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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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誓ってみた

ストックきれました。

切りも少しいいので、次の更新は少し後になります。


 リラインがダイブした先には一人の狼系獣人の背の高い女性が一人いた。名前はフランス語で9を意味するヌフ。


「もしかしてランちゃん?」

「おう。本当はもう少しカズちゃんのレベルに合わせてからお披露目する予定だったんだけどな。最近、カズちゃんが楽しそうだったし……。あっちのアバターは強すぎるし……」

「ふふふ。私と一緒に遊びたいと思ってくれたんだね。ありがとう」

「いや、まあ、うん」


 可愛く笑う小さなコロポックル族を前に、背の高い狼系獣人の女性が恥ずかしそうにしているのはどこか奇妙で、人の視線を集め始めていた。


「ああ、早く移動しようぜ」

「そうですね。ポチさんとも合流しないと……」

「ああ、それなら俺が聞いてる。もし、またカズちゃ……リラインがこっちに来るときには、来てほしいところがあるって言付けを頼まれてる」


 まあ、頼まれたのはもう一個のアバターの方だけどよ。

 わざわざ人のいないところで、ケットシーの姿になって伝えたらしい。

 そういえば、自分も八百屋の女将さんであるランちゃんを経由してポチが本当はプレイヤーだったと知ったのだったと、まだそれほど経っていない昔の事をリラインはとても懐かしく感じた。

 ただ、少し疑問に思うことがった。


「ランちゃんは、えっと、今はヌフだね。ヌフはもしかしてポチさんから全部聞いてたの?」

「えっ? ああ、えっと、別に、カズちゃ、じゃなくてリラインを騙そうとしたわけじゃ……」

「ふふっ」

 

 慌てた様子で弁解しようとするヌフの様子に、リラインは楽しそうに笑った。

 それを見て、ヌフもあははと釣られるようにして笑う。

 リラインはヌフの驚きの声を無視して、急にヌフに抱き着いた。身長差の関係でヌフの腹の部分にリラインが顔を埋める。


「リライン……?」

「ありがとうね。私が気持ちを整理できるように、わざと知らないふりをしてくれたんだよね」

「考え過ぎっ! 私はポチさんが嘘をついているかもしれないと思ったから、聞いただけだっての。あ、だからってポチさんが怪しいって訳じゃなくて、えっと、一応? 家訓人がいるかもって、それで、それで……」

「うん、大丈夫。泣かせてくれてありがとうね。ランちゃんが話を聞いてくれたから、私はまたここに来れたんだよ」

「そんなことない。カズちゃんは強いよ。きっと自分で立ち直ってた。私はそれを手助けしただけ」


 だから、これを受け取って。


 そう言って、ヌフが見せたのはポチからのメッセージ。

 リラインは受け取ったメッセージを躊躇なく開いた。そして、そこに書かれていた短い文章を目にして、うっと目に涙をためる。


「大丈夫か?」


 リラインはヌフの言葉に強く頷いた。

 そして、ぽつりとこぼす。


「ポチさん、ありがとう。本当に私の事を信じてくれているんですね」


『賢樹様の所で待ってる』


 そこに書かれていたのは、ただそれだけ。

 それは、リラインが戻ってくることをまったく疑っていない言葉だった。


「ヌフ」

「何だ?」


 メッセージからきっと顔を上げたリラインを、ヌフは優しく見下ろす。


「私、行くね」

「ああ、私もついてくよ」


 それはお互いにとって予想通りの言葉だった。


 ***


 賢樹の森の入り口でリライン達は、リアンと合流していた。賢樹のいた空間に行くためには、ハンターが必須だからだ。


「私が元のアバターなら必要なかったのに……」


 ヌフが八百屋の仕入れで培った技術を使えない事に歯噛みするシーンがあったり、


「へっ! ポチさんの知り合いってあのワルキューレだったんですか!」


 ポチの知り合いだというリアンが、トッププレイヤーであるワルキューレの一人だったことに驚いたりはあったものの、無事三人は目的地に到着した。

 そこには、ワルキューレの残りのメンバーに、ポチ、黒づくめの姿の闇丸が何かを囲むように立っていた。ちょうど、リラインの位置からは背中に隠れてそこに何があるかは分からない。


『リライン、来てくれて――』

『リラちゃんなの~』


 リラインを見つけてポチが話しかけようとしたところを、いつものようにナナが無視して飛んで行った。その大人っぽい見た目で、まるで幼子のようにリラインにしがみつく。


『ごめんね、心配かけて』

『全然心配してなかったなの。リラちゃんは来ると信じてたなの。でも、寂しかったなの~』

『ナナちゃん……。私も、ナナちゃんに会いたかったよ』


 ナナにも信じてもらえていた事に、リラインはまた少し涙ぐむ。

 リラインとナナが抱き合う――正確にはナナがリラインに抱き着いているだけだが――その様は、ほんわかした空気を作っている。その雰囲気にいつも軽い様子のリアンも口出ししなかったが、空気を読まないのが一人。


「おい、妖精。私のリラインにべたべたするな」

『妖精じゃなくて、ナナにはナナって名前があるなの!』

「ニャーニャー言われても分からねえよ。リライン、こいつは何て言ってんだ?」

「えっと、ナナって呼んでほしいって」

「そうなの」

「普通にしゃべれるなら普通にしゃべれ。面倒くさい。それで早く、リラインから離れな」

「? リラインは嫌がってないなの。あなたに言われる理由がないなの」

「ああっ? やるか?」

「受けて立つ、なの」


 と、ひとしきり言い争っていたが、その二人を止めるように、ポチがしゃべった。ケットシーの姿になり、人の言葉で。


「リライン、来てくれると信じてたよ」

「ポチさん、遅くなってごめんなさい」


 ポチがリラインの下に歩いていく。リラインは視線を合わせるように、そっと膝を折る。ポチの様子から、何か重要な話があると気付いたからだ。

 ポチは、ケットシーの姿になったことで立ちあがった状態で、前足をすっとリラインに差し出した。


「リライン。この前の賢樹様の事は残念だった。だけど、ゲームとして見るなら、俺達よりもあいつらの方が正しい。ここが現実の世界だったり、あり得ない仮定だけど異世界だったりしたなら、友好的な賢樹様を殺すことは罪に問われたはずだ」


 リラインはポチの話を一言一句聞き逃さないように、しっかりと見つめる。

 ポチもリラインがしっかりと聞いてくれている事を確認して、また話し出す。


「だけど、ここはゲームで、モンスターは倒すことが当然だ。当然どころか、それが一つの目的ですらある。だけど、俺は嫌だ。目の前で友人となったモンスターが消えていく事を、俺は許すことができない」


 ポチはモモの事を思いだしたのか、また言葉が途切れる。しかし、止まることは無い。


「だから、俺はギルドを作ろうと思う。友好的なモンスター達を守るための、プレイヤーと敵対するギルドだ。危険な事も多いと思う。だけど、リライン。モンスターを友人だと言ってくれる君に、どうかお願いがある」


 俺のワガママに付き合ってくれないか。

 ポチのその言葉と、リラインがポチの手を取るのは同時だった。


「ポチさん、話が長いですよ。もう、ここに来た時点で、私は覚悟していますから」

「リライン……」

「モンスターと人が仲良く暮らせる世界。まるで、神様がいたころみたいな景色。見てみたいですね」


 リラインの何気ない一言に、周囲のプレイヤーがざわざわする。


「それって、このゲームをクリアするって事か?」

「ふむ。それは楽しそうだな」

「にしし。ちびっこいくせにビックマウスだね」


 そんなつもりじゃ、と慌てながら言い訳を積み重ねるリラインを無視して、ポチはその手を引っ張っていく。

 ポチが進んだことで、笑っていたワルキューレのメンバーが道を空ける。


「これってあの時の……」


 そこには小さく根を張った木があった。弱くなってしまったが、それでもその木からは賢樹から感じた優しい何かを感じた。


「これは賢樹様が俺達を守ってくれた時の枝だ。上手く刺し木の要領で根が生えたらしい。ここに新たな木が成長する。その成長した時に、プレイヤーから護れるようになろう」


 だから、ここで誓おうと思う。

 ポチはその姿を黒猫の元の姿に戻る。そして、ぽんと前足を小さな木に置いた。

 それを見て、リラインも手を乗せる。


「ナナもなの~」


 ヌフの周りをパタパタ飛んでいたナナも戻ってくる。

 ヌフはそれを追いかけようとして、入って行くことができない雰囲気を感じて悔しそうに足を止めた。



『俺はもう二度と目の前で友となったモンスターを死なせない』


 ポチが誓う。


『私はモンスターが人とお友達になれる世界を目指す』


 リラインが誓う。


『ナナは……何か頑張るなの!』


 ナナがいつものように茶化す。

 ここに、日向ぼっこを目的にゲームを始めた猫はもう一つの目的を見つけ、引っ込み思案の少女は率先して争いに向かう覚悟を決めたのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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