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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の確信
122/154

シャーシャ、日本男子の真意を知る

 わたしの名前はシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。


「という訳で」

「というわけで?」

 今、とびだせオシャンティーってあそびをしてた………どういうあそびなのかよくわかんなかったけど。

 きがえるあそびみたいだった。


「残すところ、シャーシャちゃんだけだな」

「………わたし?」

「そうですよ、シャーシャちゃん。何か着てみたい服とかありませんか?」

 お兄ちゃんに聞かれた。


 着てみたいって言われても………。

 色んな服があるんだなって思ったけど。

 でも、服の名前とかわかんないし。

 どんな服がいいかもわかんないし。


「果てはブレザーからセーラー服まで、多種多様なスクールアイテムを用意してるよ」

 ナーナちゃんが説明してくれた。

 スクールアイテムってのがいっぱいあるみたい。


「狭ぇよ。果てから果てまで見渡して制服しかなかったじゃねぇか」

「このクリーム色のセーターの制服とか可愛くない?ちゃんとギンガムチェックの赤スカートだよ」

「ふむ。俺の高校は田舎だったから、普通の紺ブレザーだったな。ふむ。なるほど。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ」

 ナーナちゃんが出した服を、お兄ちゃんがすっごく見てた。

 お兄ちゃんはセーフクが好きだった。よく覚えておこう。


「ちょ、お兄さん、食い入るように見すぎだよ」

「ん、あ?あぁ………いや、違ぇよ、アレだよ、俺の高校の制服、紺ブレザーだったんだよ」

「さっき聞いたよ!そんなに制服がいいの?」

「んー、結構自分のとこと違う制服は気になるかもしれん」


「安心してよお兄さん」

「ん?」

 お兄ちゃんがセーフク見たまま聞き返してた。


「ちゃんとブルマもスク水も用意してあるよ」

「ふむ………いや待て。何一つ安心できん」

 ちょっとお兄さんの表情が変わった。

 セーフクのほかに、ブルマとスク水も好きみたいだった。


「いや、ナーナちゃんのブルセラ趣味はもういいんだよ。そうじゃなくてシャーシャちゃんの服だ」

「まぁそうだね。制服は回収しよう」

 ナーナちゃんがセーフクを消しちゃった。

 お兄ちゃんが小さく「あっ………」って言ったのは気のせいじゃなかった。


「それでシャーシャちゃん、どんなのがいいですか?」

「………んー?」

 どんなの?

 どんなの………。


「やっぱり子供らしい感じで」

「感じでどうするつもりだ?」

「ギャル服だね」

「それ子供らしいか?」


「え、子供だってオシャレしたいよ?」

「そんなもんか?まぁわからん話ではないが」

「ヒールの高い靴に憧れるもんさ」

「男がアニメやらゲームやらで騒いでるときに、女ってのは進んでるもんだなぁ」


「それにさ」

「それに?」

「チビギャルってどうなのさ」

「全然ありやな」


「せやろ」

「せやな」

「せやせや」

「せやせや」

 なんかお兄ちゃんたちはせやせや言ってた。せやせや。


「それで、ナーナちゃんはどんな服がいい?」

「………えーっと?」

「「えーっと?」」

「………えらんで?」

 お兄ちゃんに選んでもらおう。

 よくわかんないし。


「しかと仰せつかりましたよ、シャーシャちゃん」

「これは腕がなるね。シャーシャちゃんに似合う服を選んだが方が、真のオシャンゴッドさ!」

「オシャンゴッドって、モデルに贈られる称号じゃなかったのかよ!」


「オシャレな人って、服のセンスがいい人のことでしょ?オシャンゴッドは当然、モデルじゃなくて着飾らせる人に贈られる称号だよ。だってモデルなんて、何着ても似合うじゃん。だからモデルなんだし」

 ナーナちゃんがなんかやれやれってしてた。

「何言ってんのコイツって目で見られてるのがムカつく!正論だけどムカつく!ムカつくものはムカつく!オッペケテンムッキー!」

 お兄ちゃんがなんか頭をガシガシしてた。


「だってお兄さんも、灰色のスウェット上下着たすっぴん美人と、ブランド服に身を包んだ不細工だったら」

「なんならスウェット着てなくてもいいぞ」

「ですよねー」

「着飾った不細工は只の不細工だからな」

と思ったら、なんか2人でうんうんうなずいてた。


「でも、カワイイは作れるっていうよ」

「そんなのカワイイ偽造罪で、市中引き回し、打ち首獄門、晒し首が妥当だな」

「カワイさの道は険しいね」

「生きることはかくも厳しきものなりや」


「で、その点、天然由来のカワイさ100%のシャーシャちゃんだ」

「まぁ、何着せてもカワイイとは思うけど」

「選択肢が有りすぎて困るな」

「とりあえず色々用意してみて、本人が気に入ったのを選べばいいんじゃない?」

「それもそうか」




 こうして色んな服が出てきた。

「じゃあまずはスポカジで。白と濃い青で全体を統一して、スポーティーなカジュアルさの中に、ガーリーテイストを演出してみたぞ」

「白と青は明るく見えてさわやかだね。あとお兄さん、若干意識高い人みたいで見てらんない感じなんだけど?」

「うわ、マジか?ちょっと凹む評価だな」

 お兄ちゃんがちょっと落ち込んでた。

 言い返さないで落ち込むのはめずらしかったから………ほんきでいやだったのかな?


「裾長めの七分袖のラグランティーに、ボトムはサイドライン入りのホットパンツ。靴下はこれアンクレットか。そんでハイカットスニーカーね。むー、たしかにカワイイ」

「シャーシャちゃんには青系のアンクレットが似合うと思ってたんだよ」

「アンクレットだけ!?長めのTシャツがワンピみたいでかわいいとか、もっと言うことなかったの!?」


「シャーシャちゃん若いんだし、足出してかなきゃな」

「なんかオッサンみたいなこと言い出した!」

「じゃあナーナちゃん、シャーシャちゃんの足見てどうよ」

「まっしろで細っこくてむしゃぶりつきたい!」

 え、むしゃぶりつかれたくないんだけど?


「あとお兄さん?」

「ん?」

「全体的なコーデには文句ないんだけどさ」

「うん?」

「なんで手袋してんの?しかもアレだけ黒だし」


 うん、そう。

 選んでくれた服には、お兄ちゃんがいつもしてるみたいな黒い手袋が入ってた。

 他の服は白と青なのに。


「あぁ、それか。それはな」

「それは?」

「只の趣味だ」

「趣味かよ!」


「むしろ服選びなんて趣味だろ。何の問題がある?公序良俗に違反してる訳でもないのに」

「そのとおりだけどさ!なんでそこで手袋?」

「ん?よく見てみろよ。そう悪いもんじゃないぞ?」

「むー?………たしかに、じっと見てたら、白と青の中に1点黒があって、全体のメリハリになってる?………そう思って見てたら、なんかあの手袋がちょっと背徳的な感じだね」


「だろ?」

「お兄さんはいい趣味してるよ」

 ふーん?

 この手袋がいいのかな?




「はい、みんなが待ってたボクの出番!」

「おい!」

「お兄さんのスポカジに対抗してみたよ!」

「おい!」


「なんなのさお兄さん!そんな合いの手いらないよ!」

「合いの手じゃねぇよ!お前が着させた服なんだよアレ!」

「見て分かんないの!」

「ひと目見ておかしいから聞いてんだよアホ!」


 え、この服、そんなヘンなの?

 着かたまちがったのかな?

 ぐるって、背中の方を見てみた。ぐいー。


「お兄さんが変なこというから、シャーシャちゃんが不安がってるじゃん!」

「シャーシャちゃんは間違ってませんよ?間違ってるのは全部、歪んだ世の中ですからね?」

「お兄さんの甘やかしぶりがひどい!」

「ひどいのはテメェのチョイスの方だろーが!」


「お兄さんにはこの魅力がわからないのか!」

「たしかに大変健康的でスポーティーだよ!」

「なら!」

「オシャレって言われて陸上のユニフォーム着せるアホがいるか!」

 なんかわたしは、すごくうすくて軽い、小さな服を着てた。


「眼の前にいるよ!」

「威張ってんじゃねぇよ!」

「スク水着せなかったボクの理性を褒めて然るべきさ!」

「だから威張ってんじゃねぇ!何が然るべきだ!叱るべきに決まってんだろ!」


「えぇい、刮目して見るがいいさ!シミもくすみもない!ピチピチの若い肌が!惜しげもなく晒される!この奇跡をさ!」

「俺よりよっぽどオヤジ臭ぇよ!」

「で、お兄さんの感想は?」

「………ノーコメント」

「第1ラウンドは引き分けだね」


 勝ち負けがよくわかんなかった。

 お兄ちゃんたちが用意した、いろんな服に着替えながら思い出してた。




 すごいヨロイを着たガイコツ。

 わたしが引いたカード。


「『死神』は当然、死を司ります。タロットも当然、終焉、結末を暗示しています。魔法少女であり、決定的な力を持つシャーシャちゃんの暗示が、死神になるのはある種当然です」

 お兄ちゃんがうらないでいってた。

 わたしは死神なんだって。


「そして終焉とは、死の1つの側面に過ぎません。シャーシャちゃん、自然に於ける死とは、只の終わりではないんです。例えば動物が死んだら、その死体が残ります。その肉を食べて、他の生物が生きます。また、生き物は死ぬ前に、自分の子供を残します。死というのは、大きなサイクルの中の1つの状態に過ぎないのです」


 死ぬのは、終わりじゃなかった?

 ………そうだ、イターキャスだ。

 イターキャスはだれにしてた?

 食べ物になってくれた生き物にだった。


 おじいちゃん。

 お父さん。

 こども。

 まご。


「つまり『死神』が暗示する本質は、再生、回帰、循環です。また、やり直し、再出発、再挑戦という意味もありますし、究極的には無限大であるとも言えます。今までの人生を昇華し、魔法少女となったシャーシャちゃんに、これほど相応しいカードもありません」

「………無限大?」


 食べ物は生き物になって、生き物は食べ物になった。

 人はどんどん子供をうんでいった?

 人だけじゃなかった。

 生き物は、木とか、花も、そうだった?

 それが、無限大?


 わたしは………無限大?

 それってどういうこと?

 ずっとずっと続くっていうこと?


 お兄ちゃんは言ってた。

 マホショージョは無限の可能性って。

 ナーナちゃんは言ってた。

 新人類は必ず、旧人類に勝つって。

 マホショージョは、新人類の新人類って。


 それなら?

 それなら………マホショージョは?

 それなら………わたしは?


 マホショージョは無限で。

 無限はずっとずっと続くことだった。

 生き物なら死んでもこどもとか、別の生き物が生きてた。


 マホショージョは新人類で。

 新人類は、旧人類に勝つって。

 勝つってことは、負けた方は死んだってこと。


 新人類は殺して。

 死んだものは、別のものになって。

 それが無限。


 無限はずっとずっと続くことだったけど。

 別のものになったから、もともとと変わってた。

 無限を作るのが、マホショージョ。


 マホショージョは、わたし。

 無限を、別のものを作るのが、わたし。

 わたしが、作るんだ。

 わたしが、新しいものを。


 ………わかってきた。

 お兄ちゃんはわたしのことを大事にしてくれた。

 かみをなでながら、こうよくこういってた。


 シャーシャちゃんはえらいですね。

 シャーシャちゃんはすごいですね。

 シャーシャちゃんはすばらしいです。

 シャーシャちゃんはたからものです。


 ………たからもの?

 なんでたからもの?

 すごいとか、えらいとかとちがってた。


 たからものって、ヘンだと思ってた。

 だって………たからものじゃ、()()だった。

 わたしは生きてたのに。


 なにかを切るのがナイフ。

 からだを守るのが服。

 ()()は、なにかのためにあった。

 わたしが()()なら?

 わたしはなんのためにあったの?


 ずっと。

 ずっとふしぎだった。

 なんでもできるお兄ちゃんが?

 なんでわたしを大事にしてたの?


 やっと。

 やっとわかった。

 わたしがマホショージョなら。

 作り変えるのがマホショージョなら。


 わたしを大事にしたお兄ちゃんは。

 ()()()()()()()()()




 シトーのユ・カッツェは、こう言ってた。

 わたしとお兄ちゃんは逆だって。


 わたしは女の人。

 お兄ちゃんは男の人。


 わたしはこども。

 お兄ちゃんはおとな。


 わたしは影を使って。

 お兄ちゃんは光を使って。


 わたしは地面をすべって。

 お兄ちゃんは空を飛んで。


 わたしはマホショージョで。

 お兄ちゃんはヒーロで。


 じゃあ?

 ()()のわたしの反対は?

 無限の反対って?


「ゼロというんですよ、シャーシャちゃん?」

「………ゼロ?」

「そう、ゼロ。何もない事です」

「………あのね、なにもないのに、名前があるの?」


 よくわからなかった。

 なにもないのは、なにもないことなのに。


「例えば………プリが1つありました」

 お兄ちゃんが、なにもないところから、プリを出した。

 黄色くってプルプルしてた。プルプル。


「食べました」

 ナーナちゃんがいきなり食べちゃった。

 っていうか今どっから出てきたの?


「食うな!」

「お兄さん!食べ物を粗末にするなって教わらなかったの!米の一粒にも神様は宿るんだよ!」

「別に粗末にするつもりはねぇよ!この後スタッフが美味しくいただくつもりだったっつーの!」

 スタッフってなんだったのかな?


「おかわりないの?」

「自由すぎんだろお前!」

「そう言いながら、クリーム載ったプリン出してくれる、お兄さんが好き!」

 またナーナちゃんが食べちゃった。

 ナーナちゃんが大きく口を開いたときの顔は、ちょっとこわかった。


「だから食うな!お前に食わす為に出してんじゃねぇよ!これ教材なんだっつーの!」

「食育ってやつだね、おかわり」

「全然食育じゃねぇよ!語感だけでテキトー言ってんじゃねぇよ!」

「まぁいいじゃん減るものじゃないしさ」


「減らねぇと困るわ!………まぁコイツはほっておいてシャーシャちゃん?」

「………なぁに?」

 首をかたむけてお兄ちゃんをみた。


「今のプリがゼロです」

「………プリが?」

「僕は8個プリンを出しましたが、どっかの泥棒猫が全て平らげてしまいました」

 8個も食べたんだ。


 お兄ちゃんが出したプリンは、全部食べられちゃった。

 もうお皿しか残ってなかった。

 それが、ゼロ。


 わたしとお兄ちゃんは反対で。

 わたしが無限なら。

 お兄ちゃんはゼロだ。

 



 お兄ちゃんのことを考えてたら、オシャンティーはもう終わりみたいだった。

 いっぱい服をきるのは楽しかったけど、ちょっと疲れたかも。

「で、シャーシャちゃん。どの服がよかったですか?」

 お兄ちゃんが楽しそうに聞いてきた。


 お兄ちゃんは服が好きみたいだった。

 お兄ちゃんは、自分が好きなものがすごく大事な人だった。

 お兄ちゃんの好きなものの、悪口を言ったりした人は、みんなやっつけられてた。

 ぜったいに、ちゃんと答えなきゃダメだ。


「………えっとね」

「はい」

 わたしがなにをえらぶのか、ちゃんと答えがわかってるのか。

 お兄ちゃんは楽しそうにわたしを見てた。


「………このね、白いね、セーフクってやつとね、このね、黒いね、てぶくろがいいの」

「………はい」

 あれ?

 まちがった?

 お兄ちゃんが、がっかりしたみたいな、うれしそうみたいな?

 よくわかんない顔してた。

17/11/11 投稿

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