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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の跳躍
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日本男子、品評する

 俺は今、整えていた。


 こちら『飛び出せ!オシャンティー』収録現場。

 この中ではオシャンゴッドの卵達が、自分達のオシャンティーを磨いております。

 それでは早速、卵達のオシャンぶりを見学してみましょう。


「エントリーナンバー1番!全てのオシャンを終わらせる者、カオスティックカラミティカスケード、ミミカカ選手でーす」

 パチパチパチ。

 目を逸らして拍手を送る。


「お兄さん?人とお話するときは、目を見て話しましょうって言われなかったの?」

「てめぇこそ直視してみろ!あの全身フリった真っ白お化けを!」

「やだよ!目を合わせてボクまでフリられたらどうすんのさ!」


 フリる【動詞・ラ行五段活用】

 何かをフリルで装飾し、女子力を上げる事。

 「背中に1とー・リられた服はないのか?」

 「もっと腕にシルバーー・リるとかさー」


 俺とナーナちゃんが恐れいなないているのは、無論あそこにいる全身を白いフリルでコーディネートした超戦士の出で立ちにだ。

 住んでるところが田舎なもんで、正直三次元で白ロリにお目にかかった事はない。

 二次元だったら好みなんだが、いかんせん三次元。

 二次元とは勝手が違う。


 まずはその異質と言っていい存在感。

 ミミカカがいる空間だけを切り取った様に、周囲から浮き出ている。

 それはまるで低レベルな、コラージュ写真みたいな有様だ。


 そしてその異質さが沈黙と緊張を生む。

 悪目立ちしている以上、意識せずにいられないのだ。

 未知と遭遇した際に、人が取る手段は多くない。

 俺とナーナちゃんは観察を選んだ為、一挙手一投足に注目し、緊迫感が生まれる。

 この勝負………先に動いた方が負けるッ!

 まぁ、そこまで言う程に異様なのだ。


 ………人の服装に偉そうに酷評して何様だって?

 確かに、どんな格好をしようと、公序良俗を乱さない限りは、当人の自由かもしれない。

 だがその自由を振りかざすなら、俺にも忌憚なく感想をいう自由が欲しい。

 相手は好き放題やらかしていい、俺は駄目というのなら、それは自由ではなく只の不平等だ。


 見た目で人を判断するなという言葉がある。

 確かに見た目だけで全てを断じるのは早計だ。

 しかし、着古したリクルートスーツを着た中年と、いい生地のスーツを着た中年では、受ける印象は変わる。

 そして服装という情報が、本人の収入を推理する手立てとなる。

 服装は全てではなくとも、間違いなく本人の一部であり、本人を構成する大事な要素なのだ。


 ネイビーのパーカーに黒いTシャツ、ベージュのパンツを着ていれば、ごく普通の印象を与える。

 これが上下黒で揃えていれば、イケメンならホスト、不細工ならオタクだ。

 もし上下黒の不細工集団がいれば、それは9割9分オタクの集団だろう。


 ちなみに便宜上『不細工』と言ったが、より詳しく言えば『清潔感のない連中』が正しい。

 整髪料を使ってないとか、肌が汚いとか、身だしなみへの配慮がない人間。

 それらはひと目でオタク、ないしそれに類する種類の人間だと看破できる。

 見た目に気を使うオタクもいるって?

 そりゃオタクじゃなくて、内向的趣味を持っただけの普通の人間だ。

 侮蔑的なニュアンスでオタクと言われる場合、問題となるのは趣味ではなく人間性の方だ。


 まぁそこまで微妙な例を出さなくとも、もっとわかりやすい事例もある。

 いわゆる、制服・ユニフォームの類だ。

 学校の制服を着ているなら、その学校の生徒。

 サッカーのユニフォームを着ているなら、どこかのチームの選手かサポーター。

 ツナギを着ているなら工事関係者、或いはいい男とわかる。ウホッ。




 さて。

 そんな自分を表す大事な情報である衣服。

 それが白ロリな訳だ。

 ()()ならどんな印象を受ける?


 俺なら恐怖を覚える。

 だって………白ロリなんだぜ?

 白ロリって見た事あるか?

 全身真っ白でフリッフリなんだぜ?


 普遍的である事を普通であるというのなら、白ロリは普通ではない。

 普通ではないという事は異常である事を示す。

 そう、奇抜な服装は即ち、そのまま異常と言っても差し支えないのだ!


 なんらかの主義主張を抱えている人間は、それを外部に示す事がある。

 例えば服装だったりで。

 白ロリを着ているのは、何らかの特殊性の現れだと、俺は認識する訳だ。


 正直、これでやたら大きなぬいぐるみを抱いてたり。

 或いは眼帯をしていたり。

 更には腕にリストバンドを巻いてたりしたら、俺はまず関わり合いにならない様に距離を置く事だろう。

 ちなみに説明する必要性があるかどうかはわからないが、一応説明しておこう。

 この場合、リストバンドで危惧しているのは、手首に自傷行為の痕がある可能性だ。


 まぁとにかく俺はそこまで、白ロリというものに、脅威を感じる訳だ。

 ネットスラングでいうところの、メンヘラというものでないかと身構える。

 そこまでいかなくとも、ほぼ創作物でしか見かけた事がない様な出で立ち。

 そういうものに憧れを抱くという事は、それだけ幼稚な精神性を示していると言える。

 やはり尻尾巻いて逃げるべき案件と判断。


 差別的だって?

 差別的で何が悪い?

 ()()は差別しないのか?


 例えば見ず知らずのヤクザに向かって声を掛けるか?

 十年来の親友の様に何故そうしない?

 何故対応に差がある?

 それは差別というのではないのかね?


 差別ではなく、常識的な範囲での対応だ?

 なら俺もそうだ。

 俺は別に白ロリに向かって、石を投げた訳でもなければ、罵倒した訳でもない。

 ただ距離を置いただけだ。

 何か責められる謂れがあるかね?

 極めて常識的な範囲での対応だ。


 俺が個人的に思っている事に、ケチを付けられる筋合いがない。

 ()()は何を見ても、全く区別せず、全く同じことを思うのか?

 知人を見ても、ゴキブリを見ても、人殺しの現場を見ても、何もかも同じに見えるのか?

 そうでないなら、批判される謂れがあってたまるか。


 だいたい………白ロリで弓矢背負って、ナイフぶら下げてる不審人物だぞ?

 ()()はこれに何の脅威も感じないのか?

 俺なら即座に逃げ出すぐらいの異様さだ。

 っていうかあのフリルソックス1つで、俺は命乞いを始めるかもしれない。


 あと、白ロリの概念を知らない以上、仕方ないのかもしれないが………着こなしがメチャクチャである。

 襟とか袖とか、あらゆるところがフリッフリしてる、大きなリボン付きのフリルブラウス。

 普通この手のファッションは、ボタンをかっちり止めてリボンをしっかり結ぶんだと思うが。

 あろうことかこのブラウス、前を閉じてない。

 ………胸がまろび出てる訳じゃないぞ?


 ガーリー系というには、ちょっとフリルの段の主張がうるさすぎる、超少女趣味なフリルワンピースの上に羽織っているのだ。

 余談だが、この世界の人には裾の長い服が好まれる傾向にあるらしい。

 なんせボトムや下着がほとんど存在してないからな。

 ボトムを兼ねたチュニックタイプ、それに近い着こなしのできるワンピースタイプを中心に、ミミカカとグララは手に取っていた。


 一応ミミカカはスカートにも興味を示したが、最終的には全て手放した。

 だってスカート丈にも依るが、お大事が丸見えになるしな。

 スカートの下にボトムを履こうとした様だが、ミミカカのお眼鏡に叶うボトムがなかった為に諦めた様だ。

 白タイツとかは用意してあったんだが、タイツにフリルはついてないしな。

 どうしてもフリル付きじゃないと嫌らしい。


 ちなみにブラウスを羽織っているのは、どうも袖付きの外套(マント)と思っている伏しがある。

 羽織るんならボレロとか、ケープもあったんだがこれらは辞退。

 フリルの量がブラウスの方が多かった為と思われる。

 飽くなきフリルへの欲求に、震えを禁じ得る事ができない俺!


 ちなみにひと目見てヘッドドレスを気に入ったらしく、手に取っていた。

 ヘッドドレスが何かわからない人は………そうだな、なんと説明しようか。

 メイドさんが頭に付けてるカチューシャが、更にフリッフリしてるみたいな奴だ。


 まぁとにかく全身フリフリ。

 ヘッドドレス、ワンピース、ブラウス、ソックス。

 さて。

 これでお出かけするにはちょっと足りないものがある。


 お洒落は足元から、でお馴染みの靴だ。

 流石にフリルの付いた靴というのは用意してない。

 厳選の結果、フリンジ付きの靴が選ばれた。

 なんか装飾されていればいいらしい。


 そして。

 ミミカカの快進撃はコレにとどまらない。

 1つ上のオシャンを目指すには、小物の使い方もポイントである。

 ミミカカが組み合わせた、小物を紹介していこう。

 ………小物と言うには、存在感が大物過ぎるが。


 まずは関西のオバハンが好きそうな、ジャラジャラした胡散臭い3連ロングネックレス。

 金を基調に、ギラギラと自己主張をする宝石類(無論偽物(イミテーション))が何個も連なった逸品である。

 清楚な白フリルコーディネートを、一撃で台無しにする品の無さである。

 貴金属類に縁のなかったミミカカは、ひと目見てわかる派手なネックレスに飛びついたのだ。

 とにかく選考基準は派手な事。


 ちなみに似た様な感じの、ブレスレットを両手に巻いている。

 アラビアンな雰囲気の、露出度高いダンサーが付けてそうな奴な。

 これと比べれば、縁日のブレスレットの方が、まだ品がある。

 まるでセンスのない成金みたいな品の無さだ。

 最早逆に、独自のシャーマニズム信仰の現れではないかと思わせる。


 しかも派手好き(ケバケバしい)ミミカカの、飽くなき欲求はまだまだ底を見せない。

 ベルトだ。

 現代の形のベルトの使い方はわからなかった様だが、腰に巻くものだと教えたら喜々として巻き出した。

 ………パンク系のスタッズベルトを。

 全周囲にピラミッド形の鋲が打たれた、パンキッシュファッション御用達のアイテムだ。


 ミミカカはこれをワンピースの上から3本も巻いている。

 金・銀・金のギラギラした色使いの眩しいコーディネート。

 白ロリ基調なら、大人しくコルセット巻けよと言いたいが。

 フリルも光り物も使われてない、コルセットには見向きもしなかった。


 こうしてファッションに対して興味がなくとも、一瞬でおかしいとわかる出で立ちの戦士が爆誕した。




「続いてエントリーナンバー2番!オシャンからは逃げられない!エレガンスエリミネートエイリアン、グララ選手でーす!」

 とりあえず名前を呼ばれたので、腕組みして頷く、偉そうなグララ。

「なぁ、ナーナちゃんや」

 疑問に思う事があったので、隣りにいるナーナちゃんに尋ねてみる。


「ボクのことはウルトラスタイリストのNA-NAさんと呼べ!」

「クソウルトラスタイリストのクソNA-NAさんよぉ!」

 意味がわからない煽りを受けて、言い直すとともにトラースキックを打ち込む!

「なんなのさ!お兄さん!」

 この奇襲攻撃を、その場飛びのシューティングスタープレスで回避しつつ、反撃してくるクソロリビッチ!


 シューティングスタープレスとは、向き合った状態から宙返りを行って、そのままボディプレスする技だ!

 この身体能力!

 安っぽいケモ耳ロリータにしておくには惜しいぞ!

 とりあえず売り言葉に買い言葉で睨み合う俺達!


「俺の目には、グララの姿がいつもと、何一つ変わってない様に見えるんだが!」

 飛び掛かるクソロリータを、クレイジーサイクロンで避けつつ殴り掛かる!

 クレイジーサイクロンは所謂裏拳打ち(バックブロー)形式で、体ごと回転しつつ放つ、打ち下ろしの掌底だ!


 普通、打撃というのは真っ直ぐ伸びるので、モーションが小さい!

 しかし、後ろ回し蹴り等の技は背中を見せるので大振りだが、打撃の出処が変わるので奇襲性が高い!

 移動しつつ攻撃できるという特性と、大振りな分威力が載せやすいという利点があるのだ!


「お兄さんの目は節穴なんじゃないかな!」

 なっ!?

 クソロリータがさっきより高く空に舞う!

 コイツ、俺の膝を蹴って跳びやがった!

 ライオンサルトか!


 足を踏み台に駆け上って顔めがけ繰り出す膝蹴り、閃光(シャイニング)魔術(ウィザード)に持ち込まなかったのは流石の勝負勘か!

 もし攻撃に耐えられて、蹴り足を掴まれれば、有効な反撃を打つ手がなくなるからだ!

 いかに獣人の身体能力が優れていようと、たかがロリータの膝蹴り1つで吹き飛ぶ俺の意識ではない!

 即座に軸足を捕まえ、膝裏を舐め回して、必須栄養素のロリコサミンを補給していた事だろう!

 ………しないけど!


「何が違うっていうんだ!」

 飛び退るクソロリータ目掛けて、フロントハイキック―――ビッグブートを繰り出す!

 俺が蹴り技を躊躇する必要はない!

 例え蹴り足を掴まれたところで、力比べの軍配は俺に上がる!

 逆にクソロリータは捕まえても利点はなく、動きを止める事になる!


「目の輝きがさっきまでと違う気が多分する!」

 高く突き出した俺の脚を、鉄棒に見立てたクソロリータが、大車輪を決めて、再び真上に飛び上がる!

「なんだそりゃー!」

「女の子は構われたがりだから、些細な事でも褒めなきゃいけないんだよ!」

 飛び上がったクソロリータが落ちるタイミングで、逆の足で再びビッグブートを繰り出す!


「にゃーっ!」

 またもや俺の脚で大車輪を決めて、クソロリータが今度は大きく前へ飛び立つ!

 空中で膝を抱え、小さく丸まり1回転!2回転!3回転!4回転!

 捻りを加えて、足先より着地!両手を大きく広げて微動だにせず!


 折り曲げた中指と薬指の間から、親指を突き出したポーズで、お互いの健闘を称える俺達!

 サムズアップは日本人としての品性に欠けるという思いから、代わりのジェスチャーとして使っている次第だ!

 他意はない!ないったらない!


 ………常在戦場の心構えをモットーに、俺達はこうして突拍子もなく、こういう事を始める。

 無論、攻撃は本気じゃないし、些細な悪戯みたいなもんだ。

 いくら常在戦場って言っても、完全な不意打ちで俺達の攻撃が炸裂したら、そりゃ軽く死ねるからな。


「っていうかグララ、服は着替えなかったのか?」

「うむ!」

 何故か偉そうに返事するグララを見て訝しむ。


「何故か聞いていいか?」

「うむ!魔法使いらしいマントが見当たらなんだのだ!」

 グララが残念そうに眉をひそめて言った。


「なぁ、ウルトラスタイリストのNA-NAさん?」

「なにかな、スーパーコーディネーターのYAMATOさん?」

 ナーナちゃんに声を掛けつつ、シャーシャちゃんを見る。

 シャーシャちゃんも色々手にとって見ていたが、上下白のワークシャツとカーゴパンツのままだ。

 参加者3人中、2人が棄権状態である。


「企画頓挫してね?」

「ボクたちのオシャンはこれからだ!」

「俺達は漸く登り始めたばかりだからな!この果てしなく遠いオシャン坂をよ!」

「「ミカン!」」

 俺達は2人で同時に柑橘系フルーツを召喚し、皮剥いて食った。


17/10/21 投降・文章の修正

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