危険を察知してみた
短いです。
次当たりで久々の猫ちゃん登場です。
ワルキューレ個人の話とかも、もっと書きたいですね。
さざ波が出て行った後の紅鬼の湯の脱衣所で、ワルキューレたちは輪になるように座っていた。長い髪にドライヤーを当てる刹那も、コーヒー牛乳を飲むリアンも、真剣な様子を崩していない。
さざ波がワルキューレに告げたのは、二つ。
「にしし。あたしらに『鋼の巨拳』の下につけとか、面白い冗談だよね」
「ふむ。そうでなければ、お助けモンスターの情報を全部出せだからな。交渉という物を分かっていない女だ。あれで幹部だというのだから、お笑い草だな」
「……同意……」
テリタワ火山の攻略のために『鋼の巨拳』に従え。そうでなければ、邪魔をせず情報を出せ。
それがさざ波が告げてきた事だった。デメリットしかないような要求だが、リアンがそのことを指摘すると、
「あら。私の下につけるのよ? 何が不満だって言うの?」
まるで分っていないという様子で、さざ波はそう返したのだ。
「あれは本当に分かっていない奴だな」
「大きなギルドに入って、攻略の最前線にいることが絶対だと盲信している類ですね。自由度の高い『休日の楽園』の中で、つまらない考え方です」
呆れ気味なリオンに応える様に、無表情のままローズがきつい言葉を使った。
ローズは猫を堪能するためにゲームを始めた口なので、余計に攻略のみという狭まった考えに反応してしまうのだろう。
であるからして、さざ波へのワルキューレたちの答えは一言だった。
「嫌だ!」
にべもなく断られたさざ波は、怒りや嘲りで百面相をすると、
「後で後悔しても知りませんわよ。私たちを舐めない方がいいですわ。今頃、私の部下たちがとある森の老木を切り倒していますわ。あなたたちがもしモンスターを保護しようと動くなら、そこでまた逢うことでしょう。その時は御覚悟なさいませ」
それだけ言って、出て行った。
「覚悟するのはあんたの方だ。次会った時は、あたしらを下に見たツケを払わせてやるぜ」
リオンは白髪が揺れる背中にそう吐き捨てた。
そして、むかむかした気持ちのまま風呂を出たのだった。
「ボス。この落とし前はどうやってとる。泣き寝入りとか言わねえよなあ」
せっかくの温泉が台無しだとぼやきながら、リオンは闘志をその瞳に揺らしている。
その瞳を向けられた刹那は、すっと目を細める。
「当然だな。喧嘩を売られたのだ。買わぬ理由も無かろう。それとも、ここに居る者たちの中に、尻尾を巻いて逃げる様な臆病者がいるというのか」
そう言うと、刹那は一瞬で取り出した愛刀を床に思い切りぶつけて音を立てる。
「はっは。面白い冗談だな」
「にしし。ゲームだからこそ舐められたままには出来ないよねえ」
「……報復……」
「不必要にモンスターを傷つけようとする者に鉄槌を」
リオンはやる気満々に鉄棒を振り上げる。リアンはいつも以上に笑みを深めながら、爪を鋭く伸ばす。一言つぶやいただけのリューリューも、普段は使わない杖を構える。
ローズが告げたのは、ポチとモモの事を思ってだったのか。瞑想するように瞳を閉じ、ローズは片手にメイスを握りしめる。
そして、脱衣所に何かを破壊する様な四つの音が鳴った。
「それじゃ、まずは情報を集めないとな。お助けモンスターと一括りに言ったって、今回の生まれ直しの対象外になっている奴もいるだろうし、あたしたちが出会っていないのもいるはずだ」
「ふむ。ポチ殿が何か情報を持っているという事だったね。本当に頭が下がるよ」
主にリオンと刹那がどうやって情報を集めるかを会議し始める中、リューリューが何かに気付いたように目を見開いた。
「……危険……」
「どうかしましたか?」
「リューちゃん、どうかしたっすか?」
首をひねる二人にもどかしそうにしながら、リューリューは言葉を重ねた。
「……ポチ……危険……」
「ポチが危険っすか? 今ポチは賢樹の……森を……ってそうか。あの年増が部下を向かわせるって言ってたのって確か……」
「とある森の老木って言っていました。もしそれが賢樹様のことだとしたら。大変! ポチが巻き込まれるかも」
その可能性に気が付いたワルキューレたちはすぐさま紅鬼の湯を飛び出した。彼女たちは分かっていたのだ。あのポチが襲われるモンスターを前にして、何もせずにいることができないという事を。
***
そして、賢樹の森。
ポチとリラインはまさしく賢樹を背中に臨戦態勢を取っていた。
読んでいただいてありがとうございました。
感想、評価等をもらえると嬉しいです。




