日本男子、ごまかす
俺は今、堪能していた。
やり遂げた顔が眩しい疑似神格3人娘。
漸くクリーニングに出していたグララさんが戻ってきた。
「ズルーい!ズルーいしー!」
「うわ、この人誰さ!」
「………」
こちらはクリーニングの仕上がったグララを見た3人の反応。
概ね評判悪いな。
正にグララは見違える様になった。
あの汗独特の、刺す様な刺激臭がしていたのも今や昔。
ナチュラルワイルドフレバーな体臭は、今や爽やかなボディソープの香り。
これだけで最大の欠点が、強力な武器に変わったと言えるだろう。
無論変化はそれだけに留まらない。
髪だ。
グララの長い髪。
一見纏まってて綺麗な、その実は只のベトベトオイルリンスヘア。
それが今や、輝く様な光沢を放ち、風にそよいでいる。
グララの風下に立ち、髪をそよがせた風の匂いを嗅いでみると………?
思わずウットリする、理想的なシャンプーの香りだ。
加えて色白ではあるものの、垢が溜まっていたであろう肌。
それもまるで、輝く様なハリとツヤだ。
おそらく、サウナ的な空間を形成して、垢すりマッサージ的なのをやったんだろう。
血色が良くなって、健康的にほんのりピンク。
天辺からつま先まで、全身にツヤが生まれたグララは、どこからどう見ても掛け値なしの美女に生まれ変わった。
「ぬー!お腹が空いたのだ!」
あぁ失礼。
中身は残念なままだ。
まぁとにかく、グララさんをコーディネートしてみようじゃないか。
「という訳で、まず最初に選ぶアイテムだが」
「アイテムだが?」
相槌を打つナーナちゃんと話をしながら、イメージを固めていく。
「魔法使いのシンボルと言えば?」
「ほうき?」
「あー、箒か。それもあるな………いや、ほうきはオシャンアイテムじゃねぇだろ!」
危ねぇ!
このケモ耳ロリータ、いきなり人を脱線させようとしやがる!
「お兄さん!そうと断じるのは早計なんじゃないかな?」
「ほう?なんかあるのか?」
「例えば、こういうほうきならお兄さんも欲しいんじゃない?」
「ふむ」
なんか腹案があるらしい。
「これならどうかな?」
ナーナちゃんが背嚢から召喚したのは、オリジナルデザインのハンドメイド箒だ。
「あー、これなら確かに俺も欲しいな」
金銀パールで構成された、実用性皆無、資産価値100%の箒だ。
別に持ち運びたいとは思わないが。
「うん、これに会う服をコーディネートすればいいんじゃないかな?」
「白ロリパンキッシュの次は、星座の闘士でも作るつもりか?それとも金色のライターか?」
こんなゴージャスアイテムに何が合うんだ?
古代エジプトのファラオか?全身金箔塗りで。
完全に出落ち芸人の出で立ちになるが。
「むー!金色を織り込んだ美術様式って言ったら、最先端は古代エジプトぐらいかぁ………あ、コウモリさん!」
「その人、パンイチに編み上げブーツ、黒マントっていうコーディネートだけど、ナーナちゃんやってみるか?」
不死身のスーパーヒーローの異様な服装を思い出しながら、軽口を返す。
「え、お兄さん………?」
するとナーナちゃんが珍しく、本気で恥ずかしそうにしてこっちを見てた。
………まさか本気の提案と受け取られたのか!
マントを剥いだら、そこには下着と編上げブーツのみを身に着けた、リーチ状態の美少女!
なんだその男の夢みたいな服装!
男がやったら不審者ルックだが、美少女がやれば夢とリビドーが溢れた、浪漫溢れる素敵ファッションじゃないか!
あと、いつも飄々とした余裕を崩さないコイツも、恥ずかしがってると可愛いな。
言葉の応酬が軽やかだから忘れがちだが、少なくとも外見だけは、奇跡の美少女シャーシャちゃんに引けをとらない訳だし。
思わず口の端が釣り上がっていくのを自覚する。
今までは貴重な話相手と思い、そういう目で見てこなかったが………コイツも逸材じゃないか?
「お、お兄さん?そ、その笑い方怖いよ?」
「ヒッヒヒヒヒ!気にすんなよぉ、ヒヒヒヒヒヒヒ!イッヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
別に今直ぐどうこうするって訳じゃないんだからよぉ!
クフフフフフ!フフフ!フフ!
フフフフフフフフフフフフフ!
ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!
………いけない!
まだだ!
まだ擬態しなくちゃな!
溢れる衝動を抑える様に、口元を抑える!
楽しみは後に取っておくもんだろ?な?
だって、そうだ!
女というのは、男の視線に敏感なものらしい!
ナーナは純粋な女と考えていいのかわからないが!
それでも警戒すべきだ!
どういう種類の視線かを判別させてはいけない!
まだだ!
俺の目的は、俺だけが知っていればいい!
「あのね、お兄さん………」
「ん?」
表情を隠す様に覆った手の指を開き、ナーナを見返す。
「お兄さんは………」
「俺がどうした?」
「お兄さんは」
「俺がどうした!」
威圧する様に至近距離で睨め付ける。
逆らってみろ。
どうなるかわかっているのか?
そういう意志を込めて目を真っ直ぐ見る。
「なんでも………ないよ」
「何でもないんだな?」
「うん………そうだよ」
「クフフフフフフフ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
流石に聡いな!
何も言わずとも悟る!
察する!
それでいい!
まだだ!
まだだ!
まだまだだ!
耐えるんだ俺!
それほど長引かせるつもりはない!
………気を取り直して。
「魔法使いと言えば、三角帽子だな」
「あぁー、うん、そうだね」
俺が言いたかったのは、あのいかにもな帽子だ。
何という名前なんだろ?
ソンブレロだろうか?
マラカス振って踊ってる、ポンチョ着たメキシコ人を想像しよう。
もしそのメキシコ人が、頭に帽子を被っていたら、おそらくそれがソンブレロだ。
「あんなの売ってるの、見た事ないんだが」
まだ天辺が丸いのなら、フィクションで見た事がある。
概ね白系統の色で、ワンピースと一緒に着られる、お嬢様の避暑地アバンチュールスタイルでお馴染み。
しかし魔法使いのものといえば、天辺がとんがっている。
「ボクはあるよ、売ってるの見たことさ?」
「え、マジか?」
あれを普段使いのアイテムにするって事か?
超上級の着こなしじゃね?
「ハロウィン用に、子供用のコスプレに売ってたりするのさ。トリックオアジューマンドルポン」
「それなら俺も見た事あるわ。7時半から空手の稽古があるの、付き合えないわ」
結局パーティー用の仮装の話か。
しかし、悪戯されたくなかったら10万ドル寄越せって、えらく厚かましいな。
それは置いておいて。
魔法使いのステータスたる、アイテムのハードルがいきなり高い。
どうしたもんかねぇ。
まぁ頑張ってみるか。
「グララーや、グララー♪」
マレー語風にグララを呼んでみる。
「ドガンカサークヤーイドムー♪」
即座に反応する辺り、ナーナちゃんは流石だと言える。
しかしどうでもいいが、グララーヤって言うと、途端にロシア人っぽいな。
グララーヤ・ドスコイビッチ。
ついでに豆知識。イクラはロシア語である。イクラァと巻き舌で言うとそれっぽい。
「ぬ!何やらリズミカルに呼ばれたのだ!何なのだ!」
「好きな色はあるか?赤色か?」
以前サンダルの色を尋ねた時は赤色だった筈。
「うむ!赤色がよいのだ!」
「じゃあ赤色で………エロイムエッサイムエロイムエッサイム!」
周囲の光量を落とし、薄暗い空間を突如形成する!
「我は求め訴えたり!」
足元に赤く鳴動する五芒星の魔法陣を描く!
トドメに背後にドドーンっと、火柱をおっ立てる!
さぁ呪文を唱えよう!
別に俺の魔法に詠唱は必要ないが!
ついでに魔法陣も必要ないが!
ちなみに魔法陣の本来の目的は『封印』である!
魔法陣から何かを召喚するというのは、本来魔術的にありえない発想なのだ!
最初に魔法陣からの召喚を考えた人は偉大だと言える!
まぁ考えた人は有名なので、偉大であるのは既に周知の事だとは思うが!
それはさておき召喚だ!
「やっておしまい!」
「「「アラホラサッサー!」」」
またも3人娘をけしかける!
「ぬわーっ!」
何やら断末魔みたいな声を上げて攫われるグララ!
ちなみに召喚した服に着替えてもらう為に攫った。
流石に俺がひん剥く訳にはいかないからな。
脱がせるのまでなら良いけど、着させる自信がない。
なんで脱がしたのに着せる必要があるんですか(真顔)。
暫くすると、3人が戻ってきた。
白い布で包装された人間大のものを、頭上に持ち上げて。
白い布は何やらもぞもぞ動いているな。
「「「3人に勝てるわけないだろ!」」」
ノリいいなぁ君等。
それはともかく。
「生まれ変わったグララの姿を御覧じろ!これがブランニューグララ!略してブララだ!」
「誰がブララなのだ!」
白い布が除幕されると、そこには………おぉ!
独特な光沢を放つ赤い靴!
俗に言うおでこ靴だ!
ストラップがついた、スタンダードなタイプ!
そして下半身を覆うタイツは黒!
ストッキングではない!タイツだ!
デニール数の間違いは時に死を招く!絶対に間違うな!
※デニール数…タイツの厚さ。パンス党構成員にストッキングとタイツの取り違いを見つかった場合、死より悲惨な拷問が待っている為間違いは厳禁
お待ちかねの服はドレス!
赤を基調とし、縁取りのフリルやリボンには、黒が使われている!
肩で膨らんだ提灯袖から、肘で絞られて、袖で膨らむ豊かなライン!
段々のついた、大きくパラソル状に広がるスカート部!
そしてロングコートを羽織っている!
最後に帽子はキャプリン!
キャプリンとは、ツバの広い帽子の総称だが、ちょっとお目にかかれないタイプのデザインに仕上がっている!
赤地を基調に、黒いリボンとフリルで縁取り修飾され、先端は尖っている!
そう!
テーマは赤いゴスロリだ!
グララは色白美人なので、普通に似合っている!
赤を基調とした派手で印象的な色使いに、まるで負けていない!
俺の心の中でグララの評価が4096ポイント増加!
臭くない!
服がまとも(?)!
それだけでグララはこんなに魅力的!
しかもどっかのクソ白ロリと違って、能力に見どころもある!
私、グララの事が好きになりそう!
「「「ダメです!」」」
「んがっ!」
背後から3人に羽交い締めにされた!
思考を読みやがったな、疑似神格3人娘!
あと1つだけ言わせてくれ!
両腕を拘束されたのはわかる!
口と目を塞がれるのもわかる!
けど、股間を抑えつけてるのはなんだ!
絶対コレやってるの神通だろ!
興味が神通に向いた時点で拘束から解放された。
美少女3人に嫉妬されてもみくちゃにされてご満悦。
ふふーん。
「ってかお兄さん」
「ん、どうしたナーナちゃん?」
「アレのどこが魔法使いルックなのさ!只のゴスロリじゃないか!」
ナーナちゃんが勢いよく尋ねてきた。
「いいか、ナーナちゃん」
「我々は皇帝十字陣という陣形で戦う?」
「違ぇよ」
また懐かしいネタを………気を取り直して。
「その昔、こんな男がおりました」
「男ー?だれの話なのさ?」
怪訝そうに眉をひそめるナーナちゃんに説明する。
「その男の名は夜会礼服マスクといいました」
「あぁ、あの人か」
「被服学上、夜会用の礼服を身に着けていないにも関わらず、夜会礼服マスクを名乗っているのです」
「只の仮面だね」
「要するに本人が納得して、主張さえしてればいいんだよ」
「うむ!高貴なる我に相応しい装いなのだ!」
グララさんも大満足らしい。
ロングコートが特にお気に召した模様。
考えてみて欲しい。
ロングコート。
それもゴスロリ調のやつ。
しかもグララたっての希望で、その色は赤色。
おおよそ中二病でなければ、身に纏おうとは到底思えない代物だ。
それだけの超カッコイイ系アイテム。
不細工が纏えば、指差して笑われた挙句、生卵投げられること確実。
しかしグララは強気。
なんせグララ、見かけだけなら美人だからな。
まぁそんな素敵アイテムを装備したグララ。
尖った俺お手製帽子。
マントの様に羽織ったロングコート。
中のドレスも豪勢なローブの様なものだと、言えなくもない事はないかもしれない。
要はシルエットだけなら、魔法使いっぽいのだ。
色が赤地にところどころ黒で、ちょっとド派手だが。
更に言えば、細部がフリられているが。
「ゴスロリ着た魔女なら、十分オシャレの範疇で収まるだろ?」
「むー!黒い無地の、地味な衣装がアイデンティティなんじゃないの?」
「別に服なんて好きなの着てりゃいいじゃねぇか。別に制服があるわけじゃないのに」
ちょっとトチ狂っているが、目を細めれば魔法使いだと言えなくもないだろう。
「でもさー」
「少なくともアレよりは真っ当だろう」
「むー!お姉さんかぁ………お姉さんなぁ………お姉さんかぁ………」
ミミカカことホワイトフリルデビルを引き合いに出されて、さしものケモ耳ロリータも冷や汗気味。
だってアイツ、あの格好で職業狩人なんだぜ?
どこの世界に白ロリ着たアマゾネスがいる?
しかも白ロリなら大人しく白ロリしてればいいのに、なんか余計な金属パーツがたくさんついてて白ロリですらないし。
少なくともあの素っ頓狂な白ロリパンクよりは、よっぽど真っ当だ。
ちなみに同じロリータファッションでも、グララはミミカカとは違う。
きちんとゴスロリ路線で統一してるから、全体的にスッキリしてる。
手に持ってるでんでん太鼓も赤と黒だし、きちんと統一されてるだろ?
ちなみに彼女が元から持ってた杖と統廃合を行った結果、でんでん太鼓は巨大化した。
晩御飯に突撃してくる人が持ってる、あの大型しゃもじを想像していただければ、イメージはバッチリだ。
全長150センチ、太鼓部60センチの素敵武器に生まれ変わった。
鈍器としては使えないが、でんでんすると和太鼓の様な「ドン!」という音が楽しめる逸品だ。
ゴスロリと和太鼓の融合!
誰もが成し遂げなかった和洋折衷が今ここに実現したのだ!
まぁ、未だかつて誰もそんなもの実現しようとした事はないだろうがな!
17/11/3 投稿