シャーシャ、日本男子を求める
わたしはシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。
「僕達ニホコクミはこの国に君臨する、最高権力者である事に疑いありません。で、ある以上、全ての人間は庇護対象足りえます。僕が私財を投げ打って助けてあげましょう。それが持てる者の高貴なる、そして光輝なる義務です」
お兄ちゃんはすごい人だから町の人を助けるって言ってた。
「ヤマトー殿、聞いてもよいか?」
「ん、どうしたのかな、グララちゃん」
魔法使いの人がヘンな顔でお兄ちゃんに聞いてた。
「ぬ!グララちゃんだと!」
魔法使いの人が、なんか恥ずかしそうだった。
「ん、気安かったかな?まぁ今はヤマトー”お兄さん"役だからね」
お兄さんはちょっとニヤニヤして笑ってた。
「ねぇ、シャーシャちゃん?」
「………なに、ナーナちゃん?」
ナーナちゃんがボショボショってないしょ話してきた。
耳に息がかかって、ちょっとくすぐったかった。
「魔法使いのお姉さん、顔が赤いのはお兄さんから年下扱いされて、照れてるからだと思うんだけど」
「………だけど?」
「お兄さんがちょっとイジワルそうに笑ってるのってなんだと思う?」
お兄ちゃんのあの笑い方?
「………お兄ちゃんは、人と話してるとね、よくあぁやって笑うの」
「そうなの?」
「………なんかね、イタズラするのが好きなの」
「ふーん、イタズラねぇ?」
ナーナちゃんはわかったのか、わからなかったのか、よくわからない顔だった。
「ぬー!まぁ良いのだ!それよりヤマトー殿よ!」
「うん、なんだい?」
「先程、自らを最高権力者であると言っておったが、それはロガメウキョ国王よりも上の権威という事か?」
魔法使いの人はお兄ちゃんが、王様よりえらいのか気になったみたい。
「ん?当然そうだよ?」
「本気で言っておるのか?」
「本気だよ?んー、そうだねぇ………王様が何で偉いのかってわかるかな?」
王様がなんでえらいのか?
王様はすごくえらいみたいだった。
でも、それってなんで?
なんでかなのは、わたしにはわからなかった。
「それは当然、初代ロガメウキョ国王がここら一帯を、武力を持って平定したからなのだ!」
「んー?それだけなのかな?」
「それだけ、だと?」
「それだけじゃロガメウキョ国王は、ただの乱暴者って事になるね。殴られるのが嫌なら言う事を聞けって言ってるだけだし」
「それだけじゃダメなんですか?」
ミミカカさんも聞いてきた。
「んー?逆に聞くけど、それだけでいいの?」
お兄ちゃんがミミカカさんに聞き返してた。
………びみょうに、バカにしてる顔だった。
「例えば、皆の家に自分より強い強盗が押し入ってきて、俺は強いんだから言う事を聞けって言ってきたとしたら、皆それが当たり前って思うのかな?」
「え、でも自分より強いんだし、逆らったら殺されるかも」
「うん、殺されるかもしれないね」
お兄ちゃんがうなずいた。
「でも、それは当たり前の事なのかな?強かったらすんなりと言う事を聞くのかな?」
そうじゃないって思った。
お父さんとかにいじめられてたときは、あきらめてた。
いっぱい叩かれた。
いっぱい泣かされた。
いっぱいいじめられた。
でも。
いくら痛くても。
逆らえなくても。
嫌だった。
苦しかった。
あのときはあきらめたけど、当たり前なんかじゃなかった。
「………当たり前じゃない」
「そうだね、シャーシャちゃん。そんなのは当たり前じゃありません」
わたしがつぶやいたのが聞こえたお兄ちゃんがうれしそうに笑った。
「でも、強いんだったら………」
ミミカカさんはまだわからないみたいだった。
「強いんだったらなんなのかな」
お兄ちゃんがちょっとイライラしたみたいに言った。
「ミミカカちゃんはこの前、シャーシャちゃんをバカにしたばっかりだよね?自分の方がシャーシャちゃんよりすごいって。強い相手の言う事を聞かなきゃいけないっていうんだったら、なんでミミカカちゃんはシャーシャちゃんを馬鹿にしたのかな?それっておかしくないかな?」
「うぅ、それは………」
ミミカカさんもお兄ちゃんがちょっと怒ったのがわかったみたいで、ビクってしてた。
「フン………まぁ、ミミカカちゃんがマホショージョであるシャーシャちゃんと喧嘩したみたいに、ただ強いってだけじゃ言う事を聞かないものなんだ」
すごく強くなったわたしより、もっと強いお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんと同じぐらい強いって言ったミミカカさん。
お兄ちゃんはそのことをすごく怒ってるみたいだった。
わたしもそれはすごくわかった。
ちょっと前、わたしが強くなった理由は、マホショージョだからってお兄ちゃんが言ったとき、わたしは嫌だった。
わたしは走ったり、勉強したり、いっぱいがんばったのに。
そうじゃないっていわれたみたいで。
お兄ちゃんはあのあと、わたしが強くなったのはわたしががんばったからだって教えてくれたけど。
お兄ちゃんもいっぱいがんばったんだと思う。
なのに自分といっしょって、かんたんに言われたから、お兄ちゃんはすごく怒ってた。
マホショージョのわたしより強いお兄ちゃんと、いっしょなわけなんてなかった。
「じゃあ強さの他に、王様に大事なものって何かわかるかな?」
くやしそうな、かなしそうな、ミミカカさんのほうを見るのをやめたお兄ちゃんがいった。
やっぱりちょっといじわるそうな顔をしてた。
強さのほかに大事なもの?
お兄ちゃんはなんて言ってたかな?
あれはこの町にはじめてきたときに教えてもらった。
大事なのは?
「………理由」
大事なのは理由だった。
なんでって思ったこと。
どうしてって思ったこと。
そんなのは当たり前って思えなかった。
「流石はシャーシャちゃんです。そう、大事なのは理由です」
あってた。さっきまでの、イジワルそうな顔じゃなくて、やさしい顔で笑ってた。
「理由とな?まさか、国王は神に認められて王に就任しておる、というやつか?」
「おぉ、それだそれ」
神様?
「王様が偉いのはね、教会が認めたからなんだよ」
「………教会が決めたのがね、理由なの?」
「そうなんだ。教会っていうのは、神様の言葉とか教えを、色んな人に教える為にあるんだよ。そんな教会が王様は偉いって言ったら、神様が認めたのと一緒になるんだよ」
「………だから王様はえらいの?」
「うん、それが王様が偉い理由だよ」
「ヤマトー殿は配光神を信じておるのか?」
「ううん、そんな胡乱な神様は信じてないよ?」
「うん、ボクらはそんな神様なんて信じてないよ」
王様がえらいのは、神様が決めたからなのに。
お兄ちゃんは神様を信じてなかった?
じゃあなんで王様はなんでえらいって話をしたの?
「では何故国王が権威を持つ理由を聞いたのだ?」
「それが僕達ニホコクミが最高権力者………王様より偉い理由と関係あるからだよ」
「ぬ?どういう事なのだ?」
「それはもちろん」
ナーナちゃんが、お兄ちゃんそっくりな顔で返事した。
お兄ちゃんそっくりな、いじわるそうな笑顔で。
「「ニホコクミは神話に連なる神様の直接の子孫だからだよ」」
ぴったりいっしょにしゃべった。
「神の子孫だと?神等と、そんな空想の存在!」
魔法使いの人がバカにしたみたいな顔をしてた。
「ん?僕とナーナちゃんが、グララちゃんの目には見えないのかな?」
でもお兄ちゃんたちはもっと、イジワルそうな顔だった。
「ボクらニホコクミは、最高神の第125代直系子孫であらせあそばれる、テノーヘカを光と永久に頂く、連線と続いた国家の命栄えある臣民なんだ」
「125代だと!」
「そう、125代。おおよそ2000年以上も続いたのが、ボクらの神国ニホだよ」
「そして何かの価値っていうのは、珍しさとか由来で決まるんだよ」
「………珍しさ?由来?」
「例えば、皆が誰でも持ってる物って、全然珍しくないよね?」
「………うん」
「そういうものは別に価値が高くないんだ。逆に誰も持ってない、世界に1つしかない物なら?」
「………すごく価値がある?」
「そうだね。じゃあ次は由来。同じ物でも、由来があれば価値が変わるんだ」
「………同じ物なのに?」
「例えば、古くてボロボロの剣なんて誰もいらないけど、それが凄く昔の王様が使った剣だったら、価値があるんだ」
「………だれが持ってたかでね、価値が変わるの?」
「そうだね、シャーシャちゃん」
「ブルセラみたいなもんだね、ヤマトーお兄さん」
「流石に………ブルセラみてぇってのはどうかと思うんだ、俺は」
「だってそうじゃないか」
「うぅーん、強く否定もできねぇんだよなぁ」
………ブルセラ?
「ゴホンゲホン………テノーヘカは世界で最も古い歴史をお持ちあそばれ、唯一無二にして最も貴重であらせあそばれる、現実にお姿を拝見し、お言葉を拝聴できる、世界で最も尊い至高の存在であらせあそばれるって事だね」
「でもって、最高神の直系であらせあそばれるテノーヘカ程じゃないけど、それでもボクら臣民も神様の末裔なんだよね。ボクらの親をどんどん遡っていくと、どこかで神様の血が混じってるからさ」
「だから神様に王様と認めてもらったって人よりも、僕達の方が偉いんだよね。だって認めたの僕達の同僚だからね」
お兄ちゃんは神様だった?
「まぁボクらは今、この国の中で1番偉いんだよね」
お兄ちゃんたちは、うれしそうにふふふって笑ってた。
「さて、じゃあ公共事業の内容について説明しようか」
「はーい。ヤマトーお兄さんが、みんなにお金をあげるのはわかったけど、公共事業ってどんなことするのー?」
「うん、いい質問だね、ナーナお姉さん。公共事業は、皆がやらない事をやるんだよ」
「みんながやらないこと?なんでわざわざそんなことをするのー?」
「なんでかって言ったらね、皆がやる事をしたら、皆が困っちゃうからだよ」
「困る?なんでかなー?」
「例えばナーナお姉さん、お姉さんは週に512個の使わなくなった全身金属鎧を、大金槌で鉄の塊にするお仕事をしてたとするよね?」
「するよねって、そんなハードな仕事絶対やりたくないよ!1日に70個以上は鎧を壊さなきゃいけないじゃないのさ!………っていうか、使わなくなった鎧が毎週そんなに出てくるって、一体何があったのさ!」
「ナーナお姉さんは鎧を叩き壊すのが、大好きで大好きでたまらないから、その仕事を選んだんだ」
「今明かされる驚愕の真実!ボクそんなこと趣味にしてたの!?」
「三度の飯より、鎧を叩き壊す事に喜びを感じる、ナーナお姉さんには丁度いいお仕事だね」
「後でお兄さんにボクがどれだけ可憐で!か弱くて!苛烈か!徹底教育するからね!それで!」
「さり気なく苛烈が入ってるんだな………まぁナーナお姉さんがそういう仕事をしてたとして、公共事業として町の人512人に、1人1個の鎧を壊したらお金をあげますよーって言ったら………どうなるかな?」
「んー、ボクのお仕事、なくなっちゃうね」
「そうだね。困った?」
「困るね」
「だから公共事業は、皆のやる事はやっちゃ駄目なんだよ」
「皆のやるお仕事がなくなっちゃうんだね」
「うん。だから公共事業では、誰もやらないけど、やった方がいい事をやるんだよ」
「なるほど、誰も困らないし、役に立つし、お金も貰えるし、公共事業ってすごく良い事なんだね」
「そうだよ。ときどき公共事業に対して、税金の無駄使い、民間にやらせたらいい、とか言ってる人がいるけど、根本的に視点がおかしいんだよね」
「お金をみんなに配りたいから公共事業するのに、それを無駄遣いって言われたら、お金がなくて困ってる人が困ったままになっちゃうね」
「それに不採算事業を民間にやらせたら、本格的に生活できなくなっちゃうよ」
「やればやるほど損しちゃうもんね。もしも得する仕事だったら、そもそも公共事業じゃないしさ」
「という訳で、公共事業は皆がやらないけど、やった方がいいお仕事をするんだ」
「やりたいことはわかったけど、どんなことをしたらいいの?」
「公共っていうのは皆で一緒に使う物って意味なんだ。道とか、街の壁とか、皆で使うけど、誰かの物じゃない物を作ったり治したりするんだよ」
「なるほど、公共っていうのは、皆で一緒に使うもののことなんだね」
「特に今回みたいに、沢山の人が死んでしまったりした場合、昔からやる事は決まってるんだ」
「やる事が決まってる?」
「みんなが不安にならない様にしてあげるんだよ」
お兄ちゃんはあのイジワルな顔で笑ってた。
公共事業っていうのがはじまった。
町の人は大きな建物を作ってた。
だけどお兄ちゃんは町にいなかった。
「工事の差配は、全て”分身!ヤマトー”君を介する事で済ませられます」
だから町にいなくてもいいんだって。
「全く思ったより時間を取られましたが、これで漸く本来の目的を達成できます」
ふぅーって大きく息をはきながらお兄ちゃんが言った。
「目的、ですか?」
「ぬ?それは一体何なのだ?」
「俺は旅に出る前からそれを説明しようとしてたんだがなぁ………なんで今になって聞くになったのやら」
お兄ちゃんはそういうけど、わたしも、ほかの人も、そんなの聞いたことなかった。
「ダンジョン潜りというやつに挑戦しようと思ってたんだ。腕っ節で身を立てるなら、ダンジョン破りのやり方ぐらいは知っておいた方がいいだろうし」
「おぉ、ダンジョンに行くんだね。獰猛なウサギに首を刎ねられたり、石の中へふっとばされたりしちゃう訳だ」
「祈って詠唱して囁いて念じて灰になる訳だ。まぁ苦労の代わりに、色んな訳の分からない物が手に入る算段だ」
「たいへんなのに、もらえるのはわけがわからないんですか?」
すごくこわいばけものがいて、すごくあぶないのに?
ミミカカさんもなんでそんなところに行くのって顔だった。
「楽しようと思っちゃダメだよ、お姉さん!どんなに鍛えててもあっけなく死ぬし、ちょっと頑張ったからって絶対に、お宝が手に入ったりはしないんだからさ!」
「あー、それなんだが………」
「ん、どうしたのお兄さん?」
「油断していようとしていまいと、人間死ぬ時は死ぬっていうのは確かにそうなんだが」
ちょっと困ったみたいな顔したお兄ちゃんが、指でぽりぽりあたまの横をかいてた。
「俺の予想する限り、お宝は確実に手に入る」
「へ?お宝が確実に?」
「あぁ、苦労に見合うお宝なのは間違いだろう。皆それぞれ、どんなお宝があるのか、今から楽しみにして欲しい」
お兄ちゃんはちょっといじわるそうな顔で笑った。
お兄ちゃんはなにかを知ってるみたいだった。
「お宝かぁ。頑張ろうね、シャーシャちゃん?ボクはダンジョンでも負けないよ!」
ナーナちゃんもお兄ちゃんとちょっと似た、いじわるそうな顔で笑った。
「なんたってボクは、シャーシャちゃんのライバルなんだからさ!」
「………うん、負けない、ぜったいに」
シャーシャちゃんの顔を見て返事した。
「2人とも、気合が入ってますね。これならダンジョン攻略も期待できそうです」
お兄ちゃんはわたしたちを見て、やさしく笑ってた。
でも。
お兄ちゃんはわかってなかった。
ナーナちゃんはダンジョンでも負けないって言った。
ダンジョンだけじゃなかった。
わたしたちはずっと戦ってた。
ナーナちゃんがお兄ちゃんにキスしたときからずっと。
ナーナちゃんがお兄ちゃんにキスしてたのを見たとき。
わたしはすごくいやな気持ちになった。
むねがぎゅーってした。
おとうさんたちにいじめられてたときとはちがうけど、すごくいやな気持ちになったのはいっしょだった。
「そんなに睨まないでよシャーシャちゃん」
2人きりになったとき、ナーナちゃんがしゃべってきた。
すごくいじわるそうな、ニヤニヤした顔で。
「シャーシャちゃんはお兄さんのこと、好きなのかな?」
急に聞かれてびっくりした。
「………うん」
でも、ちゃんとうなずいた。
「ボクもね、お兄さんのことが好きになったんだ!まるでかゆみみたいに、切なくて、激しくて、心をかき乱す、ボクだけの熱!かいても、かいても、うずくのが止まらないんだ!かけばかくほど、もっと、もっとって!もっとそばにいたい!もっと近寄りたい!もっともっとボクを見ていて欲しいってさ!」
獣人のシャーシャちゃんが、ほんきで笑ったのをはじめて見た。
なんでも中に入れて、そのまま飲み込んじゃいそうな。
そんな大きく開いた口の笑いかただった。
「お姉さんはありえない。お兄さんはお姉さんを許さない。お兄さんは優しいけど、敵って決めた人に容赦はない。お姉さんは何をしたのか知らないけど、お兄さんにとって敵になってる。表面上はいつもどおりだけど、お兄さんはミミカカさんを避けてる」
ナーナちゃんは何もないかべを見て、笑わずに言った。
シトーのユ・カッツェがあるからわたしにはわかった。
ナーナちゃんが見てるのはミミカカさんのいる方向だった。
「魔法使いのお姉さんもありえない。別に好かれても嫌われてもいないから」
今度はちょっと笑って言った。
「でも、シャーシャちゃんは違う」
また笑ってわたしを見た。
「シャーシャちゃん、君だけはボクの恋のライバルさ」
ライバル。
それまではよくわからない言葉だった。
自分と何回も戦う人がライバル。
でも戦うのに、敵とはちがうってお兄ちゃんは言ってた。
敵じゃないって思ってるのに戦うのがライバル。
ナーナちゃんはわたしのライバル。
敵じゃないし、友達なのに。
でも、今ならわかった。
ナーナちゃんは友達だったけど、わたしの恋のライバルだって。
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