リラインが頑張ってみた
ポチとリラインの冒険に戻ります。
リラインの仲間を強くしすぎた疑惑が……。
ポチが活躍してくれない。
周囲の警戒をファング達に任せながら、リラインが薬草を採取していく。コロポックル族の特性によって、採取率が上がっているためポチやナナよりも高品質の薬草が獲れている。一応ポチとナナも草を抜いてみたのだが、
『ポチさん。いらないものまで抜き過ぎです。ナナちゃんは、しょうがないかな……』
二人そろってリラインから戦力外通告を受けていた。ポチはスキル【招き猫】で根っこごと引っこ抜くのだが、薬草と同時に雑草も一気に引き抜くわ、しくじって地面を掘り起こすわ、散々だった。ナナは草に抱き着くようにして精一杯羽を動かして抜いていくので、一本抜くのに相当の時間がかかっていた。ちなみに、手伝えるのは人型のモンスターであるリビングアーマーのアンナだけである。
薬草採取のために小休止を入れつつ、ポチたちはモンスターを倒しながら森の奥に入って行った。
そこで、イビルトレントという木に擬態したモンスターと接敵していた。高さ2メートル、直径が30センチほどの大きさで、普通移動せずに待ち伏せするトレントにしては珍しいアクティブなタイプのモンスターである。森の中で小休止を取っていたら、いつの間にか周りの木々が全てイビルトレントに変わっていた、なんて話もあるほど好戦的である。
『本当なら奇襲を得意とする種族なんだろうけど、流石にファングの鼻はごまかせないな』
『根っこがぞわぞわ動いて面白いなの~』
少しずつ包囲を狭めていこうとしていた三匹のイビルトレントは、しかし、包囲を完成させる前に背後に回ろうとしていた一匹に攻撃がされることで、その失敗を感じ取っていた。
『ファング、アンナ、ウィル、お願い!』
それは命令でも何でもないリラインの言葉。スキル【命令】によって発せられていたなら、何をしていいかもわからずモンスターは困惑していただろう。しかし、ファング達は違った。すぐさまその意図を理解して、動き出す。
まず一番近くまで来ていた背後の敵に、その隠密性を活かす形でウィルが巻き付いた。2メートルの身体を覆い尽くすようにその筋肉質な体で締め上げていく。じたばたと根っこを鞭のようにしならせて攻撃するイビルトレントだったが、ウィルの身体が炎が噴き出したところでその抵抗が弱まっていく。
ばきん、という固いものが折れるような音が響き、炭になったイビルトレントは光へと変わった。
『ウィルだけにやらせておくわけにはいかないな。リライン、突っ込むから支援よろしく』
『は、はい! ス、スキル【森の祝福】』
前方の一匹にアンナとファングが行くのを見て、ポチは左の一匹に狙いを定める。イビルトレントは飛び出してきた小さな生物に全く脅威を感じられなかったらしく、動きを止めることなく枝を軽く振るって攻撃してきた。
ポチは伸ばした爪でそれを切り払った。
「ぎぎっ!」
枝を切断されるとは思っていなかったのか、イビルトレントが驚きの声を上げる。ただ、その時にはポチは地面を張っていた根っこの上に飛び乗り、それを伝うようにして本体に迫っていた。
『祝福を受けた爪をくらいな!』
ポチは伸ばした爪で幹を切りつける。しかし、それは表皮を深く削ったところで止まってしまう。枝のような細い物でないと切断までは難しいようだ。
本来ならポチの爪の攻撃で最初からこれだけのダメージを与えるのは難しい。それを可能としているのが、リラインの支援スキル【森の祝福】である。コロポックル族特有のスキルで、森の中なら上昇率が高まるのだ。
ポチを狙って何本もの枝がしなるように動くが、ちょこまかと跳びまわるポチを捕まえることは出来なかった。そして、避けながら繰り出される爪による何度目かの攻撃がヒットした時、イビルトレントのHPは零になっていた。
最後の一匹もアンナがその剣で枝打ちしてしまうと、最後にはただの丸太のようになって転がされてしまった。そこに、レベル上げの為クリスタが水晶の槍を空中に生み出して串刺しにしていく。
やっぱり、こいつら強いなあ、とポチが感心している所に、リオンから連絡が来たのだった。
「ポチ、今大丈夫か?」
『どうかしたか、リオン』
「……すまん、猫語だと分からねェ。どうにか普通にしゃべってくれねえか」
そういえばそうだった、とポチは姿をケットシーに変える。最近はリラインと猫語でずっと会話していたために、ポチは自分が普通の状態ではおしゃべりも出来ないという事を忘れていたようだった。
ただ、スキル【猫騙し】に驚くものが一人。
『ポチさん……ケットシーの姿にもなれるんですか!』
「あれ? この姿って見せたことなかったっけ?」
怪我がないかファング達の身体をチェックしていたリラインが、あんぐりと口を開けてポチを見つめていた。見つめられた方は照れ臭そうに、前足で頭を掻く。二足歩行になっている事もあって、少し人間らしさが感じられる動作だった。
「黒猫だと人の言葉は話さないってルールを決めてるんだよ。だから、人とどうしてもしゃべらないといけないときは、この姿になる訳」
『う、裏ワザみたいでかっこいいです』
「かっこいいなの?」
そんな感じで和気藹々と話すポチたちだったが、画面の向こうからの咳払いで我に返る。
「楽しい事は良いんだが、あたしの方とも会話してもらいたいものだね」
「リオン、すまない」
「いいよ。ただ、隣に誰かいるのか? ナナ以外の鳴き声みたいなのが聞こえるんだが」
不思議そうに尋ねるリオンにリラインが見えるように、ポチは相手に見えている画面を操作する。少し広がったそこには、急に自分に話が振られてワタワタする少女の姿が写っていた。頭の上の双葉がぶんぶんと振り回されている。
(順調に仲間を見つけているみたいだな)
リオンは慌てる少女を見て笑うポチの姿に安堵していた。自分たちの仲間にしなかった行為が良い方向に動いてくれているのを確認できたのが大きかった。
「それじゃ、お初のお嬢さんに挨拶させてもらおうか。あたしは『死出誘う乙女』のリオンだ。呼び捨てでも、姐さんでも、好きに呼んでくれ」
『へ、あ、あの、わ、私は……』
「?」
どもりがちになる自分の言葉に嫌な気持ちになりながら、しかし、リラインは勇気を出そうと一度深呼吸する。
挨拶も満足に出来ない自分が情けない。今にも逃げ出してしまいたい。そんな弱気が心の奥深くから浮かび上がってくる。いつもなら、この弱気に支配されてリラインは一言もしゃべることができずにいただろう。しかし、
(ポチさんの前でダメな所を見せたくない!)
その思いがリラインにもう一度言葉を紡がせる原動力になった。
『わ、私の名前はリラインです! ポ、ポチさんと一緒に冒険してます』
最初はつっかえたし、かなり声が震えてしまったけど、ちゃんと言えた! リラインはやりましたとポチを見るが、そのポチはどこか微妙な表情を浮かべている。
しくじった? とリラインはナナと画面の向こうのリオンを見る。彼女たちも、片や笑いを我慢するようにプルプルと震え、もう片方はどうしたもんかと視線を彷徨わせている。
意を決して最初にリラインに声を掛けたのはポチだった。
「あー、今度は日本語で頑張ってみようか」
『ふぁっ!』
猫語で挨拶してしまったと気付いたリラインは、変な声を一言上げると全力でその場を離れ、毛づくろいしていたファングのモフモフな体にダイブした。そのまま、恥ずかしくてしょうがないと言ったように、押しつけた顔を左右に揺すっている。
「ああなったら、中々帰ってこないなの」
「……そっとしておくか。それで、リオン。話って何だ」
「あ、ああ。話ってのはうちのローズの事なんだよ」
リオンは画面から消えて行った少女を心配しつつ、ポチに向きあって今日の要件を告げるのだった。
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