表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の試練
11/154

シャーシャ、日本男子と会う

R15 残酷な描写有り

 わたしの名前はシャーシャです。


 ガシンキ山のふもとにあるトゴーの村で生まれました。

 わたしにはお父さんとお母さんとおねえちゃんがいて、セオン、コセー、シューシュと言いました。

 シューシュはわたしのふたごのおねえちゃんでした。

 子供のころのわたしとおねえちゃんはなかよしで、毎日あそんでました。

 あのころのわたしは幸せな毎日がつづくと思ってました。




 わたしたちが9さいになったころ、ヘンになってきました。

 わたしだけ出されるごはんがすくなくなりました。

 わたしはお母さんがまちがったんだって思って

「これ、少ないよ?」

って聞きました。

 お母さんはフンって言ってわたしのごはんは少ないままでした。


 ヘンなのはそれだけじゃありませんでした。


 体が大きくなったシューシュにお母さんは新しい服を作ってました。

 わたしもシューシュと同じ体の大きさだったけど新しい服はありませんでした。


 シューシュがあそびに行くのについていこうとしたら、お父さんにおこられました。

 シューシュがあそびに行った日は、お父さんといっしょに畑の手伝いをしました。

 次の日、わたしがあそびに行こうとするとまたお父さんにおこられました。

 その日もまた、お父さんを手伝って畑の手伝いをしました。

 シューシュはその日もまたあそびに行きました。

 その次の日もやっぱりわたしは畑の手伝いでした。


「なんでわたしはあそびに行っちゃいけないの?」

って聞きました。

 お父さんは今はわたしが手伝いをするばんなんだって言いました。

 わたしはお仕事をしたらその分ずっとあそべると思ってがんばって手伝いました。

 でもわたしの仕事をするばんはずっと続きました。


「わたしもあそびたい」

 ある日がまんできなくて、お父さんにそう言ったらほっぺをたたかれて

「お前は言うことを聞いていたらいいんだ!」

ってどなられました。

 すごくいたくて泣いたらまたたたかれました。

 シューシュはいいけど、わたしはダメなことがふえました。


「なんでシャーシャをいじめるの?」

 わたしがたたかれるのを見たシューシュがお父さんにしがみついて聞きました。

 お父さんは答えずにはたけのしごとにもどりました。

 シューシュはわたしにあそびに行こうって言いました。

 わたしはたたかれたのがこわくてはたけの手伝いをしました。

 あそんでいるシューシュがうらやましくて、なかよくできませんでした。


 どんどんいろんなものがなくなってきました。

 ごはんも。服も。時間も。

 ごはんはちょっとだけで。

 服はシャーシャのお古で。

 時間は起きたらねるまでずっとしごとで。 


「セオン、いいどれいを見つけたじゃないか」

「はははっ、そうだろ」

 お父さんが村の男の人にそう言ってるのを聞いてすごく悲しくて泣きました。

 本当のどれいじゃないけど、どれいみたいな生活でした。




 そんな毎日がつづいてわたしは12歳になりました。

 そのときにはもうシャーシャもわたしをいじめるようになってました。

 このころになってようやくわかったことがありました。

 お父さんのはたけじゃ小さすぎて、子どもを2人も育てられなかったんです。


「早くしろって言ってるだろ、この愚図!」

 ごめんなさい、これからもっと早くやるから。

「なんでお前はそんなに意地汚いの!」

 ごめんなさい、おなかがすいたの。

「汚い手で私の服にさわらないで!」

 ごめんなさい、もうシューシュの服にはさわらないから。


 ちゃんとおしごとするから!


 おなかがすいてもつまみ食いしないから!


 もう服にさわらないから!


 だから………だから!

 わたしのこといじめないで!


「ひっ………ぐすっ………」

 つらくてわたしは泣きました。

「奴隷のくせに泣くな!」

 泣くとお父さんにたくさんたたかれました。

「本当に鬱陶しい子!」

 お母さんにもたたかれました。

「泣き虫!汚い!死んじゃえばいいのに!」

 シューシュもわたしをたたきました。


 もうたたかないで………いたいの、いやなの………。

 いたいの………いやなの………いやなの………。

 いやなのに………なんでやめてくれないの………。

 なんでわたしのこといじめるの………。

 もういやだ………もう………いや………。


 それからいつもおこられるんじゃないかって不安になりました。

 1日中はたらいてつかれててもねむれないようになりました。

 いつでもお父さんがどなる声が聞こえるようにました。

 いつでもお母さんがしかる声が聞こえるようにました。

 いつでもシューシュがばかにする声が聞こえるようにました。 

 まわりに誰もいないのにわたしをいじめる声が聞こえるようになりました。


 何をしててもすごくいやで苦しくなりました。

 何かをしたいって思わなくなりました。

 死んじゃうんだって思いました。

 何も考えれなくなりました。

 もう泣かなくなりました。

 泣いてないのに、すごく悲しくて、苦しくて、息ができないみたいになりました。




 そしてわたしは本当のどれいになりました。

 その年はごはんが少なくて、4人じゃ冬の間のごはんが足りませんでした。

 村に来てた人買いの人にわたしは売られました。

 お金をもらってお父さんたちは笑ってました。


 馬車にのせられて、中でどれいのわを付けられました。

 馬車の中にはわたしと同じどれいの人たちがいました。

 人買いの人はわたしに色々と言ってきました。

「お前は親に売られたんだ」

「これから街に戻って奴隷の焼き印をしてやる」

「人に買われたら休みなく働かされてすぐに死ねる」

「お前みたいな汚いやつは女としての役目は求められないから安心しろ」

 わたしは聞こえてるのに何を言われてるのかよくわかりませんでした。


 街に連れられてくとちゅうで、とうぞくがきました。

 どこにいたのか馬車に矢をとばしてきました。

 にげようとしましたがにげられなくてたたかいになりました。

 馬車を守る人もたたかいましたが、とうぞくのかちでした。

 人買いの人は1人でにげました。

 どれいの人たちもいっしょににげようとしました。

 どれいのわがついたままだったどれいの人たちは、にげられなくてとうぞくにころされてしまいました。

 それをわたしはぼーっと見てました。

 生きてたのはわたし1人でした。




「悪鬼羅刹と成りて討ち滅ぼしてくれるっ!!」

 男の人の、とてもこわい声が聞こえてきました。

 今まで目の前で起こってたこともよくわかってなかったのに、その声だけはすごくこわいと思いました。

 こわいあくまがしゃべったんだって思ってゾッとしました。

 声が聞こえた方を見たら、黒い服の大きな男の人がとうぞくと戦ってました。


 男の人がブンブンって剣をふったらとうぞくがやられました。

 男の人はまだ動いてたとうぞくをふみました。

 動かなくなってもいっぱいふみました。

 もう死んでてもいっぱいふみました。

 こわくて動けなくて、とうぞくがふまれてるのをずっと見てました。

 目の前にいるのは本当のあくまなんだと思いました。




 そのあくまはとうぞくをふむのをやめました。

 あくまははぁはぁって息をして、服をぬいできがえてそのまま手を洗いはじめました。

 何をしてるのかわかりませんでした。

 ずっとあくまを見てたらわたしは、トゴー村であったことを思い出しました。


 村にいたお兄さんがわるものが来たらやっつけてやるって言ってました。

 ある日とうぞくが村にきたから、お兄さんはとうぞくとたたかってやっつけました。

 お兄さんはやっつけた後、顔が青くなってふるえてました。

 持ってたぶきを布でふいて、水あびをして、体をいっぱい洗ってました。

 とうぞくをやっつけたのがこわくて忘れたかったんだと思いました。

 やっつけたあとをきれいに消して、あとといっしょにこわいのを消してたんだって思いました。


 わたしは目の前にいるのがあくまじゃなくてただの人だったのがわかりました。




 こわいのを消した男の人はすぐに、わたしのいる馬車の中をしらべはじめました。

 お金ならもう人買いの人が持ってったから中にはないのにって思いました。

 そう思って見てたら、男の人がわたしにこう話しかけてきました。

「初めまして。僕はヤマトーといいます。君のお名前を教えて下さい」

 やさしくわらってしゃがんで、やさしい声でわたしと目を合わせながら。

 今までだれもそんな風にやさしく話してくれたことはなかったのに。


「………シャーシャっていいます」

 男の人のやさしさがさっきのこわさとちがってておどろきながら、なんとか答えられました。

 そしたら男の人が手を上げました。

 たたかれる!

 こわくて目をとじて体をギュッてしました。

 でもわたしはたたかれませんでした。

 見てみたら男の人は手をゆっくりとわたしの頭の上にのばして………頭をなでてくれました。

 男の人はすごくさびしそうな顔をしてました。


「シャーシャちゃんに付いている、その枷を外したいんですが、鍵はどこにあるかわかりますか?」

 男の人はゆっくり話しながら、わたしのどれいのわを外すカギがどこにあるのか聞きました。

「………持ってた人が、馬にのってにげました」

 カギがないって答えたからおこられるかと思ったのに、男の人は頭をなでてそれでもどれいのわを外すと言ってくれました。


 男の人はまほうのカギっていう、見たことがない道具を取り出して見せてくれました。

 きれいなピカピカの棒なのに引っぱり出すと、中からふしぎな形のカギが出てきました。

 男の人がまほうのカギを差し込んでカチャカチャってやったら、すぐにガコンってなってどれいのわを外してきました。

 どれいのわはすごく固くて大きかったのに、まるでなんでもないみたいにかんたんに。


 男の人はわたしの体がどれいのわですれて血が出てるのを見たら、今度はまほうのおくすりでキレイに治してくれました。

 男の人はしかくいまっ白なペラペラに絵をかきながら、わたしの体についてるわるいのをやっつけるすごいくすりなのを説明してくれました。


 説明の絵を見てたら

「シャーシャちゃん、お腹はすいてませんか?」

と聞かれました。

「………だいじょうぶ、です」

 おなかは空いていたけど、そう言ったらお母さんにおこられてたたかれました。いつもおこられて、たたかれて………平気みたいにしてました。でもときどきとても悲しくなって1人で泣いてました。


「いつもは何を食べてましたか?」

 でもわたしがウソをついたのがわかったのか何を食べてたのか聞かれました。

「………塩のスープ。あとパンです」

 ウソをついたのをおこられてたたかれるんじゃないかって男の人の顔を見ました。

「シャーシャちゃん、1つ約束して欲しい事があります。お腹が空いたり、困った事があったら、絶対に僕に教えて下さい」

「………わかりました」

 わたしが答えたら男の人はいきなりギュっとだきしめたからびっくりしました。

 でも今までだれもそんな風にわたしをだきしめてくれなかったのに、だきしめてもらって、それが温かくって、うれしかったです。

 男の人が泣いてるのがふしぎでした。


「もう1度聞きます。シャーシャちゃんは、お腹が空いていませんか?」

 そしてどならずにやさしくおなかが空いてないか聞いてくれました。

「………空いてます」

「答えてくれたシャーシャちゃんに、元気になれる魔法のご飯をあげます」

 正直に答えれたわたしの頭をなでてそう言ってくれました。


 まほうのごはんは見たこともないような、キレイな色の箱とピカピカの袋に入ってました。

 そして火も起こしていないのに、温かいお茶が出てきました。

 でもいつも食べてたパンとちがうのかは見てもよくわかりませんでした。

「今シャーシャちゃんは弱ってて、物をいっぱい食べられないんです。そのごはんの見た目はスープとパンと一緒に見えるかもしれませんが、食べると元気になれるまほうのごはんです。元気になったらお腹いっぱいお肉を食べましょう」

と言ってまた絵をかいて説明してくれました。


 泣いてる子どもは体の中が小さくてお肉を食べれなくて、笑ってる子どもは体の中が大きくてお肉も食べられる。

 泣いてる子どもの絵がまるで、村でいじめられてたわたしみたいに見える。

 いつもわたしは泣いてて、お肉なんか食べさせてもらえなくて、ごはんをいっぱい食べさせてもらえなくて。

 でも………。

 この絵の子どもがわたしなら………。

 泣いてる子どものとなりにいる子もわたしなら………。

 わたしも元気に笑って、お肉もたくさん食べられるようになるの? 


「もう傷は治したので包帯を外しましょう」

 おどろいてたわたしはもっとおどろきました。

 男の人がスルスルってほうたいをほどくと血が止まってました。

 手も足も全部キレイになってました。


「ほら見て下さい。首も綺麗に治りました」

 するとわたしに小さな光るものを見せてくれました。

 その小さな光るものの中にはわたしを見てる人がいました。

 わたしがおどろくと、その人もおどろきました。

 わたしが右を向くと、その人も同じ方向を向きました。

 わたしが何をしても、その人も同じことをしました。

 わたしが着てる服を、その人も着てました。

 光るものの中にはわたしがいました。

 光るものの中のわたしはすごくふしぎそうな顔でわたしを見てました。


「じゃ傷も治しましたし、ごはんを食べましょう」

 でもわたしはだれかといっしょにごはんを食べることはありませんでした。

「食べないんですか?」

「………わたしはどれいなので」

 村にいたときは日が暮れるまではたけにいて、お父さんたちはわたしが家に行く前にごはんを食べてました。

 どれいになった後も、人買いの人がご飯を食べ終わるまでわたしたちはおあずけでした。


「シャーシャちゃんは奴隷などではありません!」

 男の人は今までやさしかったのにすごくおこりました。

 ぜったいゆるせないって、すごくこわい顔でおこってました。

 この人がさっきあくまみたいにあばれてたのを思い出しました。

「おどろかせてしまってごめんなさい。でもシャーシャちゃんは僕と一緒の人間です」

 でもわたしをたたいたりはしませんでした。


 お父さんたちにもどれいだって言われてた。

 わたしだけいっぱいおこられて。

 わたしだけいっぱいたたかれて。

 わたしだけごはんがすくなくて。

 わたしだけいじめられてたのに。

 あんなにやめてって言ってもやめてもらえなかったのに。


 わたしがどれいじゃないって、いっしょの人間だって。

 わたしも………ごはんをいっしょにたべたかったの。

 わたしも………みんなといっしょがよかったの。

 わたしも………いっしょの人間なの。


「とにかく一緒にごはんを食べましょう」

 男の人はやさしく笑っていっしょにごはんを食べようと言ってくれました。

 いっしょなのがうれしくて少しふるえながらパンを食べました。

 ………!

 すごく………甘い!


 これがまほうのごはん!

 さわったらかたいのに口の中でもろもろと崩れていきました!

 !!

 かけらが………のどに入って………苦しい!

「はい、これを飲みましょう」

 男の人はすぐに背中をなでながら温かいお茶を飲ませてくれました。


 お茶を飲んでたら男の人がまほうのごはんにお湯を入れてぐにぐにしました。

 まほうのごはんは見てたらどんどんぐにぐにになってやわらかくなりました。

 わたしはスプーンでそれを全部パクパクって食べました。

 まほうのごはんはいつものパンとはぜんぜんちがいました。

 やわらかくてすごく食べやすくて、甘くておいしくてぐにぐにしてるふしぎなごはんでした。


「お腹は痛くありませんか?」

「………はい!」

 こんなにおいしいごはんは初めて食べました!

「おかわりしますか?」

 男の人はやさしく聞いてくれました。

「………はいっ!」

 おかわりしてもおこられませんでした!

 おいしいごはんをいっぱい食べさせてもらえました!


「まほうのごはんをたくさん食べたのですから、シャーシャちゃんは直ぐに元気になれます」

「………ありがとうございました」

「甘い物は好きですか?」

「………はい、好きです」

 わたしが答えると今度はお茶にきれいな白い粉みたいなのを入れてくれました。

「甘くて美味しいですよ」

 飲んでみるとさっきまでのお茶とちがって本当に甘くなってました。


「あの………まほうのごはん、ありがとうございました。とてもおいしかったです」

「どういたしまして」

 こんなにやさしくしてくれるのに男の人はそれがふつうみたいにうなずいてました。


「ご主人様のお名前を、教えてもらってもいいですか?」

 わたしはまだこの新しいご主人様のお名前を覚えてませんでした。

「シャーシャちゃんはどれいじゃありませんので、僕はご主人様じゃありません」

「あっ………ご、ごめんなさい」

「おこってはいませんので大丈夫です。ヤマトーと呼んで下さい。」

 本当にわたしのことをおこってないみたいに、やさしく名前を教えてくれました。

 さっきわたしがどれいって言った時はあんなにおこったのに、今はやさしく言ってくれました。

 多分、ヤマトー様はわたしがこわがらないようにしてくれてるんだと思いました。

 こんなにやさしくしてもらえたのははじめてで………泣きそうになりました。

16/07/02 投稿

16/07/13 背景色をイメージカラーに変更

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ