日本男子、目指す
俺は今、観察していた。
どいつも、こいつも………。
全く安っぽいな。
無論、門番の話だ。
まるで時代劇かラノベのチンピラの如く。
こっちを下と見るや、直ぐに足元を見てくる。
前の町にもいたし、こっちの町にも居た。
しかもこれから先も出る見込み。
全くウンザリする話だ。
なんでこれから先も出ると思ったのかって?
頭の悪い奴がいきがるのは、古今東西いっしょだろ?
例えば歴史を紐解けば白人は何をしただろうか?
大型船を作れる様になった途端。
諸外国を侵略し、植民地支配した。
原住民の権利など一切認めない。
白人サマにとって、有色人種は人間ではないのだ。
おそらくこの考えは、彼等の信仰する宗教に大きな原因がある。
本物の神を頂点に置く。我等日本人からすれば全くわからない感覚だが。
彼等は偽りの神を崇め、その教えを絶対無二のものとし、現実を否定する。
彼等にとって普遍的な常識とは、聖書に教えに基づくのだ。
特にわかりやすいのは、天動説とID説の辺りだろう。
奴らの聖書には『神は大地を固定した』だかそういう記述があるらしい。
聖書にこう書かれている以上、地動説等というものを信じる奴は異端者だ。
裁判にかけて殺してよし。
こんな事を当たり前と思う、ホンモノのキチガイ連中だ。
或いはID説こと、インテリジェンス・デザイン説。
要は人類を作り上げたのは、知恵ある者、即ち神である、という説だ。
この説の根拠?
そんなもんあのキチガイ連中の大好きな聖書に決まってるじゃないか。
聖書曰く、人は神をかたどって作られたのだそうだ。
なのでヒトがサルから進化した等ありえない。
どれほど根拠があろうとおかしい。
聖書に書いてある事が真実で、現実は虚構なのだ。
全くもって度し難いと思わないか?
思わない?
………キチガイが。
まぁお前らキチガイ共………白人共は、この通り聖書の教えを基準とする。
そして聖書には、食事がどう書かれているかご存知だろうか?
かの宗教は、他の宗教に比べ、食事の制限が緩い事で有名だ。
厳密には飲酒・断食に関する規定もあるらしいが、しかしイスラム教等の、厳しい食事制限のものではない。
その心は、ヒエラルキーにある。
先程述べた通り、人は神が直接作った特別なものだとか、聖書に書かれている。
挙句の果てに『生きて動いているものは全て食糧にするがいい』とまで書かれている。
要は人間は上位者であり、それ以外の動植物は、全て下位者であると、キチガイの神は定義している。
よって、いくらでも食い物にしていい。
豚や牛が神聖な生き物という事がない以上、彼等は敬うという心を知らない。
人間―――つまりは自分が最上位者。
他の全ては食い物。
それが常識。
………そんな人間が力を持ち、世界中に解き放たれた。
そんな悪夢の時代が、大航海時代だ。
神様はおっしゃいました。
『生きて動いているものは全て食糧にするがいい』と。
新天地に済む原住民達。
彼等は神の定めた食い物なのだ。
物心ともに豊かで、目で見て耳で聞く事のできる、確固たる本物の神を持つ我等日本人にはわからない事だが。
重ねていうが、根拠の全くない聖書は、彼等にとって常識だ。
判断基準は曖昧模糊な神の教え。
宗教という価値観で判断する。
片や現実を否定し、真実の探求者を魔女と呼び迫害した。
片や神の教えを絶対とし、テロを引き起こし世界に混乱を招いた。
宗教というのが害悪なのは、誰だってわかるだろう?
ちなみに世界各地でテロを引き起こす狂信者の教えはご存知だろうか?
死後、天国に行くと、72人の処女とセックスし放題だそうだ。くっ!
なんでもかの聖書の教えを貫徹したら、その天国とやらに行けるらしい。
つまりテロを犯し、殉教した過激派の連中は、全て処女厨な訳だ。
死後の世界とやらがあるかどうか、俺からすれば保証のない空手形も当然なんだが………。
キチガイ共にとって、聖書は常識であり、宗教が判断基準だからな。
彼等は狂った正義を振りかざして死後、天国へ女を犯しに行くんだろう。
原罪とか言って、人は生まれついて罪深いと、いきなり冤罪を背負わされたり。
自分が担保しない死後の空手形を切って、戦争の尖兵とする。
全く薄ら寒い。
その点言って、我等の天皇陛下は素晴らしい。
何せ意味不明で根拠薄弱な事なんて、仰りあそばれる事があらせあそばれない。
極めて現実的で、臣民我等が理解の及ぶ事しかお示しあそばれない。
………まぁ長々語ったが。
何を言いたいのかと言うと、常識が違うのだ。
公平正大。
清廉潔白。
そんな儚いものが尊ばれるのは、文化的に成熟した先進国、我等が神国こと日本だけだ。
後進国の連中に、そんなものを期待するだけ無駄だ。
警察は働かず。
役人は賄賂を要求する。
自分という正義の為に、何をしてもいい。
それが我等優れた大和民族以外にとっての常識だ。
例えば、中東の国境を超える時。
通過しようとすれば、兵士に銃を突き付けられて金銭を要求される。
無論、法的にこの兵士に、金を払わなければならない謂れ等ない。
しかし彼等は役得だと思い、普通に懐に収める為の金銭を要求する。
科学万能の21世紀においてもこれだ。
より文化的に未成熟な、異世界の連中ならどうだろうか?
他人種からすれば、10以上は若くみえるらしい、黄色人種の俺。
赤い目立つドレスを着た、輝く様な美女のグララ。
子供のシャーシャとナーナ。
異常な靴下を履いた村娘。
警戒すべきは異様な靴下を履いた、得体の知れない村娘ぐらい。
もう足元見放題。
金たかり放題。
グララ犯し放題。
土人共にはそう見えるんだろう。
全く五月蝿い蝿の様な連中だ。
なめられたのもムカついたので、視界から消し飛ばした。
秘技・波紋徹し。
空気を媒介とし、衝撃を自由に伝播させる魔法、波紋の型。
今までは神刀の斬撃を飛ばしていたが、できることはそれだけに限らない。
例えば今回の様に、徹しを再現する事ができる。
徹しとは、格闘ゲームとかカンフー映画とかで有名な、中国拳法に於ける発勁の事だ。
攻撃が生み出した運動量を、できるだけ損失なく、目標に届ける事で実現するらしい。
特に有名なのは、ワンインチパンチと呼ばれる、ほぼ密着状態から、相手を吹き飛ばす技だろうか。
俺は発勁の鍛錬等していないので、全くのインチキだが、擬似的にコレを再現できる。
手から指向性を持った衝撃を放つ事で、対象を吹っ飛ばす。
発勁というか、フィクションのキャラが手から、エネルギー波を出すのを、密着状態でやる様なものだ。
また、浸透勁というのだろうか?
衝撃を余さず、目標内部に伝播させるバージョンも使える。
元々、波紋の型はガチンコ漁を参考にし、大気中を水中と見立てて代用した技だ。
人体の70%は水分だというので、衝撃の媒介としては大気より遥かに効率がいい。
この技で殺害した相手の体内は、至る所が激しく損壊しているのだろう。
検分なんてした事ないから予想だが。
グロは平気だが、別に進んで見たくもない。
それは置いておいて。
本来はこの波紋徹し、対シャーシャちゃん用に開発したものである。
シャーシャちゃんを仮想的と想定した場合、何が脅威となるか?
まずは最大火力、必滅影。
尚ドイツ語での命名だが、無論命名者は俺だ。
固有名詞がないと呼びにくいので、開発者の許可を得て名付けた。
影に包んだ相手を即死させる魔法。
ただし、魔法の特性が影である為、強烈な光で掻き消す事ができる。
俺の七色念力光線で相殺して対抗可能。
その他のものも直接的な魔法なら、俺の無害化バリアで防御できる。
いくら大きな炎を出そうが、炎である限り俺なら問題ない。
雷の魔法―――俺の趣味で無慈悲な稲妻と命名した―――も、雷無効化のゴム製安全靴がある。
しかしそんな事は誰より本人がわかっている。
なのでシャーシャちゃんは自らの十八番、徹底した接近戦で決着を狙う。
初動なしの奇跡の高速ホバー移動を始めとし。
認識外からの強襲、空間跳躍斬り。
これらの魔法で、あらゆる距離・状態から、死角へと詰め寄ってくる。
密着距離こそ、シャーシャちゃんの独擅場。
対抗手段を持っていないと、確実に詰む事になる必勝パターンだ。
大抵の奴は、シャーシャちゃんよりも図体がデカい。
何をするにしても回転数で負け、その圧倒的な手数の差が致命傷となる。
相手が振りかぶってパンチを繰り出す間に、シャーシャちゃんは死角に回りつつ打撃を2,3連続で叩き込める。
なんで波紋徹しが、シャーシャちゃん対策なのかは、もうおわかりだろう。
ロスを極端に減らし、効率的に衝撃を叩き込む発勁の技術。
結果、最小の運動量で、火力を発揮できる様になる。
懐に潜り込んだシャーシャちゃんに、必殺のリスクを背負わせる為だ。
何より、俺の最大の弱点を克服できるのがいい。
尤も波紋徹しは、今回が初めての実戦投入となる。
何故なら当てた瞬間に、致命傷となるからだ。
そんな危なっかしいものを使って、貴重な宝物を失う訳にはいかない。
シャーシャちゃんは俺にとって、正真正銘の切り札だ。
「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」
白いお嬢様ブレザーを着た、シャーシャちゃんがロリコンを一撃でKOする様なあどけない仕草で首を傾げる。
「ぐはっ」
吐血した様な声を出し、ナーナちゃんがよろめき出した。
「どうしたんですか、シャーシャちゃん?」
不治の病に侵された重症患者を無視し、シャーシャちゃんに聞き返す。
「………よろいとかね、いらないの?」
確かめる様に聞いてきた。
「ふむ?」
シャーシャちゃんの視線の先を見る。
なるほど。
そこには冒険者がいて、彼等は粗末ながらも、防具を身に付けている。
自分達も同じ様な備えをしなくていいのか、という質問だろう。
俺達の中で1番の重装備は俺だ。
一見すると黒の鋲打ちレザージャケットと、紺のジーンズ。
しかしジーンズはやたらゴワゴワし、膝や腿に独特な文様が浮かんでいるのが分かる。
要するにライダースジャケットと、ライダースジーンズだ。
ファッション性と戦闘力を両立させる衣服と考えていって、行き着いたのがこの組み合わせだ。
バイクで事故って横転しようものならどうなるか?
運転者は事故時の速度のまま、生身一つで路上に放り出される。
そのまま地面で全身を紅葉おろしにされ、血煙となるのは必定。
ライダースファッションの中には、そういった事故に対策したものがある。
1つはこのジーンズだ。
サイドジッパー式で各所、膝や腿に、専用のプロテクターをセットする事ができる。
事故時に地面と擦り付けられる部位の保護を目的している訳だ。
また同様の機構を拡張し、脛にもセット可能にし、更に全周に渡り配置できる様にした。
そしてライダースジャケットの中には、ボディアーマーを着込んでいる。
バイク用のボディアーマーは、ジーンズと同様に、各所にプロテクターがセットされている。
ちなみに安いものなら通販で、5000円もあれば買える。
戦闘のプロごっことかしてみたいなら買ってみるといい。
このライダースファッションを身に付ける事で、俺は一回りゴツくなった。
ちなみに本物のライダースジャケットは、補強してある為、ゴワゴワして歩きにくいらしい。
しかしそこは、魔術師のアルカナを引いた俺。
伸縮性自在、耐摩擦性強靭、快適性抜群のインチキチート素材なので安心。
そして衝撃に反発する、軽量特殊合金をプロテクターに使用している。
俺は現在、これらの概念実証装備を試験中だ。
概念実証とは、既存のものと違う新しい概念が、有効かどうか実証する事をいう。
試作段階より更に前の、そもそも本当にやって意味があるのかを確かめる段階だ。
この実証段階で早速、幾つかの事例が集まった。
例えば兵士に突き飛ばされそうになった時。
発生した外力をそのまま相手にUターンさせて、逆に相手を突き飛ばした。
例えばナーナちゃんに蹴られそうになった時。
ナーナちゃんのキックは、膝のすぐ下の部分を使った、本格的な蹴りだった。
その為、膝と脛の間の部分に衝撃が集中、結果としてへし折れた。
防御能力の優秀さは、折り紙付きだと既にわかる。
幼女の脚をへし折るという、普段使いには大問題の事故もあったが。
まぁ所詮は事故、だろう。
そもそも全力で蹴り込んできた、向こうに非がある。
ただ触れる分には、あんな酷い事故は起きない。
常識的にポンポン肩を叩く程度なら、ちょっと叩く力強かったかな、ぐらいの変化しか本来は起きないのだ。
それに、俺には回復魔法がある。
迂遠な拝み屋や、未熟な薬草学、ひいてはなんたら教会………なんだっけ?配光教会つったっけ?
まぁそんな連中のレベルの低い回復とは違う。
俺には現代知識がある。
そして、厳密な医学知識なんてない。
つまり、大変いい加減かつ、強力な回復魔法が使える。
光を集めて幹部の痛みを消し。
両手で折れた脚を固定して。
マンガみたいに折れた脚の断面図を思い浮かべ、そこが結合し、ちょっと太い1本の骨になるところを想像する。
あとついでにMILKと書かれた牛乳瓶も想像する。カルシウムのイメージだ。
すると骨折が一瞬で治る。
おそらく四肢がふっとんで損失した場合でも行ける。
切断面がモコモコ盛り上がって、そこから腕だか脚だかが生えるんだろう。
プラナリアのイメージだ。
プラナリアとは非常に再生力が強い生物の名前だ。
頭部と胴体で切断された場合、それぞれから欠損した部位が生えてくる。
ちなみに極稀に、頭部から頭部、胴体から胴体が生える等のミスが起こるらしい。
プラナリア、か………。
俺は頭か?
それとも胴体か?
シャーシャちゃんは切り札だ。
認められない。
…………。
シャーシャちゃんが俺を見ている。
なんだ?
何故俺を不思議そうに、観察する様に見ている?
………そうか。
質問に答えてなかったな。
「シャーシャちゃんはもう、鎧を身に着けていますよ?」
「………?よろいを?わたしが?」
「えぇ、何より強固な鎧です」
俺は安心させる様に、努めてにっこり笑う。
不安にさせない。
不審に思わせない。
不満を持たせない。
おくびにも出さない。
「その手袋は、僕の物と同じ、概念実証装備です。無敵の防御力と、最強の攻撃力を誇る逸品です」
バイクファッションの紹介の時に言うのを忘れたが、手袋も特別性だ。
バイク事故でバランスを失ったとき、手をついたら大惨事だ。
その為、いいバイク用のグローブは、凄まじい耐摩耗性を誇る。
一見すると俺の物も、シャーシャちゃんの物も、艶があるだけの革手袋だ。
だが、俺のボディアーマーと同じく衝撃無効。
殴れば衝撃を増し、受ければ衝撃を殺す。
俺の魔法は、いわゆる付与と相性がいい。
もし○○なら、△△する。
特性を常駐させる俺の魔法。
これが俺の有用性。
これが俺の生きる道。
17/12/9 投稿・誤字の修正