ミミカカ、日本男子の力を知る
アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!
ヤマトー・カミュ・ホマレーさん。
・20歳
・男
・背が高い
・目がコワイ
・顔が子供みたい
・お肌ツルツル
・髪の毛サラサラ
・ニホコクミ
・超強い
・頭がすごくいい
・シャーシャが大好き
それがアタシの知ってるヤマトーさんだ。
でも新しくヤマトーさんのことでわかったことがある。
・なんでもできる
・ヤマトーさんにできないことはない
ってこと。
領主様の町………もう領主様は死んだけど。
その町はすごいこまってた。
悪いヤツをヤマトーさんが全員殺しちゃったから。
悪いヤツらは町のなんか、いろんなことを決めてた人だ。
町のことを決める人がいなくなったから、町がめちゃくちゃになったんだって。
それですごい強いヤマトーさんのフリをして、盗賊とか町の人は生きてるみたい。
そんなメチャクチャになった町を、ヤマトーさんは助けようとしてるみたい。
アタシにはそんなむずかしいことわかんない。
やっぱりヤマトーさんはすごいなぁって思った。
「という訳でご飯ですよ」
でも………。
「どういう訳ですか?」
やっぱりわかんない。
なんでごはん?
「腹が減っては戦はできぬ、というからな。まず何はともあれご飯だ」
ヤマトーさんが横向いて、パンパンって手をたたいた。
「皆でご飯を食べようじゃないか」
町を助けるんじゃなかったの?
「じゃあナーナちゃん。大人しくしてもらおうか」
ヤマトーさんがニンマリって笑う。
「ボ、ボクに乱暴する気でしょ?」
ナーナが体を守るみたいに自分を抱きしめてた。
………でも顔がニヤニヤしてて、しっぽを超うれしそうに振ってる。
くすぐられまくってから、ナーナはヤマトーさんにべったりしてる。
それにキスもしてた。
こどもって思ってたけど、もしかして超ヤバイかも。
ヤマトーさんってこどもにはやさしい。
特にシャーシャにはすごいやさしかった。
でも最近はシャーシャだけじゃない!
ナーナにもすごい話しかける!
っていうか、ナーナはシャーシャより特別かもしんない!
だってヤマトーさん、ナーナと話してると普通に笑うし!
ヤマトーさんってあんな笑うんだって、超ビックリした!
ナーナと話してるとき、ヤマトーさん超たのしそう!
「昔、メイド焼肉屋に行ってみた事があんだよなぁ。名前の通り、ウェイトレスさんがメイドさんのカッコしてる焼肉屋な。一部のメニューでメイドさんが、おいしくなる魔法とか掛けてくれるってやつ」
「あぁー、一昔前に流行ったね。喫茶ならよく聞いたけど、焼肉屋さんってのは始めて聞いたかな?」
「うむ。ちょっと目新しいから、話の種に冷やかしがてら、友達と行ってみた事があるんだ。でもよぉ………」
「でも?何かあったのかな?」
「あぁ。どうも俺の発言がメイドさんを怒らせたらしくてな」
「何をどうしてメイドさんを怒らすのかな?」
「女心と秋の空というからな。生理だったんじゃねぇかな」
「あぁ、うん。お兄さんってアレかな。若干、天然入ってるのかな。ナチュラルにデリカシーがないね」
「流石にオブラートに包むべきだったか?んー………お月様だったんじゃねぇかな」
「表現は大分マイルドになったけど、そもそも発言がアウトだからね?………まぁいいや。とりあえずお兄さんはその調子でメイドさんを怒らせた訳だ」
「全く納得できないが、まぁそうらしいな」
「それでどうなったの?」
「うむ。『そんな意地悪言うご主人様にはお肉あげません!』って言われて、注文してた肉の皿取り上げられたよ」
「焼肉屋行って肉取り上げられたの!?」
「焼肉屋行って肉取り上げられるとか酷くね?」
「どっちかっていうとお兄さんが酷いよ!何やってんのさ?」
「ん?もそもそと残った野菜食ってたよ?」
「ボクが言いたいのはそういう事じゃないよ?なんでメイドさん怒らせて、野菜食べてんのさ?何の為にメイド焼肉屋さんに行ったのさ?」
「おぉ、そう言われたら確かに、俺って何しに行ったんだろうな?」
「「ハハハハハハ!」」
2人はそんな感じでよく楽しそうに笑ってたし。
話してることはよくわかんないけど。
メイドさんってなに?
おいしくなる魔法が使えるってことは魔法使い?
っていうかおいしくなる魔法ってなに?
それアタシも使ってみたい!
………ってちがうし!
もしかしてヤマトーさん、こどもが好きなのかな?
妻にするって意味でも?
女のアタシでも美人って思う、グララにもつめたいし。
まぁグララは臭いし、言ってることがよくわかんないから、妻にはしたくないのかな?
でもヤマトーさんが楽しそうな顔するのって、こどもが相手のときだけなんだよなぁ。
前聞いたとき、年下が好きって言ってたし安心したけど、アタシもう16だから大人だし………。
ヤマトーさんの妻になるのって、思ったよりホント難しいかも!
「大丈夫、天井の染みを数えている間に終わるさ」
「綺麗なおべべ着て、白いご飯も食べられるの?」
「白いご飯ってコッチで一般的に食うんかねぇ?米料理があってもパエリアとかじゃないのか?」
「なんでそこで素に戻って返すかな!」
ヤマトーさんはナーナの背負った袋をゴソゴソしてる。
「で、ヤマトーさん?ごはんなんて食べてていいんですか?町の人助けるんじゃ」
「ご飯は俺達と町の人の分な」
「あ、アタシたちだけじゃないんですね」
「どれ程素晴らしい復興計画を立てたところで、食べる物がない窮状を解決しない事には誰も納得すまい。という訳でまず炊き出しだな。暖かいものを食べれば元気も出るだろ、うん。ヒノマーをおっ立てておいて、風評被害を払拭したいところだ」
大きななべを取り出したり。
いっぱい野菜を出したり。
いっぱいお肉を出したり。
大きなヒノマーとそれを立てる棒を取り出したり。
ヤマトーさんがテキパキ準備していく。
「うん、行けるな。じゃあ大通りに布陣して炊き出しするか」
「ニホコクミの面目躍如だね」
「うむ、復興支援、災害救助、世界平和は全て我ら日本人の専売特許だからな。俺達も本懐を遂げるぞ」
「「おぉー」」
ヤマトーさんとナーナが2人で手を上げた。
「「「………おぉー?」」」
そのまま「やらないの?」ってコッチ見てきたから、いっしょに手を上げた。
やっぱりニホコクミはこまった人を助けるのが役目みたい。
アタシも頑張って手伝って、立派なニホコクミにならないと。
大きななべに野菜と肉ぜんぶ入れて、ヤマトーさんが魔法で火と水を出して、いい匂いがしてきたとき。
「あ、でも」
「ん、どうした?」
「どうやって町の人全員に、ごはんのことを教えるんですか?近くの人ならにおいとかでわかると思いますけど、遠くの人はわからないんじゃ?」
「あぁ、それな」
「どうするんですか?」
「ある程度開けた場所を順番に巡回して、毎回炊き出しするんだよ」
「町の人を全員集めてからやったら、わざわざ動かなくてもいいんじゃ?」
「「………」」
ヤマトーさんがナーナと顔を合わせて、手を広げてため息をはいた。
なんかちょっと笑ってるし、ゆっくり首を振ってる。
………なにあのリアクション、ムカつく!
「お姉さん、そんな事しちゃダメだよ」
「え、なんで?」
「この大きなお鍋ても、1度に用意できるのは、せいぜい20人分ぐらいだからさ」
「でも、ナーナたちなら、食べ物をいくらでもだせるんじゃないの?」
「この町の人にニホコクミの能力なんてわからないよ。自分の分のご飯がなくなると思ったら、町の人はどうすると思う?」
「えっと、なくなる前に貰おうとする」
「うん、そうだね。間違いなく喧嘩になるよ」
「でも、ヤマトーさん達ならそんなの止められるんじゃ」
「ミミカカお前、町を助けようとしてるのか?それとも町に混乱を振りまこうとしてるのかどっちだ?」
「うぅ………」
「詳しい現状を直接確認する必要もある。人数ばかり多くなられては確認もままならん。それに衰弱して動けない者がいる可能性もあるしな。よってこっちから動く。横着はしない。手間は惜しむと返って増えるもんだ」
集まらせた方がラクだと思ったけど、ダメだったみたい。………むずかしい。
「じゃあ鍋をせいぜいたくさん用意して、じゃんじゃん炊き出すか。エリアを区切って匂いを流そう」
「においを流す?」
「炊き出しやってるよって、風に乗せて匂いを隅々まで送り届けてやるんだ。動ける奴だったらそれだけで勝手に集まるだろ」
ヤマトーさんすごいなぁ。
ただごはん用意するだけで、こんなに考えることがあるなんて。
アタシが考えたのはぜんぶダメだったし。
どうしたらうまくいくんだろ?
「しかし、スープを撹拌させるのが重労働だな………」
「そりゃこんな大きな鍋じゃあね」
「なんとか楽をしたいところだが、どうしたもんか?」
………人にラクするなって言っておいて、なんでヤマトーさんはラクしようとしてんの?
「手間を惜しんだらいけないんじゃないんですか?」
思わずアタシは聞いてた。
「ん?そりゃ惜しむべき手間と、掛けるべき手間というものがあるからだ。料理そのものは出来上がれば、過程は関係ないからな。楽するに越したことはない」
何言ってんだコイツって目で見られた!
納得いかない!
「混ぜねぇとスープが固まるしなぁ………というわけで、そこで遠巻きに見てる奴!美味いもの食わせてやるから友達連れてこい!」
角から顔を出してコッチ見てたこどもを呼ぶ。
「やぁお子達」
あ、この子達って、前にヤマトーさんがごはん食べさせてた子だ。
「また飯を食わせてやろう。ただし自分で作れたら、な。飯が食いたきゃ自分で作れ」
「結局、食材と食器だけ用意して、全部セルフサービスなんだね」
「自主独立の精神を育む為に必要な措置だ」
腕組みしながらうんうん頷いてる。
「この調子で巡回して、各地に調理器具と食材と食器置いて、声かけて回ればいいか………1つ対策しなければならんが」
「対策、ですか?」
「うむ。何だと思うよ?」
「え、えーっと?」
「オイ、そこのガキども!殺されたくなけりゃその食い物を俺達に寄越せ」
「うわ、出たよ莫迦が」
「………アメリカ」
「よくボクらニホコクミの前に姿を表せたもんだね、アメリカがさ?」
あ、またニセモノのヤマトーさんだ。服が黒いだけでぜんぜん似てないけど。
「あ?テメェら、俺達が怖くねぇの」
「アメリカ風情が怖くてニホコクミやってられるか!」
あ、影の魔法だ。
死んだな。
「悲鳴を上げろ!」
肩にまっ黒な影ができて、男の腕は千切れた!
「うああああああっ!」
「五月蝿い!黙れ屑が!」
喉に影ができて、血まみれになった!
「よくも汚らしいアメリカ共が、誉れある臣民たる俺達ニホコクミの前に姿を表せたな………命が惜しくないなら死ねよ!」
ブチギレたヤマトーさんが………え!?
なにそれ!
「お、お兄さんが」
「………増えた」
アタシたちの見てる前で、ヤマトーさんが増えた!
「ニホコクミの威力はここなるぞ!総力突貫!」
「「…………」」
3人になったヤマトーさんが、男たちを襲った!
ズバ!
ズバ!
ドスドスドス!
1人目のヤマトーさんが男の右腕を切り落として通り抜けた!
2人目のヤマトーさんが男の左腕を切り落として通り抜けた!
3人目のヤマトーさんと同時に全員で男を囲んで突き刺した!
「「「さぁお子達、安心するがいい。お前達から奪おうとする奴は、一切の例外なく俺が殺してやる」」」
3人のヤマトーさんが剣を戻しながら、こどもたちにしゃべった。
超コワイんだけど?
ヤマトーさんって何者なの?
「という訳で、盗人対策に”分身!ヤマトー"を置いていく。”分身!ヤマトー"は治安維持活動を無期限、無報酬で行う無敵・不滅の存在だ。あぁ、そうだ。お子達よ、まかり間違っても、食事をとりあって喧嘩したりするなよ?治安を乱した奴は例外なく殺すから」
こどもたちはカクカクうなずいた。
だまったままにらんでくる、増えたヤマトーさんがコワイみたい。
「というわけで美味しい食材と”分身!ヤマトー"を各地に配りに行こう。食糧難と治安が改善されてバッチグー」
「バッチグー!」
「………バッチグー」
ヤマトーさんとナーナとシャーシャが親指をグって立てた。
………バッチグーなの、コレ?
いや、ニセモノのヤマトーさんが乱暴してたときよりはいいだろうけどさ。
ヤマトーさんがなんでもできすぎて、よくわかんなくなってきた。
いっぱいの野菜と、いっぱいのヤマトーさんを配った次の日。
………あのヤマトーさん、1人もらえないかな?
抱きついたり、体さわりまくったり、においをかいだりしたいし。
あとシャーシャみたいにたくさんほめてほしい。
けど顔が怒ってるときの顔だからコワイし。
笑ってる顔のヤマトーさんがいいなぁ。
ちなみにケガしてた人がいたら、ヤマトーさんが治してた。
ヤマトーさんにできないことはないみたい。
「傾注!よく耐え難きに耐え、忍び難きを忍んだ!雌伏の時は終わった!今こそ繁栄の時だ!」
そんでなんでもできるヤマトーさんは今、1人でなんか言ってる………ように見える。
でもコレ、ひとりごと言ってるわけじゃない。
「またもや、各地の”分身!ヤマトー"の出番だ」
「………昨日のたくさんいたお兄ちゃん?」
「そうですよ、シャーシャちゃん。”分身!ヤマトー"君は各エリアに散っています。そして今日も彼らは朝からご飯を配給しています」
「ナーナがいないのにご飯が出せるんですか?」
「ナーナちゃんが来るまで、誰がお前等のご飯を用意してたと思ってるんだ。俺の分身体である”分身!ヤマトー"は、当然ご飯を無限に用意できるぞ。一家に一台”分身!ヤマトー"があれば未来永劫安泰なレベル。まぁインテリアとしては、最悪なレベルで調和を乱すのが難点」
「精巧な成人男性が無表情で突っ立ってるお部屋とか嫌だよ、ボク?」
アタシなら無表情でもヤマトーさんが部屋にいたら………やっぱりコワイな、うん。
「まぁそれは置いておいて、ご飯を配ってるので、自然と周りに人が集まっています。町の人に一斉に連絡するのには、大変都合がいいのです。”分身!ヤマトー"は発令所としての機能と、兵站と戦闘の機能も兼ね備えた、実にハイスペックな存在です」
って訳で、ヤマトーさんはいっぱいいるヤマトーさんをしゃべらせてるらしい。
あのヤマトーさんたちって、自分ではしゃべらないのかな?
「無料で食料を配給するのは今朝が最後となる」
「え、ごはんを配らなかったら、町の人が死んじゃいます」
町を助けるんじゃなかったの?
「早とちりするな。別に見捨てるとは言ってない。言った通り、無料での配給を差し止めるだけだ。コホン………これから先、食料は金銭と交換で行う事となる」
「………はい」
ん、シャーシャが手を上げた?
「………お兄ちゃん、町の人って、お金持ってるの?」
え、お金ってみんな持ってるんじゃないの?
「流石はシャーシャちゃん!よく気付きました!」
あ、でもヤマトーさんがほめてるし!
「そうです。今現在、この町では経済活動が行われていない為、お金は死蔵されています。ですから、町の人の手には、お金が行き渡っていない状態です。………せっかくなので問題としましょうか。どうすれば使われなくなっているお金を、町の人達が手にできる様になると思いますか?」
シャーシャばっかほめさせないぞ!
「はい!」
「はい、ミミカカ」
「お金を拾えばいいです!」
「んー………なかなかアグレッシブかつ、アバンギャルドかつ、アホらしい意見が飛び出たな」
ヤマトーさんがアゴに手を当てて、マジメな顔で考えてる!
アグレッシブでアバンギャルドでアホらしいって………アレ、アホらしいって言われてない?
「ム!アホらしいってなんですか!」
「あぁ悪い、つい口が滑ったんだ」
えっと、それなら仕方ないか?あんまり考えずに言ったんだし。
「つまりミミカカは、死蔵されてるお金は、手にした者が自分の物にできる様にするべきだと言う訳だな」
「はい!そうしたら使ってないお金だって、みんなが使えるようになると思います」
「うん、単純で分かりやすい理屈だ。単純なものというのは、いつだって強い」
あ、やった!
ヤマトーさん、むずかしいことも、小さく分けて単純にしたらいいって言ってたし!
「あまりにストロング過ぎて弱肉強食、阿鼻叫喚なのが難点だが」
あれ?なんかむずかしいこと言われててわからないけど、まちがったっぽい?
「ミミカカ、死蔵されたお金っていうのは、どんなものなのか想像できるか?」
「どんなもの、ですか?えーっと、えーっと」
どんなものって………お金はお金じゃないの?なんか形がヘンとか?
「聞き方が漠然とし過ぎていたか。………例えばミミカカの家に、使ってない道具が保管して有ったとしよう」
「えーっと………はい」
うなずく。
けど、なんの話だろ?
「そこに知らない人間が突然押し入ってきて『使ってないんだから寄越せ。ソイツは俺の物だ』と宣った挙句、勝手にその道具を持っていこうとしたら、ミミカカはどうする?」
「ぶっ殺します!アタシのなんだから!」
「ぶっ殺される様な真似を人にやらすな!さっきの死蔵されているお金というのは、ミミカカの道具と一緒だ!」
ゲ!そうなのか!
「使ってないからって、個人の資産を勝手に持っていけるか!有り体に言ってそれは、世間一般で押込み強盗と言うんだ」
「うー、でもヤマトーさん」
「ん、どうした?」
「お金が人のモノなのはわかったんですけど、じゃあどうやったら使わないお金を、人が使うようになるんですか?」
「ん、そうだな。経済の概念について説明しておいた方がいいか」
ヤマトーさんはどうしたらいいか考えてるみたい。
「お兄さん、お兄さん」
「ん?」
ナーナが話しかけてた。
「いよいよ内政チートっぽくなってきたねぇ?」
「………面倒臭ぇ」
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