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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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閑話 無口な王子様(女)と豪快なお姫様(女)その2

一旦ゲーム外の話になります。

 自室のベッドの上で和は『休日の楽園』をプレイするためのヘルメットを前にして固まっていた。

 一昨日にリラインとして体験した出来事が大きすぎたためだ。


(私が……守るって言ったのに……。賢樹様に逆に守られて……)


 目の前で燃え上がっていく痩せ衰えた木が、最後何も言わず光になって消えていく姿が、和の頭の中でリフレインされる。


(ああ、無理……だよ。私には……もう、あの世界を楽しめないよ……)


 彼女に思い出されるのは賢樹の消えゆく姿と、それを楽しそうに見つめるプレイヤーたち。一種の地獄絵図だ。

 現実世界のかっこいい見た目からは想像できない程、和は打たれ弱い。これがゲームだと割り切ることができれば良かったのだろうが、モンスターを友人だと思ってプレイしている和には無理な相談だった。

 被ろうか迷っていたヘルメットをベッドの上に降ろし、長い手足を器用に丸めて小さくなった。そうしていると、まるで自分が小さくなったように錯覚するためか、和はよく辛い時にはこのポーズをとっていた。

 やっぱり私には何もできないのかな。

 和は諦めようとしていた。

 賢樹を守りきれなかったばかりか、自分の友人たちも危険にさらしてしまった。そのことが彼女には許せなかった。自分の無力に打ちひしがれていた。


「何、悲劇のヒロインやってんのよっ!」

「えっ?」


 思考が負のループに陥っていた和を現実世界に戻したのは、まるで人形のように可愛らしい顔で精一杯に怒りを表現している美少女だった。


「ランちゃん……どうして……」

「ああ? どうしてもこうしても無いでしょうが。カズちゃんが全然学校に出てこないし、ママさんがまた引き籠ったって言うし。親友なんだから、心配するのは当然の権利だっての。それで、今度は何が原因なのよ」


 ほら、話して見なさいな。

 丸く小さくなった和の手を取って、乱は声を掛ける。強い口調でありながら、いたわる気持ちと心配な気持ちが伝わってくるようなそんな声音。

 それは和にとって、安心する声音だった。


「ラ、ランちゃ~ん!」

「おお、よしよし。泣け、泣け。その代り、泣き終わったら話を聞かせろよ」

 

 和がその女性としては大きな体で、女性にしても小柄な乱に抱き着くようにして泣き出した。学校では王子様と呼ばれる少女が、お姫様と呼ばれる少女の胸で涙を流す姿は、しかし、何の違和感もなかった。

 乱が優しく和の頭を撫でていた。


 ***


 一時間は経った頃、そろそろ抱きしめ続けることに乱が疲れ始めたころ、ようやく和の涙が止まった。


「ご、ごめんね、ランちゃん」


 泣きやんだことで恥ずかしさが戻って来たのか、和は乱の胸から顔を上げた。

 それをちょっと残念そうにしながらも、気にすんなよと乱も返した。


「それで話を聞かせてくれるのか?」

「うん。あんまり、楽しい話じゃ、ないけど……」

「大丈夫だ。ゆっくり聞かせてくれればいいよ。私はいつだってカズちゃんの味方だからさ」

「ありがとう、ランちゃん」


 ちょっとしたやり取りだったが、和はとても落ち着いたようだった。それだけ、乱の事を信頼しているんだろう。

 和は一昨日起きたことを全部話した。賢樹様と出会った事。賢樹様とクリスタの事。賢樹様から聞いたあれこれ。そして、自分たちが生まれ直しの間の守りを任された事。守りきれず、逆に守ってもらった事。炎の中に消えていく賢樹様をただ見ている事しかできなかった事。

 一つずつ思い出すように、少しずつ和は言葉にしていく。最後はまた泣きそうになったが、それでも最後まで全部話しきった。


「カズちゃん、すごい冒険だったんだね」

「そうね、すごい……冒険だったよ」

「じゃあ、ここで止めちまっていいのか?」

「え?」


 もう駄目になってしまったと嘆く和に、乱が掛けたのは思いがけない言葉だった。

 乱は和の目を覗き込む。


「冒険ってのは終わらないよ。止めることができるだけだ。挑戦することも、楽しめることも、やることはまだいっぱいあるはずだぞ。そこらの物語の幕引きみたいに、簡単には終わらない。俺達の冒険はまだまだ続くって言うと、打ち切りっぽいけどな」

「……打ち切り?」

「まあ、それは置いといてだ、仲間たちとのゲームは楽しかったか?」


 乱のその質問に、和はまるでそれ以外の言葉がないという様に即答した。


「楽しかった!」


 その言葉に乱はにっと笑った。そう笑う時だけ、人形のような美しさから元気な人間の美しさに花開くようで和は好きだった。


「それじゃあ、迷ってんなよ。今すぐにでもゲームに戻って、リベンジしようぜ」

「うん」


 和もつられて笑っていた。



 それじゃあ、と乱はどこからか自分の分のヘルメットを取り出した。


「電源借りるぞ」


 そう言って、すぐさまダイブできるように準備を始める。

 慌てたのは和の方だ。


「ランちゃんもここからログインするの?」

「もちろん」

 

 二人はそのまま『休日の楽園』へと、ダイブした。

読んでいただいてありがとうございました。

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