表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の確信
128/154

シャーシャ、日本男子を目指す

 わたしの名前はシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。


 てくてくてく。


 ナーナちゃんとわたし。

 ミミカカさんと魔法使いの人。

 お兄ちゃん。

 今、わたしはダンジョンの中を歩いてた。


 てくてくてく。


 わたしたちが前を歩いてた。

 お兄ちゃんはうしろ。

 ミミカカさんと魔法使いの人はそのあいだ。


 ナーナちゃんは目がよかった。

 わたしはシトーのユ・カッツェを持ってた。

 ユ・カッツェはレーダで、どこになにがあるか教えてくれた。

 それに、わたしはなにも持ってないのに、光を出せた。


 ダンジョンの中は、まっくらだった。

 ほかの人は、みんなたいまつを持ってた。

 だけど………。


「シャーシャちゃん?ユ・カッツェにタショートを照射するようにお願いしてみてください」

 タショート?

「………ユ・カッツェ?タショートして?」

 お兄ちゃんにいわれたとおりに、ユ・カッツェにおねがいしてみた。


「お安い御用であります、シャーシャ殿!タショート、照射!」

 ユ・カッツェがそう答えたら、わたしの向いてるほうに、光ができた。

「………これがね、タショート?」

「そうです。闇を切り裂き、この世に正義をもたらし、全てを照らし出す偉大な軍神の威光。それがタショートです」

 タショートはすごい光みたいだった。


 タショートがあれば、なにももってなくても、わたしの見たいものがなんでも見れた。

 ………()()()()

 それに前をあるく人は、敵がいたら1番に戦う人だった。

 まっくらなダンジョンの中でも、ちゃんと進めたし、ちゃんと戦えたから、わたしたちが前。


 でも、お兄ちゃんはうしろ。

 まっくらでもちゃんと進めたし、戦えたのに。

「集団の後尾は最も危険な位置です。背面の警戒を怠ると、後ろから奇襲を受け兼ねません」

 うしろからも敵がきたら、戦わなくちゃいけなかったんだ。

「なので後衛には、前衛の援護能力の他、警戒能力と近接戦闘能力を兼ね備えた、僕が殿を務めます」


 お兄ちゃんがうしろから、わたしたちを手伝ってくれるみたいだった。

 それに、うしろから敵がきても、お兄ちゃんなら1人だけでも、やっつけられた。

 だからお兄ちゃんはうしろ。


 弓が使えたミミカカさん。

 魔法が使えた?魔法使いの人。

 2人はまんなかで、わたしたちか、お兄ちゃんを手伝った。


 てくてくてく。


 わたしたちはダンジョンを進んだ。


「………」

「ねぇ、シャーシャちゃん」

 お兄ちゃんからもらった、カーミ―――キラキラの中にいるわたしを見ながら歩いてたら、ナーナちゃんがしゃべってきた。

「シャーシャちゃんって………何になるつもりなのかな?」

「………なにに?」

 よくわからなかったからわたしは、顔を上げてナーナちゃんを見た。


「だって、そんなにチラチラ、カーミを見てるからさ」

「………?」

「いや、シャーシャちゃんがというよりは………お兄さんか」

「………お兄ちゃん?」

「お兄さんはさ………シャーシャちゃんを何にするつもりなのかな?」

 ナーナちゃんが聞いてきた。


 お兄ちゃんがわたしをなににするのか?

 そんなの決まってた。


「………わたしはマホショージョになるの」

 わたしがカーミを見てるのはなんで?

 お兄ちゃんに言われたから。


「カーミを見てても、マホショージョにはなれないと思うけどさ」

 ナーナちゃんはこまったみたいな笑いかたをしてた。

「いや………由緒正しいマホショージョは、たしかにカーミで変身してたな」

 けど、すぐになにかに気づいたみたいな顔になった。


「そうか、それなら合ってるか」

「………わたしはマホショージョになるの。ぜったい、ぜったいに」

「そうみたいだね………よっと」

「………ん」


 ブルタール・ブリッツ!

 火燕!

 わたしたちにはシトーのレーダがあったから、敵がどこにいるのかわかった。

 だから出てきたらすぐやっつけた。


 さっきやっつけたのは、ヘビのバケモノだった。

 おっきなヘビの、あたまのところから、女の人の体が生えてた。

 ラミアって名前だってお兄ちゃんが言ってた。

 

 ラミアをやっつけたわたしは、すぐにカーミを出した。

 カーミの中のわたしが、手でサッサってやって、かみのけをなおした。

 その横にいたお兄ちゃんが、ラミアを見て笑ってたのが見えた。


 やっつけたラミアの皮とか、肉とかをとって、骨にしちゃうんだ。

 お兄ちゃんはよくそうやって。

 やっつけたバケモノを、バラバラにして遊んでた。


 ニホコクミで。

 ヒーロで。

 すごい神様みたいで。

 こわい悪魔みたいな人だった。




 お兄ちゃんはきれいだった。

 かみのけはサラサラだったし。

 ひげとかがはえてなかったし。

 手とか足とかツルツルしてた。

 背が大きくなかったら、大きなこどもみたいだった。


 だからお兄ちゃんは、よくバカにされた。

 さっきも町で、獣人の人たちにバカにされてた。

 ………バカだなって思った。

 

「「ていっ!」」

 ナーナちゃんがうしろからさわろうとしてきた、獣人の人たちをつかんで投げとばした。

 お兄ちゃんもうしろからさわろうとしてきた、獣人の人たちをつかんで投げとばした。

「「ごっ!」」

 ぴったり同じタイミングで、獣人の人たちをぶつけた2人。


 ナーナちゃんが口を大きく横に開いた、三日月みたいな笑い方をしてた。

 お兄ちゃんも口を大きく横に開いた、三日月みたいな笑い方をしてた。

 2人はニホコクミで。

 ちがったところもあったけど。

 そっくりなところも多かった。


「伏せぇっ!伏せっ!伏せっ!伏せっ!伏せっ!伏せっ!」

「いえぇ!あえぇ!いぃいいいいい!」

「アヒヒヒヒヒャハハハ!ハーウスッ!」

 ぐちゃぐちゃになった獣人の人を、ゴミみたいにけっとばしてた。


 お兄ちゃんは笑ってた。

 いつもつまらなさそうに、目をちっちゃくしてたお兄ちゃんが。

 すごい声で笑いながら。

 目をおっきくして、口をニヤって開いて。


 ………。

 わたしはできなかった。

 なにもできなかった。


「イッバッヒャッカという言葉があります」

「今後、この手の犬っころどもに、いちいち吠えられるのも煩わしいですからね」

「二度と目を合わせられない様に、この機会に躾けてやります」

 お兄ちゃんはこう言ってたのに。


「ほら、痛い目に遭いたくなかったら、仰向けになって腹を晒せよ?うまくできたら撫でてやるよ、オイ?」

 獣人の人を、バカにしたみたいに笑ってたお兄ちゃん。

 お兄ちゃんはなんて言ってた?


「シャーシャちゃん?」

 お兄ちゃんは言ってた。

 わたしを見てた。

 わたしに言ってた。


 なんでもできたお兄ちゃんが?

 なんでわたしに言ってきたの?

 そんなの決まってた!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 わたしはなに?

 わたしはマホショージョ。


 わたしはなに?

 わたしは新人類。


 わたしはなに?

 わたしは旧人類をやっつけるもの。


 わたしはなに?

 わたしはお兄ちゃんのたからもの。


 わたしはなんでたからものなの?

 わたしはお兄ちゃんの役に立ったから。


 役に立たなかったわたしはなんなの?

 ………。


 お兄ちゃんの。

 たからものじゃなかったら?


 お兄ちゃんの。

 なにかになれなかったら?


 わたしは、お兄ちゃんといっしょにいられなくなりたくなかった。


「シャーシャちゃん、必要な事だったんですよ」

 お兄ちゃんはやさしかった。

「言いましたよね、イッバッヒャッカって?」

 言われたことを守らなかったのに、わたしをたたかなかった。


「僕達はね、どーしよーもなく、なめられるんです」

「………」

 お兄ちゃんがわたしを見てた。


「僕はタッパこそあるものの、顔がどうしても子供に見えるみたいですね」

 お兄ちゃんがちょっと笑った。

「そして、シャーシャちゃんもナーナちゃんは、どーしよーもなく子供です」

 笑った顔でわたしを見てた。


「グララも、ミミカカも、女の人にしか見えません」

 名前を呼ばれたミミカカさんと、魔法使いの人がふりかえって、お兄ちゃんを見たのが見えた。

 あの後ダンジョンに入った。


 ぐちゃぐちゃになった獣人の人。

 笑いながらそれをやったお兄ちゃん。

 わたしたちはお兄ちゃんがこわくて、だまったまま歩いてた。


「ナーナちゃん、シャーシャちゃんが前。グララ、ミミカカはその次。俺が後ろだ」

 お兄ちゃんがだけがしゃべってた。


「うん」

「………うん」

「はい」

「わかったのだ」

 わたしたちは返事しただけだった。


「必要なことだったんです」

 お兄ちゃんがわたしのうしろでしゃべってた。

 わたしはふりかえらなかった。

 お兄ちゃんにわからないように、カーミを使って見てた。


 昔教えてもらった。

「シャーシャちゃん、カーミというのはとても便利なものです」

 せまいところなら、わたしはおとなよりもいっぱい動けるんだって教えてもらったとき。

 カーミの使い方も教えてもらった。


「例えばね、シャーシャちゃんを誰か怖い人が追いかけてるとします」

「………」

 たとえばの話だったけど、こわくてやだった。

「その怖い人は、自分がシャーシャちゃんを追いかけてるのを、シャーシャちゃんにバレてないと思ってます」

 手を前にたらしたお兄ちゃんが、わたしのうしろにまわった。

 うしろにまわった、お兄ちゃんをふりかえったわたし。


「もし、そんな状況で、シャーシャちゃんが振り向いて自分を見たら?」

 わたしがふりむいたときに、ぴったりお兄ちゃんが言った。

「追いかけてるのがバレたと思った怖い人は、もうのんびり追いかけたりなんてしません」

 お兄ちゃんがイタズラが成功したこどもみたいに笑った。

 

「僕が怖い人なら、走ってシャーシャちゃんを捕まえます」

 お兄ちゃんが手を伸ばしてきて、わたしの肩をつかんだ。

「シャーシャちゃん?気付かれてはいけませんよ?」

 肩をつかまれたから、うごけなかったわたしにお兄ちゃんが言った。


「準備ができていないまま、振り向いてはいけないんです。カーミを使いましょう」

 そしてわたしが持ってたカーミを指さした。

「シャーシャちゃん、カーミを開いてみてください」

 お兄ちゃんのいうとおり、カーミを開いた。

 カーミの中にわたしがいた。


「ちょっとカーミを動かしてみてください。カーミの中の景色が変わったでしょう?」

 カーミの中には、いろんなものが映っていた。

「じゃあ、カーミをうまく動かして、僕を映してみてください」

 わたしのうしろにいた、お兄ちゃんが映るようにした。


「カーミはね、振り向かなくても後ろが見えるんです。気付かれてはいけないとき、カーミをうまく使いましょう」

 カーミの中のお兄ちゃんが笑った。

「そして準備をしましょう」

「………じゅんび?」


「そう、準備です。例えば戦うとき、準備してないのはダメです。剣も抜いてない。寝転んだまま。そんな状態のまま、戦おうとしてはいけません」

 お兄ちゃんが手を広げてた。

「そのまま戦いになる前に時間を稼ぎましょう。相手が興味を持つ話題を振ってみるのもいいでしょう。相手の後ろを見て、あっと言ってみるのもいいかもしれません。とにかく準備をしましょう」

 話しながら、わたしのうしろを指さしてたのが見えた。


「もっと言うなら、戦う準備じゃなく、勝つ準備をしましょう」

「………勝つじゅんび?」

「もしも相手が自分より強かったら?剣を抜いても勝てませんよね?剣を抜くのは戦う準備ですが、勝てる準備ではありません」

 そのときのわたしはマホショージョじゃなかったから、まだ勝てない人もいた。


「もしも側に僕がいなかったら、僕と合流したり、戦って勝てないのなら、逃げる方法を考えたり。とにかく準備をするんです」

「………じゅんび」

「いきなりはいけません。いきなりは失敗してしまいますからね」

 わたしはカーミでお兄ちゃんを見ながら、その話を聞いてた。


「僕達は不当に侮られるんです。だから、力を示す必要があります」

 今もわたしはカーミでお兄ちゃんを見てた。

「力のない者は、一方的に奪われます。強者の理論の前に、弱者は平伏すしかありません」

 お兄ちゃんが楽しそうな顔をしてるのが見えた。


「奪われない為には、強者であるしかありません。何者にも奪わせないだけの、力を示すのです」

 そしてお兄ちゃんの顔がゆっくり動いた!

「ね、シャーシャちゃん?」

 カーミの中のお兄ちゃんが、まっすぐわたしを見てた!


 準備をしなきゃいけなかったのに!

 わたしはなにも準備できてなかった!


 わたしはマホショージョ。

 わたしは新人類。

 わたしは旧人類をやっつける。

 わたしはお兄ちゃんのたからもの。


 いきなりじゃ、できない。

 たからものに、なれない。

 旧人類をやっつける。

 準備をしなくちゃ。


 なんでお兄ちゃんはあのとき、わたしの名前を呼んだの?

 あれは準備だったんだ。

 ()()()()()()()()()()()を使う準備。


 いきなりはダメだって。

 失敗するかもしれなかったから。

 だから試したんだ。

 ()()()()()()()()()()()が、ちゃんと使えたのかを。


 わたしは失敗した。

 まだ準備だからよかった。

 でも、準備が終わったら?

 お兄ちゃんが、旧人類に勝つ準備が終わったら?


 わたしはマホショージョで。

 お兄ちゃんのたからもの。




 シトーがタショートを使ってから。

 わたしは見えるものが増えた。

 カーミの中のお兄ちゃんの()()を見た。


 【ヤマトー・カミュ・ホマレー】

 死ぬまでに殺せる人数:∞

 ●近接格闘(入門)

 ●魔法(熟達)

 ●飛行(習熟)

 ●ヒーロ(入門)

 ●未来予測(習熟)

 ●シトー『イカーチ』の加護

  ●救助

 ●シトー『ジツー』の加護

  ●正義

 ●シトー『ナート』の加護

  ●誇り

 ●精霊レーダ

 ●神託

 ●ニホコクミ(達人)

 ●実装者(習熟)


 ()()には、お兄ちゃんの強さが書いてあった。


 剣を使うのがへたなのはわかってた。

 どんなにかたいもの、大きなものでも切れたけど。

 剣を使った戦いなら、わたしはぜったいに勝てた。

 お兄ちゃんの強さは、剣じゃなかった。


 ●魔法(熟達)

 精霊を利用した超自然現象。それが魔法。

 魔法に関する包括的な能力。魔法の使用にプラス補正。

 思うがままの魔法を行使できる程度の熟練具合。


 ●ヒーロ(入門)

 憧れ。正義。無限の可能性。それがヒーロ。

 物理・魔法を問わず、圧倒的な戦闘力を発揮する。魔法の使用に極大のプラス補正。

 単騎で世界の命運を揺るがす程度の熟練具合。


 ●救助(シトー『イカーチ』の加護)

 生命を救い出す能力。


 ●正義(シトー『ジツー』の加護)

 物理的障害を粉砕する能力。


 ●誇り(シトー『ナート』の加護)

 邪悪を退ける能力。


 ●ニホコクミ(達人)

 進化した新人類。それがニホコクミ。

 生来的・後天的にニホコクミである事を示す能力。魔法の使用に極大のプラス補正。

 新秩序を構築する程度の状態。


 ●実装者(習熟)

 世界のルールを定義し、設ける者。それが実装者。

 特別な技術を持つ事を示す能力。魔法の使用に極大のプラス補正。

 世界に干渉する程度の能力。


 剣なんか、関係なかった。


 ニホコクミで。

 ヒーロで。

 すごい神様みたいで。

 こわい悪魔みたいな人だった。


17/12/23 投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ