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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の反逆
136/154

日本男子、追い詰める

 俺は今、対策していた。


 ()()を追い詰めた。

 回避不能な状態に追い込み。

 必殺の攻撃を浴びせる。


 ()()を討ち滅ぼすには、いくつもの対策が必要だ。

 酸素を必要とせず、ひたすらに焼き尽くす巨大な奇跡(ヴンダー)ヴルカーン

 落雷を意のままに操る無慈悲な(ブルタール)稲妻ブリッツ

 闇に包まれた生命を尽く奪い去る必滅(シュテルプリヒ)(シャッテン)

 どれも即死級の強力な魔法だ。


 だが俺には対抗手段があった。

 奇跡(ヴンダー)ヴルカーンを弾き返す無害化(サニタイジング)バリア。

 無慈悲な(ブルタール)稲妻ブリッツを受け付けないゴムソールを持つ安全靴。

 必滅(シュテルプリヒ)(シャッテン)を打ち消し去る七色念力光線。


 単純な魔法戦であれば、魔女相手でも遅れは取らない。

 それどころか、七色念力光線は光の特性上、目に見えたという事は、既に致命傷を与えている。

 魔女の使う必滅(シュテルプリヒ)シャッテンの弾速も速いとはいえ、目視可能な程度にとどまる。

 七色念力光線さえ発動できれば俺の勝ちだ。


 ただし七色念力光線レベルの魔法の発動にはラグがある。

 向こうの必滅(シュテルプリヒ)シャッテンも同様のラグがある。

 単純にお互いの魔法を発動させた場合、後出しで魔法の相殺が間に合う。

 俺達が正面切って戦う場合、相殺させずに必殺の一撃を叩き込む必要がある。


 しかし厄介な事に()()には、地面を滑るホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)がある。

 ()()がどんなに不安定な体勢でも、カバーが効いてしまう。

 回避を封じなければならない。


 磁力で四肢と衣服を固定し、重力で押さえつける、不動金縛りの魔法で拘束すればどうか?

 その拘束は間違いなく破られる。


 ()()はそのひ弱な外見とは、裏腹な力を発揮する。

 模擬戦でも散々と手を焼かされたものだ。

 それなりに筋力量のある俺ですら、力負けする程の圧倒的な力。


 ()()ホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)を駆使する。

 重力も電磁気力も知らないというのに。

 それらをないものの様に振る舞う。


 何故そんな真似ができるのか?

 ()()は『自然界の4つの力』の内、『強い力』を操るからだ。

 自然界の力というのは、4つ判明しているらしい。

 核に電気に重力磁力………ではないな。

 奇跡、神秘、真実、夢………でもない。


 ・重力

 ・電磁気力

 ・弱い力

 ・強い力

 この4つをして『自然界の4つの力』という。


 馴染みがあるのは無論、重力と電磁気力だろう。

 日常的な生活で感じる力は、殆どこの2つに限られるらしいし。

 ちなみに重力と電磁気力の力の大小関係はご存知だろうか?

 電磁気力>重力、となる。


 では、『弱い力』とは何か?

 そもそも何故この力が『弱い力』と呼ばれているのか?

 それは単純に、最も一般的な力である電磁気力より弱いからそう呼ばれているのだ。

 ………では、『強い力』とは?

 無論、電磁気力より強いからこそ『強い力』と呼ばれている。


 そう。

 ()()は無意識下でこの『強い力』を操れる。

 『自然界の4つの力』の内、最強の力を持つ『強い力』を。

 不動金縛りより、強力な力を発揮できる以上、拘束が叶わないのだ。


 では発想を切り替えて、逃げ場を奪うのはどうか?

 俺の分身体を作成して、包囲した上で全方位から飽和攻撃を仕掛ける。

 それは試す事すらはばかられる程の悪手だ。

 手に負えなくなる。


 そもそも。

 神刀の疑似神格、雪風を覚醒させたのも()()が先。

 俺はそれを模倣して3人娘を作り上げた、その上で自分の分身を作成した。


 それに疑似神格の作成以前に。

 ナーナを生み出したのも、この俺を生み出したのも。

 全てあの()()である可能性がある。

 分身作成のノウハウは、()()の方に一日の長があるのだ。


 しかも、生み出される分身とは、俺とは完全に別個の、独立した存在。

 いくら分身を増やしたところで、『俺』自身がやられれば、それで『俺』の認識は終わってしまう。

 しかし()()は違う。


 分身した場合、それらに()()本体との『差』があるかすら不明。

 そもそも『差』の有無に関わらず、()()の分身が増えた場合、その全てを倒す必要がある。

 もし、世界を捻じ曲げる力を持っているなら、脅威度が本体と分身で全く同じだからだ。


 意思・意識・認識・自我―――言い方は何でもいいが―――それらは、何に宿るのか?

 脳にか?

 それなら例えば、『目を閉じた人』を縦に真っ二つに割って、尚且つ左右が存命していたとして?

 その半身を別々の場所に運んだ場合、『目を閉じた人』が目を開けた時、見る景色はどうなるか?

 右半身の景色のみか?或いは左半身のか?もしくは両方のか?


 もし、完全に同一の存在が複製されれば、『意思』が宿るのはどちらだ?

 『意思』は1つなのか?複数なのか?

 もはや何を以て、本体と分身を、そう定義するのかすらわからん話だ。


 とりあえずわかっている事は。

 分身しても、数的優位は確保できず。

 脅威目標だけが増え。

 こちらの弱点は補えない。

 完全に同格の()()が量産されたりすれば、それが世界の終わりという事。


 条件が違いすぎる。

 そもそも分身の発想を与えない為。

 絶対に分身の事は、おくびにも出す訳にはいかない。


 ならば範囲攻撃はどうか?

 避け切れない程の密度で、逃げ切れない程の広域に攻撃する。

 俺の切り札の1つに、広域を薙ぎ払う、お誂え向きの魔法がある。

 有効そうに見えて、これも悪手だ。


 天ぷらを揚げる時、火の手が上がったら、水をかけてはいけない。

 天ぷら油の温度の関係上、かけた水は即座に気体となり、その体積を1700倍に爆発させるからだ。

 それが水蒸気爆発。

 そして、その水蒸気爆発を利用するのが、俺の魔法『北上』だ。


 北上は帝国海軍の巡洋艦だ。

 この船は雷撃能力に特化した艦として改装された。

 なんとこの北上はたった1隻で、40発もの魚雷を同時発射可能としている。

 これは1艦隊分の雷撃に相当する量となる。


 攻撃地点に、凄まじい熱量と大量の水を生成、即座に水蒸気爆発を起こす。

 更に吹き飛ばしたくない箇所の、温度まで制御する事で、攻撃範囲も調整する事ができる。

 爆発した水蒸気も、温度を下げれば、元の水に戻るからな。

 ただし、水浸しになるという被害は残るが。

 使用後の水の扱いを除けば、恐ろしく使い勝手のいい魔法である。


 だが、そんな魔法も()()には使えない。

 何故か?

 もし避けきれないなら、どう対応する?

 ………防ごうとするんじゃないか?


 水蒸気爆発を防ぐには?

 あの()()には、科学的知識等ない。

 温度を制御するより、もっと直情的な発想に至る筈だ。

 全周囲からの攻撃を、完全に遮断(シャットアウト)する様な。

 そんな無敵のバリアを発現させる恐れがある。


 もしそうなれば、必殺の七色念力光線ですら防がれる、という危惧すらある。

 何せあの()()が最初に見たバリアは、七色念力光線を防ぐ為の『国防障壁』。

 七生魔法少女ズィーベンレーベンの使ったバリアだ。


 ………俺が、魔法少女覚醒計画の為に用意した茶番。

 まさかこんなところで仇になるとはな。


 それでも()()がバリアを使っていないのは、使う必要がなかったからだ。

 今までは俺が無害化(サニタイジング)バリアの展開を担当してきた。

 それにホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)がある。

 自分で防ぐ必要がない以上、使う必要がなかった。

 だがもし、ここで必要性を与えてしまえば?


 自然界の力は、重力を除けば、殆ど電磁気力となる。

 電磁気力より『強い力』を本能的に操る()()

 最早、物理攻撃も届かなくなる。


 更には俺のバリアを見てきた以上、冷熱すら防ぎかねない。

 挙句、七色念力光線すら防ぐ事だろう。

 そうなればもう、殺す手段がなくなるのも同然。

 無敵の妄想要塞の完成だ。


 だからこそ。

 俺は一見、迂遠に見える手を選択した。




 切り裂く影の爪。

 磁力の反発力を利用した超高速の居合抜き、電磁加速抜刀。

 それらの連続攻撃で体制を崩し、魔法を発動できないように追い詰める。


 死中に活あり、相手に飛び込む事こそ、最も安全である。

 そう俺は教えたし、実感もしただろう。

 だから()()は俺の手が届かない、背面へ逃れる。

 ()()は反撃できない。

 俺の概念実証装備、衝撃反射素材製ボディアーマーが、全ての反撃を弾き返すからだ。


 ()()は魔法を感覚的に使う。

 科学知識なんてないからこそ、非常識な魔法、奇跡を体現し、世界を歪める。

 しかし、それは同時に()()の弱点でもある。


 ()()は寒くなればどうするか?

 手をすり合わせ、はぁーっと息を吹きかける。

 暑くなればどうするか?

 手で仰いでうだる事だろう。


 そう。

 いくら魔法が使えても、『熱』そのものを操るという発想はない。

 ましてや『火が操れる以上、涼む事ができる』とまでは考えが至らない。


 ならば。

 ()()は体勢を崩せば?

 必ず、直接体を動かす事で体勢を戻す。

 ホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)は、移動する為の魔法。

 『ホバー移動できる以上、いくら体勢を崩しても立て直せる』とは考えられないのだ。


 そして()()の魔法は()()()()()

 ()()は、ホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)と他の魔法を同時使用する。

 それでも、()()の魔法は()()()()()


 魔法を同時に展開できるのは、俺だけの特権。

 これは魔法の発動に、極度の集中が必要な為だ。

 2つの魔法を、同時に思い浮かべるなんて真似はできない。


 俺が同時に魔法を展開できるのは、発動した魔法の制御を切り離しているからできる芸当だ。

 普通の魔法使いは、制御を維持する。

 制御を離れた魔法は、存在を維持できず消滅するからだ。


 ()()は他の魔法と、ホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)を使える。

 これはホバー(エントコンメン)移動(エーアトボーデン)を、能動的な魔法と認識していない為だ。

 あくまで体を動かす事の延長線上と捉えている。

 ()()は普通に、1つの事しか考えていない。


 つまり!

 思考を塗り潰し!

 何も考えられない状況にまで追い込めば!

 ()()殺しは成る!


 その為の連続攻撃だ!

 対策を練られる前に!

 その体勢を崩す!

 ここで1歩先じた!


「その体勢ならばっ!必滅(シュテルプリヒ)(シャッテン)は使えまい!」

 弾ける閃光!目を焼き、視界を奪う!

 轟く轟音!耳を打ち、感覚を奪う!

 大音量を耳にすると、人の三半規管は狂い、まともに身動きできなくなる!

 閃光(フラッシュ)手榴弾(バン)と同じ原理だ!


 七色念力光線クラスの魔法には、発動に時間がかかる!

 そのタイムラグを埋める為に、敵を無力化する閃光と轟音を放ちカバーする!

 無害化(サニタイジング)バリアなしでは、瞬間的に抵抗力を奪われる!

 お前に防げるか、()()


「七色念力光線!」

 ()()は今!

 いじめられたガキの様に、無様に丸まり頭を守るばかり!

 死ねええええええええええ!




 無害化(サニタイジング)バリアで視界を確保し、霊探(レーダー)を展開している俺。

 直ぐに異変に気付いた。

 ()()()された。


 頭を守る()()の、その手にあったのは鏡だ。

 ()()は鏡の性質が、光の反射にあると、本能的に悟ったんだ。

 だからあらゆる物質を消滅させる膨大な熱量を。

 手鏡等飲み込む程の大きさの光を。

 鏡で弾き返しやがった。


「魔女め………そうやってお前は嘲笑うのかっ………!」

 それを確認した時点で、地面を蹴って真・自由落下(クーチュフーユ)で宙へ浮かぶ。

 そのまま構えを取る。


 構えには意味がある。

 例えばフェンシングの構えは、剣を突き出し半身になる。

 これは半身になる事で被弾面積を抑え、剣を盾にしつつ、素早く突きを出すという、意味がある。

 もし構える武器が斧だったとしたら、この構えは不適切だろう。

 振り被らなければ、最大の威力を発揮できないからだ。


 例えば剣道には『天の構え』或いは『火の構え』というものがある。

 これらは『上段の構え』の別名通り、剣を振り上げた状態を維持する。

 この構えは最速で斬り下ろし攻撃を放つ事ができる。

 逆にそれ以外のあらゆる剣の運びに向かない、超攻撃特化の構えだ。

 構えには必ず、理想とする戦い方があり、得意と不得意がある。


 多数の魔法を使いこなす俺が取る構え。

 それはこんな形になる。

 腹這いに寝転がった様な姿勢で宙に浮かび。

 直角に曲げた両手の先を相手へ向ける。


 腹這いの姿勢は被弾面積を最大限まで下げる為。

 移動は全て重力と磁力任せ。

 曲げた両手は放つ魔法に指向性を持たせる為―――機銃であり砲座の役目を果たす。

 徹底した機動戦の構えだ。


「シャーシャ殿!敵直上であります!」

 未だ視界不明瞭な様子の()()に助言が与えられた。

「ちっ、雪風め!アレも回収する必要があるというのに………余計な事を!」

 本来の雪風は、中国の手に渡った時点で、神威を失くしたというのに。

 今の雪風を手にしているのは、曲がりなりにも日本国民として判定されている。


 しかし。

 七色念力光線を防いだとなれば、攻め手に欠けるな。

「押し潰れろ!」

 試しに磁力で誘導させた大岩を、()()へ連続で落としてみる。


「………!」

 落下させた大岩の合間を、器用にすり抜ける()()の姿が見える。

 今のを見てる限り、やはり磁力の誘導は途中で切られているな。

 磁力以上の力を操っているのは確定か………全く厄介な。

 つまり遠距離からの誘導魔法は全て無効だ。


 そして今さっき、七色念力光線も無効化された。

 最高の弾速を誇る魔法が、だ。

 これ以外の魔法は直線的で、目視できる程度の速度に過ぎず、直撃を狙えない。


 つまり遠距離戦に活路はない。

 俺の戦闘スタイルと、最悪の相性と言っていい相手だ。

 なら格闘戦に活路はあるか?


 神刀・神通と長門をそれぞれの手に、逆手で持つ。

 高度を落とし、掠める様に()()と擦れ違う!

 ………難なく避けられたな。

 速度を維持し、そのまま離脱する。

 足を止めて乱打戦になれば、手数に押されて圧倒される羽目になるからな。


 最高速度を維持しながら、大きく旋回する。

 今度は交差前に『波紋の型』で、連続で斬撃を飛ばして牽制する。

 やはり予備動作がある攻撃では反応されるか。全く当たらん。

 交差する軌道から、戦闘機でいうバレルロールの様な機動で離脱。


 頼みの綱の神刀による攻撃も難なくかわされた。

 たかが『速い』程度では()()には届かん。

 この有様では影の爪も同様だろう。

 高重力で失神させる虚血循環停止ウツォメグータマキターレも、『強い力』で無効化されるだろう。

 バリアを覚えさせない為にも、他の魔法を使う訳にはいかない。


 俺の魔法が、全て通じない?




「ヒ」

 思わず声が漏れる。

「………お兄、ちゃん?」

 ()()が俺を見る。


「ヒヒ!ヒャーッハッハッハッハッ!」

 天鳥船(アマノトリフネ)を格納した大きな空洞に、俺の笑いがこだまする!

「そんな目で俺を見んなああああああッ!」

 ひとしきり笑って、()()を怒鳴り散らす!


「まだだ!」

 目を見開いて睥睨する!

「まだ終わっちゃいない!」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


18/2/10 投稿・誤字の修正

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