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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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賢樹様を守ってみた

思ったよりも賢樹様とのくだりが長くなりましたが、もう少しで終わるはずです。

そうしたら、どうにか新キャラを出したいです。

……出せるといいなぁ。

 賢樹は話を終えると、ゆっくりと目を閉じ、息を吐いた。


《この話を聞いたからといって、お主らにどうして欲しいという事も無い。ただ、知っておいてほしかったのじゃ》

『ああ、俺達の事を信じて話をしてくれてありがとう。無駄にはしないつもりだ』

『私も、何ができるかは分かりませんが……』


 しっかりとした顔でポチとリラインは賢樹に向き合う。


《ふぉっふぉっふぉ。どうしてほしい事がある訳ではないと言ったじゃろうに。じゃが、そう言ってくれるからこそ、わしはお主らに話しをしたのかもしれないのう》


 真面目な二人の様子に賢樹は少し苦笑を返す。自分から見れば生まれたばかりのような、小さくか弱い存在。しかし、そんな者達に自分を託すことに何のためらいも感じていない自分が、賢樹にはとても不思議だった。


(あの竜もこんな気持ちだったのかのう)


 昔にあった竜が照れ臭そうに笑うのを賢樹は幻視したような気がした。

 そして、その時が来たのを根から湧き上がってくる力から感じ取った。


《最後に懐かしい友に逢い、新しい友も出来た。わしは幸せじゃ。だから、最後の見送りを頼めるかの》


 ぼんやりと光りだした賢樹に、ポチとリラインは一瞬泣きそうな顔をして、すぐに笑顔に変えた。別れは泣いてするものではないと、一人と一匹は知っていたからだ。


《リライン。モンスターへのその優しさを持ち続けてくれ。それはきっと、この世界に必要となる力だ。最後にこれを》

『はい。これは……』


 賢樹は言葉と共に、自分の枝を折って渡していた。


《わしの枝じゃ。少しだがわしが加護を与えておいた。できればお主と一緒に旅させてやってくれ》

『は、はいっ! 一生大事にします』


 セイクリッドトレントの枝と言えば、杖の素材としてはトップのレア素材である。さらに加護が乗せられているとなれば、その価値は計り知れない。しかし、リラインにはそういった価値うんぬんは関係なく、嬉しい物だった。自分の身長と同じほどの高さがある枝を、小さな体でしっかりと抱きしめていた。

 その姿を嬉しそうに見た賢樹は、次にポチに向いた。


《お主……、笑顔が下手じゃな》

『最後に言うのがそれかよ!』


 どんな言葉が来ても泣かないように身構えていたポチは、意外な言葉に吠えた。


《お主にもわしの加護をやりたいところじゃが、どうもお主を守っている者がもうおるようじゃからの。いくつか薬草をわけてやろう。好きに使うが良い》

『俺を守っている存在が……』


 ポチは今は亡き友人の笑い声を聞いたような気がした。

 そして、賢樹を包む光が強くなる。


《最後に本当に楽しい時間をありがとう》


 その言葉を最後に目を閉じた賢樹は光の膜につつまれた。

 ポチとリラインが賢樹の生まれ直しの姿にしんみりとした空気が流れた時、クリスタが吠えた。


『どうしたの?』


 そう振り返ったリラインの顔の前を矢が通り過ぎ、賢樹を包む光の膜に当たって弾かれた。


「奇襲失敗してんじゃねえよ」

「いや、あれは木を狙ったからだから。わざと、そうわざと外したんだし」

「わざと外して弾かれるとか、ださっ」


 まるで緊張感無く会話しながら入ってきたのは6人のプレイヤーだった。胸のあたりに拳を模したような紋章が刻まれた装備を全員が着ている。その中には、弓を手に持ったハンターらしき小人が混じっている。


「お前ら、あまりはしゃぐな。相手がどのレベルのプレイヤーか分からないんだ。全力で潰すぞ」


 しかし、敵はそれだけではなかった。その6人の後ろからさらに6人のプレイヤーが顔を出した。その中央にいる顔に傷を負った男がリーダーらしく、全員に指示を出している。

 こいつらの目的は賢樹様を殺すことだ。

 ポチはすぐさま気が付いた。

 その指示を聞いたプレイヤーたちがさっと陣形を組んだからだ。前方に大盾を構えた巨人族の男や、斧を構えたドワーフ族の女がどしりと構え、後方には杖を構えた者達が並ぶ。前衛が4人、後衛がハンターを1人含めて7人、中衛が1人という少し偏ったパーティーだった。

 まるで、炎が苦手なモンスターを相手にするために火炎魔術の使い手を集めた様な布陣だ。


『リライン、敵だ! アンナも呼び出して! 少しでも時間を稼がないといけない。リラインっ!』


 急の出来事に茫然としていたリラインは、ポチの声に我に返った。目の前には老竜を守った時よりも多い敵プレイヤー。本当なら逃げてしまいたい。それでも今にも恐怖で叫ぼうとする口からリラインが発したのは、


「アンナ、出てきて! みんなもお願い」


 背後で光に包まれる賢樹を助けようという意思を示す言葉だった。

 がしゃりという音がして、リラインを守る騎士のようにアンナは姿を現した。そして、今まで地面に横になっていたファングも、ウィルも、クリスタもリラインの前に立った。

 ポチもその列に加わる。誰も逃げ出そうという者はいなかった。

 一触即発の空気が流れる。それを崩したのは相手のリーダーと思わしい男だった。


「君はテイマーだな? よくモンスターを躾けているようだ。私は『鋼の巨拳』に所属するハイエナだ。君は後ろのモンスターを守ろうとしているのだろうが、私たちはそれの討伐を――」

「……やめ……くだ……」

「何か言ったか?」

「やめ、てください。この子たちは私の友達です。躾けて……いるなんて……」


 ハイエナと名乗った男の言葉に反論したリラインだったが、プレイヤーたちの視線に負けるように声が小さくなっていった。その言葉を拾ったのは、ナナだった。


「変な言い方するなっ! なの。りらちゃんとナナ達は仲間なの」


 胸を張って言ったその言葉はしかし、敵には届いていなかった。


「妖精まで揃えているとは……。君のテイマーの腕は素晴らしいようだ。どうだ、私たちのギルドに入らないか。ここで後ろのモンスターを守って、私たちにキルされたくはないだろう。私たちは大きなギルドだ。レべリングも、貴重なアイテムの入手もしやすいぞ」


 ここまで譲歩してやるから、どけ。

 そんな声が聞こえる様な、傲慢な言葉だった。優しい言葉をかけているつもりなのだろうが、リラインにもポチにも響いていない。

 そして、それはハイエナにも伝わったらしい。取り繕っていた顔を、一瞬歪ませる。


「なるほど。これでも足りぬという事か。交渉が上手いな。いいだろう。今は時間も惜しい。要求を言え」


 まるでリライン達の言葉を聞こうとしないその態度は、ハイエナの性根が悪いのか、大きなギルドにいるための優越感による傲慢か。それは、この討伐を指示したであろう、さざ波にも通じる物だった。

 そんな奴に返すことは決まっていた。


『「断る!」』

「いいだろう。では、邪魔ものとして排除させてもらおうか」


 紅鬼の湯でワルキューレとさざ波の交渉が終わるころ、ポチとリラインの戦いは始まった。

読んでいただいてありがとうございました。

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