日本男児、燃やし尽くす
俺は今、焦っていた。
目の前には!
「………ひひひひひひひ!ひひひひひひひひひひひひひひ!」
狂った様に嗤う魔法少女!
何故!?
何故、嗤っていられる?
笑うより侮蔑的な、上位者としてのニュアンスを持つのが『嗤う』?
間違いなく魔法少女は『嗤って』いる?
まさか?
『凶』の秘密に気付いたか?
ナーナを黙らせるのが遅かったか!
『凶』で狙撃を行うには微細な調整が要る!
咄嗟に黙らせるという真似はできなかった!
肉片と弾き飛ばす覚悟があれば別だったが!
………それが仇となったか?
魔法少女は気付いたのか?
嗤っている!
ニュアンスの違いさえあれ!
全ての『わらい』に共通するのは!
余裕があるという事!
『わらい』は自律神経を切り替える!
交感神経はストレスを感じた時に優位となる!
副交感神経は安心を感じた時に優位となる!
『わらい』が優位にするのは副交感神経!
つまり!
今アイツは!
解放されている!
危険から!
脅威から!
恐怖から!
抑圧から!
………アイツの直面していたストレス源?
そんなものは1つしかない!
他ならない!
この『凶』に!
「………昏い愉悦の宝物」
他者への優越感!
見下す感情!
メシウマ!
それを実感する事で!
自らを優位とする能力!
………それが今、発動した?
内装火器を解放!
魔法少女を攻撃する!
「『綺羅星!』」
未来予測を無効化する為!
知識外から攻撃を行う手段が必要!
その解が内装火器!
『ヤマタイト』製の本体から!
爆発的な勢いで!
呪力でコーティングした!
同じく『ヤマタイト』製の無数の釘を発射!
魔法少女は!
予備動作を学習しさえすれば!
音速を超える鞭の先端すら素手で掴み取る!
圧倒的なまでの未来予測性能と身体能力を持つ!
もし銃であれば!
『銃口を向ける』という予備動作に反応し!
途端に回避するであろう埒外の能力!
しかし!
初見なら!
未来予測はできない!
だからこそ!
オカルト!
自然界第5の力!
『呪力』を用い!
認識外の圧倒的速度で釘を射出する!
いくらワープすら起こせる運動性能でも!
本人の認識速度を凌駕していれば対応不能!
技の発動・兆候・『起こり』に気付かれなければ!
能動的回避は不能!
そして内装火器という点が『起こり』を隠す!
剥き出しの銃口というものはない!
『凶』は戦闘用の素体!
立体物というのは、形が複雑になる程、必ず脆くなる!
だから丸!球形!それは完全な形!
尤も、そもそも『ヤマタイト』は決して傷つかないがな!
とにかくツルリとした表面!
どこから発射されるのか悟らせない!
これは発射時に、内部機構が展開するという意味ではない!
外見上、一切の変化が起こらない!
即ち発射される釘は!
『凶』表面に生成され、直に発射される!
俺が『召喚』の魔法を極めようとした理由!
それは『ヤマタイト』という無敵の架空鉱石を創造したのはもちろん!
凶器を自由に生成できるという攻撃能力も極めて高いからだ!
その攻撃範囲は圧倒的!
即ち散弾!
『点』ではなく『面』で制圧する!
認識外の圧倒的速度で!
一切の予備動作無く!
回避困難な弾幕を展開する!
………しかし!
必殺には至らない!
対物狙撃銃というものがある!
分厚い鉄板すらぶち抜く脅威の銃!
しかしそんな超兵器も!
人体にはあまり有効でない!
何故か!
人体を破壊するには威力が過剰!
衝撃が突き抜け貫通する!
人体に有効なのは所謂ホローポイント弾!
空洞の弾頭を持つこの弾丸は、命中時に『頭が潰れる』!
つまり、貫通しない!押し留まる!
即ち、威力を伝達する!目標内部へ!
そう!
『綺羅星』は突き抜ける!
その圧倒的威力で!
本来なら十分な威力!
いずれ死に至るだろう!
しかしその時は来ない!
魔法少女は即死しなければ回復できる!
同時に脳と心臓を吹っ飛ばせればともかく!
狙ってできる類ではない!
ワープを繰り返し、超高速で移動する飛翔体!
そんなものを狙撃する方法はない!
高密度の弾幕をばら撒き、傷つけられるだけでも非凡というもの!
これを連射するだけで俺の優位!
やがて『事故らせて』必殺する!
その目論見が!
潰えた!
「向かってきただと!」
ワープを繰り返し!
削がれた血肉を回復しながら!
魔法少女が迫りくる!
「チィ!」
気付かれた!
圧倒的なパワー!
圧倒的な弾幕!
そんな『凶』の弱点に!
「………動けない、でしょ?」
確信している!
事実の確認!
魔法少女は!
俺が動けない事を知っている!
腕を伸ばす攻撃の間隔!
『綺羅星』の弾幕密度!
それらはめきめきと向上していった!
………それらは!
それら以外―――肝心の『凶』は?
俺の体勢を見りゃ分かるか?
『自在貫手』で腹を引き裂いてやった姿勢のままだ!
腕を伸ばす攻撃も、関節を持たない『凶』なら!
そのままの姿勢でできたから!
未だに!
『凶』はまともに動かせてない!
その猛烈な攻撃力で追い払っていたが!
近接戦闘は不得手!苦手!
………しかし!
なんでそれで近づいてくる!?
圧倒的火力!
一撃死!
それらをものともせず!
わざわざの接近戦!
クロスレンジ!
………何のつもりだ!?
死中に活有り?
切り結ぶ刃の下こそ地獄なれ、踏み込みゆけば後は極楽?
何を馬鹿な?
『ヤマタイト』だぞ!
無敵鉱石は伊達じゃない!
アイツの攻撃は一切俺に通じない!
そもそも死に至る肉体すら!
俺にはない!
なのに何故!
気付いたか!
本当に!
本当の『凶』の弱点に!
短期決戦!
元より長引かせるつもりはなかったが!
それしかない!
弱点を晒す前に葬り去る!
『凶』が無敵である内なら問題はない!
『凶』は何故無敵なのか!
「死ねぇ!」
少し鈍いながらも!
格闘を行う巨体!
『ヤマタイト』が無敵な以上に!
「………!」
なんなくかわし!
反撃を試みる魔法少女!
俺が死なない事が大きい!
刃が突き立てられても!
『俺』には届かない!
脳みそも心臓も、生身の部分がない!
「フンッ!」
再び拳を繰り出す!
脳を持たない俺が思考し!
「………!」
再び避けられる!
神経を持たない肉体が駆動する!
繰り返される攻防!
千日手!
脳の化学反応もなく!
伝達する電気信号もなく!
『凶』は駆動する!
古来!
人は死について研究してきた!
その中で!
魂に関する発見もあった!
曰く、人は死の瞬間、体重が21グラム失われる!
それこそが魂の質量だと!
曰く、体が脳からの電気信号による、指令を受け取って動くのなら!
死の直前の反応は説明できない点が多いと!
曰く、人は首を切り落とされ、生命活動を停止した後!
短時間なら意識を保っていられると!
曰く、ある鶏は首を切断されても!
18ヶ月間も生存したと!
………馬鹿か?
特に最初の実験はなぁ?
何人か死にそうな人間を秤に載せ、その重さの変化を調べた?
最初に21グラム変動した為に、それが魂の重さだと言った?
犬を同じく測った結果、重さの変動は見られなかった?
だから犬に魂はない?下等な動物?
これだから胡乱な宗教の狂信者どもは!
どいつもこいつも頭に蛆が湧いて腐ってやがる!
紀元前の聖書を有難がって崇める前時代の遺物ども!
聖書ありきで間違った認識を次々打ち立てた害悪そのもの!
『魂』があるのかどうかは知らない!
だがわかる事はある!
『我思う、故に我あり』!
どれだけ事象を否定しても!
今、実際に思考している自分を否定する事は叶わないと!
思考ができている限り、『俺』は居る!
肉体を失っても、俺が存在するから無敵!
つまり!
この前提が失われた時!
また無敵が失われる時!
「シャッ!」
凶器そのものの腕を叩きつける!
「………!」
危うく魔法少女が避ける!
………危うく!
「………早く、なってる!」
魔法少女が焦りだす!
初めはぎこちなかった『凶』の動きが!
どんどん滑らかに!スムーズになっていく!
滅茶苦茶なパワーで!
体のスケールすら滅茶苦茶で!
動かすのに違和感しかなかった巨体に!
追従していく!
習熟していく!
どんどん慣れていく!
動かせば動かす程!
違和感が消えていく!
魔法少女すら凌駕するパワーと運動性に!
追従性まで加わり始めた!
回避がギリギリになってきた魔法少女!
追い詰めている!
怒涛の勢いで!
「『早贄』!」
「………なっぐぅうあっ!?」
その右腕が!
血煙となって消し飛ぶ!
百舌鳥という鳥は捕まえた獲物を!
木の枝に突き刺してから食す!
それが百舌鳥の早贄!
大口径の杭を超高速射出!
壁面に突き立てる!
無論斜線上に居た存在は只では済まない!
百舌鳥の早贄の様に無残な死を迎える事になる!
まぁ威力が高すぎてそうはならない!
触れたものは血煙となって消し飛ぶ!
『凶』の最高火力!
「パ、杭打機か!」
傍から見ていて、いち早く正体に気付いたか!
黙っていたナーナが口を挟む!
「その通りだが………今度口を挟めば、あれの餌食になってもらうぞ?」
もう余計な入れ知恵はさせない!
追い詰めている!
決定的に!
「………わたしのうで!?ない!?」
衝撃が通り過ぎて痛みを認識できてなかったか!
腕という火力を奪った事よりも!
「………雪風………赤熱するガーネットが!?」
こっちの方が大きい!
右手に握った神刀!
右袖にあった宝石!
右腕ごとふっ飛ばした!
「シャラッ!」
至近距離で!
散弾を発射!
『綺羅星』!
「………っ!」
身体に届く前にワープされたか!
だが!
「………泉の水晶!?」
魔法少女が狼狽する!
身体各所の宝石を破壊されて!
永遠の宝石―――回復手段を破壊されて!
魔法少女の能力には!
ある特徴がある!
光学的干渉を無効化する強い鏡!
物理的干渉を無効化する小さな絶壁のドレス!
自らの価値を能力に上乗せする昏い愉悦の宝物!
そして全快の状態へ回復する永遠の宝石!
手鏡で七色念力光線を弾き返した!
白いドレス姿となった途端、光の体の特性を持つようになった!
全身の宝石が輝けば、あらゆるダメージを回復した!
宝物としての価値が、そのまま力となった!
全ての能力に由来となった物の名前が含まれる!
それこそが力の源!構成要素!
それを!
『凶』の威力で!
削り飛ばす!
それを全て破壊すれば!
能力は使えなくなる!
本来の七生魔法少女ズィーベンレーベンの設定を考えたのは俺!
当然知っている!
永遠の宝石を!
構成する全身の7つの宝石の配置を!
追い詰めている!
祈る程に!
このまま畳み掛ける!
ここからは速さとの勝負!
回復する暇も与えん!
右腕を根本から吹っ飛ばされて!
超高速飛翔する『綺羅星』が掠めて!
戦闘能力を落とした魔法少女を!
「狩り尽くすッ!」
「………ッ!ワープ!」
「遅い!」
痛みで!
動きに精彩を欠いている!
ワープの発動が遅い!
今の『凶』の追従性なら!
「………あああああああ!?」
常にない大声で意味のない言葉を叫ぶ魔法少女!
太ももごと!
刳り抜いてやった!
「残り3つ!」
スカート部の宝石は4つ!
片側の2つを一気にぶっ壊した!
追い詰めている!
一気呵成に!
ワープの発動が遅くなっても!
発動しさえすれば!
もう止めることはできない!
「逃すか!」
「………なっ!?ぐぅ!」
だが関係ない!
何処へ逃れようと!
「全方位攻撃!なんでもありじゃないか!」
ナーナが喚いた通り、『綺羅星』を360度にバラ撒いた!
広域にバラ撒けて引っ掛ける事を重視した以上!
通常使用と同じ密度を保つのは不可能だった!
密度は薄れ!疎となり!
目標が遠くなればなる程!
その脅威は薄れる!
………筈だった!
だが!
そうはならなかった!
この期に及んで!
俺の背面を取ろうとした故に!
至近距離で散弾を浴びる羽目になっていた!
避けようがない数の暴威!
もうスカートの宝石は全て破壊できた!
残すところは1つ!
胸部のみ!
追い詰めている!
気が狂いそうな程に!
「………シッ!」
血まみれになりながら!
短く持った桜花十文字で超接近戦を挑んでくる!
最早『凶』の操作性に!
最初の様な違和感はない!
そんな俺にとって!
魔法少女の選択は!
最悪の一手だ!
俺はもう接近戦にすら対応できる程この肉体に慣れている!
「これでぇ!終わりだあああっ!」
『凶』最強の一撃!
早贄で!
追い詰めている!
吸い込まれる様に!
巨大な杭の先端が!
その胸に届いた瞬間!
最後の宝石は砕け散り!
そして!
『凶』の肉体が!
『ヤマタイト』製の杭が!
霧が晴れる様に消え去った!
「………やっ、た!」
血まみれの凄惨な笑みで魔法少女が嗤う!
最初から最後まで!
魔法少女は、俺を追い詰めている!
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