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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の反逆
131/154

記憶

 俺はどこにでもいる普通の人間だ。


 オフ会というものがある。

 ネット上の、オンラインの集まりを。

 オフラインで行う。

 だからオフ会。


 あれは2年前になるか?

 某オンラインゲームで。

 ごく、小規模なオフ会が開かれた。


 そのゲームはいわゆるMMORPGだった。

 外見のカスタマイズが割りと充実していて。

 何か暇つぶしになるゲームを探していた時に、新規参入向けへのキャンペーンを行っていた。

 そのバナーを見つけてプレイを始めた。


 特段面白いゲームというわけでもなかった。

 しかし面白くないゲームというわけでもなかった。

 惰性でプレイを続けるには悪くなかった。

 そんなゲームだった印象がある。

 ごく少量の課金だけ行い、プレイを続けていた。




 俺は剣士職の男キャラを使っていた。

 黒髪で。

 着流しを着ていて。

 刀を装備していた。

 剣士の中でも所謂サムライと呼ばれる。


 重装備ができず、前衛職の中では打たれ弱い。

 その代わりに攻撃性能が高い。

 純アタッカータイプの職業。


 このオンラインゲームには多分に漏れずクラン、という制度が存在した。

 冒険をともにする、最小の単位がパーティ。

 そのパーティの集まりがクラン、といったところだろうか。

 一応クランに所属する事で、得られる利点というものもあった。


 しかし俺は参加していなかった。

 リアル業務の関係上、休みが不定期で。

 プレイ時間も日によってバラつくからだ。


 大手ギルドはノルマがあったし。

 小さなギルドは人間関係が煩わしい。

 とてもクランに参加する気にはなれなかった。

 なので俺はソロプレイが多かった。


 しかし、人間1人でやれる事は限りがある。

 昔のゲームは自分1人で大軍を、自らの手足のように操れたと言うのに。

 今のゲームは自分1人では、自らの手足しか操れない。

 ゲームの進化が、収束の方向に向かっていると感じつつ。

 どんどんプレイそのものにも限界を感じつつあった。

 この手のゲームは、運営側が多人数プレイを推奨するからだ。


 人間関係が広ければ広いほど、課金の機会が増える。

 一緒にプレイする人間がいるというだけで、ログインする機会が増える。

 ログインする機会があれば、付き合いができる。


 一緒にあのガチャ回してみようぜ、だとか。

 一緒にプレイしてる奴が、少額の課金で強力なアイテムを手に入れた、だとか。

 そういう小さな誘惑が、課金の機会となる。


 例えば課金額が僅か100円だったとしても。

 それが100人いれば1万円。

 課金額が1万円のプレイヤーが100人いれば100万円。

 1万人だったなら1億円だ。


 時々、課金要素そのものを批判する、嫌儲け厨とかいうのがいる。

 全く愚かな事だ。

 ボランティアでもしろと?

 お前1人で好きなだけ、大好きなチャリティ活動でもしてろよ。


 人のやる事にいちいちいちいち、やれ間違ってる、こうした方がいい。

 全く気持ち悪い。

 お前はどこの誰で、何様なんだ。

 お前は絶対君主制の最上位者か。

 そうでないなら口出しするな、無関係の赤の他人がいちいちやかましい。


 こういう、『俺は貴重な意見を言ってやってる』と思い上がるバカが、一番嫌いだ。

 意見を言うぐらい、バカでもできる。

 多少ためになる意見であろうと、言うだけなら殆どの奴にできる。

 聞いてもいない『貴重なご意見』様は五月蝿いだけで、何一つありがたくもない。

 そんなにご立派な意見とやらを公表したいなら、ハードカバーの本にでも書き連ねて自費出版していろ。

 ………まぁそれは関係ない話だが。


 とりあえずソロプレイには肩身が狭いものだ。

 例えば、クエストの参加資格が2人以上のパーティのものなど典型だ。

 ある日こういうクエストの中で、報酬に欲しいものが入っているものが出た。

 さて困った。

 この為にサブ垢を作ってまでプレイする気はない。


 そこで他のソロプレイヤーに適当に声をかけた。

 俺と全く同じ理由で、困っている奴だっているだろう、と思ってのことだ。

 そしてそういう奴はもちろんいた。

 それが年の離れた俺の友人となる相手だった。




 そいつはですます口調でしゃべる女キャラだった。

 黒髪のポニーテールで着物。

 無論獲物は刀。

 俺が声を掛けた理由は、ソロプレイしているのを何度か見かけた事があったのと。

 何よりその和風な見た目に惹かれての事だった。


 別にお互い凄腕のプレイヤーという訳でじゃなく。

 それでいて同じ程度の育成具合だった。

 同じ職業なので欲しいものも似通っている。

 俺達は助け合える良いパートナーだった。


 話してみると、実に機械的な感じだった。

 とにかく聞いた事は、そのまま答えてくれた。

 会話が途切れないので、割りと根堀葉掘り聞いた気がする。

 そして電車の駅を2本の距離に住んでいる事がわかった。


 だから聞いてみたんだ。

「よかったら会ってみないかと」

 俺は人間関係が希薄で。

 学生時代には友達がいなくはなかったが、卒業してからは連絡すらも取らなくなった性質だ。

 適当に遊べる相手が欲しかった。


 ………あと、少し欲目もあった。

 俺の学生時代、ネットでは恋愛小説が流行っていた。

 痴漢から助けた事で芽生えた恋愛だとか。

 もしかしたら、このポニーテール侍との出会いも、恋愛の始まりかもしれないと。

 そんな、ネットゲオフ会に出る人間なら、誰もが1度は妄想するシチュエーション。


 俺はちょっと気合の入った服を着て、オフ会の待ち合わせ場所に、早足で出かけていった。




 道すがらいろんなことを考えた。


 美人だったらどうしよう?

 俺はナンパなんてしたことはない。

 どうしたらいい雰囲気というのは作れるのだろうか?


 不細工だったらどしよう?

 俺は面食いで、妥協なんてしたことはない。

 どうしたらいい雰囲気でフェードアウトできるのだろうか?


 ネカマだったらどうしよう?

 俺は純情で、弄んた奴を許したことはない。

 どうせそもそも弄ばれたこともないが。


 美人局だったらどうしよう?

 俺は小心者で、大金はもってきてはない。

 どうせなので携帯も身分証明書も置いてきた。


 いいことも悪いことも考えながら、集合場所に向かっていった。

 俺は5分早く目的地に着いたが、待ち合わせの相手らしき人物も既についていた。

 上下真っ黒の服を着ていると言っていたし、該当する人物は1人だった。


 黒いサラサラの髪。

 つり目がちで、パッチリした瞳。

 色白で、スラッとした体つき。

 どこからどう見ても美形で、20代前後。

 それだけならドストライク案件だった。


 惜しむらくは、機嫌が悪そうに引き結ばれた口元と。

 何よりも、勘違いしようがないぐらい、同性だった事。


 っていうかよく考えたら、相手は別に自分が女であるとは言ってない。

 ただ女のキャラを使い。

 ですます口調でしゃべってただけだ。

 関西圏なのでですます口調なのは珍しかったが。

 ただ丁寧に喋ったのを、性別を偽っているというのは、難癖に過ぎるだろう。


 気を取り直して声を掛けると、ゲームでのやりとりそのままだった。

 機械的に、事務的に聞かれた事に、丁寧な口調で答える。

 どこか精気のない顔つきが印象的だった。




 さて、待ち合わせてオフ会を開いたのはいいが。

 この後何をするかはノープランだった。

 そんな俺達はとりあえず、大きな家電製品店に入った。

 ウィンドウショッピングしつつ、会話をしていた。


 幸い、相手が答えを返してくれるので、会話が途切れる事はなかった。

 だが、相手からは何かを聞かれる事はなかった。

 そんな会話だったので、聞く事も当然減ってくる。


 店に並ぶゲームソフトを手にしたり。

 シリーズの続くアニメのロボットのプラモデルを手にしたり。

 それらを話題にしてみるが、これはお気に召さなかったようで、話が続かない。

 なので、個人的な話を掘り下げて聞いていく事になった。




 ………面食らった。

 彼は、聞けば聞くほど淡々と話してくれる。

 その口調の割りに、話の内容はヘビーだった。


 彼は父親と母親の3人家族だった。

 親が20代前半で生んだらしく、父親と母親が若いことが、彼の自慢だったらしい。

 父親は端的に見て、背が高い美形で。

 母親も端的に見て、髪の長い美形で。

 見目麗しい家族だったようだ。


 父親はその容姿に相応しい自信家で、自己評価の高い人間だったらしい。

 母親も似たようなものだとか。

 彼が小学校にあがる前後、彼の家族は幸せだったらしい。


 居間で一緒にテレビを見て。

 クイズ番組で盛り上がり。

 父親が多く答えてみせて。

 それを息子に『凄いだろ』と誇ってみせる。

 そんな恥ずかしいぐらい、どこにでもありそうな家庭だったそうだ。




 彼を取り巻く環境が一変したのは、小学校高学年に差し掛かったときだ。

 それまでは普通に友達がいて。

 お互いの家に行って、遊んだり、発売されたゲームの話題を共有したり。

 ごくありふれた小学生らしい生活を営んでいたらしい。


 しかし、ある日を堺に………というほどハッキリした日付はなかったらしいが。

 とにかく段々と友達と疎遠になっていったそうだ。

 ゲームの攻略と、アニメのストーリーにしか興味のない小学生だった彼には、何故そうなったのかわからなかったという。

 小学生にありがちな、理由のないいじめかと思って聞いていた。


 が、どうも思い違いだったらしい。

 ()()()()()()()()だった。

18/1/6 投稿・文章の修正

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