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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の上陸
10/154

日本男子、思い返す

 俺は今、1人でニヤニヤと笑っていた。


 いいじゃないか、思い出し笑いぐらいさせてくれても。

 何を思い出してるのかって?

 もちろんムムカカ村のことだ。実に愉快痛快奇々怪々な思い出だ。愉快痛快と奇々怪々が同時に並び立つ事って本当にあるんだなぁとかどうでもいい事を思う。




 こう思ったことはないだろうか?

「自分の事を誰も知らない、しがらみのない世界で自由にしたい!」

 俺が何故愛する祖国、日本を離れて、はるばる異世界くんだりまで来たのかと言えばこれが理由に他ならない。

 別によくある異世界ファンタジーモノみたいに英雄とか成功者になれなくてもいいんだ。

 俺はただ好き勝手してみたいって思っただけなんだ。


 そしてそんな自分勝手な俺の夢を素敵な素敵なムムカカ村は叶えてくれたのだ。思い出すだけで笑みが溢れる。

 あまりに気分がいいので無人の野を行く神誉さんは高らかに歌い出した程にご機嫌だ。胡乱な音楽団体と喧嘩したくないので、俺の美声をお披露目できないのは悲しい限りだが間違いなく俺は歌った。




「天地神明! ご照覧あれ!」

 現代日本で社会生活を営んでたら、この台詞を言う機会なんて何十年生きたところであっただろうか!いやない!反語!

 普段じゃちょっと恥ずかしくて言えないカッコいい台詞も大・丈・夫!異世界の大地だよ!!

 ムムカカ村の人達は違和感なく受け入れてくれたみたいで「何なんスか、さっきの台詞?」とか聞き返される事はなかった。

 正直、恥ずかしさが捨て切れなくて「神誉セレクション 咄嗟に出てくるとカッコいい言葉集 ~戦闘編~」も2回しか火を吹かす事ができなかった。

 でもこれからは安心して言ってみたい台詞を言えるぞ!戦闘編以外の台詞だって言える機会があるに違いない!


 ちなみに相手を認める台詞は言わない事にしている。

「相手にとって不足はない!」

とか言ってみたいけど、本当に不足ない相手だったら大ピンチじゃないか。

 だから勇ましく宣誓するような台詞や、相手を否定するような台詞を使っていきたいと思う。

 言霊信仰というやつだ。




 無双出来たのもよかった。さっきは英雄とか成功者になれなくてもいいとは言ったし、実際それはウソじゃないつもりだ。でも。なれるんなら………ねぇ?

 世界に冠たる我らが日本の輝かしい工業製品に身を包んだこの俺に敵は居なかったのだ!

 石で出来たセントバーナードみたいな化物である灰色の猟犬(グレイハウンド)

 体高80センチぐらい?重さは正確にはわからないけど大人の男より重たいので70、80キログラムぐらいか?


 普通に考えてそんなのと戦って勝てる訳がない。

 でも勝てた!何故か勝てた!バンザーイ!

 それもタイマンじゃなく俺1人対10匹以上!

 文字通りに粉砕し尽くしてやった!大勝利!


 しかもよくよく考えたら俺が倒した1匹の中に、マチェットを口に叩き込んでそのまま真っ二つにして頭の部分を斬り飛ばしてやった奴もいた!首を跳ね飛ばしてやった奴もいた!

 石の塊を剣で真っ二つに!

 他にも着地の衝撃でバラバラに砕けたけど、背中からマチェットを突き立てて深く差し込んでやったのもいる!


 凄くないか?調子に乗らないか?有頂天にならないか?

 まぁそれもこれもやっぱり偉大な日本の安心安全高品質な工業製品のお陰だ。

 謙虚さを忘れずにいようと思う。

 そうは言ってもやっぱりニヤニヤしてしまう。

 一人であの時を思い出して剣を振る真似をしちゃったり。やだ私ったら中二病!


 そして助けた人達からチヤホヤされる俺!

 正に下にも置かないような大歓待だった!

 森林の開拓村で出るご馳走というイメージに全く反しない豪快な肉と肉のコラボレーション!

 一応果物とかお酒とかもあったんだけどとにかく肉の印象が強い!

 1匹丸々焼いた肉のインパクトは凄いよ!

 まぁ味自体はやっぱ我等が日本で食べてた物からは格段に落ちるけどね。どこでも美味しいものが食べれるのは日本の特権だし。

 それでも美味しく食べたのは本当だ。言葉通りの心尽くしだったし。

 特にミミカカちゃんが持ってきたやつは格別だったなぁ。臭みとかうまく消してて凄く食べやすかった。




 そうそう、可愛い可愛いミミカカちゃんだ。

 お花ちゃん改めミミカカちゃんは最初から最後まで可愛かった。

 お祭りの中、皆の前で自己紹介する機会があったので普通に大和(ヤマト)神誉(カミホマレ)と名乗ったら、ヤマトー・カミュ・ホマレーさんという謎の外国人にされてた。

 音節を1つ1つ区切る日本語と違ってワンブレスで発音するという、言語の違いから起きた喜劇だ。面白かったのでそのまま頷いておいた。ちなみに俺は度々横文字を用いてるように、別に横文字に忌避感とかない。あくまでただ日本がほんのちょっと大好きなだけなのだ。


 俺は遠い東の国から来た放蕩者の貴族、ホマレー家のヤマトー・カミュ・ホマレー。

 ちなみによく考えずに名乗ったけど家名があるのは貴族だけみたいだ。フルネームを名乗った時点で自動的に貴族の仲間入り。

 まぁ俺の顔立ちとか知識とか服装の違いとかを吸収してくれる、大変便利な設定が思わず出来たのでミミカカちゃんには感謝を捧げよう。


 可愛いミミカカちゃんの快進撃はそれだけに留まらない!

 なんと明晰なる彼女は誇らしい祖国、偉大なる日本の象徴、天皇陛下に興味を抱いたのだ!

 いかんせん使用する言語の違う彼女は天皇陛下と正しく発音する事は叶わなかったが、それでも神聖不可侵の尊い神であらせられる事は直ぐに理解できた様だ!


 その偉大さにしきりに関心していた彼女は、ついに自分も栄誉ある日本国民になりたいとまで言い出してくれたのだ!

 彼女の真剣な願いを叶えるべく、俺はなるべくわかりやすく日本国籍を取得する方法を伝えておいた。

 そのまま熱くなって、日本国民であっても国益に背くのは天に唾する行いで討つべき逆賊で汚らしい売国奴である、と一息に語ってしまったが、彼女も心底同意するように許せないといった顔で嫌悪感を露わにしてた。

 なんて素晴らしい子なんだろう!これまでの人生でこれほど素晴らしい女の子を見たことがない!


 更にミミカカちゃんは可愛いだけでなく向上心もたっぷりだ!

 村の子供達を相手に算数と文字の読み書きを教えてたら、彼女も強い興味を示してくれて一所懸命に覚えてくれたのだ!

 チヤホヤされるのが気持ちよくて教えてたんじゃないよ?日本国民の義務を果たしたまでだよ?チヤホヤされていい気になってたのは否定できないけど。

 ちなみに言葉が喋れた時点でもしやとは思っていたが、案の定俺はこの世界の文字を問題なく書けた。


 村を去る時に特に勉強を頑張った子達には餞別に、色違いのバンダナを送って表彰の代わりとしたが喜んでくれたようだ。

 彼女も非常に意欲的に勉強をしてたし、何より子供達を灰色の猟犬(グレイハウンド)から守る戦いで愛用のナイフが失われたと聞いていたので、バンダナと別に俺の持ってきた大型コンバットナイフもあげることにした。


 マチェットより高い結構な高級品、ぶっちゃけ6万いくらもしたけど、彼女なら俺より余程持ち手として相応しいだろう。それに持ってきたナイフはあれ1本というわけじゃないし。何よりミミカカちゃんの為なら惜しくない!

 脳内に勲章授与の光景を思い描いて、できる限り栄誉である事を強調して恭しくナイフを授けた。

 彼女は涙を流しながら絶対に大事にするとまで言ってくれたのでよかったと思う。


 そしてサプライズでナイフのハンドルグリップにはプレゼントを入れてある。

 方位磁針は()()()()()()()使()()()()()()()()()が、珍しくて面白いかなと思って入れたままにしておいた。

 本命は神誉さん入魂の似顔絵!

 意外に思われるかどうかは知らないが絵を描くのが好きなのだ。腕前の方は絵を描かない人よりはうまい程度だと思う。最近はプロじゃなくても凄い絵を描く人いるけど俺はそこまでじゃない。

 多分この世界で自分の絵を描いて貰うなんて事するのは、まだ見ぬ貴族ぐらいだろうし喜ばれると思って描いてみた。


 本人の目の前で絵を描くのは流石に恥ずかしかったので一計を案じた。

 また携帯食料を差し出して、いつものミミカカちゃんスマイルになったところを携帯電話の写真機能で撮影したのだ。

 彼女は自分に向けられたカメラなんて物には一切気付かなかっただろう。不思議そうな顔はしてたけどフルーツ味の甘味の前には霧散した。

 こうして写真を確保したので絵はすんなり描けた。

 微妙にイラストチックなデフォルメがされてるのも、可愛いミミカカちゃんにピッタリと言えよう。


 名付けて「幸せの花、ミミカカ」。

 見てて気持ちいいぐらいの幸せそうな顔で笑うお花ちゃんの絵だから幸せの花。安直だと侮るなかれ。名は体を表すのだ。これ以上ないタイトルだと思ってる。

 直接手渡すのはいくらなんでも恥ずかしかったので、ナイフ内のサバイバルキットと入れ替えに丁寧に畳んで入れておいた。彼女は気付いてくれるだろうか。


 ところで彼女の父親、ムムカカさんは滞在中、しきりにミミカカちゃんとの結婚を勧めてきてかなり困った。

 なんせ彼女はパッチリお目々の大変可愛らしい顔つきをしていて、優しくて素直で頑張り屋さんな性格をしていて、料理まで上手。

 そして何より彼女は見た事もない筈の日本が、俺がその魅力を万分の一だって語れなかったにも関わらず、いかに素晴らしい国であるか理解して国民になりたいとまで言ってくれるのだ。


 好きなものを共有できる魅力的な女の子。正直言ってお言葉に甘えて結婚しなかったのは失敗かなと思える程の相手だった。

 でも、俺には日本に帰るという目的があるのだ。

 いくら可愛くて魅力的な事この上ない女の子でも、結婚は考えられないのだ!………逃した魚は大きいなぁ。




 さてここまでで俺がニヤニヤした理由の愉快痛快の部分はわかってもらえたと思う。

 じゃあ奇々怪々の部分はなんだろうか?

 答えは俺の愛する麗しの祖国、日本が誇る輝かしい工業製品達である。

 いくら他に類を見ない安定した高品質さを誇る日本の工業製品とはいえ、それでも信じられない様な事を何度も体験してるからだ。


 さっき振り返ってみた石の塊の化物を、マチェットで切り裂いたり突き刺したり、安全靴で蹴り砕いたのもそうだ。


 水筒だって不思議だ。

 いかに頑丈で保温性に優れたステンレスマグボトルであるとはいえ、いかんせん容量は500ミリリットル程度でしかない筈なのだ。なのにいつも美味しい紅茶を提供してくれる。

 飲み切ってもいつの間にかまた満タンの紅茶。

 一度、村で沸騰させてから冷ました水を貰って、水筒に入れ直してみた。飲んでみたら只の水だった。

 そう思って背嚢にしまっておいて、しばらくしてから飲んでみると紅茶になっていた。


 携帯食料も不思議な事になった。

 食べても食べても無くならないのだ。

 1箱4パック入りが30箱入ったケースをまるごと持ってきた。1つ取り出して食べるとその時点では減ってるのだが、また食べようと取り出すと中には30箱入ってる。

 ちなみに食べ終わって背嚢に入れておいたゴミはゴミのままだった。謎だ。


 救急箱だって携帯食料と同じように使った時点ではなくなってるが、時間を置いて見てみると中身がバッチリ補充されてる。

 初日に使ったガーゼと包帯が全部有るのだ。


 これらを奇々怪々と言わずしてなんとする!


 マチェットは尋常じゃない切れ味と頑丈さ。

 安全靴は石の塊を粉微塵に吹き飛ばす。

 飲み切った水筒もいつの間にか紅茶が満タン。

 携帯食料のケースの中は常にいっぱい。

 救急箱の中身も気付いたら補充されてる。

 実に不思議だ。




 その不思議の秘密は背嚢にあると俺は見た。

 マチェットと安全靴以外は全て、普段背嚢に収納しているものが補充されてるのだ。

 水筒の中身も背嚢に収納するまではただの真水だった。


 なのでまず水筒で実験してみる。


 背嚢の中に戻さず水筒の中身を飲んだ。

 ちなみに500ミリリットルを一気飲みはできなかったので数回に分けて飲んで空にした。

 蓋を開けて中身を見てみても中身は空っぽだった。

 時間を開けて確認してもやっぱり空だった。

 空になった水筒を背嚢に戻してすぐ取り出す。

 まぁ手にした時点で重さが違ったのでやっぱりとは思ったが中には満タンの紅茶が入っていた。ちなみに熱くも冷たくもない常温。俺が日本でこの水筒に入れた紅茶は常温である。


 今度は持ってきた砂糖を使ってみた。

 水筒の中に砂糖を余裕で飽和する量を入れてから飲んでみる。

 当然口の中に纏わりつくような凶悪な甘さだった。まぁ甘党なので望む所だが。

 紅茶風味の砂糖水を一口堪能した後に背嚢に戻してまたすぐ取り出す。

 中身は普通の紅茶が満タンに入ってるだけで砂糖は影も形も見当たらなかった。

 実験に使った砂糖も背嚢に戻してあったが「もしかして」と思って取り出すと砂糖は使う前と同じ量に戻っていた。




 これらの実験から、背嚢には「収納すると状態を中身ごと復元する」機能が備わっていると仮定した。

 これが技術大国日本の工業製品の力か!

 俺の魂は驚愕に震え、未だ底知れぬ日本という国の懐の深さに改めて畏敬の念を抱いた!

 続いての疑問は「いつの状態に」復元するのかという事だ。

 これについては携帯食料に着目すべきだろう。

 ゴミはゴミのままだという結果が既にわかっている。


 試しに1箱だけケースから出して、食べずに背嚢に一旦収納する。

 さっき収納した1箱をおいしく食べる。喉が渇くので紅茶も飲む。

 食べ終わったら包装を綺麗に箱に戻してまた背嚢に収納する。

 さて、取り出してみると………?

 やっぱり未開封の1箱となって出てきた。


 今度は別の1箱をケースから出して、マジックで外箱に「ミミカカちゃん可愛い」と落書きしてみる。落書きの内容はただ心に思いついた言葉を書いただけなのでつっこまないで欲しい。

 特に食べずに背嚢に戻してみて取り出すと、やっぱり外箱がミミカカちゃんは可愛いと主張してた。

 しかしこの携帯食料、ミミカカちゃんの可愛さがわかるとは中々見所のある携帯食料じゃないか!携帯食料にしておくには惜しいな。


 さっき食べた未開封の1箱をまた取り出してこっちにも落書きしてみる。「鬼畜米英」、と。例によって落書きに深い意味は無い。

 背嚢に戻してまた取り出すと綺麗サッパリ恨みの言葉は消えていた。

 しかしこの携帯食料、これしきの事で原爆投下という人類史上類を見ない残虐で非人道的な行為を忘れて恭順を示すとは情けない!意思薄弱なる事この上なし!

 こんなに同じ携帯食料での差があるとは思わなかった…!




 そんな訳の分からない事を思いつつ、背嚢の機能の仮定をする。

 背嚢には「収納されたものを最初に収納した状態に中身ごと復元する」機能が存在すると思われる。

 流石は世界に冠たる我等の日本の工業製品だ!

 仮定を立証するため俺が持ち込んだ荷物以外でも効果を発揮するか試してみる事にした。


 ミミカカちゃんに「お祭りの日に作ってくれた料理をまた食べたい」というと目を輝かせて狩りに出てあれよあれよという間に、出来立てホヤホヤの鳥の香草焼きを作ってくれた。

 いい子だなぁミミカカちゃん。

 彼女の真心が篭った美味しそうな料理を清潔なビニールで厳重にラッピングしてマジックで「ミミカカちゃん作 鳥の香草焼き」と書いてから背嚢に一旦収納する。

 不可解な行動をする俺にミミカカちゃんは目をまんまるにしていたが、一緒に食べようと言うと嬉しそうに笑ってくれた。


 俺の食器セットの上にさっき収納したばかりの鳥の香草焼きを広げていっしょに食べる。

 ミミカカちゃんにもナイフとフォークを出したけど使い慣れてなかったので、俺が肉を切り分けてあげると嬉しそうに笑ってパクパクと食べてた。

 可愛いミミカカちゃんとその手料理に舌鼓を打った後に、料理をラッピングするのに使ったビニールを背嚢に入れてみる。

 背嚢を覗くと、そこには食欲をそそる香ばしい香りの出来立てホヤホヤの鳥の香草焼きの姿が!

 時間が経ってから取り出してみたけど、背嚢から取り出すまでずっと熱々のままだった。

 これでいつでも可愛いミミカカちゃんの作りたての手料理が食べれるぞ!

 難点は素手で荷物をまさぐると「熱!」って言っちゃう事と、なによりビニール袋に「ゴミ袋」って書いてあってイメージが悪い事。いや、新品だから清潔なんだよ?


 俺はそこでムムカカさんからお礼としてお金を貰っていたのを思い出す。

 背嚢からお金の入った袋を取り出して中身をぶちまける。ザバー。袋を背嚢に戻す。

 背嚢からお金の入った袋を取り出して中身をぶちまける。ザバー。袋を背嚢に戻す。

 背嚢からお金の入った袋を取り出して中身をぶちまける。ザバー。袋を背嚢に戻す。

 うはははははは!なんかすごくテンション上がる!「笑いが止まらない」ってこういう事を言うんだね!


 どうやら異世界の経済は貨幣経済らしい。信用経済と違って、実際に希少金属や卑金属を含んだ、有り体に言えば金貨とかの硬貨で商品交換が成り立つ。

 硬貨には通し番号とか無いから増やし放題だ。普通、硬貨の偽造は罪に問われるけど、完全な複製ってなんかの罪に問われるんだろうか?法が発達してれば、硬貨の発行は特定の許可がないと禁止されてるかもしれないけど、俺はそもそも発行してないと言い張る。俺の手元で文字通りに増えただけだ。


 そんな事を思いつつ、あまりにその作業が楽し過ぎて延々と増やしそうになった。だって、袋を出すだけで金がザックザック増えるんだぜ?

 ちょっと自省して、数種類の硬貨の内、一番価値の高そうな大きな銀貨を10枚に増やす。それより小さな銀貨も、大きな銅貨も小さな銅貨も10枚ずつ増やす。おそらく金貨もこの世界には存在してるのではないかと予想するが、流石に高額硬貨なので村にはなかったらしい。残念。


 俺は元手さえ有ればいくらでも増やせるので、貰ったお金の分はムムカカさんに返した。

 灰色の猟犬(グレイハウンド)との戦いで破損した手斧も買い直さないといけないだろうし、増やし過ぎたお金も硬貨10枚ずつを手元に残して全部渡しておこう。

「………」

「足りないか?」

「い、いえ、滅相もございません!」

「そうか?遠慮はいらんぞ?」

 渡したお金は貰った分の10倍ぐらいの額になってると思うが別に俺に痛手はない。


 しかし今になって思うが、ムムカカさんの心境はどんな感じだったんだろう?

 俺としては余り物を押し付けたみたいな気分で渡したんだけど、ムムカカさんの立場ならそうは思わない筈だ。

 それは例えば………お正月に会う予定のなかった親戚の子に会って、急遽ぽち袋に五千円を入れて渡したら後日その子に、「おじさんも何かと入用でしょう」って言われて5万円程渡されたみたいな?何それ心折れる!

 普段は割りと気のいい感じのムムカカさんが、面食らったみたいな顔であんまり喋んなくなっちゃったし悪い事したかもしんない。




 まぁそんな感じで背嚢が凄まじい機能を持っている事が判明した。

 ぶっちゃけ衣食住のうち2つが保証されたと言っていい。

 持ってきたシャツにマチェットを突き立てて切り裂いてみたけどちゃんと元通りに復元したし。

 しかし………試す気が起きないけどコレ、生き物を一度入れておいて、その生き物が死んだら………?

 これはいくらなんでも試す気が起きない。

 もし知的生命体を入れたらなんて事を考えずにいられない俺。ブルブル。

 まぁそれは置いておいて機能がわかった時点で着てた衣類・装備・靴も一度背嚢に入れておいた。

 これでどれだけ汚してもいつでも洗いたてのように清潔。破れても壊れても大丈夫。


 尽く切り裂くマチェット。全てを蹴り砕く安全靴。傷を短時間で治す救急箱。復元・複製する背嚢。もしかしたら他の持ち物にも不思議な力があるのかもしれない。

 しかしいくら技術大国日本の誇る工業製品と言えど、これほど不思議な事が起こるのだろうか?

 そこで俺は気付く。天皇陛下の思し召しに違いない、と!

 俺が万難を廃して今日も生き延びているのは間違いなく天皇陛下のご加護だ!偉大なる天皇陛下の神通力は遠い異国の地にいる俺を救う事など造作も無いのだ!

 ありがたくこのご恩恵を受け賜り、きっと日本国民として恥じぬ様に振る舞って見せます!


 そんな事を思いつつ歩き続ける神誉さんはあるものと出会った。

16/07/02 投稿

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