日本男子、オシャンを語る
俺は今、画策していた。
俺とナーナちゃん………ウルトラスタイリストのNA-NAさんか。
めんどくせぇなぁ。
とりあえず俺達の初めての番組『飛び出せ!オシャンティー大作戦』存続の危機が訪れた。
グララさん、お着替えイヤイヤ事件の勃発である。
まぁ服というのは非常に重要な要素なのも確かだ。
好みでない服を着たら気分が盛り下がるし、逆もまた然り。
そして服装というのは自覚を促すものでもある。
例えば囚人服を着せられた人間が、鉄格子の付いた部屋に入れられたら?
囚人の自覚を促される事だろう。
警察官の服を着た人間は、特権意識を持つだろうし。
今まで着られていた服が着られなくなったら、太った自覚を持つだろう。
それはちょっと違うか?
ともかく、服というのは、人に影響を与えるものだ。
スポーツ選手のジンクスのようなもんだろうか?
必ず右足からズボンに脚を通すとか、何かをやる前の験担ぎの事だ。
いつも特定の動きをする事で、自分の『スイッチ』を入れ、競技に挑む訳だ。
或いは役者が登場人物になりきるのを、『降りてくる』というのもこの一種かもしれない。
『スイッチ』の入れ方は、その人が納得できるものであれば何でもいい。
心の中の『スイッチ』を切り替える事で、スムーズにスタンスを切り替える。
いつも『○○してから、△△していた』という条件付け。
それはいつか『○○すれば、△△できる』という絶対の自信に変わる訳だ。
プロであればあるほど、縁起を担ぐものだ。
何かがいつもと違っていれば、そこからどんどん自信がぐらつく。
1度でも失敗しようものなら、階段を転げ落ちる様に立て直せずに失敗する。
そんな情けないプロがいるものかって?
プロであればあらゆる状況で成果を出すべきだって?
無茶を言うな。
別にプロであれば、状況を選ばなくなるという訳ではない。
むしろプロであればあるほど、状況を選り好むのが正しい。
経験した事のない未知の状況への挑戦。
それは即ち未経験と同義だ。
未経験を克服し、未知を覆す為に、反復して練習を行う。
プロというのは、経験が豊富だからプロなのだ。
初めて挑戦する事に、アドバンテージは存在しない。
例えばそうだな………絵の話にしようか。
絵の下手な人は、絵の描き方を知らないだけなのだ。
人の顔を描けと言われても戸惑う。
目の大きさは?鼻の位置は?口の大きさは?
いざ描こうとしても、情報が足りないから失敗する。
では絵のうまい人とは何か?
無論、絵の描き方を知っている人の事だ。
目はこの大きさ。鼻の位置はここ。口の大きさはこう。
絵を描くに当たり、頭の中に典型が入っているからこそ、うまく描ける。
そういう典型が沢山、頭の中にある人―――それがプロの定義となる。
いくらプロでも、典型がなく、流用すらできないものは描けない訳だ。
絵で例えたが、あらゆる分野でプロとはこうなのだ。
積み重ねた成功の経験があって、それを再現する。
そうする事で安定した結果を形作る。
だいたい、そうでない奴がプロであってたまるか。
そうでないって事は、要するに行き当たりばったりなだけだ。
只の出たとこ勝負を繰り返すだけの人間。
それは専門家ではなく博打打ちだ。
そんな人間、信用できるか?
信用したいから専門家に頼むんじゃないのか?
昔気質で頭の固い人間こそ、信用できるものだ。
………うるさいだけで、何も信用できない奴だっている?
そりゃ専門家じゃなくて偏屈なだけだ。
混同してはいけないな。
言葉とは常に正しく用いなければならない。
誤解の元となるからな。
まぁそんな訳でグララもこだわりがある訳だ。
魔法使いとしての『スイッチ』となる服装に。
彼女を彼女たらしめるのは、魔法使いらしい服なのだ。
え、そこの白ロリパンキッシュはなんだって?
………なんだろうな。
あれはなんか………そう、宗教的な理由じゃないかな。
アイツにしか見えない独自の神
教義は神から与えられたフリルで、己の身を着飾る事。
神は白いフリルで包まれた姿をしており、それを模倣する事で高みへ至るのだ。
フリる事は善行であり、フリらない者は死後地獄へ落ちる。
信じる者はフリられる、実に恐ろしい教義の宗教だ。
是非お近づきにならない様にしておきたいな。
まぁ宗教家は置いておいて。
グララは、魔法使いのプロフェッショナルなんだね。
すごーい。
しかし今回用意した服に、そんなプロフェッショナルが喜ぶ様な、素っ頓狂な服はない。
「グララ」
「なんなのだ、ヤマトー殿?」
「大丈夫だ」
「ぬ?何がなのだ?」
「グララのお目に叶う服を用意して見せようじゃないか………誰かある!」
大仰に振り返り叫ぶ!
「「「御前に!」」」
するとそこにノリの良い三人娘―――雷、神通、長門が立膝ポーズで控えていた!
グララをプロデュース!
数々のアイドルをプロデュースしてきた、この俺の手腕をお見せする時が来た様だな!
ついでに少女がいっぱい出る弾幕シューティングもやってたし、提督業も兼任してた!
まぁ提督業の方は、何故か汚らしいアメリカ艦が実装された瞬間辞めたがな!
ちなみにマスターにはなってない!
それは置いておいてグララだ。
グララをプロデュースするに当たって、真っ先にする事は何か?
「やっておしまい!」
「「「アラホラサッサー!」」」
俺の号令の元、本当にノリの良い3人が、一斉にグララに飛び掛かる。
「な、何をするのだ、貴様等ー!」
事態が飲み込めていないグララが思わず、殺してでも奪い取られた様な悲鳴を上げる。
まぁ面識のない相手に囲まれて担ぎ上げられたのだ。
混乱するのも致し方あるまい。
俺達が何をしようとしているのかと言えば答えは1つ。
ここで問題だ。
オシャレの基本ってなーんだ?
流行を抑える?
まぁ大事だが………正直、流行というのはかなり理解し難いものだ。
最新の流行って事は、それまで流行っていなかったものであるという裏返しで。
要は理解し難い様な奇抜なものが多いのだ。
思わず「俺を担ごうたってそうはいかねぇぞ!」と言いたくなる。
また、流行は一定間隔で昔に遡る。
いつの時代の人間だよ、と言いたくなる様なファッションが本気で流行るのだ。
思わず「冗談だろ」と言いたくなる。
今更上下デニムを着ろとか正気か?と思ったもんだ
とまぁ、一事が万事この調子。
最先端のオシャレを極める事は、うかれポンチのイカレポンチな行動とどこか似ている。
正直、都会の、オシャンティーの最先端を行くプレイス、つまりオシャンシティー以外では全く受け入れられないと思われる。
よって流行を追うというのはオススメできない。
オシャレは足元からだから靴?
まぁ靴というのはかなり大事だ。
ダサい靴は全てを台無しにする。
靴は割りと一目見て値段がわかるアイテムである。
靴には『タン』という部位がある。
足の甲から足首までをカバーするところだ。
多分牛肉の『タン』と同じく、舌という意味なんかねぇ?
調べた事ないから知らないが。
まぁベロみたいにベロベロしてるあの部分だ。
スニーカーは大抵この部位に、ブランド名が書いてある。
ここに聞いた事がない様な単語が書かれている場合、大体ノーブランドだ。
それだけで確実に靴のグレードを推し量る事ができる。
というか、そんなものをわざわざ確認しなくても、大抵の靴は一目で善し悪しがわかるからな。
特に女という生き物は、人が身につけている物の、グレードを判別する能力に長けている。
一瞬で「アイツは私より上・下」という判断ができるのだ。
まぁ全員が全員そうではないので、勿論言い切れる事ではないのだが。
それでもそういう傾向は確実にある。
そもそも女とは、自分のヒエラルキーを常に気にするものだからな。
この言い方だと、アイテムの値段だけで、良し悪しが決まってそうに聞こえるかもしれない。
だが実際はそうとは限らないのだ。
………無論、そういう基準の人間もいるだろうが。
オシャレは足元からというのは、本来そういう意味ではないのだ。
靴は衣服の中で最も酷使されるパーツだ。
当然消耗しやすく、汚れやすい。
つまり。
靴が汚れたまま、使い古している奴というのは、身なりに無頓着な事が丸わかりとなるのだ。
逆に消耗の激しい筈の、靴が綺麗であるという事は、身なりに気を使っていると推し量れる。
そういう理屈で『オシャレは足元から』だ。
白いスニーカーが汚れてたり、カカトがすり減ってたり。
そういう奴を門前払いする、オシャンティー界の門番が靴な訳だ。
ちなみに1足しか持ってないと、靴はすぐダメになる。
だから何足か持ってローテーションすると、長持ちするし服とも組み合わせられるしオシャングッド。
さて。
流行じゃない。
靴じゃない。
なら、なんだ?
答えは清潔感だ。
清潔感というと、若干漠然としているので、勘違いされている事が有る様だ。
風呂ぐらい毎日入ってる?
服だって洗濯してる?
言わせてもらおう。
そんなの当たり前だ。
コレを満たしてないバッチイバイ菌培養野郎は、オシャレ談義に参加する前に風呂入ってこい。
求められているのは清潔『感』だ。
『清潔』である事は前提条件で、わざわざ語る以前の問題だ。
例えばだ。
髪がボッサボサの女と。
髪がツヤツヤの女。
どっちがお好みだろうか?
え、ボサボサ?
それはちょっと珍しい趣味趣向と言えるだろう。
あ、ウェーブのかかった髪が好き、というのはまた別の話だぞ?
髪型はお好みのもので、ボサッと広がっているのと、ツヤツヤとしているのの違いだ。
正直、どちらが魅力的かは、一目見ればわかると思う。
艶があるかないかは、それ程に致命的な違いをもたらす要素となる。
異性の髪で考えれば、髪のツヤの大事さはよくわかるのではないだろうか?
ならば自分の髪が他人に与える影響の大きさも分かる筈だ。
髪が伸びっぱなし。
寝癖がつきっぱなし。
ボサボサで広がりっぱなし。
天パで陰毛の様にうねりっぱなし。
そんな髪は問題外な訳だ。
え、髪質の事があるから仕方ないって?
そこがアウトなのだ。
髪は一手間かければ、途端にランクアップするものなのだから。
え、それが面倒くさい?
だからそれがアウトなんだって言ってるだろ。
髪はある程度、短く切る事。
ホストかミュージシャンかサーファーでもない限り、髪は短くしていればまぁ問題ない。
というか、髪の手入れもしない分際で長くしてると、かなり悪印象なので避けるべきだ。
カッコイイと思っているのは自分ばかりで、裏でホームレスとか言われたくないだろ?
何も俺はスポーツ選手の様に短く刈れと言ってる訳ではない。
概ねソフトモヒカン程度でいいのだ。
ちなみにモヒカンという言葉に拒否感があるというのは、ちょっとオシャレに無頓着過ぎると言えよう。
ソフトモヒカンは世紀末にヒャッハーしてる様な髪型ではないぞ?
サイドのボリュームを抑え、トップを少し長くした髪型だ。
特に難しいところはなく、簡単に清潔感を出せるので、オシャレ入門にオススメだ。
あとはコンビニでもドラッグストアでも、簡単に手に入る整髪料を買おう。
整髪料使った時の感覚が嫌いという人も多いと思う。
というかあんなの好きな奴なんていない。
それでも使った時の効果は大きいのだ。
ちょっと使うだけで、髪に艶が出る。
そしてちょっと逆立てるだけで、なんかオシャレ風な髪型が出来上がる。
少しの手間暇で得られるオシャン対効果が高いのだ。
最近のタレントって、どいつもこいつも似た様な髪型してるなぁ、とか思わないだろうか?
その感想は合ってるんだ。
なんとなくあんな感じで髪をいじれば、タレントに仲間入りできるぞ。
まぁそれは流石に嘘だけどな。
そこまではいかないけど、オシャンティー入門ぐらいは簡単にできる。
髪は目に入りやすい部位なので、真っ先に手をいれるべき部位だ。
髪1つで与える印象が変わるのは、お分かりいただけただろうか?
ならもう1つ気にするべき事がある。
これもまた清潔感に属するものだな。
服のサイズ?
まぁ重要らしいな。
けど………そもそもサイズの合ってない服なんて買うか?
あんまり実践的でない気がするな。
こういう意見を耳にする事はないだろうか?
「女の子の髪からふわっと漂ってきたシャンプーのいい香りが~」という奴だ。
童貞乙!と煽りたくなるが、まぁ気持ちはよくわかる。
「女の子の髪からふわっと洗ってない犬の臭いが~」よりは100倍いい。
何が言いたいかというと、臭いって重要な要素だよねって事だ。
異性に臭いの質を求めたんだ。
自分だって当然気にするべきだろう。
え、体質だって?
体質だったら女が臭くとも許せるか?
許せないというなら語るに落ちたな。
対策しろ。
香水は扱いが難しい上、使っても嗅ぐ人によっても好みが別れるし、おすすめしない。
けど消臭スプレーぐらいなら簡単だろ?
ちょっと汗かいたらシュッとしておけ。
ただそれだけオシャンティーグレード2階級特進で戦死だ。
まぁそれでも改善できない体質の場合、もっと根本的な方法の実施が必要となるが。
そういう場合は食事改善等で頑張る事になる。
食事と体臭は、密接な関係にあるらしいが、まぁ詳しい話は専門家に譲りたい。
さて。
オシャレの基礎、清潔感を振り返ったところで。
今回の患者を診てみよう。
髪、一見綺麗。
髪は纏まっていて、広がってない。
独特な鈍いツヤも備えている。
そんなグララお気に入りのヘアケアといえば、オーガニックオイルリンスだ。
平たく言えば、自家分泌油でコーティングされたベトベト危険物。
そして臭い。
ナーナちゃんが「獣人に生まれてきて1番辛いのは、町の人の体臭がキツい事」と、諦観した様な顔で言ってた。
日本人の様に風呂に入る習慣のない異世界人は、シャーシャちゃんを除き総じて臭いのだ。
ちなみにシャーシャちゃんは奇跡で体質が変わっていて、ニホコクミとなっている。
その為、毎日のお風呂と洗髪にも耐えられる、強靭ボディを会得していてフローラル。
「お兄さんお兄さん」
物思いに耽る俺に、獣耳ロリータが話しかけてきた。
「ん?なんだクソウルトラスタイリスト?」
「魔法使いのお姉さん、どうするつもりなの?」
軍神3人娘は何でグララを拉致ったのか?
まぁグララの問題点全てを改善する為だ。
「グララの体臭が好きだった、その道のプロの方には申し訳ないが、今日この時を持って、この臭いともおさらばさせるんだよ」
「お姉さんの臭いが嗅ぎ納めになるんだねぇ。そういう言い方をされると、なんだか貴重なものみたいに思えるから不思議なもんさ………スンスン………エンッ!」
なんかケミカルな叫びと共に倒れやがった。
17/10/28 投稿