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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の反逆
133/154

日本男子、確認する

 俺は今、戦意を昂揚させていた。


「ナーナ~♪フフフフフン♪ナーナ~♪フフフフフン♪ナーナ~♪フフフフフフン♪フフフフーン♪」

 どこかで聞いた事のあるメロディで。

 孤独さを微塵も感じさせないsilhouetteで鼻歌を歌いながら。

 自分の名前を口ずさむ。


 本来、索敵行動中に自ら音を立てる等、言語道断。

 しかし気が緩んでいる様に見えても、彼女の索敵能力は高い。

 前衛として不足ないどころか、十分過ぎる働きで見敵(サーチアンド)必殺(デストロイ)していく。


 そんな彼女もまた、神刀を所有し、覚醒させた存在だ。

 その神刀に宿った疑似神格は五十鈴だと言っていた。

 五十鈴は哨戒能力を高めた、帝国海軍の巡洋艦だ。

 彼女の何かを見つける能力も、これに由来するものなのだろう。


 ナーナ。

 種族不詳の獣人。

 俺と同等と思われる知識を持ち。

 尚且つ俺と馬の合う奇遇な人物。


「シャーシャちゃーん」

「………なに?」

「ゲームしようよ」

「………なにするの?」


 そして。

 魔法少女のライバルで。

 魔法少女のマスコットでもある。


「バッファローゲームでもしよっか?」

「………どうやるの?」

「こうやって、あたまの横に、指で角を作ってさ」

「………こう?」

 って、何やってんだ?

 バッファローゲームって確か………。


 よくわかるバッファローゲーム!

 ①両手の人さし指を立てて、頭の横に付けて、角に見立てます

 ②相手に狙い定めて、頭から突進します

 ③突進された相手は、①の角がヒットしたかどうかで次のように叫びましょう

  ・乳首に直撃したら「バッファロー!」

  ・乳首周辺にヒットしたら「ニアバッファロー!」


 ………という、童貞からすれば信じられないゲームである。

 世のイケメン連中は、毎日バッファローゲームして遊んでるんだろうか?

 俺が王様になったら、世界中のイケメンを死刑にする法律作る。

 いつかイケメンになったら「バッファロー!」って言わせてやりたい。

 まぁそれはともかくナーナだ。




 彼女は一体何者なのか?

 神国の知識を持っている。

 しかし俺と同じ大和民族の様には見えない。

 実に安直なケモ耳とケモしっぽを標準装備している。


 生粋の日本人ではありえない。

 では彼女は、日本人の魂を継承して生まれ変わった者―――転生者なのか?

 ………それはどうだろう?

 俺はそうでないと思っている。

 彼女が転生者だとすると、ある情報に()()が発生するからだ。


 彼女の私服だ。

 転生者なのだとしたら何故、日本製の服を身に付けていたのか。

 その事が説明できなくなる。


 では俺と同じく転移者なのか?

 それはもっとありえない。

 現代日本に彼女がいたなら、一躍有名人だった事だろう。


 つまり。

 彼女は転生者でも、転移者でもない、という事になる。

 なら何者か?




 彼女の存在は、あまりにタイムリー過ぎた。

 それこそ、作為的なものを感じる程に。


 人の成長に必要なものとは何か?

 無論色々あるだろう。

 枚挙に暇がない程に。


 そんな成長の必要要素が、競争相手―――ライバルの存在だ。

 切磋琢磨し、互いを高め合う。

 勝ちたいという競争心が、自らをより高める。


 また同様に水先案内人、マスコットの存在も必要だ。

 特に新しい概念というものを、説明もなく理解できる訳がない。

 業務でも、新システムを導入する時には、十分かどうかはともかく、最初にレクチャーがあるものだろう?


 ライバル。

 かつマスコット。

 並外れた才能を持った相手のそれになるには、本人にも才能が要求される。

 そんな難しい注文をこなした。


 ナーナの所持する神刀が、名を冠した帝国海軍の軍艦、五十鈴。

 それもまた、作為めいたものを感じる要素のひとつだ。

 五十鈴は哨戒能力を強化された巡洋艦である。

 そして、五十鈴を特徴付ける、最大のエピソードが別にある。


 五十鈴の歴代艦長は、やたら有名人が多い。

 山本五十六に山口多聞辺りは、聞き覚えがないだろうか?

 そう、五十鈴は立身出世と縁が深い軍艦だ。

 軍艦を擬人化したゲームというのがいくつかあるが、そちらでも五十鈴にはそういう旨のセリフが用意されている様だ。


 探照灯を使った時に、神刀・五十鈴の能力は『栄光』と鑑定された。 

 祝福をもたらす能力。

 そう説明されていて、てっきり所有者本人に加護を与えるのかと思ったが。

 全てが見通せる様になれば、話は変わる。




 日本の知識まで有し。

 人嫌い、無口、無愛想。

 そんなダメ人間三冠王な俺が、ストレスを感じず、気安く会話できる。


 あざといと言っていいケモ耳とケモしっぽを有し。

 あどけなさは残るが、容姿は優れ。

 俺に好意を抱いている。


 ………あまりに都合が良すぎる。

 これを偶然と片付けてよいものか?

 いや、それはあまりに楽観的すぎる。

 なら当然、必然と思うべきだろう。


 彼女はそこらに転がっている様な、量産品ではない。

 明確なコンセプトを持って設計された、一品物(オーダーメイド)だ。

 なら、彼女を誰が()()したのか?


 人は、目指したい結果があるから、過程を積み上げる。

 つまり、ナーナという過程を辿った先で、()()()()()()()()()()

 その人物を特定できれば、ナーナの()()()が判明する。

 そしてその人物は当然、魔法の才能に満ち溢れている事が条件となる。

 具体的には、()()()()()()()()()()()の才能を。


 そう。

 唯一の()()()()()()()()()()()()()

 それがナーナだ。


 そして、疑似神格を発現できる人間の数は限られる。




 そもそも俺は、1つの使命を持っていた。

 帝国魔軍第一魔道士大隊所属である、特務少佐たる俺に与えられた軍務。

 即ち()()()()()の完成。


 ご存知だろうか?

 我等が帝都の防備は、魔術的観点から見て、極めて優れているという事を。

 帝都東京は、魔術都市東京と言い換えても問題ないぐらい、神秘主義(オカルティズム)を盛り込んだ、世界最新鋭の都市だ。


 天皇陛下がお住いあそばれるご皇居。

 ご皇居の在り処を地図で調べればすぐにわかる話だ。

 日本の要であるこの最重要施設は、周りを幾つものお寺に囲まれている。


 地図から他の要素を排除して考えれば、更にわかりやすいだろう。

 要するに周囲のお寺は、ご皇居を防衛する目的で配置されたものだ。

 ご皇居は、霊的要塞と言っていい立地条件を有する。


 ならば、周囲をお寺で囲めば、ご皇居が何処にあっても魔術的条件は同じとなるのか?

 そうはならない。

 ご皇居の在り処は、風水的に完成されているのだ。


 風水の知識は魔術師の初歩的な嗜みだ。

 だが風水を語る事が目的ではないので端的に語ろう。

 霊峰富士と秩父山から流れ出た、龍脈というエネルギーの終着点『龍穴』と一致する位置にご皇居は在る。

 所謂パワースポットというものだ。


 ………それがどうしたって?

 これだから魔術的才能に乏しい奴は。

 まぁ理解できないというのなら、別のものに置き換えて考えればいい。


 例えば会社は何故、銀行から借金をしてまで融資を得るのか?

 それは金があればあるほど、事業を発展させる事ができるからだ。


 例えば1万円で売れる物が、100円で買えるとしよう。

 だというのに、手持ちには千円しかない。

 こんな時、誰だってこう考えるだろう。

 買えるだけ買いたい。

 それこそ、()()()()()()、と。


 まぁ余りに簡略化しすぎているが、要は資金があるに越した事はないという話だ。

 財布に500円しか入ってないなら、牛丼屋にしか入れない。

 もし1000円なら?カレー屋でチーズのトッピングが頼めるな。


 2000円あったら?………うーむ。

 ………大きいカツが行けるな?

 シーフードは1度試してみたかったんだよなぁ。

 ………あぁ、最高のカレーのトッピングについて、どっぷり考え込んでしまった。


 要は他に打つ手がない、わるあがきなのか?

 様々な方法の中から選んだ、最善の一手なのか?

 選択肢が存在するかしないのかでは大違いだ。

 またその選択を、より効果的なものにできるのも強さだ。


 まぁそういう訳で、潤沢な資源は強力な武器だ。

 俺の魔法が多彩で強力なのも、精霊という資源が潤沢であるからだしな。

 帝都にも、その潤沢な魔術的エネルギーがある。


 そして俺の軍務とは、潤沢な資源の()()()を見つける事だ。

 潤沢な魔術的エネルギーを、より劇的に運用できる何かを見つける事。

 ()()()()()()()()()()()()()




 魔術的才能のある人間を。

 より強い力を行使できる存在。

 魔法少女へと覚醒させ。

 奇跡の力を発現させる。


 そしてその奇跡を。

 観察し。

 研究し。

 模倣し。

 改造し。

 運用する。


 魔法少女覚醒計画。

 その全ては神国日本の為に。

 俺はこの計画の実現の為に行動してきた。


 体を綺麗に洗い上げ。

 綺麗な衣服を施し。

 様々な食事を与え。

 できる限り丁寧に接し。


 夜に寂しくない様に。

 手を繋いで2人で横になり。

 喜ばれる様な御伽噺を聞かせ。

 夢に怯えて起き出す彼女を見守り。


 彼女を守る手段を考案し。

 彼女自身に力を付けさせ。

 彼女自身を優れた人間に鍛え上げ。


 彼女から信頼を得られる様に努力した。

 全ては信用させ、自発的に協力する様に仕向ける為。

 詐欺師の第一歩が、被害者の信頼を得る事なのと同じ理屈だ。

 俺はシャーシャの為に、全てを掛けた。


 俺がどういう人間なのかはわかるだろ?

 刹那的で。

 享楽的で。

 偽悪的で。

 人を人とも思わない、生粋のサディストだ。


 甚振るのが好きだ。

 無償の愛なんて信じられない。

 他者を圧倒し、超越する瞬間。

 ただその時だけに、多幸感を得る。


 町の兵士を虐殺し。

 村娘を甚振って遊び。

 町の住人を虐殺し。

 少女の足をへし折って平然としている。

 俺はそういう人間だ。


 そんな俺が、シャーシャだけは大事にする。

 それほど魔法少女覚醒計画は重要なのだ。

 その魔法少女覚醒計画の実現に貢献した、1番の要素は何か?


 競い合うライバルであり。

 導くマスコットであり。

 親友でもある存在。

 それがナーナだ。

 シャーシャの次に、大事な要素と言っていいだろう。


 ナーナの存在で。

 最も得したのは誰か?

 それは俺だろう。


 必要な要素を全て都合よくカバーするナーナ。

 当時は気付かなかったが。

 後から思い返せば、疑似神格3人娘が発現した時と、状況が似ている。

 誰かになんとかしてほしい、という他力本願な願いが。

 ナーナという疑似神格を作成した。




 俺は当初、そう考えていた。

 だがしかし。

 だがしかし。

 今になって気付く。


 この異世界という盤面を支配していたのは、本当に俺だったのか?

 その前提が崩れているのなら?

 思うがままに傍若無人に振る舞っていたつもりが?

 全ての行動を支配されていたのだとしたら?


 ()()()()()()()()()()

18/1/20 投稿

18/1/23 誤字の修正

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