魔法少女、日本男子に唖然とする
わたしの名前はズィーベンレーベン。この世界最高の宝物。
血まみれになって!
死んだみたいだったお兄ちゃんが!
目の前に立ってた!
背がたかかったお兄ちゃんが!
もっと大きくなった!
とがった鉄の棒がささったままで!
黒く光ってる大きなヨロイ!
「これがあればお前ごとき土人など!」
変身する前!
わたしはお兄ちゃんに勝てなかった!
波紋でぐえってされって!
魔法少女になって!
やっとお兄ちゃんに勝ったのに!
お兄ちゃんまでヒーローに変身したら!
「さぁ見るがいい!この圧倒的」
しゃべってるとちゅうで。
「力の差ああああああああああ!」
「………え、消えた?」
お兄ちゃんがいなくなった。
そしたら!
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
「………わっ!?」
おっきな音がした!
「天井が崩れてるよシャーシャちゃん!」
「………お兄ちゃんの攻撃?」
おっきな岩が、たくさんふってきた。
ズドドドドドドドドドドドド!
「………?」
でも。
わたしにはこんなのきかなかった。
わたしのからだは光。
どんなおっきな岩が当たっても。
わたしはいたくなかった。
「ぬわー!なんなのだー!」
「魔法使いのお姉さん?逃げないと危ないよ?」
ナーナちゃんが、あわててる魔法使いの人としゃべってた。
「わかったのだ!すたこらさっさ!」
なんであの人はあわててたのに、たのしそうなんだろ?
「あ、弓のお姉さんも連れてってってば!ゴミみたいに這いつくばって、ゲホゲホ言ってるだけで動かないんだからさー………行っちゃったよ」
あーあ。
ミミカカさん、ゴミみたいに置いてかれちゃった。
ふふふ。
「まぁ魔法使いのお姉さんじゃ、弓のお姉さんを連れてったら、いっしょに死んじゃうか」
魔法使いの人はヘロヘロだから、1人でもあぶなかった。
ミミカカさんをもってくなんてムリムリ。
「というわけで、生きたかったら自分でなんとかしてよ、お姉さん?ボクはなーんにもしないからさ」
「ぜぇ………はっ、たすっ、けっ」
「知らないし。なんでボクがそんなことしなきゃいけないのさ?」
「おっ、おねっ、がっ」
「うっとうしいなぁ。他人の善意をあてにしないでよ。世の中は弱肉強食で自然淘汰なんだからさ」
「はぁ、はぁ………」
「生きられる力がないんなら死んでよ。寄りかからないで。たからないで。群がらないで。それが当然でしょ?」
「あっ、アタシ、足が!足が!折られてて!だから!」
「だから知らないってば。ボクに助けなきゃいけない義務なんてないでしょ?」
「な、なんで」
「ならボクの自由意志の話でしょ?ボクは助けない。終わり」
「ひっ、ひっ、ひどい」
「世の中冷たいんだよ。こっちの助けが欲しかったときに助けてくれないくせに、一方的なこと言わないでよ」
うん。
だれもたすけてくれなかった。
なのに自分だけたすけてなんて。
なんでそんなこというの?
「がああああああああああああ!」
ズバアアアアアアアアアアン!
「………おっと?」
また上から岩がふってきた?
「あつかましいだけで、役に立たないお姉さんは置いておいて………お兄さんは何をしてるんだろ?」
「………あばれてる?」
お兄ちゃんがどなってあばれたら。
どんどん天井から岩が落ちてきた。
「お兄ちゃんはこっちを、生き埋めにするつもりなのかな?」
「………でも」
「そうだね。それで死ぬとしたら、そこのゴミお姉さんと、ボクぐらいだ」
「………うん」
わたしは岩がこわくなかった。
どれだけ岩がふってきても、当たらなかったし。
もし岩でここがうまっても、空を飛んでにげられたし。
ついでに息もしてなかったから、うまってもだいじょうぶだったし。
「じゃあ、お兄さんは何をやってるんだろ?」
「………わからない」
「目ぇ障りなぁんだよぉ!」
ゴオオオオオアアアアアアン!
お兄ちゃんが、鉄の床の上に立ってた!
お兄ちゃんと床がぶつかった音がした!
………なんで?
「クソが!」
お兄ちゃんが!
すごくイライラしてた!
「ぐあああああああああああああ!」
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
「………!」
「また!?またお兄さんが消えた?」
こんどはうしろから音がした!
「ああああああああああああああ!」
またどなってた!
「うざってぇえええええええ!」
またかべをどんどん壊してた!
「なにやってんの………お兄さん?」
「………」
さっきから。
ずっとまわりを壊してた。
なにをねらってたの?
考えなきゃ。
お兄ちゃんは考えてた。
わたしに勝てる方法を。
さっきも。
死んじゃったみたいにして。
あの黒いヨロイを準備してた。
ぜんぶは準備。
わたしをたおす準備。
だから考えなきゃ。
なんであばれてたの?
なんで天井を、かべを壊したの?
なんで岩をふらせてたの?
なんで?
なんで?
なんで?
「邪魔だッ!」
かべをどんどん壊して!
「だあああああああああああああ!」
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
ふりむいたら!
また逆のかべを壊してた!
「ぐおおおおおおおおおおおおお!」
「クソが!クソが!クソがあああ!」
「ざけんなああああああああああ!」
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
「………んー」
「どうしたの、シャーシャちゃん?」
「………やばい」
「やばい?」
「………まずい」
「まずい?………もしかしてシャーシャちゃん」
「………ん」
「お兄さんが何してんのかわかったの?」
「………ううん」
「あれ?」
「………わかんない」
「わかんないのかよ!肩透かしだよ!」
わかんない。
ぜんぜんわかんない。
「わかんないのに、何がまずいのさ?」
「………わかんないのがね、まずいの」
そう。
お兄ちゃんが何してるのかわかんないってことは。
「さっきお兄さんの変身を、止められなかったみたいに、今度もお兄さんのしようとしてることが止められないって訳か………たしかにそれはまずいね、シャーシャちゃんにとって」
「………うん」
それがわかったときには。
お兄ちゃんの準備がおわってた………ってことになる。
「………じゃま、しなきゃ」
よくわかんないけど。
思ったとおりにさせたらだめ。
とにかくじゃましないと。
「でも、シャーシャちゃん?」
「………なに?」
「どうやってさ」
「どうやって?」
「邪魔するつもりなの?」
「何故だ!何故だ!何故だぁっ!」
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
お兄ちゃんがまたぶつかってた。
かべがどんどんくずれてった。
「………」
そうだ。
こまった。
どうやってじゃまする?
1番さいしょ。
お兄ちゃんが天井にうまったとき。
わたしはお兄ちゃんが消えたと思った。
人は。
動きのさいしょを見れば。
それからなにをしてくるのかわかった。
パンチをするなら。
うでを引いて。
それからうでを出す。
だから。
今まで。
お兄ちゃんがなにをするのかわかってた。
なんでも切れるお兄ちゃんの剣。
とおくからでも切れたあの剣も。
どう剣を振るのかわかったらよけられた。
お兄ちゃんの攻撃で当たったのは。
『波紋』の魔法だけ。
あの魔法にも、攻撃の前に『動き』があると思ったのに。
ぜんぜん動かないまま攻撃してきたから。
わたしはわけがわからなかったまま殺された。
だけど。
これはちがう。
動きがないとかじゃなくて。
はやすぎて見えなかった。
………なんで?
なんでそれができるの?
なんでお兄ちゃんが、そんなはやさで動けたの?
お兄ちゃんはわたしとちがった。
わたしとちがって、光のからだじゃなかったのに。
それでそんなにはやく動いたら、血がおいてきぼりになっちゃう。
そうしたらあたまから血がなくなって、失神するはずなのに。
お兄ちゃんはどんな魔法を使ったの?
「チキショウがあああああああ!」
ゴオオオオオアアアアアアン!
お兄ちゃんがわたしの前にもどってきた!
かたいものがぶつかってひびく音がした!
「はぁ、はぁ、はぁ………ちっ!」
またどなって!
………そして!
ガアアアァァァンンン………!
「………え?」
さっきより、かるい音がした。
よくひびいて音がのこった。
こんどは岩はふってこなかった。
「クソ!クソ!クソがあああ!」
黒いヨロイのお兄ちゃんは。
わたしのからだより長い足を。
大きく上にあげて。
じめんにかおをぶつけてた。
「………」
「………」
「………もしかして?」
「うん」
お兄ちゃんを見たままナーナちゃんにいった。
「………ころんだの?」
「そうみたい、だね」
「う、ざっ………てええええええ!」
お兄ちゃんがまたどなった。
「………さっきからあばれてたのって」
「暴れてたんじゃなくて、体を思ったように動かせなかったのか」
「………そんなことってね、あるの?」
「例えばさ。ソール―――靴の底、カカトが高い靴を履くとね、階段を上がるときとか、よく段差に引っかかって転びそうになるよ」
「………なんで?」
「人の頭は、自分の体の大きさを覚えてるんだ。このぐらいの段差だったら、このぐらい足を上げたら越えられるってさ」
「………じゃあ、体のね、大きさが、変わったら?」
「足を同じように上げても、増えた分の高さが足りてなかったら、段差に引っかかるね」
「………このヨロイ、大きいよね」
「うん。それに、長さのバランスがおかしすぎる」
「………長さのバランス?」
「そう。単純に大きくなっただけでも、じゅーぶん動かしにくいと思うけど………足の長さが人してはありえないバランスになってるし。多分だけど、動かす感覚が違いすぎて………普通に歩くこともできないんじゃないかな」
「クソが!なめん………!」
お兄ちゃんがしゃべってたとちゅうでいなくなった。
ズバアアアアアアアアアアン!
ズドドドドドドドドドドドド!
「………わっ」
「うおっと」
また岩がふってきた。
「………んー」
「また埋まってるね………このさっきから壁とかにめり込んでたの、何かを狙ってたんじゃなくて………あの鎧の力が強すぎて、まともに動けないだけなんじゃないの?」
「………うん」
お兄ちゃんのヨロイは。
大きくて。
すごい力で。
………すっごくポンコツだった。
「クソ!こんな筈では………うわっ!」
「………やっぱり」
「動かせないみたいだね」
じめんに落ちてきたお兄ちゃんは。
すごくうるさい音をひびかせながら。
ジタバタゴロゴロしてた。
はやすぎてわからなかったけど。
天井に飛んでったり。
かべにぶつかったりしてたのは。
歩こう、動こうって思っただけで。
力が強すぎて、ジャンプしたみたいになってたみたい。
「だあああああああ!ピーキーすぎんだよクソ!」
なんどもなんども。
ころんだり。
とんでったり。
めりこんだり。
近づいてみたけど。
いっしょだった。
お兄ちゃんはうでをふろうとしたみたいだけど。
うでの力が強すぎて。
ブンってふりかぶったら。
そのまま後ろにたおれてた。
「………これなら」
「どうするの?」
「………動けないみたいだし、やっつける」
「そう。力は強いみたいだから気をつけてね、シャーシャちゃん」
ちょっと力を入れたら。
ぜんぜんちがうことをしちゃうお兄ちゃん。
それなら。
わたしがたおしてあげるね。
すぐそのヨロイをボコボコにして。
グチャグチャにしてあげるから。
わたしが世界で1番のたからものって。
これでお兄ちゃんもわかるでしょ?
「………シッ!」
神刀『雪風』を!
黒いヨロイにつきさした!
お兄ちゃんは動けない!
よけたり!
ふせいだり!
なにもできない!
『強い力』を使えるわたしが!
かんぺきな動きで!
かんぺきな強さで!
かんぺきなはやさで!
まっすぐ剣をつきさしたら!
ガギィイイイイイイン!
音が。
ひびいた。
長く。
ひびいた。
「………え?」
わたしの神刀が。
「………きかない?」
「あの速さでぶつかったものを弾いた!?シャーシャちゃんに限って、刃先がブレたなんてありえないのに?」
ささらなかった?
「ハッ!言ったはずだ!これは対魔法少女用の切り札だとな!」
動かないままお兄ちゃんがこたえた。
「お前の攻撃なんぞ効くものか!」
まさか!
「………ハッ!」
ありえない!
そんなのぜったいに!
「無駄だ!」
ガギィイイイイイイン!
「………チッ!また!?」
神刀が!
ささらない!
「………フッ!セッ!タッ!ヤッ!」
なんども!
なんども!
ちからをいれて!
おなじところに!
ぶつけまくった!
なのに!
神刀がささらない!
ちがう!
ささらないんじゃない!
きずもつかない!
「ハッハッハ!『無敵鉱石ヤマタイト』に!そんなものが通用するか!」
「………?」
「ん?」
お兄ちゃんが自信たっぷりにいった?
「………「ヤマタイト?」」
なに、それ?
そんなの知らない?
魔法少女になった?
日本国民になった?
わたしが知らない?
ナーナちゃんも知らない?
「未来永劫!永遠不変!永久不滅!それが『無敵鉱石ヤマタイト』!」
「………永遠?」
それって?
ぜったいこわれないってこと?
「この『凶』の守りは大磐石!恐れ慄け土人め!」
「ってちょっとなにそれ!」
ナーナちゃんが大きな声をだした?
「永遠不変?それって………精製も加工もできないじゃないか!」
「フンッ!気付いたか?」
「それでどうやってそんな鎧を作ったっていうのさ」
………そういえば!
石がほんとうに壊れないなら?
どうやってヨロイの形にしたの?
「義理はないが答えてやろう!」
もしかしたら!
あのヨロイの弱点がわかるかも!
「『無敵鉱石ヤマタイト』はその特性上、一切の変形が不可能だ」
「それで?」
ナーナちゃんがわけのわからないものを見る目をしてた。
「つまり『凶』に使われた『ヤマタイト』は、最初からこの形をしている!」
「は!?」
「『ヤマタイト』は汚れなき国防の意志が、高天原に届いた時、この世に現れる」
「は?」
「奇跡!無敵!新規!狂気!」
「は?」
「人の理解が及ばぬ高次から!地上に君臨する埒外!」
「は?」
「それを惜しみなく投入した完全規格外!それが『凶』」
「は?って言ってんだってば!聞いてよお兄さん!」
「知ったことか馬鹿め!」
「そんなトンデモ持ち出しておいて!人を馬鹿呼ばわりしたな!」
ナーナちゃんが怒ってた。
「それに」
「それに?」
―――!
「もう時間は稼いだ」
「なっ!?」
「………うぇえええええ」
な?
なん、で?
「わずかでも手足を動かせば、滅茶苦茶な力に振り回されて、身動きが取れなくなるとはいえ」
黒いヨロイ。
「指を動かすだけなら流石に、全身を振り回されるような事はないぞ?」
そのゆびが。
「自在貫手………いくら魔法少女でも、流石に無事ではいられまい?」
まっすぐのびて、わたしのおなかを突き刺してた。
からだが光でできてるだけで。
わたしにも血がながれてた。
光の血、ブリッツェン・ブルートが。
だから。
わたしだって。
ケガをしたら。
血が出た。
「クフフフフフフ!手応えアリ!」
でも。
なんで。
わたしの光のからだが。
きずついたの?
今のわたしに。
干渉できるわけが、ないのに。
「お前はもう無敵じゃない………お前を叩き潰す為の魔法が、今ここにある………!見たか知ったか覚えたか!」
あの、ヨロイ。
かたいだけじゃなくて。
わたしをたおせる、力があるの?
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