情報を手に入れてみた
まだポチたちと賢樹様との話が続きます。
そろそろまたシリアスな感じになっていきますので、苦手な方はすいません。
なるべく、ほのぼのとした感じも忘れずに行きたいと思います。
テリタワ火山にはとあるモンスターが住んでいる。そのモンスターは賢樹や老竜が生まれる以前から火山を縄張りにしていた。ほとんど火山から姿を現すことは無いが、時折人里に現れては伝説を生む。
その名はフェニックス。自分を燃やした後の灰の中から再度生まれ変わる、輪廻する不死鳥である。
『この現象にはフェニックスというのが関係しているのか? そいつはテリタワ火山の奥に引きこもっているんだろ?』
《ふむ。確かに。長いきなわしでも彼の方を見たのはこの枝の数よりも少ないの。最後に見たのもいつになる事か》
『それは……少ないんですか?』
賢樹の言葉に、リラインは青々と茂った枝ぶりの良い姿を見上げた。
何百年という時間が経っているなら、確かに少ないかな、とリラインは枝の本数を無意識に数えながら勝手に納得する。
リラインの事は放って、ポチは賢樹との会話を進める。
『逢ってないけど、今回の事に関係あるって言いきれるんだな。何か証拠とかあるのか?』
《むむむ。形で示せという事かの》
『ああ。別に疑っているわけじゃないが、情報の信頼度を上げておきたい』
『信頼度を上げておきたい(キリッ)なの! なのっ!』
突如これぞまさにドヤ顔という妖精がポチと賢樹の間に現れたように見えた。しかし、勘違いだったようで、ナナはうつぶせで地面とハグしていた。ポチが前足をフラフラと揺らしている。
賢樹の目がピクリと動くナナに向くが、
《……証拠と言われてものう》
賢樹はナナを無視して話を進める方を優先したようだった。代わりに、リラインが面倒を見るようだった。口を出さない様にと、そこらの男なら一発で参るような可憐さでリラインはナナにめっ、と口止めするのだった。
賢樹は証拠がないかと考えていたようだが、何も出てこなかったようだ。
《すまんの。やはり、証拠というのは難しい。これはもう、感覚的にそういう物だとしか言えぬ》
『そうか。無理言ったな。じゃあ、フェニックスとの件が生まれ直しにどう関係しているか教えてくれないか』
謝る生真面目な賢樹にポチは大丈夫だと前足を上げて応えた。話を本題に移す。
《生まれ直しには本来それなりの時間がかかるのだ》
『時間?』
《そうじゃ。元の老いた体を崩し、若い姿を取り戻すのだ。時間もかかれば、そこに必要なエネルギー量が普通では確保できない量になるのも当然じゃな》
『それは、確かにそうだが。それじゃ、どうやってそのエネルギーを得ているんだ? モンスターを殺して食べるとでも言うのか?』
まったく理解できず、ポチは疑問をこぼす。
賢樹は少し頷いて頭の葉を揺らした。
《エネルギーはフェニックスから回ってきているのじゃ》
賢樹の返しはポチにとって、それしかない答えでありながら、しかし、どうすれば可能になるのか分からない答えでもあった。
そして、ポチは続く言葉に唖然とする。
《フェニックスが自身の体を燃やし、灰から生まれ直す輪廻の時に、エネルギーが放出される。それは、テリタワ火山から繋がる地脈を通じて、様々な場所に送られてくるのよ。そこに含まれた再生の力が広がることで、長く生きた物こそ生まれ直すのじゃ。次はもう何時になるかもわからぬからの》
それは思ったよりも広範囲に影響を及ぼしているようだった。
自分は今重要な情報を聞いている。そう思ったポチは賢樹の言葉を一言一句聞き逃さないよう、耳をピンと立てる。
《こういうのを人は省エネとか言うのであろう。まあ、長年生きている者達の知恵という物よ。ふぉっふぉっふぉ》
『……おばあちゃんの知恵袋みたいな言い方で自分の生き死にを語るなよ』
続けた賢樹のふざけた言葉に、ポチはぴんと立てていた耳をぺたんと垂らすのだった。
《ふむ。確かに、これほど長く生きると、死ぬという事が希薄になるものじゃ。特にわしはもうこの森の一部のような物じゃしの。じゃが、生まれ直しの瞬間は無防備になるのも確かじゃ。だからこそ、自分で見極めた誰かに守ってもらうのじゃ。だから、竜に選ばれた事をお主らは誇るが良い》
『ドラゴンさんが私を……』
リラインはクリスタの背中を撫でながら、あの洞窟の中で老竜と過ごした時間を思い出す。賢樹とはまた違う温かさで自分の話を聞いてくれた、あのどっしりとした低音の唸りのような声が頭の中で再生される。
自分があの老竜に認められていた。その事がリラインにはたまらなく嬉しかった。
ポチはその姿に目を細めた。
そして、賢樹の言葉に違和感を覚えていた。
『もしかして、賢樹様も……』
ポチの言葉は少し震えていた。
《そうじゃ。わしも生まれ直すことになるのう。今わしがお主らに話せるのも、自分の事だからという事が大きいのう》
『賢樹様も……』
『賢樹様……』
明るい賢樹の言葉に反して、ポチとリラインの声は沈んでいた。
そこに優しい声で賢樹が声を掛ける。祖父が孫の頭を撫でるように、そっと伸ばされた枝が二人の頭を撫でた。少しざらついた枝が、まるで心のささくれを取り除こうとしてくれているかのようだ。
《悲しい声を出す物じゃない。生ける物は皆光となり、そして新たな種子を残すのじゃ。わしも、その竜と同じ様にの。それは別れじゃが、しかし、同時に新たな芽吹きでもある。どうか喜んでくれ、人の子と猫の子よ》
『『……(こくん)』』
一人と一匹は頷いた。
それを賢樹は優しく見つめた。
《お主らは本当にわしらモンスターを好きでいてくれるのなら、一つ願いがある》
賢樹は急に真面目な顔つきになると、重大な話を始めた。それは、生まれ直しがこのゲームに与える大きな影響を示唆するものだった。
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