守られてみた
短めです。
ポチの分身体が見破られてから、均衡が崩れるのにそれほど時間はいらなかった。
前衛では大ダメージを受けたアンナを庇う形でどうにか回していたものの、後方から支援として放たれた魔法が空を飛ぶファングに集中し始めたことでそれも出来なくなっていた。
どうにか乱戦に持ち込もうと、ポチ自身も前に出てスキル【招き猫】や分身体を使うが、それもきっちり対処されてしまう。最終的には最初の時と同様に、ポチたちが賢樹を背後に背負う形で対峙する形になった。
「どうやら、これまでのようだな。中々面白かった。君のモンスターの躾けの技術には感服した。だが、もうこれで後ろのモンスターへの義理は済んだだろう。どうせ、魔術師たちの魔法は止められない。今なら、一匹もモンスターを無くすことも無い。ただし、」
我々のギルドに入ることが条件だ。
ハイエナは最後の勧誘を仕掛けていた。普通のプレイヤーなら復活可能なゲーム上の死は何の脅しにもならない。しかし、それがテイムしたモンスターとなれば別だ。彼らが死んだ場合、復活はない。だからこそ、脅しになるのだ。
アバターの傷の入った男らしい顔を、嫌らしく歪めてハイエナはリラインを見つめる。傷つき倒れ伏した仲間たちを抱きしめて、ぶるぶるとまるで小動物のように震えながらも、リラインはハイエナの顔を睨み返していた。
それは、最初にハイエナに勧誘された時と全く同じ顔。故に、ハイエナに返す言葉も同じだった。
「断る」
それは拒絶の言葉。
「やれっ!」
ハイエナはすぐさま命令を下す。振り上げられていた棍棒が、巨人族の男によって勢いよく叩きつけられる。その一撃はもうボロボロになっているファング達をリラインごと吹き飛ばすだろう。
何度も槍に刺されたことで動きが鈍っているポチがどうにかしようと飛び出すが、ポチに棍棒を止める手立てはない。
『ごめんね、今までありがとう』
守りきれず死んでしまうファング達を思って、リラインはそっと呟いた。襲いかかって来るであろう衝撃の恐れで身を震わせている。
しかし、いつまで経っても衝撃流行ってこない。
『賢樹様……』
ポチの呟きにぱっと目を開けたリラインの前に現れたのは、薄く光る透明な壁。そして、地面に突き立つ一本の枝。
それは、まさに自分たちが護っていたはずの賢樹の枝だった。リライン達を敵の豪快な一撃から護るように展開されている。
《ふぉっふぉっふぉ。お痛がすぎるんじゃないかの》
背後から聞こえた声は、ひどくかすれていた。
「賢樹様!」
リラインの振り返った先には、切れ目の入った光る膜と、その合間から顔を出す痩せ衰えた賢樹の姿。リライン達を守るために無理やり引きちぎったのか、途中で折れて無残な姿になった枝も痛々しい。
賢樹はポチとリラインを助けるために、生まれ直しを無理やり中断したのだ。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、守れ、守れなくて、ごめん、なさい」
泣いて謝るリラインを慰めるかのように、突き立てられた枝から優しい光が降り注ぐ。
《泣くでない、人の子よ。お主らは良く頑張ってくれた。わしは守り手にお主らを選んだことを何も悔いてはおらぬ》
「賢樹様……」
《わしを殺そうという者達よ。わしは好きにするが良い。じゃが、その者達には指一本触れることは許さぬぞ》
それは痩せ衰えているとは思えない一喝だった。長い時を生きた物だけが放てる威圧だった。
「あ、ああ。我々の目的は元々お前の討伐だ。そいつらに攻撃する積極的な意図はない」
《それならば……良い》
賢樹はそれだけ言って、再度眠りについた。
その瞬間、魔法の詠唱が終わる。
『「賢樹様っ!」』
ポチとリラインの声は放たれた魔法の音でかき消された。
***
「おい、大丈夫だったか」
ワルキューレたちが駆け付けたのは、ハイエナたちが貴重なドロップアイテムの数々に喜びながらその場を後にしてしばらくしてからの事だった。
跡形もなく燃え尽き光となって消えたために、灰も積もっていない地面を前にして、悔しそうに俯くポチと、大きな声で泣くリラインの姿があった。
その日から、二日間。リラインが『休日の楽園』にログインしてくることは無かった。
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