襲い掛かってみた(リライン達)
今度はリラインたちの側です。
ポチが分身体で襲い掛かっている頃、リライン達も奮戦していた。
『アンナはその巨人さんを止めて。ウィルは炎で剣士さんを、ファングは上空からドワーフさんの動きを邪魔するように動いて。クリスタは危ない所のサポートに回ってください。私も回復と支援に回ります』
リラインの指示にファングたちはすぐさま動いた。
最初の攻撃でファイターが倒れたために、がら空きになってしまった右側面から回り込むようにウィルの炎のブレスが放たれる。一番右側にいた剣士が背中から抜いたバスタードソードで切り払うも、炎の勢いは止まない。普段なら後方から来る支援がない上に、ファイターの男を庇いながらのため、相手に切りつける余裕がなくなっていた。
また、ドワーフ女も空を飛ぶツイストタイガーの動きに翻弄されていた。
「ちっ! 攻撃パターンがいつものと違うじゃない。鬱陶しい攻撃ばっかりしやがって!」
怒りのボルテージが上がっていくせいで、一撃の威力は上がっているが攻撃の精細さには欠けていた。風の刃を斧で斬り捨てつつ、空から降りてこない敵を睨みつける。普段なら、何度目かの攻撃で空中から噛みついたり、爪を振るいに来るはずなのに、それがない。だからといって、他の仲間の所に行こうとすると、死角から襲い掛かってくる。
そのため、ドワーフ女はそこから動けずにいた。
そのモンスターとの中で、一番打ち合っているのはアンナと巨人族の男だった。大盾に身体のほとんどを隠しながら棒の先に棘付きの鉄球を乗せたような武器、モーニングスターを振るう巨人族に対し、鞘に入れた状態の剣と盾とで流すようにアンナは攻撃をかわしていた。地面にはモーニングスターによってクレーターが出来ている。
巨人族は目の前の存在が本当にモンスターなのか疑わしく思い始めていた。
剣を使うモンスターは幾つもいるが、剣技を使えるモンスターは限られている。そして、限られているモンスターの中に、リビングアーマーは含まれていないのだ。なぜなら、あくまでそれらは鎧にすぎず、決して騎士などではないからだ。
故に、自分の一撃をまるで一流の剣士のように受け流しているのが、本当に自分の知っているモンスターなのか信じられなくなっていた。
「「「テイマーが操るだけで、こんなにも戦いにくいのかよ」」」
それが、三人の共通する驚きだった。
本来なら前衛が動きを止めている間に、後衛や中衛がダメージを通したり、バフやデバフを掛けたりすることで、優勢な状態を作っていくのだが……。
『ウィル、相手が炎に慣れてきました。そろそろ攻撃を切り替えましょう。スキル【自然の祝福】で防御を上げます』
次の瞬間、ウィルの長大な体がうっすらと光り、ウィルは口から炎を噴くのを中断した。そのタイミングはきっかり剣士のバスタードソードが振り下ろされた瞬間。どうしても県の重さによって動きが制限されてしまう時を狙ったものだった。
にゅるりと音がするような、その長大な体からは想像もできない速度で剣士の足元に絡みつく。
「くそ、放せっ! あ、熱っ!」
突然の攻撃の変化に対応できず、剣士はどうにかバスタードソードをウィルと自分の身体の間に差し込んで引きはがそうとする。
しかし、ウィルは引き離されまいと自分の身体に炎を纏い始めた。バスタードソードが挟み込まれたせいで締め付けは弱くなってしまったが、炎による継続ダメージが発生していた。
「トルストイっ! あいつのフォローに入るから、トントロ、このウザい虎を引き受けてくれ」
「頼まれた。スキル【マークドシールド】」
仲間のピンチを受けて、前衛チームが大きく動き出した。ドワーフ女が助けに向かうための隙を作るために巨人族の男が使ったのは、相手の意識を自分がもつ盾に向けさせるスキルだ。対人戦では機能しないスキルだが、モンスターの戦闘ではタンク役として必要になってくるものである。
一瞬だけ、その場にいたファング達の視線が巨人族の男に集まる。
「おら、あたしの仲間にふざけたことしてんじゃねえぞ!」
それはドワーフ女の斧がウィルに振り落とされるには十分な時間だった。振り下ろされた斧はそのままウィルを吹き飛ばすように下からかちあげる。流石のウィルも拘束を解くしか行かなくなった。
そして、また三者は膠着状態に戻っていく。どちらもどこか一角を崩すだけの余裕がない。
(このまま時間が稼げれば……)
リラインはダメージを負ったウィルに回復スキル【祝福】を奉げながら、そう考えていた。人を前にした時にどうしても出てしまうおどおどした様子を隠すようにして、その小さな体で精一杯に闘う意思を示していた。まるでモンスターを引率する指揮官の様だ。
きっと、リライン自身はファング達に命令を下しているつもりはないだろう。しかし、他のテイマーが見たら嫉妬するほどに、ファング達は臨機応変に動き、その力を存分に発揮させていた。
ただ、その流れも最後までは続かない。
「そうかっ! 後ろの敵は幻影だ。一撃入れれば、消えるぞ。前衛は後ろを気にする必要はない。前の敵だけ抑えていろ」
ハイエナのその言葉が転機だった。
これによって前衛3人は後ろの魔術師たちが戦線に復帰するのを待つだけでよくなったからだ。先ほどまでの、後ろにも戦力を回さなければいけない状況ではなくなってしまった。
それは、トップギルドで前衛を任せられている彼らの精神を落ち着かせるには十分だった。モンスター風情と油断していた心も冷えていく。
アンナの身体にモーニングスターの一撃が決まったのは、それからすぐ後の事だった。
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