日本男子、内政干渉する
俺は今、準備していた。
あぁー、散々な目に遭った。
美少女2人にキスされそうになった。
………それのどこが散々な目だって?いや御尤も。
ヤレヤレ系主人公っぽくしてみただけだ。
どうだ、殺意が沸いたか?
手足は伸び切っていて、肌はシミもくすみもなく輝いている。
サラサラとフワフワの差異はあれど、両者とも髪が綺麗。
完璧な美少女顔のシャーシャちゃんと、それに猫っぽいディフォルメを加えたナーナちゃん。
美少女というには、ちょっとロリロリしいのが玉に瑕。
時々いる、やたら美人な小学校高学年みたいな感じだろうか?
ほら、やたら美人で、しかも透明感もある、あの感じのだよ。
おっ?と振り向いてみたら、ランドセルを背負ってるのを見て目を剥くあの感じ。
綺麗さと可愛さを両立し、言い表し難い透明感・瑞々しさを兼ね備えた存在。
究極の美少女というのは、この年齢にしか生まれ得ないと思う。
尤も「女子高生はBBA」という名台詞を言うつもりはないが。
アレはなんのアニメで生まれた言葉だったか?
あんまりアニメって見ないんだよなぁ。
アニメそのものは好きだが、注文が多いのだ、俺は。
些細な設定・発言の矛盾に口煩く言及する性質だし。
考えるところがない様な、日常系といわれるアニメも嫌い。
概ね群像劇や、人が死ぬ話が好きだ。
人が死ぬ話が好き、というと身構えられるところがある。
そんなにおかしな話だろうか?
慕われていた人物の突然の死。
突如巻き起こった殺人事件。
お話に於いて、人が死ぬ瞬間は盛り上がるところだ。
死をうまく取り扱う作品は面白い。
逆に、死がうまく取り扱えない作品は面白くない。
死の前後を見るのが、一番簡単に作品を評価できると思う。
こういう事を言っておいてなんだが、綺麗な話も好きだ。
ただ登場人物がイチャコラしてるだけのは、見るのがキツい。
そういうのは例え話題の作品でも、視聴中に携帯をいじったりして、だいたい内容を覚えてない。
望むのは納得できる過程を経て結ばれる大恋愛だ。
そういうものなら普通に見て、感情移入し、あぁ良かったと思える。
………なんで俺はアニメについて語ってんだ?
あぁ、美少女についてか。
まぁ俺の周りに居るのは美少女だ。
ちょっとグララは少女と言うには抵抗があるか?
まぁ美人ではある………臭いけど。
そんな美少女軍団の中でも急先鋒である『青い果実』。
シャーシャちゃんとナーナちゃんにキスを迫られた。
とりあえずポーズとして拒否しておいたが。
………まぁあくまでポーズだ。
別に彼女達にキスされるのが、ホントに嫌で嫌で、鳥肌が立つ程嫌だって事はない。
文句なく美少女なのだ、
別に俺が気にするところなんて、人の目ぐらいだ。
逆に人の目があったから拒否しておいた。
常識的な振る舞いだと思う、うん。
いや、昨今事案だ事案だと、ニュースで五月蝿いのを気にし過ぎているか?
たかが子供が親愛を表して、チューを迫っただけだ。
子供と思わず異性だと認識して。何食わぬ顔で受け入れられない俺に、免疫が無さ過ぎるのか?
だって、しょうがないじゃん、俺童貞だし。
あんな美少女2人とチューって言われたら意識するよそりゃ。俺は悪くねぇ!
しかも完全に油断してた時に、ナーナちゃんにキスされたっていう実体験もあるし。
俺は必死に口を閉じていたが、唇をペロペロ舐められた感触は生々しい。
意識しないっていうのは無理だ。
それに2人とも12歳だ。
人間、5歳でも思惑はある。
ましてや12歳となれば尚更だ。
無邪気な子供の行い、と一括りにするのは、やっぱり違う気がする。
………まぁ、それはともかく最近の変化だ。
最近、シャーシャちゃんが活発になってきた。
ちなみに青い果実というのは、彼女とナーナちゃんがタッグを組んだ時のコンビ名だ。
抗争組織は大和同盟(※プロレスは各団体が対立していて、試合は各団体の抗争という形で行われている)。
ちなみに大和同盟の所属選手は俺のみ。
専門チャンネルで毎週、青い果実の2人対1人の変則マッチで試合をしている。
だいたい2人の協力技である『流星!魔法少女キック』でTKOを食らって、試合後のマイクで「来週の○○で勝負だ!有料放送!」と締めるのが流れ。
………という設定でプロレスごっこ遊びをしてる。
ごっこ遊びというのは、子供の成長に於いて、相当大事な役割を担っている。
一番わかりやすいのはおままごとだろう。
お母さん役、お父さん役、子供役、その他………まぁ色んな役目が出て来る。
子供達はごっこ遊びを通じて役目、つまりは立場というものを学ぶのだ。
役割を演じて、人間関係を学んでいる訳だ。
という訳で、情操教育にごっこ遊びは必要だ。
しかし、ごっこ遊びと言われても。
この歳でおままごとをするには抵抗があり過ぎる。
じゃあお医者さんごっこでもするか?
服をたくし上げて下さいね~、異常がないか調べますから。
え、思春期だから胸が苦しいですって?それは病気かもしれませんねぇ。
………ロリコンは病気です。
うん、子供と普段接点のない成人男性に、ごっこ遊びはハードルが高い。
という訳で、ごっこ遊びの内容は、プロレスごっこにさせてもらった。
………プロレスって言っても、夜の組手の隠語じゃないぞ?
ちゃんと最新のプロレスラー名鑑と、プロレス技大全も持ってきてあるからな!
ガチのプロレスオタクという訳ではないが、結構読み物としても面白い。
独特な美学・哲学があるので、その価値観・世界観は独特なものだからだ。
ちなみにプロレスを八百長とか言って、馬鹿にしてる奴はアホだと思う。
俺は幼児、それも10歳に満たない女児と試合する、プロの選手という動画を見た事がある。
子供の攻撃に揺らぐ筈のない巨体が、攻撃を受ける度に揺らぎ時にダウンを喫し、一進一退の白熱した試合を繰り広げる。
彼らは真摯な職人であり、完璧な仕事人なのだ。そこに妥協は一切ない。
見習うべき、尊敬すべき人間像の1つだろう。
とまぁ、プロレスを通じて、美少女の健全な育成を方針とした訳だ。
戦いとなったら1歩も引かない。決して相手に怯まない。
不屈の闘志と、不断の技を武器に、四角い戦場にそそり立つ者。
鍛え抜き、磨き上げた、自身の、自信の技で相手を打ち砕く。
そう、研鑽と努力を通じて、俺はシャーシャちゃんに自信を持って欲しかったのだ。
何でもできるのだと知ってほしい。
それは俺に利益を生む魔法少女としても。
かつて不当な目に遭った子供としても。
シャーシャちゃんは立派な人間であると、自覚して欲しかったのだ。
………こう語ると遠大な目標に見えるな。
実はそんな御大層なものじゃない。
俺も結構技の再現とか指導とかしてると楽しいし。
というか遠大も何も、効果は既に発揮されているし。
なんせあの引っ込み思案のシャーシャちゃんが「………やらいでか!」と叫んで、この俺に飛び蹴りをかますまでになったのだから。
出会ったばかりの頃だったら、100%有り得なかった光景だった。
あの頃のシャーシャちゃんだったら、自信なさ気に俯き、卑屈に俺の顔色を伺っていた事だろう。
しかし今のシャーシャちゃんは、快活に笑い、俺と一緒に遊ぶ。
それもナーナちゃんが一緒にいるのが大きいんだろう。
同年代の友達がいる事で、シャーシャちゃんにはまた、自我が芽生えた。
自分を発現するという土壌が育成された。
最近は俺とナーナちゃんが話してると、直ぐに会話の輪に加わる様になった。
以前の遠慮がちだったシャーシャちゃんなら、あり得ない変化だろう。
しかし意外なものだ。
俺は娘を育成するゲームをプレイした場合、必ずおしとやかさや気品を上げていた。
品行方正なお嬢様タイプを育てるのが俺だ。
大和撫子以外は人に非ず、が俺の標榜だ。
その俺が手塩に掛けた美少女は、「………やらいでか!」と叫んで、飛び蹴りをかます子になった訳だ。
平易な日本語に砕くと「蹴っ飛ばさずにいられるか!」という威勢の良さである。
おおよそ、おしとやかとも、気品ある振る舞いとも言えないが。
まぁシャーシャちゃんが元気であればそれでいい。
………我々の業界では御褒美です、という訳ではないぞ?わかってんのか、覗き見してるお前?
まぁそれはともかく。
「さて、お金がなんで使えるかはこれでわかったね?」
「あー………はい?」
わかったのかわからないのか不安になる、絶妙な尻上がりの返事を返すミミカカ。
まぁいいや。
どうせ深く突っ込まれても、俺だって返答に困るし。
チャッチャと次へ行こう。
「じゃあ、次はお金の貰い方だよ」
「わー、ヤマトーお兄さん♪お小遣いくれるのー♪ナーナ、マンションが欲しーなー♪」
ナーナちゃんが俺の右腕を、薄っぺらい胸に抱きつつ、右乳首をグリグリしてきた。
「お小遣いでマンションとか、お前何時の時代の人だよ。前髪立ててセンス振り回してた人の末裔か?」
時代錯誤も甚だしい!
マンションを買い与えるなんて真似………金を無限に複製できる以上簡単にできるか。
それでもコイツにわざわざマンションを買い与えるなんて真似………別にしてもいいな。
俺の懐が一切痛まない以上、金に糸目をつける意味がない。
あれ、じゃあ俺にマンション強請るって行動は正しいのか?なんと奇っ怪な!
驚愕に打ち震えている間に、両乳首に刺激有り!
左を見たら、シャーシャちゃんがナーナちゃんと同じ様に乳首を刺激してた!
いらない活発さを身につけたもんである。
もしかしてあの清純なシャーシャちゃんも、この汚れきったロリビッチみてぇになってしまうのか!
「………あのね、お兄ちゃん?」
「どうしたんですか、シャーシャちゃん?」
恐ろしい未来に震える声を抑えながら尋ね返す。
「………あのね、あのね、わたしもね、ほしいのがね、あるの」
あぁ!もう真っ黒だ!
あの綺麗で可愛くて清純で清浄で穢れを知らない、おしとやかで物静かなシャーシャちゃんは、もう何処にも居ない!
ここにいるのはド腐れロリビッチに感化された、只の腹黒美少女だ!
「それはなんですか、シャーシャちゃん?」
悲嘆に明け暮れた俺は、疲労にまみれた声でシャーシャちゃんに聞き返す。
あぁ!やはり女というのは全て打算的だ!癒やしなんて幻想だ!
顔で泣いて、心で笑って、口から毒を吐く生き物なんだ!
「………お兄ちゃんとね、いっしょにね、いれるじかんがね、ほしいの」
「シャーシャちゃーん!貴方は世界で1番の宝物です!」
「ちょ!わっ!にゃ~!!」
右腕のド腐れロリビッチを無害化磁力バリアでふっ飛ばして、シャーシャちゃんの脇に両手を差し込み抱き上げる!
救いはあった!
女がみんな腐ってるかもしれない!
それでもシャーシャちゃんはこの世の正義だったんだ!
天皇陛下の御威光が、悪しきロリビッチの影響を跳ね除けた!
「アハハハハハハ!」
「………ふふふ」
満面の笑みで笑う、超可愛いシャーシャちゃんを高く持ち上げクルクル回る!
「ワッショイ!ワッショイ!」
「………ワッショイ?」
「ワッショイ!ワッショイ!」
「………ワッショイ?………ワッショイ!」
「「ワッショイ!ワッショイ!」」
「「ワッショイ!ワッショイ!」」
「「ワッショイ!ワッショイ!」」
「「ワッショイ!ワッショイ!」」
ワッショイがあれば全て分かり合える!
世界は!
女は!
全てワッショイだったんだ!
「ボクのことふっ飛ばしておいて!随分楽しそうじゃないのさ!ナーナお仕置きキック!」
「甘い!ヤマトー直指弾破!」
復活したナーナちゃんのスーパードロップキックを、道具を介さずに指弾を直に当てて撃墜する!
「痛ッ!要するにソレ、只のデコピンじゃないか!」
「そうとも言えるな」
ぶつけたの、親指で溜めを作って開放した人差し指だし。
「っていうかボクがいくら軽いって言っても、飛び蹴りをデコピン1発で落とせるってどういう事なのさ!」
「魔導の奥義を知る俺に不可能はない」
なんか偉そうな事を言っておく。
俺のあらゆる打撃には、波紋の型で無限の衝撃力を上乗せできる。
この程度は簡単にできるのだ。
ちなみに猫科の動物は、高所から落下しても、必ず完璧に着地するという。
ナーナちゃんも器用に身を捻って着地してた。
「っていうか話の腰を折るな」
「え、お金の貰い方でしょ?」
「そう、だから話の腰を」
「ボクみたいに可愛いければ、お願ぁ~いって言って上目遣いでウルウルしたら、お金を貰えるんだよ?」
ド腐れが当然でしょって顔してた。
「オォーウ、ファッキンビッチ!」
「ノー!アイムプリチーガール!」
「アー………ファック!」
敵性言語なんて汚らしい言語による罵倒は他に出てこなかった。
別に喋れる様になりたくもないし。
「ヤマトーさん!」
ミミカカが若干怒った感じで割り込んできた。
ミミカカへの講義中に、大脱線事故を起こしてたからまぁ当然か。
「おねがぁ~い♪」
と思ったら、両手を胸の前で組んで上目遣いで見てきた。
………ミミカカ、お前もか。
っていうかミミカカの場合、16歳という年齢といい、脱色したみたいな色の髪といい………ちょっと生々しいな。
「フッ………」
ハマリ役過ぎて、笑いがこみ上げる。
爆笑って程でもないので、鼻から空気が漏れたみたいな笑い方になった。
「フッて!フッて言われたんだけどアタシ!ひどくないですか!ひどくないですか!」
化けの皮が剥がれたミミカカが二の腕を叩いてくる。
普通、こういう時ってポカポカ叩くと思うんだけど、掌底で殴ってくるのは如何なものか?
くいくい。
「ん?」
袖が引かれたから振り向いてみたら、輝かんばかりの美少女が両手を組んで、潤んだ瞳で俺を見上げていた。
「………おねがぁ~い♪」
「シャーシャちゃんは何が欲しいんですか?城ですか?国ですか?星ですか?」
孫娘に懇願されたジジイの様に、一瞬で脳がトロけた俺は希望を尋ねる。
「ちょ、なんでシャーシャだけ!なっとく行かないんですけど!」
「っていうかお兄さん、プレゼントの規模がおかしいよ!」
「うるせぇビチクソビッチーズ!お前らシャーシャちゃんを見習え!」
「ビチクソは酷いよ!しかもなんか無意味に語呂いいしさ!」
くいくい。
「ん?」
今度はなんだ?
振り向いた先の光景は意外だった。
「お、お願いなの、だ?」
とりあえず皆がやってるからやろうとしたけど、恥ずかしさを捨て切れてないグララが、赤面しながらお願いしてきた。
表情マニアの俺は、人が恥ずかしがってる表情というのは大好物だ。
グララは言動とかがアレな感じだが、見かけは普通に美人。
「お、おぅ………」
童貞の俺は、その破壊力に平伏し、しどろもどろになるしかなかった。
グララの耳も赤いが、俺の耳も赤い自覚がある。
「………「「チッ!」」」
息の合った鋭い舌打ちが聞こえてきた。
全くビチクソビッチーズは品がないなぁ。
「っていうか話が全然進まねぇよ」
「いやぁ、お兄さんって反応がいいから悪ノリしちゃうんだよね。メンゴメンゴ」
「メンゴってお前いくつだよ………まぁいいや。それでお金の貰い方だよ。真っ当な真人間は真面目にどうやってお金を貰ってるのかな?」
「わぁ♪ヤマトーお兄さんがボク達の事、言外にクソ人間って言ってる♪」
あのロリビッチは無視だ、無視。
「………はい」
「はい、シャーシャちゃん」
「………あのね、あのね、お仕事するの」
「正解ですシャーシャちゃん!誰かと違って地に足が着いてますね!」
「わぁ♪もはや誰か扱い♪」
ロリビッチはどうせ強かだから無視。
「むぅ!」
ミミカカがほっぺを膨らませてた。
「え、なんでそこで慈愛の目でお姉さんを見たの!?ボク本気で意味がわからないんだけど」
ナーナちゃんが珍しく愕然とした表情をしていた。
俺は強い感情の出た表情が好きだ。
特に最高の笑顔、感動の涙といった表情は尊いとは思う。
しかし、それらを真に尊いものにしているのは、それまでの積み重ねだろう。
その表情を生み出すに至った過程があって、その結果として表情が生まれる訳だ。
友達とかいなくて、生まれてこの方モテた事もない俺には、いくら手を伸ばしても届かない領域にあると言っていい。
そんな人間関係が断絶してる俺が見られる、強い感情を出した表情とは何か?
それは不満・不服・諦観・絶望・虚無といった、マイナス方向の感情によって作り出される表情だ。
本来なら得難かった、強い表情へ手が届いた喜び・達成感・満足がそこにはある。
「今度は震え上がる様な目付きになってるし!お兄さん訳が分からないよ!」
「人と人は理解し合えないって事だな、きっと」
「獣人差別ハンターイ」
「いや、むしろ今の、人って認めてただろ、オイ」
人聞きの悪い事を抜かすとんだロリビッチである。
「で、それは置いておいて仕事だよ、仕事」
「でもお兄さん、仕事って何するのさ?」
「外に狩りとかに行くんですか?」
「この状況で町にまだ残ってる奴らに、狩りを突然やらせるのは酷だろうな」
それで生きていけるんなら、そもそも俺の援助等必要ない強者だ。
「むぅ………でも仕事って、町はメチャクチャなのに………ほかになにをさせるんですか?」
「おぉ、ミミカカ!いい質問だぞ、それ」
「え、そうですか♪」
自分の考えが認められて嬉しいのか、ミミカカがはにかんだ。
「うむ。公共事業と言うんだ」
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