日本男子、切り札を切る
18/4/21 投稿
俺は今、焦っていた。
光でできた体!
その特性1つで!
無敵であると言っていい!
剣で斬れない!
拳で殴れない!
炎で焼けない!
一切通じない!
そして!
こちらから干渉不能な癖に!
向こうからは干渉が可能!
しかも!
別の特性が更に手に負えない!
文字通りにとどまる事を知らないのだ!
『他人の不幸は蜜の味』!
他者の転落を喜ぶ昏い愉悦!
それを噛み締める程強くなる特性!
その能力に『宝物』と名付けられている!
コイツは自身の『宝物』としての価値が、相対的に高まる程に!
圧倒的に手を付けられない存在となる!
なおかつ!
ダイヤモンドを美しく輝かせる『ブリリアントカット』を!
冗談の様に簡略化した様な意匠をした、七色の宝石が!
永遠に活動できるエネルギーを与える!
魔法少女!
存在そのものが反則と言っていい!
俺は常に考えてきた!
魔法少女を!
仮想敵として想定した場合!
どうすれば撃破できるか、と!
………思いつくか?
この不正の!
不具合の!
塊と言っていい相手を下す方法を!
対物狙撃銃も!
核攻撃も!
魔法も!
聖剣も―――尤も、聖剣というのが、どういう特性の武器なのかは、よくわからないが!
まぁとにかく通用しない!
この世の!
ありとあらゆる攻撃が通用しない!
逆に向こうの攻撃は苛烈極まりない!
単純に振るった剣の全てが必殺の一撃!
そして特性上、ワープ移動すら可能!
避ける事も逃げる事も叶わない!
攻防に於いて無敵!
そんな埒外を下す!
試作戦闘素体『凶』!
それが俺の魔法少女対策の答えだ!
俺は魔法少女を倒す為に準備していた!
その準備の1つが衝撃反発ボディアーマーだ!
電磁気力を付与し、外力を弾き返す装甲材!
残念ながらより強力な『強い力』を操る、魔女の手によって破壊されたが!
この新素材!
衝撃を弾き返す以外に!
ある画期的な性質を持っている!
『新素材』なのだ!
………どういう事か?
全ては対魔法少女戦の為!
厄介なのは判明している攻撃方法は疎か!
将来的に、どんな能力を有し、どの様に強化発展するか?
その予測が困難であり、事前の対処が不可能な事にある!
これから生み出される、あらゆる攻撃にも耐えられる必要があった!
だからこそ最初から無敵として完成している必要がある!
ボディアーマーは、その前段階としての概念実証装備だ!
概念実証とは新たな試みが、実際に有効であるかを確認する事!
俺が確認していたものは只1つ!
『衝撃反発』の有効性?
違うな!
それは副次的なもので主題じゃない!
衝撃反発ボディアーマーの装甲材は!
その特性以上に!
既存の金属とは違うという事実の方が重要だった!
この世に存在しない!
全く新しいもの!
それが新素材!
新たに生み出せるのなら!
それがどんなものであるかを定義するのは俺の自由!
つまり、どんな特性でも思うがまま!
未来永劫!
永遠不滅!
永久不変!
あらゆる加工・変形が不可能で!
精製する事すら叶わない!
絶対にこの世に現出した時から変化しない!
あらゆる干渉が不可能な為!
『凶』に使用された『ヤマタイト』は!
逆説的に全て最初から都合のいい形でこの世に誕生した事になる!
石を目的の形に加工したのではなく!
石は最初から目的の形をして現れる!
そんな馬鹿げた特性でも設定できる!
だからこそ『新素材』を生み出せるか!
それを確認するのは最重要事項だった!
こうして『無敵鉱石ヤマタイト』は生まれた!
更に!
試作戦闘素体『凶』には無敵以外にも、対魔法少女対策が施されている!
即ち人間の限界を遥か超えた火力と機動力と運動性と追従性の徹底的向上だ!
光でできた体を持つ魔法少女!
その速さには物質的な制限がない!
例えば超高速で回避行動や攻撃を行った際!
慣性の法則で高負荷がかかり、体中の血液が体の末端に押しやられて、失神する等がない!
自在に超高速で戦闘が行え、ワープすら可能とする!
対魔法少女戦では、この人智を超越した領域に追従できる必要がある!
『凶』への変身はこの対策の一環だ!
『ヤマタイト』でボディを構成する事で、超高速戦闘への突入を可能とする!
しかし何より必要なのは!
魔法少女を倒し得るだけの『火力』の実現!
何せ魔法少女の体は光!
物理的手段で傷つけるのは、到底不可能!
だが『凶』なら!
『凶』の力はあまりに巨大で!
僅かでも動かせば、その場に留まる事すらできない!
だから!
会話で気を引きながら!
ゆっくりと指先だけを真っ直ぐ向ける!
「………うぇえええええ」
腹を貫かれて!
呻き声をあげる魔法少女!
「クフフフフフフ!手応えアリ!」
自在貫手!
『無敵鉱石ヤマタイト』製の指先を超高速で射出!
圧倒的エネルギーで目標を攻撃する!
「お前はもう無敵じゃない………お前を叩き潰す為の魔法が、今ここにある………!見たか知ったか覚えたか!」
魔法少女の顔が驚愕に歪む!
決して傷つけられる筈のない光の体を!
この俺の魔法が攻略した事に!
たちまち湧き上がる歓喜の念に打ち震える!
「………おあぅ………げべぇ」
その震えが圧倒的に増幅され!
魔法少女を貫いた指先が大きく動き!
その腹を真横に切り裂く!
血がぶち撒かれる!
有効!
『凶』は有効!
まともに動けず振り回されたときは、思わず悪態をついたが!
『凶』は圧倒的!
魔法少女如きは物の数でない!
「ど、どうやって今のシャーシャちゃんを!?今のシャーシャちゃんは、光でできた魔法少女なのに!?物理攻撃は効かない!光学的な干渉すらできない!なのになんで!?」
魔法少女の能力を知るナーナも目の前の光景に驚いている!
「ハハハハハ!俺は到達したんだ!」
答えてやろう!
今の俺は気分がいい!
そう!
物理的にも光学的にも!
干渉不能な無敵の光の肉体を!
どうやって攻略するか!
それが魔法少女の鍵!
「到達した?何に?」
「物理を!科学を!超越した先!」
「超越した先?………そんなものが?」
それが何であるか思い当たらずに眉をひそめるナーナ!
その方法を!
俺は考えに考え抜いて!
そして思い至った!
「オカルトだよ!オカルト!」
「オカルトォ!?」
「ハハハハハ!そうだ!現実を超える方法として!俺はオカルトを採用した!」
「な………バカな!」
既存の方法でどうにかする方法等、思い浮かばなかった!
到底不可能であると!
だからこそ!
満を持して今こそ!
「オカルト!神秘主義!それこそが俺の答えだ!」
「そんなメチャクチャなものを!?」
「だからいい!滅茶苦茶で!説明が付かないからこそ!魔法少女打倒が成る!」
「そんな………」
常識で考えても虚像を相手に!
光学的干渉が効かない時点で、干渉する方法等思い浮かばない!
だからこそ常識を捨てた!
「よく言うだろうが………困った時の神頼みとなぁ!ハハハハハ!昔の人は実に含蓄のある言葉を残したもんだ!ハハハハハハハ!」
自分の身体に魔法で擬似的に釘を打ち立て!
死の追体験を行い!
そして死を乗り越える!
自らを!
死という現実を乗り越えたもの!
超越者であるとして定義する!
その準備こそが辞世の句!
その結実こそが試作戦闘素体『凶』!
「気付かなかったか?『凶』のモチーフに?」
いい気になって説明してやろう!
「モチーフ?」
ナーナがオウム返しに答える!
「お前も思い至ったじゃないか、呪いだってな?」
「呪い?」
「全身に釘を打ち付けられ!人体を模した形!関節にあたる部分がくびれてて………ここまで言ってわからないか?」
「呪い………釘………人の形………人の形?くびれた人の形………ってまさか?」
そこまでつぶやいて、ナーナが思い当たったように表情を変える!
「さぁ、答えは何だ?」
「呪いの藁人形、なんだね」
「ご明察!今の俺は全身全てが呪殺の為の兵器!」
「鉱石でできた藁人形の鎧………とんだオカルトだね、お兄さん」
呆れた様なナーナの視線も気にならない!
このオカルトパワーは!
いうなれば『自然界第5の力』!
『呪力』!
『強い力』すら超越するこの力は!
光学的な干渉でも、物理的な干渉でもない!
よって魔法少女すら傷つける!
圧倒的高揚感!
圧倒的多幸感!
圧倒的全能感!
まぁ尤も!
その力が強すぎて、到底制御できなかったのには、随分と苛立たされたが!
とにかく入力と出力の結果がデタラメ!
ちょうどいい塩梅というのが全く存在しない!
「これがあればお前ごとき土人など!」
『凶《マガキ》』を持ち出した直後の事だった!
「さぁ見るがいい!この圧倒的」
足を踏み出そうとした瞬間!
「力の差ああああああああああ!」
ドップラー効果で叫び声を残し!
次の瞬間には真っ暗闇に包まれていた!
………何が起こったのか理解できなかった!
何せ俺は歩こうとした瞬間、天井にめり込んでいたからだ!
移動という動作は、蹴り足で地面を押し出す事で行われる!
この力が強くなるにつれ、歩く<走る<跳躍と結果が変わる!
つまり!力が強くなった今!
俺が移動しようと足を動かせば!
それは全て凄まじい大ジャンプとなるのだ!
当然理解が及ばなかった!
やろうとした事と!
起こった結果にあまりに乖離が有り過ぎたからだ!
突然真っ暗になった視界に動転し!
周囲を確認する為に身動ぎする!
その結果は辺り一帯を、無造作に薙ぎ払い破壊する事となった!
1の力を入力すれば!
1億の力となって出力される!
入力に対して遊びが無さ過ぎる!
車の運転に例えるならば!
ハンドルをほんの僅かにでも動かせば急ハンドル!
アクセルをほんの少しでも踏み込めばフルアクセル!
ブレーキをほんの少しでも踏み込めばフルブレーキ!
そんな滅茶苦茶な操作性!
安全運転とは程遠い!
暴走車となる事は必然!
そんな絶対に製品として成立しない車!
あまりにピーキー過ぎて、到底扱い切れない!
それがこの試作戦闘素体『凶』!
試作戦闘素体がどこまでも『試作』である所以!
この不自由なまでのパワーも!
この慣れない体のスケールも!
全てを含めての試作戦闘素体!
尤も!
完成してはならない!
コギト・エルゴ・スム!
我思う故に我有り!
だからこそ!
『凶』は決して完成してはならない!
「………永遠の宝石」
腹を引き裂いてやった魔法少女が!
全身から七色の輝きを放った!
その一瞬で!
魔法少女は無傷となっていた!
「チッ!………あの能力にはエネルギー生成の他に、自己再生能力まで含まれるのか」
『未来永劫に全力で活動できる能力』だったからな!
そこには回復も含まれるか!
「………ちょっとだけね、おどろいたの」
魔法少女が何でもなかったかの様に語りかけてきた!
「………今のね、わたしをね、攻撃できるなんて」
目を見開き!
涙と涎を垂れ流したままの、凄惨な表情でこちらを見る!
「………でもね」
三日月の様に!
「………わかったの」
口が引き裂かれ!
真っ赤な口内が露わになる!
「………シャッ!」
いくら俺が強くなったところで!
俺の認識速度そのものは変わっていない!
ゴン!
ゴン!
コン!
ココココココン!
一瞬!
認識した瞬間には!
金属床にぶつかって音を立てていた!
伸び切った指先を切り落とされていた!
「………『ヤマタイト』が変わらないなら」
魔法少女が油断なくこちらを見据える!
「………このゆびはね、どうやってね、のびたの?」
まさか?
もうその秘密に気付いたか?
「そうか!もしも全身が『ヤマタイト』なら、可動もできない!」
ナーナも『凶』を切り落とした絡繰に気付いた様だな?
「つまり関節部や可動部―――装甲の繋ぎ目が存在する!そこが弱点なんだ!」
まるで少年漫画の解説役みたいなセリフ回しだな!
「ハハハハハハハ!ご明察!」
手を叩いてやりたい気分だ!
まぁそんな事をすれば、途端に俺の体が吹っ飛んでくからやりはしないがな!
俺の体勢は未だに、指を伸ばした時のままだ!
「………なんでね、わらってるの?」
不服そうに魔法少女が睨んでくる!
………いい表情だ!
凄く唆られる!
「………シャッ!」
ゴン!
ゴン!
ゴンコココン!
さっきより!
重たい音が響いた!
右腕を肩先から切り落とされたのが見える!
「………これな、ら………?」
魔法少女が口をつぐんだ!
「え?どういうこと?」
ナーナもその光景に目を見開く!
「ハハハハハ!ハーハッハッハッハッハ!」
思わず笑いが漏れる!
圧倒する!
あの非常識な魔法少女を!
「………なん、で?」
「なんで」
「………「からだがないの?」」
2人が同時に口を開いた!
そう!
切り落とされた腕から!
一切血が流れることはない!
そこに俺の体はないのだから!
「………シャッ!」
再び!
今度は胴体を切り落とされた!
「外れだ」
だが!
場所の問題ではない!
「………そんな」
「どういうこと、なの?」
別に体を丸めて、胴体部に収まっていた訳ではない!
『凶』の何処を切り落とされても!
俺の体が傷つく事は決してない!
「お前達は鎧と呼んだが、『凶』は鎧じゃない」
余裕!
決して傷つけられないという余裕!
だから悠長に説明してやれる!
「『凶』は素体!魔法少女との戦闘を構成する、基礎部分にして最小単位!」
素体とは土台であり、ベースとなるもの!
「『凶』そのものが体!」
いくら切り落とされても問題ない!
「『凶』とは!只の『無敵鉱石ヤマタイト』の集合体を運用上!人型にしているだけのもの!」
本体はあくまで『ヤマタイト』!
「いくら結合部を断ち切られたところで!その戦闘力に何ら陰りはない!」
関節部が切り離されても、『凶』に影響はない!
「………え?」
「なら………?」
「ならなんだ?」
「お兄さんの体は………どこに、いったの?」
行き着いたか!
『凶』の本質に!
ならば答えをくれてやろう!
「消した!跡形もなく!」
「消し、た?」
「そうだ!『凶』で戦闘する以上、元の肉体は弱点となる!」
何故俺が?
超高速で戦闘を行っても失神しないのか?
その答えは単純!
「始末した!魔法少女!お前を葬り去る為に!」
苦労したぞ?
自らの肉体を脱ぎ捨てて?
全く勝手の違う肉体を手にするのは?
「………そこ、まで」
「そこまでしちゃったのか、お兄さんは………」
信じられないと言った様子の2人!
「言った筈だ!」
ふざけんな!
「よくもここまで俺を追い詰めたなと!」
使わざるを得ない状況に追い込んだのはお前だろうが!