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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
76/83

賢樹様とお話してみた

気付けば3000ポイント突破&日間総合8位という結果になってました。

読んでくださる皆様のおかげです。

私はまだその事実に困惑しきりですが、頑張って連載していこうと思います。

今後とも、よろしくお願いします。

《ふぉっふぉっふぉ。シェルナーラの街でそのような事をのう》

『私もその話は初めて聞きました』

『ふふふ、私が頑張ったなの。褒めるといいなの!』


 ポチたちは賢樹と向かい合うように座って、これまでの事を話していた。といっても、モモとの別れの話は、気持ちの整理が付いていなくてまだできなかったが。基本的には話し好きなナナが大げさに話をし、それに対してリラインが大げさに驚き、ポチが訂正していくという流れだった。賢樹はそれを見て、楽しそうに笑っている。

 最初は疑っていたポチも完全に打ち解けたようで、だらしなく体を丸めている。リラインはその姿を見ながら、


(ポチさん、可愛いです。頭撫でたら失礼かなぁ)


 なんてことを考えて、手をフラフラさせていた。

 また、話の途中で、ポチたちの前にいくつもの枝が伸びてきた。賢樹が操っているらしく、その枝の上には美味しそうな果物がいくつも乗っている。


《話をしていて喉が渇いただろう。この森に生える瑞々しい果物だ。食べてくれ》


 そう言って差し出された物にいの一番に突撃していったのは、もちろんナナだった。


『食べるなの~』

『食い意地張りすぎだ。どう見てもそれ、お前より大きいだろ』


 呆れた声を出すポチの目の前で、ブドウのような見た目で、一粒がメロンほどはあろうかという大きさの物にナナは抱き着いていた。そして、ポチの忠告に耳を貸すことなく、えへへ、と笑いながら齧り付く。


『あ、甘いなの~。猫さんもリラちゃんも食べるなの。……何で笑っているなの?』

『ぷぷっ、ナナちゃん。ちょっと顔拭こうか』

『ははははは、顔べたべたになってんぞ、ナナ。しかも、緑色だ』


 ナナが食べた果物はどうも色素が濃かったらしく、顔面を突っ込んだ結果ナナの顔は見事に緑色になっていた。

 リラインがハンカチで顔を拭いてやるが、すぐさまナナが果物に齧り付くせいで堂々巡りになっていた。その騒ぎと匂いに釣られたのか、眠っていたはずのファング達もやってきた。


『みんなの分も大丈夫ですか?』

《気にしなくてもいいとも。この森の広さからすれば、お主らが食べる分はほんのすこしにすぎぬよ》


 賢樹の言葉にお礼を言うと、リラインは幾つか見繕って食べやすい大きさにカットすると、お皿に並べた。

 礼儀正しく待っていたファングとウィルは、どうぞ、というリラインの言葉を聞いてから顔を皿に突っ込んだ。ゲームの世界だからか、肉食とかは関係ないようである。

 ただおかしなことに、いつもならすぐに飛びつく小竜のクリスタが賢樹の方を見て固まっていた。それはまるで、懐かしい友人を前に声を掛けづらくなっているようにも、逢った事があるはずなのに思い出せない居心地の悪さにも見えた。

 そして、賢樹もクリスタをどこか不思議な顔をして見ていた。


『賢樹様。もしかして俺達を呼んだのは、このクリスタに関係があるんじゃないか?』

『ポチさん?』

『正確に言えば、元の老竜に、かもしれないが』


 その様子にポチは賢樹に尋ねた。

 生まれ直したばかりのクリスタと賢樹の間に直接的な関係があるとは思えない。だが、生まれ直す前の老竜だったらどうだろうか。

 ポチの言葉に一瞬呆けたような声を上げたリラインだったが、続く言葉でポチが言いたいことが分かったらしい。賢樹と見つめ合うクリスタを、しっかりと抱きかかえた。

 くきゅる~、と抱きかかえられたクリスタはリラインの頬を舐めた。


《むむっ、何もそんな怖い顔しなくともよかろう》

『それは理由を聞いてからだな。まあ、賢樹様が悪い奴だとは思ってないよ。ただ、リラインを悲しませるようなことにはしたくないだけだ』

『そうなの! リラちゃんは泣き虫なの。竜ちゃんに危害を加えるって言うなら、ナナが許さないなの』


 リラインを守るようにポチ――ついでにナナも――は賢樹と向き合った。


《むう、話すしかないかの》

『ああ、よろしく頼むよ。俺達もいろいろ話したんだ。お返しに賢樹様が話してくれたっていいだろう』

『えっと、私も賢樹様とクリスタの関係がどういった物だったか、知りたいです』


 リラインはぎゅっとクリスタを抱きしめながら、さらに思いを口にする。


『この子は、ドラゴンさんから頼まれた大切な子なんです。でも、私には分からない事ばかりで……。賢樹様。何か知っていれば、どうか教えてください』


 それはリラインの責任感から発せられた言葉だった。

 ざわりと、葉が揺れる音がした。

 

《まだ、モンスターにそうやって言ってくれる人がいるとはのう……》


 賢樹は身体を揺らして泣いていた。涙は流れないけれど、ひらひらと幾枚もの葉がゆらゆらと地面に吸い込まれていった。


《わしとお主らの言うドラゴンとは少しだけ面識があるのよ。あれはまだモンスターと人とが大きな争いを続けていた時の事じゃったかのう》

『ドラゴン様と賢樹様が……。だから、この子のことが気になったんですね』

《昔にあったような雰囲気を感じてのう。気になって探ってみれば、このように小さくなっておって驚いたわ。あやつがやってきたのはわしがまだ若木だった頃じゃ。あやつもまだ若い竜だった。中々に無茶をする奴での。次来た時には怪我をしておった。その次には人の子を連れてきた。たった三回のことじゃ》


 思い出しながら話しているからか、ぽつぽつと切れ気味に賢樹は言葉を紡いでいく。ポチとリラインが無言で聞く中、時折相槌を打つようにクリスタがくきゅる~、と鳴いた。

 賢樹は竜と過ごした短い間は、まるでお伽噺の様だった。


『たった三回の出会いでも、賢樹様にとってあのドラゴンさんとの思い出は重要なんですね』

《そうじゃな。あやつが初めてわしにこの森の外を教えてくれたからかもしれないのう》


 しばし、無言の時間が流れる。しかし、苦しいような静寂はなく、皆が皆、何かに思いを馳せているような時間が過ぎた。


『賢樹様なら、クリスタに起きた生まれ直しってのが何か分からないか? リラインがクリスタの面倒を見るのにも、情報は多い方がいいんだ』


 その空気の中で始めに声を上げたのはポチだった。話を本題に進めようと、単刀直入に告げる。ぱたぱたと振られる尻尾が緊張している様子を表していた。


《ふむ》


 告げていいものか迷うのか、賢樹はすぐさま答えを返さなかった。目がクリスタに向けられる。


「くきゅる~」


 それはいったいどんな答えだったのか。意味があったのかもわからない声。しかし、賢樹の心を一押しするには十分であったようだ。

 

《そこまで大事にしているお主らになら、話しても問題なかろう》


 そう言って、話し始めたのはテリタワ火山に住むとあるモンスターの話だった。

読んでいただいてありがとうございました。

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