シャーシャ、日本男子を見つめる
わたしの名前はシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。
ミミカカさんの村を出て。
お兄ちゃんのニセモノがいた町を出て。
着替えをして。
次の町が見えてきた。
お兄ちゃんが最初に選んでくれた服は白。
だからお兄ちゃんの好きなセーフクも白いのにした。
白と青の、すごくきれいな服。
そしてくつも、お兄ちゃんに作ってもらったサンダルから変わった。
お兄ちゃんとおそろいのくつ。
くつはすごく固くて、石を踏んでも痛くなかった。
なのにすごく歩きやすかった。
「ここがダンジョンのある町だよ、おっかさん」
ナーナちゃんも町を見つけた。
「どこにいんだよ、お前のおっかさん?」
「やだなー、おっかさんって言ったら、シャーシャちゃんのことに決まってるじゃないか!ママー!」
お兄ちゃんが聞いたら、ナーナちゃんが抱き付いてきた。
「俺の有する倫理観に、著しく反する親子関係だな………おとっつぁんは?」
「ダディ!」
ナーナちゃんがお兄さんに抱き付いた。
お兄ちゃんもナーナちゃんを抱きしめた。
「俺かよ………まぁ男役俺しかいねぇけど」
お兄ちゃんはナーナちゃんのわきに、手を入れて抱き上げた。
「ほらナーナ、お父さんだぞー」
「あっ、ノってくれるんだ?パパー」
2人はそのままクルクル回ってた。
「パパー」
「なんだい、ナーナ?」
「ナーナね、欲しいものがあるの~」
「何が欲しいんだい?」
「ナーナ、弟が欲しいな~」
「シャーシャ、今夜辺りどうだろう?」
なんか、お兄ちゃんがすっごい笑顔でわたしを見てた。
「………今夜?あのね、夜にね、なにするの?」
「天井のシミの数を数えてたら終わるさ」
「………天井のシミ?」
なんで天井のシミを数えたんだろ?
「って!なに敵に塩送ってんのさ!」
「敵?自分からネタ振っておいて何の話だ?」
「テイク2!パパ~!」
「えらく身勝手な娘だな………。ゴホンゴホン………なんだい、ナーナ?」
「ナーナね、欲しいものがあるの~」
「何が欲しいんだい?」
「ナーナ、パパのこどもが欲しいな~」
「そんな娘ドン引きするわ」
お兄ちゃんが嫌そうな顔してた。
「う~、なんでママとリアクションがちがうのさ~!」
「娘が親父の子を身篭ろうとするとか、おままごととして流せる設定じゃねぇよ!」
「ボクはぜんぜんオッケーさ!さぁバッチコイ!」
なんかナーナちゃんがお兄さんにおしりを向けて、ピシャピシャたたきだしてた。
「3人娘!サカッコーを用意しろ!」
「「「はい」」」
白い服を着たお姉さんたちがいきなり出てきた。
そしてお兄ちゃんに赤い三角のやつを渡してた。
三角錐ってかたちをしてて、おしりが四角に広がってた。
お兄ちゃんの体ぐらい大きかった。
「お兄さん、サカッコーなんか出して何するつもりさ!」
「ん?突き刺す?」
「肛門裂傷の予感!?」
「大丈夫大丈夫。絶対大丈夫じゃないから安心しろ」
あたりまえのことをしてるのに、なんで聞かれたのかわからなかった顔でお兄ちゃんが答えた。
「何1つ安心できる要素がないよ!」
「峰打ちじゃ、安心いたせ」
「サカッコーのどこに峰なんてついてんのさ!」
「実はこの所が峰なんだ。ここから勢いをつけて押し込むから安心しろ」
サカッコーの先っちょのところをポンポンたたいてた。
「死ぬ!死んじゃう!ボクそんな死に方やだ!」
「ちゃんと碑文には『サカッコーに尻を引き裂かれた変態の士、ここに眠りやがる』って書いておいてやる」
「そんなの書かれたくないよ!せめて『全てを慈しみ受け入れる聖母の如き美少女、ここにお眠りになる』って書いてよ!」
「受け入れるつもりかよ!」
あんなのからだに入れられた死んじゃうなぁって思った。
「かくなる上は………パパ!ナーナね、とりひきしたいの~」
「なんだい、ナーナ?」
「ナーナね、サカッコーを差し込まれたら、パパにテトラポット差し込み返してやるの~」
「俺の身体に、テトラポット接続端子なんて付いてねぇよ!」
テトラポットってなに?
「プークスクス!パパったら今時テトラポット対応じゃないの~?ダッサ~イ!」
「いくら人類が進化しても、テトラポットをマウントできる部位なんて今後出現しねぇよ!」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり、さ!」
「そもそもなんで、テトラポットなんてもんを接続しようと思った!」
あとで教えてもらったけど、テトラポットはふしぎな形の、おっきな石だった。
「ボクたちは、今この瞬間にも進化してるのさ!対応規格が増えないなんて時代に取り残されてるよ!」
「よしわかった!お前の接続端子にUSBケーブル差し込んで、データ取り出せたら話聞いてやる!」
「にゃああああっ!?そんなリアルに入るもの出されても困るよ!今すっごくゾクゾクッてした!」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり、だろ?」
お兄ちゃんが黒いツルツルのヒモみたいなのを持ってた。
「説明書よく読んでよ!これ入力端子じゃなくて、出力端子だからさ!」
「乙女にあるまじきこと口走ってやがる!ヒヒャハハハハハッ!ナーナ………お下品な子!」
すごくうれしそうなお兄ちゃん。
お兄ちゃんはおしりが好きみたいだった。おぼえとこう。
わたしがお兄ちゃんの好きなものをおぼえてたあいだに、ナーナちゃんがなにか思いついたみたいで、すごくわらってた。
「ナーナ、パパの出力端子を、ナーナの入力端子に接続して、イデシをテソーして欲しいなぁ~?」
「うわ、ドン引き!」
「ボクみたいな美少女に誘惑されてドン引きとはどういうことさ!」
「イデシをテソーはねぇわ!鳥肌立ったわ!寒気するわ!」
イデシをテソーってなんだろ?
お兄ちゃんはなんか寒そうにしてた。
「ぬー!毎度の事なのだが、我にはヤマトー殿とナーナ殿の話がわからぬのだ!」
「んー、アタシもいまいちわかんないんだよねぇ」
わたしもわからないのが多かった。
「という訳で、ダンジョンのある町に到着しましたね」
「はーい、お兄さん」
「はい、ナーナちゃん」
「なんで化物が棲んでるダンジョンなんかの側に町があるの?」
そういえばそうだ。なんでだろ?
「鉱山の近くに町ができるようなもんだよ?鉱山があるから人が訪れる。人がいるから宿泊施設が必要になる。宿泊施設があれば食べ物も必要になる。一定以上の規模の経済活動が行われれば、他の商業も集ってくる。そして人が集まる事で、更に多くの宿泊施設が必要となる………とこんな感じだな」
人が集まると、ケーザイ活動ができるみたいだった。
ケーザイ活動は、お金を使うことってお兄ちゃんがいってた。
お金をいっぱい使ったら、つまり、ケーザイ活動がかっぱつだと、みんなお金がたくさんもらえるみたいだった。
お金を集めたかったら、使わなかった方がいいんじゃないかなって思ったけど、それはダメなんだって?
「鉱山の代わりに、ダンジョンへ置き換えても成り立つんだね。金鉱山とかは儲かるのわかるけど、ダンジョンってなにがそんなに儲かるの?」
「ダンジョンには化物が住み着いてるらしいし、その素材が売れる訳だ。毛皮だとか肉だとか、あと………化生石っつったっけ?ナントカ石とかいうのも、価値があるらしいしな。あとなにより直接的に金銀財宝の類が発見される例もあるし」
ダンジョンで見つかった、色んなものを売れるみたいだった。
「冒険者連中がダンジョンで見つけた物を売る。その金で食事や宿泊、武器防具を求める。あるいは傷病を癒やす為に、薬や拝み屋の連中に頼る事になる。常に一定の需要がある以上、販売する側も予め物品を用意する事になる。いちいち必要となってから用意してたんじゃ、追っつかないからな。つまり、必需品はまず売れるという保証がある。こういうのを特需………バブルというんだな」
「だからダンジョンには町が併設されるんだね」
「町がある理由に納得したところで………早速町に入ってみますか」
お兄ちゃんがテクテク歩いてった。テクテク。
町は石の壁でかこわれてて、入るには門番の人と話をしなきゃいけなかった。
「止まれ。通行証を出せ」
「通行証?ないな」
「ならここで人数分買え。このタセの町に入れるのは、通行証を持っている奴だけだ」
門番の人がこわい顔でお兄ちゃんを見てた。
わたしはこわくなってお兄ちゃんを見た。
こわかったのは門番の人じゃなかった。
お兄ちゃんが怒ったんじゃないかって思ったのがこわかった。
「いくらだ?」
でもお兄ちゃんはぜんぜん気にしてなかった。
よかった。
………そう思ったのに、門番の人がニヤっていやなわらいかたをした。
「大銀貨10枚だ」
「大銀貨10枚だと!」
まほうつかいの人がおっきな声を出してた。
「あ、なんだお嬢さん?なんか文句でも?」
門番の人はすごくやな顔でニヤニヤしてた。
前の町だったら、銅貨2枚でごはんが食べられた。
銀貨1枚で部屋に泊まれた。
この町に入るのにかかるお金だけで、前の町だったら10日泊まれた。
まほうつかいの人は、お金がすごく高いから驚いてしゃべったんだと思った。
「で、その通行証とやらがあれば、ダンジョンにも入れるのか?」
なのにお兄ちゃんはぜんぜん気にしてなかった。
「あァ?チッ………どうせ金が用意できないんだろ?」
お兄ちゃんが聞いたら、門番の人はめんどくさそうな顔をしてた。
「特別に、その赤い服を着た女を1晩置いていけば、大銀貨1枚で通行証を用意してやるぞ?」
そしてまたニヤニヤした顔になった。
「にゃーっ!乙女のピンチ!」
赤い服って言われてナーナちゃんが自分を抱きしめてた。
「獣臭い獣人が!誰がてめぇみたいなゲテモノなんかいるか!あっちのドレスの女だ!」
………門番の人が見てたのはまほうつかいの人だったけど。
「にゃああああっ!許せない!よりにもよって、ボクが獣臭いだって!?鼻がひんまがる様な体臭してるくせによく言うよ!鼻腐ってんじゃないのかな!」
「あァ?てめぇ獣人の分際で人間様に逆らっていいとでも………」
門番の人が槍をナーナちゃんに向けて………。
「で、グララはどうする?この人達がグララの事、グチャグチャになるまで強姦したいって言ってるけど?受けるのか?」
「受ける訳がないのだ!おぞましいにも程がある!」
まほうつかいの人がいやそうにいった。
「ん、そうか。生理的に無理か。確かにこんな三下連中の相手は御免被るわな」
お兄ちゃんがどうでもよさそうにうんうんうなずいてた。
「チッ!てめぇなめてやがんのか!」
怒った門番の人が槍をお兄ちゃんに向けようとして。
「ハッ!」
そのまま槍の先を切り落とした………手だけで。
「そのまま素っ首、叩き落としてやろうか?」
ピンッて伸ばした手を、門番の人に向けてた。
「お前何をしっ………」
でもお兄ちゃんに槍を壊された門番の人は、お兄ちゃんをなぐろうとした。
あーぁ。
「殺すのも問題があるか」
めんどくさそうにパンチをよけたお兄ちゃん。
「秘技、波紋徹し!」
足を地面にバンッてやりながら、手を門番の人のおなかに当てた。
ズドンッ!
門番の人、見えなくなるぐらい、遠くまでぶっとんでった。
お兄ちゃんの手は、ただまっすぐ前に出しただけで、パンチするときみたいにふりかぶってなかったのに。
「何アレ、お兄さん?」
「俺は衝撃を操る波紋という魔法が使える。この魔法を格闘に応用して、拳法に於けるいわゆる徹しができんだよ」
「ってか、お兄さん?あんなふっとばされたら、あの人死んでんじゃないの?」
「まぁ軽く街の端から端までふっ飛ばしたから、今頃向こうの外壁にぶつかって死んでるだろうな。相手の力量もわからず調子に乗るからこういう事になる」
「「「………」」」
ぶっとばされた門番の人と、別の門番の人たちがそれを見て固まってた。
「あの間抜けの仲間入りしたい奴は槍構えろ。望みは叶えてやる」
お兄ちゃんはどうでもよさそうにいった。
多分、人をあんなにぶっとばすことも、おなかをポリポリかくのと同じぐらいかんたんにできた。
「で、通行証があったらダンジョンには入れんのか?」
「「「………」」」
門番の人たちの顔は、青くなって、白くなって、今は黒くなってた。
「おい、諸君?仕事しろよ?聞かれた事に答えらんねぇなら、別にここにいる必要はねぇだろ?邪魔にならねぇ様に、壁まで吹っ飛ばしてやろうか?さっきのゴミみてぇに?」
「いっ、いえっ!」
「あの、あのっ!」
「えっと、えっと、えーっと!」
「その、そのっ、そのっ!」
「あァ?んだてめぇら?人の言葉がしゃべれねぇのか?やっぱ用はねぇな?吹っ飛んどくか?」
「はい!はいっ!入れまっす!入れます入れますっ!」
お兄ちゃんににらまれた門番の人が、あせりながら答えてた。
「入れんのか?そうか?で、通行証がいくらつったんだ?」
その人をじっと見ながら、お兄ちゃんが聞いた。
他の答えてなかった門番の人は、お兄ちゃんが自分を見てなくて、ホッとしてた。
「だ、大銀貨、10枚で、す」
「へぇー、大銀貨10枚………ねぇ?」
お兄ちゃんが顔を近づけて、門番の人をジロジロ見てた。
まゆの間がグッてよった、こわいわらいかたで。
「う………」
「う?」
「うわあああああっ!」
「おっと」
お兄ちゃんに見られてたのが辛くなって、門番の人がお兄ちゃんをドンって突き飛ばそうとしてた。
だけどお兄ちゃんは動いてなくって、門番の人がたおれてた。
「はい、ここに居る意味のないアホが1人」
楽しそうにわらいながら、ゆっくり門番の人のところまで歩いてった。
「わっ、クソ、クソ、クソ!」
門番の人はお兄ちゃんから逃げようと、カサカサしてたけど、こしが抜けてて動けないみたいだった。
「波紋徹しにはこういう使い方もある」
バンッ!
またお兄ちゃんが足をバンってやりながら手を当てた。
「ベェッバッ!」
そしたら門番の人は、目とか、鼻とか口から血を出して動かなくなった。
「ふむ。流石に訓練で使う訳にはいかなかったが、中々具合がいい」
お兄ちゃんは自分の右手をクルクル回して見てた。
今さっき殺した門番の人なんて忘れたみたいに。
「それで………」
お兄ちゃんはまた門番の人たちを見た。
「俺達はさっさと、通行証を受け取りたいんだ………お前等はここに居る意味のある人間か?それとも邪魔なだけのゴミか?」
大銀貨10枚の通行証を、タダでもらった。
最初にいくらって言われても、そのままのお金を払ったら、損するんだってお兄ちゃんは言ってた。
「あの手の連中は、料金なんて相手次第でいくらでも変えてきますからね。もし一律の料金を提示されてたら、僕だって快く払っていましたとも。しかし自分の力を背景に金額を変動させてきました。こちらが同じ様に力を背景に金額を変動させても、非難される謂れなんてありませんとも」
お兄ちゃんは強かった。
そんなお兄ちゃんが、わたしを大事にしてくれるのは?
わたしがマホショージョだから。
旧人類をやっつけて、全部を作り変えるマホショージョ。
お兄ちゃんのたからもの。
それがわかってわたしは………うれしかった。
なんで大事にしてくれるのかがわからなかったのは、すごくこわかった。
わたしが強くなっても、お兄ちゃんはもっと強かった。
魔法戦技の模擬戦をやっても、わたしは本気を出したお兄ちゃんには勝てなかった。
わたしにできたことは、お兄ちゃんがなんでもできた。
だって、わたしができたことは、ぜんぶお兄ちゃんから教えてもらった。
お兄ちゃんといっしょにいても、わたしは役に立てなかった。
お兄ちゃんに捨てられたらって思ったら、すごくこわかった。
でも今はちがった。
わたしはお兄ちゃんのたからもの。
お兄ちゃんのために、旧人類をやっつける。
お兄ちゃんのために、世界を作り変える。
だから、お兄ちゃん。
わたしのこと、捨てないで。
17/12/2 投稿・文の微修正