シャーシャ、日本男子を信頼する
わたしの名前はシャーシャです。
ヤマトー様はごはんを食べたら
「シャーシャちゃん、この鏡を見てください」
と言ってさっきも見せてくれたカガミを出してくれました。
「今からシャーシャちゃんを、魔法で綺麗に変身させます」
土いじりをしても水あびさせてもらえなかったわたしをきれいに?
わたしはびっくりしてヤマトー様の顔を見るしかできませんでした。
ヤマトー様は背中の大きなふくろからいろんなものを出してくれました。
きれいな布。
見たことのないちっちゃい入れ物。
そして大きなとうめいなふくろに入ったたくさんのお湯。
どうやって持ってたのかわからないけど、たくさんのお湯が出てきました。
さわらせてもらってもやっぱりお湯でした。
出てきたお湯にびっくりしてると、服を着たままこのふくろの中に入るように言われました。
びくびくしながら足を入れて、ゆっくりと体をお湯の中に入れていきました。
温かいお湯が気持よくって、ぼーっとしてたらとつぜん音楽が聞こえてきました。
ヤマトー様が持っている、小さくてひらべったいので音を出してるみたいでした。
村で一度だけ見た旅芸人も楽器をならしていました。
でもヤマトー様の持ってる楽器は、フエともタイコともちがうきれいな音がしました。
なんでかヤマトー様が手をはなしても、楽器から音がなっていました。
ヤマトー様はたくさんのまほうの道具を持った、まほう使いさんだったみたいです。
ヤマトー様はわたしが音楽におどろいてる間に、たくさんのきれいな泡を作ってました。
わたしがびっくりして見ていると、手で大きな泡を作ってこっちにまで飛ばしてきました。
すごくきれいで近くまで飛んでくるのをずっと見ていました。
わたしがたくさんの泡によろこんでいると、ヤマトーさんはお湯の中から出てもいいと言いました。
ヤマトー様は私の手足や首を泡で洗い始めました。
ヤマトー様の手はやさしくて、洗ってもらうのがすごく気持ちよかったです。
足の指を洗ってもらってるとき、少しくすぐったくて笑っちゃいそうになりました。
今は服を着てるけど………体の方はどうやって洗うんだろうと思いました。
ヤマトー様は背中の洗い方を教えてくれて、服の下のところは自分で洗うように言いました。
そしてわたしが洗い終わるまで馬車の外に出て行きました。
ヤマトー様はわたしのはだかを見ないようにしてくれました。
汚いって言われていじめられてたわたしでも、女の子として大事にしてくれました。
ヤマトー様があんまり待たないように、いそいで服をぬいで体を洗ってから、また服を着ました。
「………ヤマトー様、終わりました」
ヤマトー様は戻ってくるとまたお湯の入ったふくろを取り出して、わたしの体についた泡を流してくれました。
泡を洗い流したわたしの体は、すごくきれいになってておどろきました。
まっ白で、つるつるの、すごくきれいなわたしの手!
これがまほうなんだって思いました。
「今から顔の洗い方を見せます。シャーシャちゃんも後で真似して下さい」
ヤマトー様をまねしてお湯をすくって顔をぬらして、泡を手にとって目をつむってゴシゴシして、またお湯をすくったら泡を落として、きれいな布で顔をふいてプハーってしておわり。
顔を洗ったらまるでわたしの顔はなにもついてないみたいにスッキリしてました。
そのままかみのけもヤマトー様が洗ってくれました。
シューシュみたいにお母さんに切ってもらえなくて、ずっとずっとのばしたかみのけ。
いつも汚いってシューシュにばかにされてた、大きらいなわたしのかみのけ。
やわらかいものが入った、とうめいなふくろをまくらにしてくれました。
まくらに頭をのせてねころんだら、ヤマトー様がゆっくりかみのけにお湯をかけてきました。
そしてかみのけをぬらし終わったらワシャワシャって頭をかいてくれました。
すごく気持ちいい………。
お湯に入って体はポカポカしてて。
やさしく頭をかいてもらって。
ヤマトー様もやさしくて。
体中から力がぬけて………。
………ふとももがあたたかい?
ザバーッ!
ヤマトー様はいきなり私の体にお湯をかけました。
力がぬけててわからなかったけど、もしかして?
今のって私………もしかして?
おしっこした?
でもヤマトー様はおこったりしませんでした。
そのまま何も言わないで、体を洗ったときみたいな泡を作ってました。
体を洗った泡よりもいいにおいがしました。
作った泡でかみのけを洗ってくれました。
わたしの長いかみのけを全部ていねいに。
たいへんだと思うのに全部ていねいに。
洗い終わったら、お湯で泡を何度も流してくれました。
ねころんでるわたしの顔に、お湯がかからないようにていねいに。
泡を流したら体を起こしてかみをふいてくれました。
大事なものをさわるみたいにていねいに。
ヤマトー様が洗ってくれたわたしのかみは、すごくいいにおいがしました。
ヤマトー様はそのまま、かみのけを切るって言ってくれました。
切るんだったらかみのけを洗うのは、切ってからしたら楽だと思いました。
わたしのかみのけが汚いから洗ったのかな?
後から聞いてみたら「髪の毛はよく濡らしておいた方が切りやすいんです」って教えてくれました。
そして「シャーシャちゃんは汚くなんかありませんよ」と言って頭をなでてくれました。
ヤマトー様は聞いたらなんでも教えてくれて、いつもやさしくしてくれます。
わたしはお母さんに、かみを切ってもらったことがありませんでした。
でもおかあさんがシューシュのかみを切るときは、ナイフでバッサリと切ってました。
ヤマトー様はナイフじゃない見たことのない道具を出しました。
チョキチョキって音がするふしぎな道具で、わたしのかみのけをちょっとずつ切りました。
ヤマトー様はかみのけを切るのも、やさしくしてくれました。
チョキチョキってされるのが気持ちよくて、わたしは眠たくなってきました。
うとうとしてる間にかみのけは切り終わってました。
わたしはヤマトー様から、きれいな布と新しい服をもらいました。
新しい服はすごくきれいで、サラサラしてて、ぜんぜんにおいもしない、今まで見たことがない服でした。
いつもシューシュが着て、ぼろぼろになった服しかもらえませんでした。
わたしは新しい服をはやく着たくて、いそいで体をふきました。
引っぱるとのびる、すごくやわらかい!
すごく着やすいきれいなチュニック!
こんなにいい服を着させてもらえるなんて、思ってませんでした!
シューシュもこんなにいい服は持ってませんでした!
でももう1つもらったちっちゃいのは、びよんびよんのびておもしろいけど、どこに着るのかわかりませんでした。
ふしぎな形をしてるけど、ほっかむりなのかな?
はやくヤマトー様に見てもらいたくて急いで呼びました!
「シャーシャちゃんはおしゃれさんですね。とても可愛いですよ」
かわいいって!新しい服をほめてもらえました!
「でもそれは頭じゃなく、お大事を守るものです」
けど頭にかぶったのはほっかむりじゃなくって、足にはく服だったらしいです。
いそいでほっかむりをはきました。
ヤマトー様は新しい服を着た私を見たら、大きなふくろから服を出しました。
それはヤマトー様が着てるふしぎな服とそっくりで、色だけちがってました。
まるで光ってるみたいに、きれいなまっ白な服でした。
その白色はすごくきれいで、まるで空のくもみたいでした。
白さにびっくりしてたら、ヤマトー様が出した服のすそをビーってちぎってしまいました。
なんでヤマトー様が自分の服をちぎっちゃうのか、わからなくて見てました。
ヤマトー様はちぎったそれを、わたしにはくように言いました。
ヤマトー様の足は長いから、わたしがはけるように自分の服をちぎっちゃったんだ!
私がこのくもみたいにきれいな服を着ていいんだ!
お父さんにどれいにされました。
お父さんにたたかれました。
お母さんにご飯を食べさせてもらえませんでした。
お母さんにかみのけを切ってもらえませんでした。
シューシュしか服を作ってもらえませんでした。
いつも汚いって言われていじめられてました。
「見て下さい。こんなに綺麗になりましたよ」
体を洗う前にも見せてもらったカガミを、もう一度見せてくれました。
「えっ、あ………」
すごくびっくりしました。
カガミの中のわたしは、さっき見たわたしとはちがってました。
とてもきれいなはだをしてて。
とてもきれいなかみをしてて。
とてもきれいな服を着てて。
とても幸せそうに笑ってて。
わたしは楽しくなって、何度もカガミの中のわたしを見ていました。
「君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて 苔のむすまで」
?
ヤマトー様がずっとなってた楽器の、音楽にあわせて歌いました。
すごくゆっくりしていて、やさしくて、ふしぎな歌でした。
歌は知らない言葉の歌でした。
ヤマトー様を見たらやさしく笑って教えてくれました。
「今のは僕の故郷の歌です。シャーシャちゃんの今の幸せが、1000年経ってもずっと時間が経っても、小さなものが大きくなって、岩に苔が生えてくるぐらいの時間が経っても、ずっとずっと続きます様に、という意味の歌です」
わたしはヤマトー様にだきつきました。
ヤマトー様はおこらずにだきしめてくれました。
もう村にいたときみたいに苦しくなったりしません!
もうわたしをいじめる声も聞こえません!
ヤマトー様がいたら平気です!
わたしが泣いたら、ヤマトー様はやさしく頭をなでて背中をさすってくれました。
ヤマトー様がいっしょにいてくれたらわたしはずっとずっと幸せです!
ヤマトー様は旅に出発しようとしてこまっていました。
わたしにはかせるくつがないみたいでした。
わたしは村にいたころからはだしだったし、そのぐらい大丈夫だと思いました。
でもヤマトー様はわたしのサンダルを作ってくれました。
サンダルのヒモがいたくないように、クツシタって服もたくさんくれました。
クツシタをはく時に足のつめを見たヤマトー様は、パチンパチンとつめを切ってくれました。
ボロボロだったわたしのつめは手も足もちっちゃくてまん丸のかわいいつめになりました。
クツシタはいっぱい重ねてはいたのに、ブカブカでした。
ブカブカなのを見たヤマトー様は、ペタンペタンってくつ下を折りたたみました。
「ミツォーリソッスを履いたのは、シャーシャちゃんが世界初かもしれませんね」
って言ってました。
クツシタはミツォーリソッスって名前みたいで、丸くてかわいかったです。
いっぱい重ねて折りたたんだミツォーリソッスで、サンダルのヒモもいたくありませんでした。
作ってもらったサンダルがうれしくて、わたしは走ったりとんだりしてみました。
石をふんでもいたくない!
すごい!
自分のサンダルによろこんでたら、ヤマトー様がわたしを呼びました。
ヤマトー様はサンダルに使ったヒモの、あまりを持っていました。
ヒモを何に使うのかわからなくて見上げると、ヤマトー様がしゃがみました。
そしてわたしのかみをていねいに集めていって、そのヒモでしばってくれました。
左のかみをしばったら、今度は右のかみをしばってくれました。
「うん。シャーシャちゃんの髪はきれいで明るい色をしているので、黒いリボンがよく似合ってかわいいですね」
ヤマトー様はそう言って笑って、わたしにカガミを見せてくれました。
シューシュがお母さんにリボンをもらって、かみをむすんでいたのを思い出しました。
わたしはいつもそれがうらやましかったです。
服はおさがりをもらったことがありました。
リボンをもらったことはありませんでした。
今、わたしの髪にはリボンが2つもついています。
このリボンはわたしの宝物です!
ヤマトー様は旅をしながら、わたしにいろんなことを教えてくれました。
小さな石ころを集めて、計算を教えてくれました。
きれいなペラペラを使って、文字を教えてくれました。
まちがったところは、やさしく教えてくれました
わからないところがあったら、何度も説明してくれました。
「シャーシャちゃんはとても賢いですね。学者さんにだってなれますよ」
ってほめてもらえました。
こんなにほめてもらったのは、生まれてはじめてでした。
ヤマトー様がほめてくれたら、なんでもわかる気がしました。
ヤマトー様はわたしの体も、すごく元気にしてくれました。
わたしのことをつかれるまで走らせました。
わたしは走るとすぐにつかれてしまいました。
すごくつかれて苦しかったけど、わたしをいじめてるんじゃないのがわかりました。
「体というのは頑張った後に休むと強くなるんです」
ヤマトー様はわたしがつかれたら、ぜったいに休ませてくれました。
お父さんはわたしにウソを言って、なぐって仕事をさせました。
でもヤマトー様が言うのは全部本当で、いっしょに走ってくれました。
大きなふくろをせおってるのに、いつも私より長く、私より早く走ってました。
ヤマトー様といっしょに走ってたら、だんだんいっぱい走れるようになってました。
「シャーシャちゃんはもうこんなに走れるぐらい元気になりましたね。シャーシャちゃんはどんな人よりもかけっこが速くなりますよ」
私が走れるようになると、2つの走り方をするようになりました。
長くゆっくり走るときは、スッハッスッハッて息をして、手を軽くふって。
短くはやく走るときは、いっぱい息を吸って、手を大きくふって。
どっちも体はまっすぐにして曲げないように。
顔も前をまっすぐ向いて、下を見ないように。
走るだけなのにやり方がちがってて、教えてもらった走り方をしたら早く走れました。
走るのとは別にキトレというのもしました。
ウデタテ、ケシィ、スカッツの3つを教えてもらいました。
走るのとちがってぜんぜん動かないのに、すごくつかれました。
1日に1つだけ10回やって、毎日順番に別のをやりました。
例えばウデタテは体をのばして地面にうでをついて、体が地面につかないようにうでで持ち上げる運動でした。
体がまっすぐになるように。
ひじが外に広がらないように。
自分のおへそを見るように。
できるようになるとうでをちょっと広げて同じことをしました。
ちょっと開いただけなのにすごくつかれました。
ケシィはヤマトー様がぼうをしっかり両手で持ってくれて、わたしがそれにぶらさがって手で体を持ち上げる運動でした。
背中をぐっ!とそらして。
空をまっすぐ見ながら。
10回やれるようになるとゆっくりやるように言われました。
ゆっくりやると今までできてたのにすごくつかれました。
でもケシィはヤマトー様にあそんでもらってるみたいで楽しかったです。
スカッツはおしりをつき出してしゃがむだけの運動でした。
しゃがむときにつま先より前にひざが出ないように。
下を見ないようにして。
ぐっ!とむねをはって。
できるようになるとこれもゆっくりやるようにしました。
ただしゃがむだけなのにすごくしんどかったです。
どれも10回だけなのにぜんぜんらくにやれるようにはなりませんでした。
つかれたし、すごく苦しかったけどがんばってやりました。
ヤマトー様もいっしょにやってくれたからです。
ケシィはぶら下がったわたしといっしょに、ぼうを持ち上げていっしょに運動してくれました。
「シャーシャちゃんはよく頑張っていますね。どんな大人の人よりも力持ちになれますよ」
がんばるとヤマトー様はいっぱいほめてくれました。
体をきたえる前と終わりにはいっしょにストレッチをします。
ストレッチは2人で体の色んなところをいっぱいのばします。
ヤマトー様の背中を押してストレッチを手伝いました。
ヤマトー様の背中はとても大きくてがんばって押しても全然動きませんでした。
2人でやるストレッチは楽しかったです。
「シャーシャちゃんの身体は柔らかいですね………いや、変な意味じゃなく。そういう人は運動が得意らしいです。シャーシャちゃんは体を動かす天才ですね」
やっぱりヤマトー様はたくさんほめてくれました。
すごくやさしくて、いろんなものをくれるヤマトー様。
わたしがどれいだって言ったら、すごくおこってちがうって言ってくれるヤマトー様。
いつもわたしのことを心配してくれて、だいじにしてくれるヤマトー様。
色んなことを教えてくれて、たくさんたくさんほめてくれるヤマトー様。
わからなかったり、まちがったりしたら、わかりやすく教えてくれるヤマトー様。
でもわたしにはまだ教えてほしいことがありました。
「………ヤマトー様」
「? どうかしましたか?」
ヤマトー様はしゃがんで、わたしに顔の高さを合わせてくれました。
「あの………わたしにも、お歌を教えてほしいです」
「お歌?」
「わたしをきれいにしてくれたときのお歌です」
「綺麗にした時………」
ヤマトー様は思い出してるのか、ちょっと考えこんでしまいました。
「………あの歌をか!!」
びっくり!
ヤマトー様が大きな声を出すのはめずらしいです。
「そう!そうか!あの歌を歌いたいんだな!」
ヤマトー様もはじめはびっくりしたみたいな顔をしてましたが、今はすごくうれしそうに笑っていました。
「シャーシャちゃん!君はなんて素晴らしいんだ!その聡明さは刮目すべきものだ!まだ幼いながらも既にその利発さは隠し切れていない!隠し切れない利発さは美しさとして滲み出てる!あぁシャーシャちゃん!まだ小さな君がここまで利口で美しいのなら、大人になったらどうなってしまうんだ!君は必ずや一角の人物となるに違いない!」
びっくり!
ヤマトー様はわたしをだきしめてたくさんたくさんほめてくれました。
うれしかったけど、それよりももっとびっくりしました。
すごくすごくびっくりしました。
わたしはお歌を教えてほしいって言っただけでした。
なのにこんなによろこんでもらえる?
ヤマトー様はまほう使いじゃなくて、詩人さんだったのかもしれません。
歌を教えるのがうれしいみたいです。
「「君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて 苔のむすまで」」
計算を教えてもらいながら。
文字を教えてもらいながら。
体をきたえてもらいながら。
そして、お歌を歌いながら、わたしはヤマトー様といっしょに旅をしています。
2人で大好きなキミガヨの歌を歌いながら。
あたしがずっと幸せでいられる歌を歌いながら。
16/07/16 投稿
16/08/05 文の微修正