シャーシャ、日本男子の真意を知る
わたしの名前はシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。
「という訳で」
「というわけで?」
今、とびだせオシャンティーってあそびをしてた………どういうあそびなのかよくわかんなかったけど。
きがえるあそびみたいだった。
「残すところ、シャーシャちゃんだけだな」
「………わたし?」
「そうですよ、シャーシャちゃん。何か着てみたい服とかありませんか?」
お兄ちゃんに聞かれた。
着てみたいって言われても………。
色んな服があるんだなって思ったけど。
でも、服の名前とかわかんないし。
どんな服がいいかもわかんないし。
「果てはブレザーからセーラー服まで、多種多様なスクールアイテムを用意してるよ」
ナーナちゃんが説明してくれた。
スクールアイテムってのがいっぱいあるみたい。
「狭ぇよ。果てから果てまで見渡して制服しかなかったじゃねぇか」
「このクリーム色のセーターの制服とか可愛くない?ちゃんとギンガムチェックの赤スカートだよ」
「ふむ。俺の高校は田舎だったから、普通の紺ブレザーだったな。ふむ。なるほど。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ。ふむ」
ナーナちゃんが出した服を、お兄ちゃんがすっごく見てた。
お兄ちゃんはセーフクが好きだった。よく覚えておこう。
「ちょ、お兄さん、食い入るように見すぎだよ」
「ん、あ?あぁ………いや、違ぇよ、アレだよ、俺の高校の制服、紺ブレザーだったんだよ」
「さっき聞いたよ!そんなに制服がいいの?」
「んー、結構自分のとこと違う制服は気になるかもしれん」
「安心してよお兄さん」
「ん?」
お兄ちゃんがセーフク見たまま聞き返してた。
「ちゃんとブルマもスク水も用意してあるよ」
「ふむ………いや待て。何一つ安心できん」
ちょっとお兄さんの表情が変わった。
セーフクのほかに、ブルマとスク水も好きみたいだった。
「いや、ナーナちゃんのブルセラ趣味はもういいんだよ。そうじゃなくてシャーシャちゃんの服だ」
「まぁそうだね。制服は回収しよう」
ナーナちゃんがセーフクを消しちゃった。
お兄ちゃんが小さく「あっ………」って言ったのは気のせいじゃなかった。
「それでシャーシャちゃん、どんなのがいいですか?」
「………んー?」
どんなの?
どんなの………。
「やっぱり子供らしい感じで」
「感じでどうするつもりだ?」
「ギャル服だね」
「それ子供らしいか?」
「え、子供だってオシャレしたいよ?」
「そんなもんか?まぁわからん話ではないが」
「ヒールの高い靴に憧れるもんさ」
「男がアニメやらゲームやらで騒いでるときに、女ってのは進んでるもんだなぁ」
「それにさ」
「それに?」
「チビギャルってどうなのさ」
「全然ありやな」
「せやろ」
「せやな」
「せやせや」
「せやせや」
なんかお兄ちゃんたちはせやせや言ってた。せやせや。
「それで、ナーナちゃんはどんな服がいい?」
「………えーっと?」
「「えーっと?」」
「………えらんで?」
お兄ちゃんに選んでもらおう。
よくわかんないし。
「しかと仰せつかりましたよ、シャーシャちゃん」
「これは腕がなるね。シャーシャちゃんに似合う服を選んだが方が、真のオシャンゴッドさ!」
「オシャンゴッドって、モデルに贈られる称号じゃなかったのかよ!」
「オシャレな人って、服のセンスがいい人のことでしょ?オシャンゴッドは当然、モデルじゃなくて着飾らせる人に贈られる称号だよ。だってモデルなんて、何着ても似合うじゃん。だからモデルなんだし」
ナーナちゃんがなんかやれやれってしてた。
「何言ってんのコイツって目で見られてるのがムカつく!正論だけどムカつく!ムカつくものはムカつく!オッペケテンムッキー!」
お兄ちゃんがなんか頭をガシガシしてた。
「だってお兄さんも、灰色のスウェット上下着たすっぴん美人と、ブランド服に身を包んだ不細工だったら」
「なんならスウェット着てなくてもいいぞ」
「ですよねー」
「着飾った不細工は只の不細工だからな」
と思ったら、なんか2人でうんうんうなずいてた。
「でも、カワイイは作れるっていうよ」
「そんなのカワイイ偽造罪で、市中引き回し、打ち首獄門、晒し首が妥当だな」
「カワイさの道は険しいね」
「生きることはかくも厳しきものなりや」
「で、その点、天然由来のカワイさ100%のシャーシャちゃんだ」
「まぁ、何着せてもカワイイとは思うけど」
「選択肢が有りすぎて困るな」
「とりあえず色々用意してみて、本人が気に入ったのを選べばいいんじゃない?」
「それもそうか」
こうして色んな服が出てきた。
「じゃあまずはスポカジで。白と濃い青で全体を統一して、スポーティーなカジュアルさの中に、ガーリーテイストを演出してみたぞ」
「白と青は明るく見えてさわやかだね。あとお兄さん、若干意識高い人みたいで見てらんない感じなんだけど?」
「うわ、マジか?ちょっと凹む評価だな」
お兄ちゃんがちょっと落ち込んでた。
言い返さないで落ち込むのはめずらしかったから………ほんきでいやだったのかな?
「裾長めの七分袖のラグランティーに、ボトムはサイドライン入りのホットパンツ。靴下はこれアンクレットか。そんでハイカットスニーカーね。むー、たしかにカワイイ」
「シャーシャちゃんには青系のアンクレットが似合うと思ってたんだよ」
「アンクレットだけ!?長めのTシャツがワンピみたいでかわいいとか、もっと言うことなかったの!?」
「シャーシャちゃん若いんだし、足出してかなきゃな」
「なんかオッサンみたいなこと言い出した!」
「じゃあナーナちゃん、シャーシャちゃんの足見てどうよ」
「まっしろで細っこくてむしゃぶりつきたい!」
え、むしゃぶりつかれたくないんだけど?
「あとお兄さん?」
「ん?」
「全体的なコーデには文句ないんだけどさ」
「うん?」
「なんで手袋してんの?しかもアレだけ黒だし」
うん、そう。
選んでくれた服には、お兄ちゃんがいつもしてるみたいな黒い手袋が入ってた。
他の服は白と青なのに。
「あぁ、それか。それはな」
「それは?」
「只の趣味だ」
「趣味かよ!」
「むしろ服選びなんて趣味だろ。何の問題がある?公序良俗に違反してる訳でもないのに」
「そのとおりだけどさ!なんでそこで手袋?」
「ん?よく見てみろよ。そう悪いもんじゃないぞ?」
「むー?………たしかに、じっと見てたら、白と青の中に1点黒があって、全体のメリハリになってる?………そう思って見てたら、なんかあの手袋がちょっと背徳的な感じだね」
「だろ?」
「お兄さんはいい趣味してるよ」
ふーん?
この手袋がいいのかな?
「はい、みんなが待ってたボクの出番!」
「おい!」
「お兄さんのスポカジに対抗してみたよ!」
「おい!」
「なんなのさお兄さん!そんな合いの手いらないよ!」
「合いの手じゃねぇよ!お前が着させた服なんだよアレ!」
「見て分かんないの!」
「ひと目見ておかしいから聞いてんだよアホ!」
え、この服、そんなヘンなの?
着かたまちがったのかな?
ぐるって、背中の方を見てみた。ぐいー。
「お兄さんが変なこというから、シャーシャちゃんが不安がってるじゃん!」
「シャーシャちゃんは間違ってませんよ?間違ってるのは全部、歪んだ世の中ですからね?」
「お兄さんの甘やかしぶりがひどい!」
「ひどいのはテメェのチョイスの方だろーが!」
「お兄さんにはこの魅力がわからないのか!」
「たしかに大変健康的でスポーティーだよ!」
「なら!」
「オシャレって言われて陸上のユニフォーム着せるアホがいるか!」
なんかわたしは、すごくうすくて軽い、小さな服を着てた。
「眼の前にいるよ!」
「威張ってんじゃねぇよ!」
「スク水着せなかったボクの理性を褒めて然るべきさ!」
「だから威張ってんじゃねぇ!何が然るべきだ!叱るべきに決まってんだろ!」
「えぇい、刮目して見るがいいさ!シミもくすみもない!ピチピチの若い肌が!惜しげもなく晒される!この奇跡をさ!」
「俺よりよっぽどオヤジ臭ぇよ!」
「で、お兄さんの感想は?」
「………ノーコメント」
「第1ラウンドは引き分けだね」
勝ち負けがよくわかんなかった。
お兄ちゃんたちが用意した、いろんな服に着替えながら思い出してた。
すごいヨロイを着たガイコツ。
わたしが引いたカード。
「『死神』は当然、死を司ります。タロットも当然、終焉、結末を暗示しています。魔法少女であり、決定的な力を持つシャーシャちゃんの暗示が、死神になるのはある種当然です」
お兄ちゃんがうらないでいってた。
わたしは死神なんだって。
「そして終焉とは、死の1つの側面に過ぎません。シャーシャちゃん、自然に於ける死とは、只の終わりではないんです。例えば動物が死んだら、その死体が残ります。その肉を食べて、他の生物が生きます。また、生き物は死ぬ前に、自分の子供を残します。死というのは、大きなサイクルの中の1つの状態に過ぎないのです」
死ぬのは、終わりじゃなかった?
………そうだ、イターキャスだ。
イターキャスはだれにしてた?
食べ物になってくれた生き物にだった。
おじいちゃん。
お父さん。
こども。
まご。
「つまり『死神』が暗示する本質は、再生、回帰、循環です。また、やり直し、再出発、再挑戦という意味もありますし、究極的には無限大であるとも言えます。今までの人生を昇華し、魔法少女となったシャーシャちゃんに、これほど相応しいカードもありません」
「………無限大?」
食べ物は生き物になって、生き物は食べ物になった。
人はどんどん子供をうんでいった?
人だけじゃなかった。
生き物は、木とか、花も、そうだった?
それが、無限大?
わたしは………無限大?
それってどういうこと?
ずっとずっと続くっていうこと?
お兄ちゃんは言ってた。
マホショージョは無限の可能性って。
ナーナちゃんは言ってた。
新人類は必ず、旧人類に勝つって。
マホショージョは、新人類の新人類って。
それなら?
それなら………マホショージョは?
それなら………わたしは?
マホショージョは無限で。
無限はずっとずっと続くことだった。
生き物なら死んでもこどもとか、別の生き物が生きてた。
マホショージョは新人類で。
新人類は、旧人類に勝つって。
勝つってことは、負けた方は死んだってこと。
新人類は殺して。
死んだものは、別のものになって。
それが無限。
無限はずっとずっと続くことだったけど。
別のものになったから、もともとと変わってた。
無限を作るのが、マホショージョ。
マホショージョは、わたし。
無限を、別のものを作るのが、わたし。
わたしが、作るんだ。
わたしが、新しいものを。
………わかってきた。
お兄ちゃんはわたしのことを大事にしてくれた。
かみをなでながら、こうよくこういってた。
シャーシャちゃんはえらいですね。
シャーシャちゃんはすごいですね。
シャーシャちゃんはすばらしいです。
シャーシャちゃんはたからものです。
………たからもの?
なんでたからもの?
すごいとか、えらいとかとちがってた。
たからものって、ヘンだと思ってた。
だって………たからものじゃ、ものだった。
わたしは生きてたのに。
なにかを切るのがナイフ。
からだを守るのが服。
ものは、なにかのためにあった。
わたしがものなら?
わたしはなんのためにあったの?
ずっと。
ずっとふしぎだった。
なんでもできるお兄ちゃんが?
なんでわたしを大事にしてたの?
やっと。
やっとわかった。
わたしがマホショージョなら。
作り変えるのがマホショージョなら。
わたしを大事にしたお兄ちゃんは。
作り変えたかったんだ。
シトーのユ・カッツェは、こう言ってた。
わたしとお兄ちゃんは逆だって。
わたしは女の人。
お兄ちゃんは男の人。
わたしはこども。
お兄ちゃんはおとな。
わたしは影を使って。
お兄ちゃんは光を使って。
わたしは地面をすべって。
お兄ちゃんは空を飛んで。
わたしはマホショージョで。
お兄ちゃんはヒーロで。
じゃあ?
無限のわたしの反対は?
無限の反対って?
「ゼロというんですよ、シャーシャちゃん?」
「………ゼロ?」
「そう、ゼロ。何もない事です」
「………あのね、なにもないのに、名前があるの?」
よくわからなかった。
なにもないのは、なにもないことなのに。
「例えば………プリが1つありました」
お兄ちゃんが、なにもないところから、プリを出した。
黄色くってプルプルしてた。プルプル。
「食べました」
ナーナちゃんがいきなり食べちゃった。
っていうか今どっから出てきたの?
「食うな!」
「お兄さん!食べ物を粗末にするなって教わらなかったの!米の一粒にも神様は宿るんだよ!」
「別に粗末にするつもりはねぇよ!この後スタッフが美味しくいただくつもりだったっつーの!」
スタッフってなんだったのかな?
「おかわりないの?」
「自由すぎんだろお前!」
「そう言いながら、クリーム載ったプリン出してくれる、お兄さんが好き!」
またナーナちゃんが食べちゃった。
ナーナちゃんが大きく口を開いたときの顔は、ちょっとこわかった。
「だから食うな!お前に食わす為に出してんじゃねぇよ!これ教材なんだっつーの!」
「食育ってやつだね、おかわり」
「全然食育じゃねぇよ!語感だけでテキトー言ってんじゃねぇよ!」
「まぁいいじゃん減るものじゃないしさ」
「減らねぇと困るわ!………まぁコイツはほっておいてシャーシャちゃん?」
「………なぁに?」
首をかたむけてお兄ちゃんをみた。
「今のプリがゼロです」
「………プリが?」
「僕は8個プリンを出しましたが、どっかの泥棒猫が全て平らげてしまいました」
8個も食べたんだ。
お兄ちゃんが出したプリンは、全部食べられちゃった。
もうお皿しか残ってなかった。
それが、ゼロ。
わたしとお兄ちゃんは反対で。
わたしが無限なら。
お兄ちゃんはゼロだ。
お兄ちゃんのことを考えてたら、オシャンティーはもう終わりみたいだった。
いっぱい服をきるのは楽しかったけど、ちょっと疲れたかも。
「で、シャーシャちゃん。どの服がよかったですか?」
お兄ちゃんが楽しそうに聞いてきた。
お兄ちゃんは服が好きみたいだった。
お兄ちゃんは、自分が好きなものがすごく大事な人だった。
お兄ちゃんの好きなものの、悪口を言ったりした人は、みんなやっつけられてた。
ぜったいに、ちゃんと答えなきゃダメだ。
「………えっとね」
「はい」
わたしがなにをえらぶのか、ちゃんと答えがわかってるのか。
お兄ちゃんは楽しそうにわたしを見てた。
「………このね、白いね、セーフクってやつとね、このね、黒いね、てぶくろがいいの」
「………はい」
あれ?
まちがった?
お兄ちゃんが、がっかりしたみたいな、うれしそうみたいな?
よくわかんない顔してた。
17/11/11 投稿