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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の探求
101/154

記憶

 俺はどこにでもいる普通の人間だ。


 思考実験というのが好きだ。

 もし~なら結果どうなる事が予想されるか?

 1人でやっても楽しいし、気心の知れた相手がいたらまた楽しい。


 最近だといわゆるラノベやネット小説でも同じく考え事をする。

 よくあるファンタジー世界という題材。

 不思議な事がいくつもある。


 例えば人語を理解する生物全般についてだ。

 人の知能が発展したのは、自由な腕を得た事で、道具を使う様になり、知能が発展したからだ。

 だがファンタジー世界には時折、人語を解する人外の存在がいる。

 いかなる経緯で、高度な知性を有するに至ったのか想像し難い。


 例えば長命な生き物達だ。

 特にエルフを想定した話をしよう。

 作品にもよるが、エルフという種族は、数百年から数千年の寿命を持つという。

 とても信じ難い事だ。


 実は寿命のない生き物というのも、現実にいる。

 ベニクラゲというクラゲと、ロブスターだ。

 それぞれに寿命がない理由は別のものだ。


 ベニクラゲは成体になった後、幼体にまで体を戻す。

 そして再び成体に戻る。

 こうして成体と幼体の間を、行ったり来たりして、永遠に生きる。


 これは他の生物は疎か、他のクラゲにすら見られない特殊な性質だ。

 しかも不老不死なのに、子供は残す。究極生命体には生殖が不要な筈なのにな。

 将来的にはメカニズムを解明し、人間にも応用されるかも、と言われている。

 まぁ今のところは全くその目処が立っていない様だが。


 続いてロブスター。

 こっちは脱皮を行う。

 その脱皮の際、体を全て新しく作り変える。

 これは体表の事に限らず、内臓に及ぶまで全てだ。

 その為、同一個体が永遠に生きる。

 残念ながら人間は脱皮しないので、応用不能な性質だ。


 こうして永遠に生きる、2つの生物を見たが、両者にはいくつか共通する事がある。

・水生生物である

・目が存在しない

・体を若返らせる

という点だ。

 この中で特に重要な項目は、体を若返らせるという点だ。


 体組織・細胞には寿命が存在する。

 活動を行う度に摩耗するからだ。

 寿命・永遠の生を実現する為、両者は若返りという解決を図った訳だ。

 ではここで人間………もっと広く言えば、哺乳類について改めて見てみよう。


 まず、哺乳類は如何にして生きて動けるのか。

 全身にエネルギーである、血を送り込むからである。

 それでは血は何に依って、全身へ送られるのか。

 心臓の働きである。


 では、心臓はどうやって動くのか。

 周りにある筋肉の収縮だ。

 筋肉に押し潰され、ポンプの様に中に溜まった血を送り出す。


 最後に、心臓が何故止まるのか。

 それは周りの筋肉が、やがて動かなくなるからだ。

 筋肉にも寿命はある。動かせばそれだけ摩耗する。


 ところでライガーという生き物がいる。

 ライオンと虎を交配した、人工的に作り出した種族だ。

 この様に遺伝子的に近い種族であれば、交配は可能だ。

 ………この理論だと、人間とチンパンジーも交配可能という結論になりかねないが。

 DNAが99%一致するからな。厳密に言うと違うらしいが、詳しくは知らないので他に譲ろう。


 さて。

 エルフは人間と交配可能だ。

 つまりエルフと人間は、遺伝子的に情報が酷似している。

 ひいては体の造りが、ほぼ同じという事になる。


 ならば、心臓の仕組みも同じになってしまう。

 哺乳類というのはどんな動物でも、心臓が鼓動する回数というのが決まっているそうだ。

 その数、おおよそ20億回。

 その事実から逆説的に、エルフの心臓は、よほど強靭である事が伺える。


 鍛え抜かれたスポーツ選手の心臓は、1回の鼓動で凄まじい量の血を送り出すという。

 エルフが長生きであり、人間と同じ体の構造を持つなら、エルフはよほど強心臓であるといえる。

 優美なイメージと違って、割りと汗臭い事実が浮き上がってきた。


 また、更に言うなら、心臓に負担がかからない生活をしているに違いない。

 心穏やかに森の奥深くで暮らす。

 これはエルフのイメージ通りだろう。

 そして血中コレステロールを気にして、野菜中心の食生活をしているのかもしれない。

 作品によっては、エルフは菜食主義者だ、なんていう設定があったりするようだし。


 しかしそれらは、またエルフのイメージを損なう。

 エルフは弓の名手、という設定だ。

 弓で野菜を射る毎日を過ごしているなら、エルフは強靭な心臓を持つ狂人と言える。

 普通に考えてエルフは、弓矢で森に住む動物を狩っているのだろう。


 野生動物はどう考えても獰猛だ。

 時に人を襲う事もある。エルフだって例外ではないだろう。

 だというのに狩りを行い、心穏やかで居られるものだろうか?


 眉一つ動かさず、お互いの命をやりとりする。

 だとすれば、エルフの精神性はもはや達観・老成というレベルではない。

 やはり狂人とでも言うべきものになってしまう。

 ………話がエルフの異常性にそれてしまったが、寿命の話に戻ろう。


 寿命があるのは、心臓の周りの筋肉だけではない。

 ありとあらゆる細胞に寿命はある。

 肌というのは新陳代謝によって、新しい細胞に生まれ変わる。

 ちなみに古い肌は、垢となって小削ぎ落ちる。


 だが、新陳代謝するには、膨大なエネルギーが必要だ。

 エネルギー、即ち血液だ。

 またもや心臓を酷使する話が出た。

 長命であるという事実とは、相反する内容だ。


 常識的に考えて、エルフの新陳代謝は低いと言える。

 つまりその肌は、なかなか生まれ変わらないという事だ。

 その肌に瑞々しさはなく、表面についた汚れや、沈着した色素は落ちない。

 ………エルフは総じて容姿端麗という設定に反してしまった。


 俺が考察した結果のエルフ像をまとめよう。

・スポーツ選手の様に強靭な心臓を持つ

・豪胆・無神経な精神を持ち、繊細さはない

・食べもせず、娯楽として生き物を狩り殺す

・カサカサボロボロの肌・髪を持つ

 ………考えれば考える程、イメージとかけ離れている。

 全く訳の分からない種族だ。




 まぁ、よく知りもしない寿命の話題とエルフは置いておこう。

 今は冒険者ギルドとかいう、謎の組織について考えてみよう。

 俺の脳では、設立されるに至る経緯が想像できないのだ。


 ギルドとは日本でいうところの座だ。

 座ってなんだっていうと、同業者組合の事で、相互扶助を目的としている。

 まぁここまではいい。実際にあった組織だからな。


 元々は封建社会に於いて、大手商人が市場を独占していたという実情があった。

 権力機構のお墨付きを得た、大商人による市場の支配。

 市場へ新規参入する道は、完全に閉ざされていた訳だ。


 それに反発し、中小の商人が同業者同士で手を組んだ。

 徒党を組んだ中小商人達は、大手商人に闘争を繰り広げ、やがて市場への参入を果たす。

 ドイツで言うところのツンフト闘争という奴だな。

 それが業種別のギルドの前身となる………と、まぁ自然な流れだ。


 だが、冒険者ギルドという組織をそれに当て嵌めると、訳がわからない。

 まず大手商人というのは、冒険者ギルドにとって誰に当たるのだろうか?

 戦闘力を持った、権力機構の配下にある組織化された集団。

 一般的に王や領主が有する、騎士団辺りだろうか?


 騎士団相手に闘争を繰り広げるのなら、確かに個人では無理だろう。

 警察署に1人で押し入ろうとする様なものだ。

 それは無謀に過ぎる以上、徒党を組む必要がある。

 しかしそれは有り体に言って………革命とか反逆とか言われる行為ではなかろうか?


 そうなると、冒険者ギルドが公に認められる理由がわからない。

 権力者からすれば不穏分子なのだから。

 自分以外の有力勢力となると、支配下に置きたいに違いない。

 というわけで独立した組織ではなく、騎士団の意向を受けた下部組織であると思われる。

 自由を標榜とする、権力から独立した冒険者の為の組織………とは程遠い姿だ。


 権力から独立してるなら、明らかに騎士団と衝突し終わり、引き分け以上に持ち込んだ後だ。

 血塗られた荒くれ組織であるが、そうなるともう手がつけられない。

 公権力が制御できなかった以上、やりたい放題の好き放題。

 我が物顔で暴力を振るう、犯罪ならお手の物の鼻つまみ者達。

 自由かつ権力から独立してるが、冒険者ギルドではなく犯罪者ギルドとしか言いようがない。


 という訳で、冒険者ギルドの設立経緯は商人ギルドと、別物であると考えるべきだろう。

 しかし、それはそれでわからない。

 商人ギルドとは別という事は、別に巨大組織に対抗したという訳ではなくなる。

 じゃあ、何の為に徒党を組んだんだ?


 自由を愛し、権力から独立する。

 言葉は綺麗だが、平たく言うと只の社会不適合者だ。

 そんな協調性がない連中が自主的に集まる?


 冒険者同士は競争相手だ。

 蹴落とすことはあっても、協力して当たる事はないだろう。

 数人単位でならともかく、必然性もなく協力なんてできる訳がない。


 冒険者ギルドって一体なんなんだ?

17/7/15 投稿

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