試練
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日本男子、戦慄する

 俺は今、シャーシャちゃんに仕出かしてしまった事を自分で恐れていた。


 ムムカカ村を立って早10日ばかり。村を出て2日目の昼に野盗団と遭遇したので、シャーシャちゃんを保護して8日と言ったところ。

 野盗の様な障害とは遭遇する事もなく、順調に歩を進めている。

 本来村から町までは、大人の足で3日ぐらいあれば行けるらしい。

 だがシャーシャちゃんに無理をさせる訳にも行かない為、様子を見ながらゆっくり向かった。


 想像できるだろうか、大人の足で3日かかる距離の草原を。

 諸説あるが江戸時代の人は1日に30~40キロ歩いたそうだ。

 それを根拠にすれば町までの距離は90~120キロ。

 そもそも俺には未整地の草原を歩き続けるという経験がない。

 アスファルトの道を行くのとは違う。


 また平和な日本と違って、異世界の地にはコンビニも自販機も無い。

 つまり予定してた日程で、目的地に辿り付けないというのは致命的な失敗となる。

 何故なら食料が足りなくなるからだ。

 普通の旅は旅全体の日程を決め、必要なだけの食料を持って旅をするのだ。

 よって本来の想定以上の日程がかかった場合には、狩りや採取等をして現地で食料調達する必要が出てくる。


 本来ならば、だ。


 そんな食料事情も、安心と安全と信頼と品質の偉大な日本の工業製品にかかればなんのその!

 俺には文字通りにいくら食べても無くならない食料がある!

 日本が偉大な事と、食うに困らない事には、一見して因果関係がない!

 だが、実際日本から持ってきた背嚢のお陰で食うに困らない!

 出来立ての手料理だっていつでも食べられる!

 やはり日本は偉大だ!


 すっかり元気になったシャーシャちゃんは、今日も鳥の香草焼きを食べていた。

 最初は調理は疎か狩りもしていないのに、出来立ての料理が出てくる事が不思議そうだった。

 だがそんな些細な疑問は、湯気を立てるお肉の前に吹き飛んだ様だ。

 シャーシャちゃんの体付きは細っこいが、段々と頬が子供らしく丸くなってきた。

 落ち窪んでいた眼窩も、今ではすっかり愛らしいくりくりお目々だ。


 ちなみにシャーシャちゃんはよく食べる。

 2人でいただきますをして一緒に食べているが、食べる量までも2人で一緒だ。

 成長期だと考慮しても、成人男性と同じ量はいくらなんでも食べ過ぎな気がする。

 俺は学生時代、女子のお弁当箱の小ささに驚いたものだが………。

 まぁ結構な量の運動を毎日してるし、お腹が空くのかもしれない。




 そんな訳で食料に不安のない俺達は、ゆっくりと町を目指したのだった。

 そういえばシャーシャちゃんは裸足だった。

 そのまま旅をさせる訳にはいかない。

 しかし自分の着替えは持ち込んだけど、靴の替えはないしそもそも足のサイズが違う。

 だからサンダルは自作した。


 まずシャーシャちゃんの足形を取る。

 それを元に携帯食料の空箱を、サンダルの靴底状にくり抜く。

 厚紙をくり抜いた靴底に、ヒモを通す穴を数カ所開ける。

 そこで一旦背嚢に登録してから取り出して、ナイフで真っ二つにする。

 半分ずつになった靴底を、背嚢で復元する事で2枚の靴底にする。

 瞬間接着剤で、2枚の靴底をぴったり重ね合わせてぎっちり固める。

 筆記用具と一緒に持ってきたこの瞬間接着剤も、どうせいくらでも復元できるので潤沢に。


 こうして固めた靴底をビニール袋に入れてから再度登録する。

 どうやらビニール袋に入れれば「登録済みの靴底」ではなく「内容物が入ったビニール」として新しく登録されるらしい。

 同じ要領で繰り返していって、どんどん靴底を分厚くしていく。

 最後に靴底の穴を補強して、ベルトになるパラシュートコードを通したらサンダルの完成。ちなみに俺の夢は大きくなったら教育テレビの工作番組のお兄さんになる事だ。身長3mぐらいになったら夢を叶えたいと想う。


「このサンダルをしていれば、シャーシャちゃんのあんよを色んなものから保護できます。絶対に壊れたりしませんから、乱暴に使っても大丈夫ですよ」

と太鼓判を押してシャーシャちゃんに渡した。

 壊れないと言ったのは、無論サンダルが丈夫なんじゃない。

 完成した時点で背嚢に登録してあるから、いくらでも復元できるという意味だ。


 だが厚紙の靴底は思ったより丈夫らしい。

 未だに復元する機会もなく、サンダルはぷにぷにのあんよを守ってくれている。

 何よりシャーシャちゃんは、新しいサンダルを大変喜んでくれてるのでまぁいいか。


 パラシュートコードを編み込んで作った方が、丈夫でまともな見栄えになると思ったのはやった後だ。

 紐からサンダルを編む方法というのを昔見たが、少し面白そうだったし。

 短い紐………たしか2メートルぐらいの輪っかを2つ折りにしたものをまず作る。

 それを土台に、6メートルぐらいの紐を編み込んでいけばサンダルになる。

 手が空いた時に編み編みして、シャーシャちゃんのおしゃれを足元から彩っていこう。




「お兄ちゃん?」

 シャーシャちゃんが自分のあんよをジロジロ眺める成人男性を、不思議そうな目で見て首を傾げてる。

 ………何かね、その目は?

 別にお兄ちゃんと呼ばせているのは、俺の特殊な欲求を満たす為ではない。


 ヤマトー様、と様付けで呼ばれるのが、どうも受け付けなかった。

 俺が呼ばれ慣れないのも問題だが、何より主従関係があると明示するのも避けたい。

 別に彼女は俺の奴隷ではないのだ。


 そこでシャーシャちゃんは俺の家族であると説明した。

 その結果、今の彼女はシャーシャ・ホマレーで、俺はヤマトー様からお兄ちゃんになった。

 多少態度が柔らかくなったのでいい事だと思う。

 だから警察を呼ぶのを止めたまえ。


 旅の途中、可愛い妹に君が代を教えた事もあった。

 愛する祖国日本が誇る至玉の国歌たる君が代を、シャーシャちゃんが気に入っていたのだ!

 普段口数の少ないシャーシャちゃんが、自ら君が代を歌いたいと言った時には狂喜乱舞した!

 自分の好きなものを傍にいる人と共有できるというのは、俺にとって望外の喜びだ!


 だがシャーシャちゃんの君が代歌唱までの道のりは困難を極めた!

 別言語の話者であるシャーシャちゃんに日本語は難しかった為だ!


 だが君が代は歌詞が大変短い!和歌を元にした歌だからだ!

 また歌である事も幸いした!意味までわからなくとも、リズムと音程で歌は歌えるからだ!いつものリズムだ!リズムを忘れるな!

 何よりシャーシャちゃんは熱心だった!努力に勝る天才無しというやつだ!


 そして苦労の末にシャーシャちゃんは、見事に君が代を歌える様になった!


「シャーシャちゃんは素晴らしいです!お手柄です!貴方の存在全てがお手柄です!可愛らしく、頭がよく、運動が得意であるだけでなく、歌までも上手です!まるで天使の歌声です!まさしく天上の調べ!あぁシャーシャちゃん、貴方はこの世の奇跡です!その存在が全てから祝福されています!」


 俺はとにかくシャーシャちゃんを絶賛した!無口なシャーシャちゃんもどこか誇らしげ!


 彼女は少女らしい綺麗なソプラノボイスで君が代を歌う!

 なんと耳に心地の良い歌声だろうか!実に素晴らしい!

 多少舌っ足らずだがむしろそれすら愛おしいといえる!

 シャーシャちゃんは歌うのが好きなのか実に幸せそう!

 俺も傍で聞くだけで多幸感が溢れて脳が溶け出しそう!


 ある時はその美声に耳を傾けて聞き入った!

 ある時は2人で日本に届けとばかりに合唱した!

 俺達は2人で歌いながら楽しく旅をした!




 そんな道中に俺は、シャーシャちゃんにある技術と1本のナイフを授けた。

 技術の名はホマレー流護身術。

 その実態は俺が聞きかじりの護身術を組み合わせただけのシロモノだ。


 なんで護身術を身に付けさせるのか?

 それは治安の悪い異世界を生きるのに、自衛手段は必須だからだ。

 保護している間なら俺がなんとかするつもりだ。

 だが俺がいなくなった後も彼女の人生が続く以上、自分で生きる力を持つ必要がある。


 この世界における戦闘とは、力の強い方が勝つという単純なものだ。

 体の大きさと数の多さが全てで、そこに戦闘技術というものはない。

 もしかしたら訓練された兵士となれば別かも知れないが、そんなのと戦うつもりはないので除外。

「シャーシャちゃんは僕を倒せるぐらい、自分が強くなれると思いますか?」

 体の小さなシャーシャちゃんが、そう聞かれて首を振るのも当然だろう。


 戦闘技術はそういった不利を補うものだな!

 あぁ、ホマレー流護身術を覚えたシャーシャちゃんは天下無敵さ!何も知らないで!

 まさかあのシャーシャちゃんに大人が倒せるとは夢にも思うまい!

 エェー?聞いたなコイツ!

 ………なんか俺の脳内にテンポよく会話するオーディエンスがいる。


 このホマレー流護身術は、非力な女性や子供が使う事を主眼に於いて構築されている。

 その長所は画一的な対応を取る事で、常に高い効果が期待できる点だ。

 運用上の混乱を避ける為、画一的な対応を実践する事をホマレー流護身術では推奨している。


 状況毎に最適な対応ができるのが一番だが、それは状況を把握して常に行動を変える必要がある。

 それでは実戦になると混乱して、結局は対応ができない可能性が高い。

 単純である程破綻に強く、運用面でも安定するのだ。


「襲われた場合はとにかく叫びましょう」

「まずは全力で逃げましょう」

「逃げ切れない場合は全力で攻撃しましょう」

「ナイフは逆手に持ち半身で構えて、常にナイフを相手へ突き出しましょう」

「相手が手を伸ばしたりしてきたら、そこをナイフで思いっ切り刺しましょう」

「もし相手に体を掴まれて密着されたら、ナイフの柄・頭突き・肘打ち・膝蹴りのどれかで、急所である鳩尾か股間か脛の狙える部位を攻撃しましょう」

 聞きかじりの知識を得意になって披露しつつ、シャーシャちゃんにホマレー流護身術を習得してもらう。


 まずはそれぞれの対応方法の意味を説明する。

「人は危険を感じると体が固まってしまいますが、大声を出すと動けるようになります。また、相手を驚かす事もできますし、周りの注目を集める事もできます」

 穏やかに説明している最中に、突然大声でわあああああっと叫んでみる。

 シャーシャちゃんは涙目になって縮こまってしまい、そこはかとなく罪悪感に苛まれる………。

 大声を出すと相手がびっくりする事を実感してもらいたかったのだ。ごめんねシャーシャちゃん。


「………注目を集めると、どうなるの?」

「運が良ければ周りの人に助けて貰えるかもしれません。何より相手が困る筈です。何故かわかりますか?」

 暫く考えてみても理由が思い付かなかったのかブンブンと首を振る。

「相手は悪い事をしているからです。注目を集めたままでは、直ぐにお尋ね者になってしまいます」

 シャーシャちゃんも納得の様子。

 更に危険を犯すか安全を取るか、咄嗟の判断を迫る事で躊躇を生む効果もある、と伝えると更に納得の様子。


「安全の確保が再優先なので、まず戦わない様にしましょう」

 俺の傍から離れない様に注意する事、そして危ない場所に近寄らない事、人通りが少ない所や治安が悪い所は避ける事、襲われたらまず逃げる事、の徹底。

 それでも駄目な時に初めて戦うのだ。

 シャーシャちゃんは「なんでやっつけないの?」とか言わず、安全の確保が護身の基本というのを理解してくれた。


 同時に狭い所を利用するという戦術も教えておく。

 大人が狭い思いをする所でも、小柄なシャーシャちゃんなら逃げるにしろ戦うにしろ、全力で動けるという圧倒的な優位性を確保できる。

 また、常に逃走経路を意識する事、複数を相手にする時は地形を活用して分断する事等、マンガやゲームで知ったにわか知識を得意気に披露していく。

 シャーシャちゃんの尊敬する様な眼差しが心に痛い。


 体が大きい方、数が多い方が強いのが当たり前な異世界の常識からすると、天啓を得たような発想だったらしい。

 シャーシャちゃんはそれから地形をよく観察する様になった。

 けどシャーシャちゃん、街道には地形戦ができる所なんてないと思うよ?

 まぁこれだけ熱心なら調子に乗って教えた、壁沿いを横歩きして背中をカバーする軍隊系の警戒法や、曲がり角のクリアリング法もいつか役立ててくれるだろうと思う。


「ナイフを突き出して半身になっている僕の体を触れますか?」

 鞘に入れたままのナイフを、シャーシャちゃんに突き出して構えてみる。

 俺の体に触れようと伸ばす手を、ナイフで突いて落とし続ける。

 手を払われ続けてやぶれかぶれに体当たりしてきたところに、ナイフを突き付けて止める。


 攻守交代して俺がシャーシャちゃんの体を触ろうとする。おさわりまんこっちです。

 リーチの差があるのと、シャーシャちゃんが半身を解いてしまったり、構えを維持できなくて腕を下げたりする時があるので、容赦なく捕まえて悪かったところを指摘する。

 シャーシャちゃんは悔しそうだったけど、この構えの防御力がよくわかったみたいだ。


「逆手に構えるのは順手に持つより力が入れやすいからで、刺すのは斬るよりも傷が深いからです」

 ナイフの持ち方・使い方で威力の違いを試してみる。

 地面に置いた携帯食器セットのコップを順手と逆手で斬り付けてみる。

 コップはナイフに弾かれてコロコロ転がっていった。固定してる訳でもないし当然そうなる。

 同じくコップを順手で横から刺してみる。またコップは弾かれて転がっていった。

 そして逆手で縦に思いっ切り刺してみる。コップはナイフに貫かれて地面に縫い付けられていた。


「ナイフを刺すには振り被らないといけません」

 さっき刺し貫いたコップを背嚢で復元してもう一度試す。

 コップにナイフの先を押し当てた状態から力を込めるが、ナイフが突き刺さる事はない。

 ぐぐっと力を込めたが、さっきと違ってナイフはコップに刺さらない。


 シャーシャちゃんもそれぞれ自分なりに試してみて納得できたようだ。


「鳩尾は水月とも呼ばれる急所で、ここには筋肉がないのでどんな人も鍛える事ができない弱点です」

 お腹に力を込めて腹筋をハッキリさせる。俺は筋肉質ではないけど、脂肪もないのでわかりやすい筈。

 シャーシャちゃんの手を取って、シャツの上から実際に俺の鳩尾を触ってもらう。おさわりまんこっちです。

 縦に筋肉がないところがあるのがわかったみたいだ。正中線は人体の弱点であると教える。


「股間は男女共に神経というものが集中しているので、攻撃するとすごく痛いところです」

 痛みを感じる機能を持つ痛覚神経をシャーシャちゃんに説明する。

「………痛くない方がいいのに」

と子供らしい意見が出てきた。

「痛みを感じなかったら、夜寝てる間に化け物に体をかじられても、気付けずにそのまま食べられてしまいますよ」

と言ったら、痛みの重要さに気付いた様だ。


「脛もこの神経が集中しているので弱点です」

 虐めるつもりはないがこれは実感してもらおう。鳩尾と股間と違って脛ならただ痛いだけだろうし。

 予め滅茶苦茶痛いと伝えてから、シミ一つ無いツルツルの弁慶の泣き所に狙い定めて手の甲で強めにコツン!


「ひっ………ぐすっ………ひんっ」

 ………泣いちゃった。

 唇を噛み締めて必死に泣くのを止めようとするシャーシャちゃん。

 自分の服の裾を掴んでクシャクシャにしながらうつむいている。

 その姿に思わず死にたくなる程の罪悪感を覚える。


「ごめんなさいシャーシャちゃん、もっと弱くやればよかったですね」

 謝りながら抱き締めて、背中を擦ったり頭を撫でたりしてあやす。

 シャーシャちゃんは落ち着いた後も鼻をすすって、無言で俺に抱き着いて離れない。

 よっぽど痛くてびっくりしたんだろう。

 幸い嫌われはしなかったけど、いつもより甘えん坊さん。

 普段はどちらかというと遠慮がちな子だ。




 一計を案じた俺はパラシュートコードで輪っかを作ってみる。

 輪っかを俺の指に掛けて特定の手順で指にヒモをかけていく。

 要するにあやとりだ。

 俺は得意な四段はしごを黙って見ているシャーシャちゃんの前で作ってみせる。


 得意というかこれ以外は碌に知らないんだが。

 ちなみにあやとりができるのは、小学生の頃に流行ったからだ。

 目の前で只の輪っかが複雑な形になって、シャーシャちゃんが目をまん丸にして驚いてる。


 シャーシャちゃん用に別の輪っかを用意して一緒にあやとり。

 ゆっくり四段はしごを作る手順を実演して真似させる。

 途中何度か間違っていたが、その時はまた一緒に最初からやり直す。

「できた!」

 シャーシャちゃんが完成した四段はしごを見せてくれる。

 その顔は晴れ晴れとした満面の笑顔になっていた。


 このあやとり紐はシャーシャちゃんにあげた。

 これ以降、創作あやとりに勤しんでる姿をよく見掛ける。

 俺は思い出したあやとりがあったら、シャーシャちゃんに教えてあげたりした。


 その後は1日シャーシャちゃんと遊んだ。

 二人あやとりなんてやったの小学校以来だ。

 ミミカカちゃんにあげたナイフに入ってたサバイバルキットの笛を、シャーシャちゃんにあげたのでピーピー吹いてもいた。

 後は一緒に歌を歌ったり、紙飛行機をどっちが遠くまで飛ばせるか競ったりした。

 1日遊んだからか、なんとかシャーシャちゃんのご機嫌は回復した。




 翌日、気を取り直してホマレー流護身術の訓練を再開。俺を仮想敵としての訓練だ。

 大きな声を出す訓練。

 出会い頭に素早く笛を取り出して大きく鳴らす訓練。

 捕まえようとする俺から走って逃げる訓練。

 同じく捕まえようとする俺を、鞘に入ったままのナイフで牽制する訓練。

 俺の鳩尾目掛けて頭突きする訓練、並びに鳩尾にナイフの柄や肘を叩き込む訓練。

 俺の脛を蹴っ飛ばす訓練。俺の股間を蹴り上げる訓練。


 シャーシャちゃんへの贖罪の意思を込めて急所攻撃を受けたけど、各1回ずつ受けた時点でギブアップした。

 シャーシャちゃんは謝ってくれたけど、逆にちゃんと全力で訓練してる事を褒める。

 武士は食わねど高楊枝だ。歯を食いしばって背中を叩きながらその場で跳ねる。別に心はピョンピョンしない。

 俺は女児に急所を蹴られて「ありがとうございます!」と喜べる程、特殊な性癖を持ってない事がよくわかった。


 初回以降は即席のプロテクターで、お互い急所を守り訓練に挑んだ。

 着替えのシャツとタオル等を駆使して、食器セットの平皿を仕込んだものだ。

 脛当ての代わりには、鞘に入ったままのマチェットやナイフをパラシュートコードで括り付けてある。

 もうえぐえぐと泣く少女を生み出す、悲劇を起こしてはならないのだ。

 ひぃひぃと喘ぐ成人男性を生み出さない副次効果もある。いやぁ、すげぇ辛かった。


 シャーシャちゃんは非力だが、頭突き、肘打ち、膝蹴りは十分な威力だ。急所に直撃すれば尚更。

「ホマレー流護身術があれば、シャーシャちゃんは大人を相手にしても勝てます」

と太鼓判を押しておいた。

 シャーシャちゃんは大人を自分が倒せる、という事実を深く噛み締めたのかより熱心に訓練を励んだ。


 そしてシースに入れたナイフを構えての実戦形式の訓練。

 手合わせすると、シャーシャちゃんは相当強くなってるのがよくわかる。

 なにせ余計な事を教えてないのでひたすらに効果的な攻撃を繰り返す!あれではまるで………殺人機械(キリングマシーン)だ!!

 シャーシャちゃんを只の女の子と舐めてかかれば、大の男でもまず間違いなくその強さに舌を巻くだろう。

 しかもシャーシャちゃんはまだ肉体の成長という伸び代を残している。




 シャーシャちゃんは俺と一緒によく学び、よく鍛え、よく戦い、よく歌い、よく遊び、よく食べ、よく寝た。

 そんな健康的な旅の末に、俺達はようやく町に辿り着いた。

16/07/23 投稿・早速文の微修正

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