日本男子、縋り付く
俺は今、新たな領域へと踏み出していた。
俺の魔法には、明確な弱点がある。
それは魔法を制御しきれないという事。
奇跡の魔法少女、シャーシャちゃんと比べるとよくわかる。
雷の魔法自体は俺も行使できる。
ただし、発現させた雷は制御下になく、通電可能なものを媒介して、宙を縦横無尽に駆け巡る事になる………筈。
行使できると言ったものの、只の予想だ。
思い通りにならない事が、目に見えているので試した事はない。
しかしシャーシャちゃんは違う。
雷を完全に制御下において発現させる。
狙ったところを、針穴を通す様な正確さで狙い撃てる精度だ。
炎の魔法もそうだ。
俺の炎は、発現すれば酸素や風の影響を受ける。
例外的に、完全燃焼の魔法は、安定した蒼い炎を作り出す。
だが、これは別途周囲の空気を操作しているからで、炎自体はあくまで、俺の制御を離れた只の自然現象に過ぎない。
シャーシャちゃんの奇跡の炎は、完全にその制御下にある。
自由な規模で発現し、外界の一切の影響を受けずに、独立した炎だ。
実はシャーシャと比べるまでもない。
他人の魔法を観察していて気付いたが、この世界の標準的な魔法というのは、むしろ全て制御下にあるのが普通だ。
魔法は集中から、能動的に発現する。
人の意識に依って維持され、その集中の霧散と同時に魔法自体も消え去る。
魔法の下手くそなあのグララすら、魔法の発現を制御下に置いている。
魔法の発現は完全制御なのが基本だ。
発現後、制御から離れるというのは俺の魔法の弱点と言える。
もしも予期せぬ結果となったからといって、思い通りに消す事はできない訳だ。
しかし、この弱点。
弱点といえば弱点なのだが、非常に大きな優位性も有している。
何せ俺の魔法は制御下にないのだ。
つまり、集中を維持する必要がない。
通常、魔法とは一から十まで、全てに渡って術者に制御されている。
その制御から離れれば、その力を維持できず霧散する。
術者は魔法を維持する為、1つの魔法に掛り切りになり、全ての集中を注ぐ事になる。
だが俺は違う。
魔法を制御下に置いてない為、並行して魔法の発現が可能だ。
その結果、常に無害化バリアを発動させ、英雄降臨、真・自由落下、その他の魔法を同時使用できる。
これが俺の圧倒的な優位性だ。
ちなみにシャーシャちゃん、奇跡のホバー移動を肉体に拠る、純粋な運動の延長線上として捉えているらしく、他の魔法と同時発動できる。
普通、魔法の維持に極度の集中が必要な事を考えれば、魔法の同時使用は本当に規格外だ。
しかも俺の様に「発動した後は制御を切り離して、その効果時間の間に別の魔法を発現させる」訳ではない。
ごまかしや工夫ではなく、複数の魔法を完全制御しながら、同時に使用するのだ。
多分将棋しながら、麻雀しつつ、お米粒に写経を施し、ブレイクダンスを踊る事ができるぐらい、思考のリソースに余裕があると思われる。ごめん、適当言った。
さて、この俺の強み。
実は俺が自力で発見した訳じゃない。
人から教えてもらったのだ。
まぁ便宜上『人』と言ったが、人ではない。
旧イテシツォ子爵領こと、俺が無政府状態に貶めた町。
この町をどうにかしなければならないと思った。
シャーシャちゃん達と別れての単独行動による状況確認。
正直、街の様子は予想より遥かに酷かった。
取り締まる権力がない事で、あらゆる犯罪行為は犯罪でなくなった。
強者が弱者を搾取する、醜悪な地獄の出来上がり。
性善説なんて幻想でしかない事が、ひと目で分かる光景。
たかが数週間から1ヶ月程度の時間が経っただけで、ここまで様変わりするとは思ってなかった。
この浅ましい地獄を作り出したのは俺だ。
他の誰でもなく、この俺がどうにかしなければなるまい。
だがしかし。
たかが個人である俺に何が出来る?
ラノベの主人公の様に、妙案で町を再興する?
無茶を言うな。
定番の農業革命も、産業革命も、手法が思い浮かばない。
黒色火薬の作り方も、何も知らない。
そんな俺に何が出来る?
やらなければならないという責任。
やるだけの能力・手段がないという矛盾。
そんなとき、俺は何を思ったか?
逃げたい、と思った。
どうして俺が?
できない、嫌だ、と思った。
心底嫌で。
嫌で嫌で嫌で。
心の奥底からこう思った。
誰か助けて、と。
「かしこまりました。貴方をお助けして差し上げます」
それはとても耳心地の良い、澄んだ女性の声だった。
「全く、仕方ないねぇ」
それはどこか艶を感じる、独特な弾みのついた声だった。
「無敵日本の勲を穢すつもりか?大和魂を何処に置いてきた?」
それはとても凛とした、心地の良い声だった。
突如、俺の耳に声が響いた。
「―――え?」
周りには誰もいない筈なのに?
聞こえる?
それどころか?
「―――見え、る?」
俺の前には、3人の女性が立っていた。
最初に声をかけてきたのは、1番背の低い女性だった。
シャーシャちゃん達よりも、ちょっと高いぐらいか?
腰まで届く長く美しい、艶やかな髪。
柔和な微笑みを絶やさない、優しげな顔つきは包容力を感じさせる。
まぁ包容力という単語で、ピンと来たかもしれないが………彼女は巨乳だ!
彼女に比べればグララの胸なんて、児戯に等しい!
子供の様な背丈に似合わず、その胸は豊満だった!
これがマイクログラマーというやつか!
俺は兼ねてよりロリ巨乳というジャンルに否定的だった!
ロリはロリ、巨乳は巨乳として別々であるべきだと!
………頭ごなしに否定するばかりの俺が浅はかだった!
そう悔いる他のない、圧倒的な魅力だった!
カレーはカレーでうまい!
しかし、チーズカレーもうまい!カツカレーもうまい!
カレーをうまいと思う事と、カレーと何かを組み合わせるのを否定する事は、イコールではない!
ロリの中、巨乳を取り入れるキャラがいてもいい!属性とはそういうことだ!
それはまるで奇跡!
俺の新たな性癖を開く光!
その光の名はロリ巨乳!
そして俺を導く光はそれだけに留まらない!
後ろでポニーテールにした豊かな髪!
3人の中では真ん中に来る背丈!
ついでに胸も!
先程見た大きさと比べれば、その衝撃は随分と劣るが、それでも立派な大きさだ!
1人目の女性と同じく、その顔からは笑みが消えない!
しかしその笑みは柔和なものではない!
少し細められた目と、どこか赤らめられた頬に、薄い笑みに引き上げられた赤い唇!
それは妖艶さを感じさせる蠱惑的な笑みだ!
トドメは顔の真ん中にハラリとかかった一筋の前髪!
全体的に何かを期待してしまうぐらいエロティック!
手取り足取り腰取り色々実地で教えて下さい!
そして3人目に控えるのは、最も背が高い女性!
その背丈は俺と並ぶ程高い!
つまりは身の丈175センチ前後!
女性としては大変大柄だが、野暮ったい印象は皆無!
何故なら服の上からでもわかる程その体は細く、洗練された繊細さを感じさせるからだ!
まぁその分胸の方も、3人の中では小ぶりだが!
しかしそれでも世間一般の平均はある!
あくまで前者2人が恵まれ過ぎているだけだ!
髪の毛はシャギーの入ったショートカット!
俺はその昔、ロングヘアであらねば女に非ず、を標榜としていた!
だがその認識はある時期を機に改めた!
ショートカットが似合う女は、本当に可愛いと気付いたからだ!
ロングヘアは「コイツ髪短かかったらそうでもないな」がある!
逆にショートカットはごまかしが効きにくいので、可愛いと思ったなら絶対に可愛い!
信頼性抜群!産地偽装一切なし!安心安全健康新鮮!
目の前にいる女性も、360度何処から見ても恥ずかしくない美貌ぶり!
口を引き結び、顎を引いた無表情!
顎を引いている関係で、常に睨め上げる視線を送る冷ややかな眼差し!
普通に考えて魅力に乏しいそんな表情すらも、美しさがあればクールビューティという魅力に変わる!
美人は正義!不細工は悪!
あー………こういうと胡乱な女性団体から抗議とかされるんだろうか?
ちゃんとフォローしとくか、一応俺フェミニストだし!
不細工な女にだって価値はあるさ!
金を稼がない中年男性ぐらいの価値は!
生きる権利はあるらしいぞ、強く生きろ不細工!
「大和さん、大丈夫ですよ。私が貴方をお助けします」
特に価値のない女をフォローしてる間に、俺は優しさに包まれた!
俺は全てを吸い込む、マイクロブラックホールに吸い込まれたと言い換えてもいい!
つまり直接的に言うと、1番目さんが俺の頭に手を伸ばし、そのフカフカの胸に抱きしめていた!
おほーっ!俺の中の野生が目覚め、ゴリラの如くドラミングしたくなった!
超柔らかい!超いい匂い!超幸せ!
俺の体中に全能感が満ちていた!
今なら素手で電話帳を真ん中から引き裂ける気がする!
っていうか、もっと堪能したい!
でも、動いたりしたら察知される!
なんせ密着してるんだからバレない理由がない!
でも、堪能したい!(切実)
………だけ!
………ちょっとだけ!
ちょっとだけ顔を動かして、谷間の奥底を目指すぐらいなら大丈夫だよね?
うん、そうに違いない!先っちょだけ!先っちょだけだから!
「あっ、んぅ!」
うわ速攻バレた!
耳が溶ける様なエロ可愛い悲鳴を上げられた!
ってか普通に考えて、そんな雰囲気出した悲鳴を上げるなんて無理だ!
身を固くされて無言になるか、チッと舌打ちされるのが普通の反応だろう!
それがサービス精神満点な悲鳴!
もしやこれが天使という奴か!
「ふふ、私ならいいですよ」
まさか邪な企みを見透かされた上で許された!
これは只の天使じゃねぇ!智天使だ!
「はい、ぎゅー♪」
さらにより強く深く抱きしめられる!
おほほほほほーっ!
俺の中の野生が爆発!
全身の血液がマッハで駆け巡る!
もはや智天使じゃねぇ!痴天使だ!
男の子はおしとやかな感じが好きとか言ってても、積極的な女の子が大好きです!
後頭部をよしよしされるのが超気持ちいい!至福!
「全くだらしないねぇ」
呆れた様な声が耳を打った!
呆れた様な、というか十中八九呆れてるんだろうが!
そうだった、人の目があった!
慌てて身を起こす!
「あ、もうおしまいなんですか?」
どこか残念そうな響き!
おほーっ!俺も残念です!
………っていかん!
今醜態を晒したばっかりだ!
そう思って振り向いた途端、謎の感触に包まれた!
「私の胸ならどうなんだい?」
おほほほほほーっ!
醜態アゲインッ!
大変結構なお手前です!
「ふぁ!?」
そして思わず声が漏れた!
左耳の凹凸に沿って、指が這う感触あり!
うわやべぇ!超ゾクゾクする!
ってか何事?
なんで俺はさっきからこんな天国体験してるんだ?
俺死ぬの?
………死んでもいいな!(悟り)
「きゃん!?」
そして超可愛い悲鳴が聞こえた!
死んでもいいと思った俺は、大胆に耳を攻め返した!
その結果が先程の悲鳴である!
エロに奔放そうな姉御口調で、そういうギャップがあるとか好物です!
表情マニアの俺にとって、余裕そうな表情を崩すのは至高の瞬間!
この子にすげぇちょっかい出しまくりたい!
さっきの子のすべて受け入れる包容力も評価高いが、この子もかなり好みだ!
アレか!これが人生に3度あるとかいうモテ期か!
「全く嘆かわしい」
そこに苛立った声が聞こえた!
最後に残った堅物そうな人だ!
あ、貴女はイメージ通りなんですね!
後ろめたいところはあったので、ビクっとして体を離す!
声がした方向を見れば、先ほどと変わらない若干不機嫌そうに見える端正な顔立ち!
冷たい美貌が俺を貫く!
「そこまでにしておけ、話が進まん」
そして毅然と言い放つ!
短い言葉で場を支配した彼女はそのまま言葉を続けた!
「どうしてもというなら、その………後で、私のを触っても、いいぞ?」
途端に色白の肌を真っ赤に染めて視線を逸らす!
恥ずかしがって口元を抑えて俯いた表情が超可愛い!
表情マニアの俺も納得の可愛さです!
「あ、でも私のは2人程大きくないから………嫌か?」
自信なさげに聞いてくる?
何だそりゃ?
美少女の胸揉みしだいていいって言われて、ポーズじゃなく嫌がる奴なんていんの?そいつホモじゃね?
「いや、触りたいぞ、うん」
だから俺は正直に答えた!
………正直過ぎないか?
触りたいとか、いくらなんでも直截に過ぎる!
いや、言い訳させてくれ!
さっきから思考力を溶かす緊急事態が目白押しで、建前をどうにかする余裕がなかったんだ!
童貞があんな巨大要塞からの侵攻を受けて、陥落せずにいられる訳ないじゃないか!
俺絶対悪くない!
乳触りたいという直球な告白だって仕方ない!
自己弁護に次ぐ自己弁護を繰り返す俺!
そして童貞の叫びを聞いた彼女は………!
「良かったぁ………」
何故かトロける様な、安心しきった笑みで俺を見ていた!
お!前!も!天!使!か!
最初の印象と違ってこの人、そんな堅物じゃない!
いや、堅物なのかもしれないけど、そのせいでペースを乱されやすいんだ!
普段の表情が整っている分、表情が崩れた時のギャップが激しい!
途端にあどけない表情になる!
表情マニア的にはこの人が1番高得点!
色々ちょっかいかけたい!
鉄壁のマイクログラマー!
エロ方面完備のバランス型!
堅物に見えて意外と百面相!
ちなみにこの人達、ある共通点がある。
まず1つ目。綺麗で癖のない、艶やかな黒髪をしている。
続いて2つ目。全員白い鉢巻を巻いている。
そして3つ目。飾緒と肩章の付いた服を着ている。
飾緒って何って?
肩からぶら下がってる紐の事だ。
軍服を思い浮かべて、名前の分からない紐があったらそれで多分間違いない。
下はスカートではなく、空挺師団や飛行機乗りみたいな太ももの広がったズボン。
そして磨き上げた編み上げのブーツ。
そう、彼女達の装いは、どこか軍服を彷彿とさせる。
っていうか。
そもそも彼女達は誰か?
「えっと、もしかして、違っていたら悪いんだが」
俺は彼女達の正体に心当たりがある。
確証はないんだが。
「君達は雷、神通、長門か?」
「はい、そうですよ」
「あぁ、そうさ」
「うむ、いかにも」
あぁ、合ってた。
やっぱりそうか。
ロリ巨乳は雷。
エロ姉御は神通。
堅物は長門。
3人は3人じゃない。
3柱だ。
神刀に宿った疑似神格。
先日シャーシャちゃんが発現させた雪風と同じ様に。
俺もまたその真の力を開放したのだ。
魔法の根源は信じ切る事、思い描く事。
心底誰かに助けてもらいたいと他力本願した事で、最も頼りになる偉大な軍神の力が、俺にとって都合のいい形で発現した。
17/8/12 投稿