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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の反逆
132/154

日本男子、確信する

 俺は今、真実を手にしていた。


 ダンジョンを先へ進む。

 曲がりくねった薄暗い道を、只ひたすらに進む。

 この先に何があるのか?


 ()()がある。




 俺はこの異世界に着いた当初は、何も考えていなかった。

 ただ状況に流されるまま行動し、力を奮っていた。

 しかし魔法の酷使で、頭痛がして伏せっていた時。

 今まで得られた知識の中から考えをまとめていた。


 中世程度の文化レベルを持つ異世界。

 しかし魔法という、神国日本の現代科学ですら太刀打ちできない、オーバーテクノロジーが存在する。

 そんないびつで。

 しかしありふれた、ラノベでおなじみの世界観。


 ………おかしいじゃないか?

 何故、()()()()しか発展していない?


 魔法。

 その陳腐で子供だましな言葉には、無限の可能性が秘められている。

 その威力は一言で言って、不可能すら可能にする。


 歴史の勉強でやっただろ?

 人は安価な動力を手にする事で、爆発的な技術の発展を成し遂げる。

 産業革命だ。


 かつてグララの事を、第1種永久機関であると例えたように。

 魔法と精霊は、無限に熱量を生み出す事ができる。

 それはつまり、動力だ。


 ………だというのに、技術が発展していない。

 実は気になって、望遠視力(メアリー)の魔法で、首都であると思われる国を偵察した事もある。

 街の大きさは変わったが、技術力にそこまで大きな差があるとは思えなかった。

 それどころか、動力以外にも、魔法を応用した形跡がない。


 無限の可能性を持つ魔法は、ごく小さな範囲でしか利用されていなかった。

 それは攻撃を目的とした火の魔法だったり。

 あるいは神の奇跡とやらを体現する回復の魔法だったり。

 もしくはプロのスポーツ選手の『スイッチ』の様に、身体能力を引き上げる魔法だったり。

 たかがその程度の事にしか利用されていない。


 何故だ?

 あまりに不自然だ。

 過ぎた技術があるというのに。

 まるで、()()()()()に、異世界は中世然としている。


 …………そういう事か。

 この異世界は作り物で。

 要は、()()()だ。


 所詮は都合のいい、妄想でしかない。

 ()()()()()で整えられた、箱庭の様な異世界。

 そこには『異世界ファンタジー』という単語からイメージされる通りの、異世界が広がっていた。

 中世然とした町並み。

 野蛮で粗野な人達。


 中世ヨーロッパで排泄物は、道端に投げ捨てられていたという。

 そしてその不衛生な環境が原因で、黒死病(ペスト)という大災害を招いている。

 しかし異世界は、その文化レベルの割に、妙に清潔だ。

 件の排泄物は、地方の小さな町でさえ、処理する仕組みが作られている。

 ますます作り物めいている。


 そうなると、周りの人間も怪しく見えてくる。

 ()()()()()()()()()()()

 ………哲学的ゾンビという概念がある。

 あるいは山本常朝の著書『葉隠』曰く、絡繰った人形。


 それらは人間と同じ姿を持ち、人間と同じ様に言葉を発する。

 だがゾンビであり、人形であるそれらは、自ら考える訳ではない。

 表面上人間の様に振る舞うだけで、実際に思考してはいない。


 オンラインゲームにおける(ノン)(プレイヤー)(キャラクター)の様なものだ。

 プレイヤーキャラクターと同じ様に、オンラインゲームの世界に存在しているが、実際は決められたパターンの通りに振る舞うだけ。

 もし、ショップの店員が話しかけられたなら、売買のイベントをこなす、という様に。


 さて。

 この『もし○○なら、△△する』というフレーズ。

 誰かさんの魔法そっくりじゃないか?

 この世界にただ1人の技術職、プログラマーであるこの俺、ヤマトー・カミュ・ホマレーの魔法に。


 この世界は。

 この俺が。

 脳内で生み出した。

 虚ろで空っぽな世界。


 そんな事を考えた。


 ………だが。

 いくら狂人であるとて。

 そこまで荒唐無稽な思考を、手放しで肯定した訳ではない。


 そこで俺は、今後の方針を定めた。

 1つは現状維持で、個人の戦闘能力向上を目指しつつ、自立と神国への帰還を目指す路線。

 もう1つは、この()()()()()()()()()()路線。


 そして俺は今、確信した。

 やはり、この世界は作り物だ、と。




 ダンジョンの攻略で早速、2つの成果があった。


 1つはミミカカが弓を手に入れた事。

 その弓は、コンパウンドボウと呼ばれる物だ。

 弓というと、しなった棒の両端に、弦が張られているのが、最も単純なモデルだろう。

 しかしコンパウンドボウはもっと複雑な構造をしている。


 複合材料を使用し、強度を上昇させる事で、小型でも強い力を発揮する。

 強い力を発揮するという事は、それだけ強い力を要求するという事でもある。

 しかし両端の滑車と、そこに結ばれたケーブルが、テコの原理で少ない力を増幅する。

 その結果、弓を引くのに力が要らず、安定した狙いを実現し、尚且つ高い威力を発揮する。

 コンパウンドボウは現代科学の技術を集めて作られた、人類最先端の弓である。


 そんな異世界に不釣り合いな弓が、ミミカカの手の中にある。

 ダンジョンの宝箱から見つけたからだ。

 てっきり宝箱を開ける時に、罠でも発動するかと思って退避したが、それは杞憂だった。

 国産のRPGでは、宝箱は無害な物の方が多いからだろうか?

 まぁ、それはさておき。


 ダンジョンには、誰が設置した訳でもないのに、宝箱が沸いて出るという。

 そして概ね、ダンジョンの難易度と、出現するお宝の内容は比例するらしい。

 これはどういう事か?


 埋没費用(サンクコスト)効果というものだろう。

 対価の法則と言い換えてもいい。

 要は、散々苦労したり、高い金を払ったりして得た物は、それだけありがたく感じる、という話だ。

 命からがら手に入れるダンジョンの宝物は、冒険者にとって価値があるのだ。


 ………なんでそれだけで宝物が出るんだって?

 そりゃ魔法の仕業だ。

 思い描いたイメージを現実にする魔法。

 特に必死である程、懸命である程、強力な像を結ぶ。


 これだけ危険な目に遭ったんだ。

 ならきっと、それに()()()()()()()()()()()()()()

 だから『危険に見合った宝が手に入る』事になる。

 俺に言わせればダンジョンとは、命を掛けた物質召喚の魔法を行う祭壇だ。


 その仮説を試すべく、ダンジョンに挑戦した。

 そして、見事ミミカカは『最高の弓』を手に入れた。

 小型で強力で扱いやすい、最新のコンパウンドボウを。

 ………少しおかしくないだろうか?


 ミミカカが宝で連想するのが、最高の弓なのはいい。

 才能の乏しいミミカカでは、神刀を覚醒できず。

 また、同じく神刀を持たないグララは、巨大でんでん太鼓という、唯一無二の専用武装を持っている。

 自分だけの強力な武器が欲しい、と思うのは道理だろう。


 だから『最高の弓』が出るのは必然だった。

 だがしかし。

 本来、フリルソックスデビルこと未開の野蛮人(アマゾネス)である、ミミカカが想像できる範囲の『最高』なら。

 せいぜい職人が素材から厳選して作った、最高の木だか鉄だかでできた弓になるのが精々の筈。


 それが出てきた『最高の弓』は、世界で俺1人しか知らない筈の、最新鋭の技術を投入された弓。

 明らかに「最高の弓』を作り出す魔法には、俺のイメージが介入している。




 そしてもう1つの成果だ。

 出てきた化物。

 ダンジョンというだけあって、モンスターは付き物だった。


 巨大な蛇だとか。

 巨大な蝙蝠だとか。

 巨大な蜥蜴だとか。


 ただ大きくなっただけの生き物。

 大きさ以外は全て目新しい要素のない相手だった。

 念の為に、露払いの2人が一瞬で殺した、死骸を切り裂いて、更にバラバラにする。

 だが、そこには何の発見もなかった。


 他には巨大な地蜘蛛だの、巨大なゴキブリだの、巨大な蛆と蝿だとか。巨大な虫の類。

 たしか金魚もそうだが、環境に拠って、成長する大きさが変わる。

 実際、大昔の地球には、70センチ級のトンボが飛び回っていたというし。

 最早、異世界ならではという事もない。

 こちらには目もくれずに立ち去った。


 ………まぁそれには、巨大ゴキブリを直視できなかったのもあるが。

 野生の生き物は普通群れを形成する。

 群れがした大量の糞に、大量のハエ類が群がる。

 そしてそれを狙って、捕食種の虫が集まる。


 結果、極めて狭い範囲に、虫がビッシリと密集している。

 その上に、どれも大きさがハンパじゃない。

 バスケットボールサイズの蜘蛛とかが、ワサワサやってくる。

 虫が好きでも嫌いでもない上に、バリアがあって安全な俺ですら、震える程の光景だ。


 もし虫が好きな人なら、壁一面にビッシリ張り付いた、コイツらを見ても平気なんだろうか?

 少なくとも虫の苦手な人に、ダンジョンは到底オススメできない。

 何かに反応して、アイツラが一斉に動き出すシーンを見たら。

 それもコッチに向かってきたりしたら、おしっこ漏らすか、発狂するかだろう。

 ………閑話休題。


 しかし。

 たった1つ。

 俺に新たな発見をもたらした化物がいる。


 ラミア。

 蛇女とも呼ばれる、典型的なモンスターだ。

 女の体の下半身部分から、巨大な蛇の尻尾が生えている、ギリシャ神話の化物。


 その蛇行運動による移動は、体重移動がスムーズで、洞窟の様な音が反響しやすい地形でも、無音で忍び寄る。

 また、上半身こそ女の形をしているが、大変な膂力の持ち主でもある。

 高い知能と両腕、膂力と静音性を活かし、積極的に夜襲をはじめとした、厭らしい手で襲いかかってくる。

 そんな危険度の高い化物だ。

 尤も危険性を発揮する事なく、2人の索敵に引っかかった時点で、即死させられていたが。


 しかし、そのラミアの死骸を解体した時は興奮した。

 『波紋徹し』の魔法で、皮膚を、肉を、丁寧に吹き飛ばす。

 世紀の発見をする考古学者とは、こんな高揚を味わうんだろうか。

 骨が剥き出しにしていく過程は、女の服を剥ぐより興奮したかもしれない。


 ………俺が生粋のサディストだから、興奮したのかって?

 違うな。死体なんか嬲っても、何も面白くない。

 強い感情を露わにし、反応するから嬉しいんだ。

 死体にその喜びはない。

 今回の興奮は、もっと知的な領域にあるものだ。


 脊椎動物。

 幾重にも連なった椎骨、つまりは背骨を持つ生物の総称だ。

 脊椎動物は5つの類からなる。


 即ち、

 ・魚類

 ・両生類

 ・爬虫類

 ・鳥類

 ・哺乳類

 だ。


 ………。

 ()()()()()()()

 俺が何に興奮したのかは、もうおわかりだろう。

 蛇女(ラミア)は一体全体、()()()()()()()()()()、だ。


 明らかに人に似通った背骨を持っている。

 尤も、人の背骨なんて見た事がないから、想像でしかなかったが。

 いっその事、適当な罪人(アメリカ人)でもバラしておけばよかったか?

 ………まぁそれはいい。


 背骨はあるが、足がない。

 足はないが、手はある。

 魚類亜門でもなければ、四足動物亜門でもない。

 コイツは一体何なんだ?


 四肢を持ち、翼を持つドラゴン。

 男の上半身に、馬の四肢を持つケンタウロス。

 人の肉体に、そのまま翼を持たせた魔人。


 ファンタジー世界のモンスターは、地球上の生物史に当てはまらない。

 地球に持って帰る事ができれば、学会にセンセーションを巻き起こす事間違い無し。

 そんな化物が、平気で存在してやがる。

 ()()()()()




 やはり確信した。

 この異世界は、()()だ。

 精神異常者の描いた夢。

 それがこの異世界。


 そして確信に至る毎に、()()()()()()()に近づく。

 プラナリアの()()はどっちだ?

 ()はどっちだ?


 俺はこれから。

 絶望的な戦いに挑まなければならない。


 プログラマー、神誉大和こと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()として。

 今こそ軍務を果たし、祖国へ凱旋する為に。

18/1/13 投稿

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