魔法少女、日本男子を理解する
イラスト有り
わたしの名前はズィーベンレーベン。この世界最高の宝物。
わたしは生まれ変わった。
魔法少女へと。
そしてわたしは知った。
毎日おいしいごはんを食べて。
毎日いろんな服を着て。
すごく頭がよくって。
なんでも作れる。
世界で1番幸せな人たち。
それが日本国民なんだって。
わたしは魔法少女になった。
だから日本国民になった。
魔法少女は日本国民だから。
わたしは世界で1番幸せな人になれた。
すごかった!
なんでもできるんだってわかった!
空だって飛べた!
わたしが本気でたたけばなんだって壊せた!
わたしにはなにも効かなかった!
これが魔法少女!
これが日本国民!
これなら!
これならわたしはしあわせになれる!
うれしかった!
もうだれもこわくなんかない!
もうだれもわたしをいじめたりできない!
わたしより強い人なんていない!
それがわかるようになったら!
どんどん力がわいてきた!
シャッツ・シャーデンフロイデ!
エーヴィヒ・エーデルシュタイン!
世界で1番!
わたしが1番!
これが魔法少女の力!
あのお兄ちゃんも!
今のわたしには勝てなかった!
「………器用だね、お兄ちゃんは」
「くぅ!うっ!くっ!はっ!」
そう。
お兄ちゃんはすごかった。
今のわたしの剣を防げるなんて。
「………磁力だけでね、わたしと戦えるなんて」
「!」
「………わたしのね、『強い力』にね、ちゃんとね、ついてくるの」
「ぐっ!?」
そう。
お兄ちゃんが使ってるのは磁力。
あんな弱い力を。
工夫して。
がんばって。
ちょっとだけだけど、わたしと戦えるなんて。
すごいすごい。
お兄ちゃんすごい。
ゴミみたいにぶっとんでったミミカカさんとはやっぱりちがう。
「………バリアもね、すごいの。熱さをね、かえるってね」
「このぉ!」
お兄ちゃんが使ってたバリア。
炎を炎じゃなくって、ただの熱さって考えて。
熱くしたり冷たくしたり。
そうやって消しちゃうなんて。
わたしみたいに『強い力』を使えるわけじゃないのに。
電磁気力とか重力とか。
あんなちっちゃな力で、あんなに戦えるなんて。
すごいすごい。
お兄ちゃんってほんとにすごい。
「………それに、魔法少女の体もね、すごいの」
「がぁっ!」
「………光でね、できた体ってね。わたしならね、考えられなかったの」
「なっ!」
「………これが魔法少女………これが日本国民」
光を使って。
体を作るなんて。
光を使って。
レーザー光線にするなんて。
そんなの知らなかった。
すごいすごい。
お兄ちゃんすごい。
………でも。
ダメだよお兄ちゃん。
ぜんぜんダメ。
わたしはもっとすごいんだから。
魔法少女になったからわかった。
日本国民になったからわかった。
わたしがどれだけ強いかわかった。
わたしのからだは光。
たたいても。
剣で切っても。
火で燃やしても。
光をあびせても。
なにもきかなかった。
疲れもしなかった。
慣性の法則だってきかなかった。
いくらでもはやく動かせた。
でもお兄ちゃんはそうじゃなかった。
ふつうのからだで。
そんなにはやく動かしたら。
ブチッ!
「ぐっ!?………ぐあああああああああああ!」
お兄ちゃんがさけんだ。
うでの肉が切れちゃったから。
「………ふふふ」
あぁ!
たのしい!
すごくたのしい!
「………あのね、お兄ちゃん」
すごいすごい。
お兄ちゃんすごい。
すごくいたそう。
「………だいじょうぶ?」
すごくいたそうだもんね?
いたいよね?
つらいよね?
かわいそうだよね?
………!
………ふ!
………ふふ!
………ふふふ!
うれしい!
すごくうれしい!
お兄ちゃんがいたそうで!
わたしすごくうれしい!
もうわたしはお兄ちゃんより強い!
だいじょうぶ、お兄ちゃん?
またムチでたたいてみる?
また波紋の魔法を使ってみる?
光のからだのわたしに?
ふひひひひひひひひひひひひひひ!
世界で!
わたしが!
だれより!
1番!
やった!
やった!!
これで!
わたしが思ったとおりにできる!
もうわたしのじゃまなんてさせない!
お兄ちゃんはもうなにもできない。
わたしはそう思ってた。
「人のよの 歩みはのろい 道半ば あな口惜しや あな口惜しや」
?
お兄ちゃんがなにかいった?
魔法?
でもなにもおこってなかった?
………わからない。
お兄ちゃんがなにをしたのか。
―――!
え?
なに、してるの?
お兄ちゃん?
かおが、グチャって?
からだも、つぶれて?
「………どうなった、の?」
血が。
たくさん、出てる。
「………死んだ、の?」
あの、お兄ちゃんが?
「ねぇ、シャーシャちゃん?」
「………ナーナちゃん?」
「封印って、なに?」
「………ふういん?」
なんのこと?
「あぁ、そっか。あのときシャーシャちゃんは『波紋』の魔法で………お兄さんが言ってたのさ」
「………お兄ちゃんが?」
「そう。『ついに封印が解けた』ってさ」
「………ふういんが?」
ナーナちゃんがまゆをぎゅっとして、しっぽをふらふらさせていった。
「『ついに』って言ったんだから、予測した結果のはずなのさ」
「………うん」
「ボクはてっきり、シャーシャちゃんが魔法少女になることかと思ってた」
「………うん」
「お兄さんの目的は、シャーシャちゃんを魔法少女にすることだったから」
「………ちがうの?」
「だって、ずっとぶちぶち言ってたしさ。お兄さんにとって魔法少女の発現は、想定外だって感じだった」
「………うん」
「そしてとうとう、自殺しちゃった」
「………やっぱり、死んじゃったの?」
「そうだね、辞世の句も残してたし」
「………じせいのくって?」
「日本国民はね、死ぬ時に俳句っていう詩を残すんだ」
「………はいく?うた?」
「そう。厳密に言うと季語はないから、俳句じゃなく川柳になるのかな?………まぁ、決まった文字数で、気の利いたことを言うのが風流なのさ」
「………ふうりゅう?」
よくわからない。
「言葉遊びが好きなのさ、ボクたち日本国民は」
「………なんていったの?」
「うーん。『人のよの 歩みはのろい 道半ば あな口惜しや あな口惜しや』ねぇ………。ゆっくりした結果がこれだよ!………って感じかな」
「………ふーん」
「ぜんぜんうまいことは言ってないね。掛詞とかもろくなものがないし」
「………かけことば?」
「同音異義語。同じ読み方でも、違う意味のある言葉を混ぜることで、詩の解釈に幅を持たせるってテクニックさ。かの大石内蔵助が残した句なんてカッコイイよ?『あらたのし 思ひは晴るる 身は捨つる 浮世の月に かかる雲なし』ってさ」
「………月にくもがなかったら、そんなにたのしいの?」
「まずこの人は、自分の王様を殺した相手を、仲間たちと敵討ちしてるんだ。その結果、自分たちが死刑になるのがわかっててもね」
「………自分が死ぬのに?」
「自分が死ぬのに、さ。忠臣の中の忠臣」
「………ふーん?」
わたしも1回死んだけど。
川みたいなところをながされて。
つめたくてさびしくてヤだったな。
あったかくなかったらヤだ。
「それでツキっていうのは、お空のあのお月さまと別に、尽き―――つまりは死ぬことも指してるんだよ。この人は主君の無念を晴らすという大忠義を果たして、死んでも悔いがない、まるでこのハッキリ映る月のように、晴れやかな気分だって言ったのさ。気が利いてるね」
「………ふーん」
「お兄さんの句にも、そういうところを期待したいんだけど………もうぜんぜんダメ。まったくもってノーセンス」
「………そうなの?」
「そうなの。『人のよ』ってところが『世』でも『余』でも………まぁ大した意味はないね。世間様も自分自身もゆっくりしてるから、目的を果たせなくって悔しー!超悔し―!………ってさ」
「………ふーん?」
「うーん。そう考えると、やっぱり封印ってのは魔法少女とは関係がないみたいだね。道半ばで悔しいんだから、お兄さんの目的は果たせてないんだ。っていうか、自分のことを『余』って………オォ、ジュニアハイスクールセカンッ!」
「………目的」
よくわからない感じのナーナちゃんはほっとく。
ナーナちゃんはよくこうなったから。
そんなことより。
お兄さんはなにをしたかったの?
わたしを魔法少女にするのが目的じゃなかったの?
ここのことも知ってるみたいだった。
ここにくる前から。
ここにはたからものがあるって。
………たからものは、わたしじゃないの?
「っていうか………『歩みはのろい』って何なんだろ?とりあえず当たり障りなく『鈍い』で訳したけどさ」
「………けど?なにかあるの?」
「ボクたち日本国民は『のろい』って聞いて最初に思いかべるのは別物だよ」
「………べつ?」
「『呪い』だよ」
「………のろい」
「むしろ、そっちの方が主題っぽい。ご丁寧に下の句に『あな』を2つ作ってるし」
「………あな?あながどうしたの?」
「呪いと関係のあるあなって言ったら『人を呪わば穴2つ』だよ」
「………なんなの、それ?」
「誰かのことを悪く思ったりしたら、結局自分のところに返ってきますよって意味のことわざさ。因果応報とかと近い感じかな?」
「………え?」
それまで。
ナーナちゃんのいうことは。
じぶんに関係がないことだと思ってた。
そんなことより。
なんでお兄ちゃんが死んだのか。
そっちのほうが気になった。
………だけど?
………それって?
「本懐を遂げず死ぬのが悔しいから呪ってやるってことかな?」
「………ううん」
「シャーシャちゃん?」
「………それだけじゃない」
「何かわかったの?」
「………うん。シャッツ・シャーデンフロイデなの」
「シャッツ・シャーデンフロイデ?………魔法少女の能力のこと?それがどうし………あ!」
「………うん」
ナーナちゃんもわかったみたい。
わたしの力、シャッツ・シャーデンフロイデは。
だれかがわたしより。
かわいそうになったら使える力。
それはつまり………。
「他人の不幸は蜜の味。他人を突き落とす事で力を得るその能力は………呪いと同じなのか」
「………うん」
「呪いと同じなら」
「………穴2つでしょ?」
「つまり………呪い返しがあるってことか」
「………のろいかえし?」
「人を呪うと巡り巡って、自分のところに返ってくる。それが呪い返し」
「………それだ」
わかった!
お兄ちゃんのいったことが!
「わかった?」
「………お兄ちゃんがいったのは、じせいのく、じゃない」
「辞世の句じゃない?ならなんなのさ?」
「………あれは」
のろいは返ってくる。
シャッツ・シャーデンフロイデでうばった力は。
のろいになって返ってくる。
………なら?
それはだれ?
のろいを返してくるのは、いったいだれ?
………なら?
あれは?
死んだんじゃない?
「あれはなんなのさ?」
「………魔法、なんだ」
それがわかったとき!
「気付くのが遅かったな」
「な!」
「………!」
お兄ちゃんの声がした!
「お前は1度死んだ」
死んだと思ったお兄ちゃんが!
「内蔵を全部破裂させてやった」
血をいっぱいながしながら。
「なのに生きてやがる」
生きてた。
「なんという不条理、不整合、不自然」
起き上がる!
「だから俺も使わさせてもらう」
笑ってる!
「同じ様に死を乗り越えて」
血がたくさんながれる!
「対魔法少女用」
いっぱい血を出して!
「お前を葬り去る為の魔法」
からだじゅう赤くなって!
「正真正銘の切り札だ」
ながれた血がかたまって!
「尤も未完成かつ、代償を背負う上に、到底制御不能という、とんでもねぇ欠陥品だがなぁ」
黒くなってく!
「よくもここまで俺を追い詰めたな!」
あれはまるで!
「ぶっ殺してやんよクソが!」
黒いヨロイ!
わたしが。
たてに3人いてもとどかない。
おおきな体。
黒くて。
かたそうな。
てらてら光るからだ。
まだ。
まだお兄ちゃんは。
本気じゃなかった。
わたしが魔法少女になったみたいに。
お兄ちゃんも変身したんだ。
「試作戦闘素体『凶』!」
世界中で1番の日本国民のなかでも。
1番強い。
ヒーローに。
18/4/7 投稿